プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。

※Pixivにも投稿しています。


第07回「変革の予感」

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 親衛隊のブリーフィングルームで、プルツーは副隊長のシックスとシミュレーションの分析を行っていた。

 本来であれば、実機を使用した模擬戦闘を実施するのがベストだ。だが親衛隊専用の新型モビルスーツ《量産型キュベレイ》の製造は遅れていて、未だ十分な数が配備されていない。すでに配備されているAMX-117R/L《ガズアル/ガズエル》は機動性は高いものの、サイコミュを搭載しておらず、強化人間にとっては決定的に性能不足だった。だからシミュレーターで訓練を行っているのである。

 

「プルフォウはシミュレーションの内容が不満のようだな?」

「それは、そうでしょう。あれほどの戦力差だったのですから。とはいえ、わたしは手を抜きませんでした」

「あたりまえだ。そうしてもらわなければ困る。遊びじゃないんだ」

「つまり、あえて戦力差を持たせたと?」

「そのとおり。わざと過剰な戦力差をつけて訓練をさせるのさ」

「ですが、それで有効な訓練が出来るでしょうか? 一方的なワンサイドゲームになります」

「それこそが目的なんだ」

「どういうことでしょうか?」

 

 説明を求める妹の顔は、表情まで自分と良く似ていて、まるで鏡をみているようだ。

 

「実戦は、ゲームやドラマのように上手くはいかない。戦場で、戦力が等しいフェアな状況などは、ほとんどありはしないんだ。兵士は、それを理解しなくてはならない」

「なるほど、隊員に理不尽な戦闘状況に慣れさせようというわけですね」

「理解したな」

 

 テストに合格した生徒を褒めるように頷きながら、妹の肩に手を置いた。

 近いうちに親衛隊が実戦に投入されるのは明らかなこと。ならば妹たちを無駄死にさせたくはない。心配しているのは、ただそれだけだった。

 

「スポーツみたいに、気持ち良い汗を流すのが目的ではないんだよ」

 

 軽く冗談を言ったとき、ブリーフィングルームのドアが開いて、すっと音を立てずに人影が滑りこんできたことに気が付いた。まさか敵襲か?! 反射的に身構えたが、すぐにそれが妹だとわかった。任務でしばらくアクシズを離れていたセブンが帰還したのだ。

 

「プルセブン、ただいま帰還しました」

 

 セブンはさっとコンパクトに敬礼する。

 彼女は厳しい鍛錬によって高い身体能力とステルス能力を身に着けていて、単独潜入任務や諜報活動を得意としている。気配を殺して背後に潜む技術は精密で、特殊部隊の兵士としても十分にやっていけるほどだ。

 

「驚かせるなよ。ここは(ホーム)じゃないか」

「……そうであれと言われるなら」

 

 セブンはわずかに緊張を緩めた。

 

「任務ご苦労だった。報告書を提出したら休んでくれ」

「はっ、ありがとうございます。……ですが、その前に確かめたいことがあります」

 

 それは少しとげのある、非難めいた口調だった。

 

「今は忙しい、あとにしなさい」

「なんだ、言ってみろ」

 

 シックスが止めさせようとしたが、あえてそれを制止した。普段から、隊員の不満や疑問はなるべくすくい上げなければならないと考えているからだ。

 

「先日の命令、自分には理解できないのです。ハマーン閣下を介さない、コロニー引っ越し公社やアナハイム社への接触……。いったい、どういうわけなのですか?」

「セブン! やめなさい!」

 

 副隊長としてシックスが厳しく叱責する。秘密任務の理由を、機密保全もない場所で尋ねるなど、普通はあってはならないことである。

 

「いいんだシックス。グレミーの考えがあってのことだ。独自の取引ルートを構築したい。そういうことだ。お前が気にすることはない」

「それでは納得できません。これはネオ・ジオンの利益に反すること。国力を削ぐ行為です」

「何がいいたい?」

「事実を確認したいだけです。ボクは姫様、ザビ家に忠誠を誓った身。信条に反することはできない」

 

 セブンの冷静な視線が、隠された意図を射抜こうとする。だが、別に嘘をついているわけではない。ただ必要な情報を与えていないだけだ。

 

【挿絵表示】

 

「あたしも同じ気持ちだ。命をかけてミネバ様をお守りするつもりさ」

「……では、なぜ」

「今は、まだ言えない。だが時がくれば話す」

「今、この場で知りたいのです」

「出過ぎた真似を! 下がりなさい!」

 

 セブンは怒鳴りつける副隊長をちらりと見たが、それを半ば無視した。納得できる理由を教えてくれなければ一歩も引かないという態度だ。

 

「知れば、お前を殺さなくてはならなくなる。私と戦うことになるぞ?」

「……それも、やむを得ません」

 

 妹セブンとの間に、急激に張り詰めた緊張が走り、その息切れしそうな真空の外では普段冷静なシックスが不安げな表情をみせた。

 

「フン、お前のそういう覚悟は好きだ。信頼できる忠義の兵士だな」

「忠誠心を試していたのですか?」

「ある意味では、そうかもしれないな。そして約束する。あたしたちは、けっしてミネバ様やザビ家の利益に反することはないということをな」

「……」

「むしろジオンのため、ザビ家のためなのさ」

「!……ま、まさかグレミー閣下は?!」

「場所を変えるぞ」

 

 妹ふたりを入念な防諜対策が施されている隊長室に連れて行くと、親衛隊の行動目的を話した。いずれはわかることだし、スパイとして活動してもらうのだから、機密情報へのアクセス権であるセキュリティ・クリアランスをあげても問題はないと判断したのだ。

 十分後、いま話せるだけの情報をすべて伝え終わると、セブンは無言で敬礼して、退出していった。

 この部屋での映像、音声記録はいっさいとられていないことは確認している。内容は極秘事項にかかわることだからだ。情報保全コマンドには偽のログを提出するしかないだろうが、それはかなり面倒な作業だ。

 喉の渇きを覚えてドリンクパックを口に含むと、最低限の家具しかない飾り気のない部屋を見回した。シックスが腕を組んで難しい顔をしている。

 

「……セブンは、真実を知ってどう行動するでしょうか?」

「さあ、どうだろうな。私たちの敵になることはないだろう」

「ですが隊長、セブンはハマーン閣下に……」

「知っている」

「親衛隊を離れる可能性だってあります」

「フン、やっかいなことだ」

 

 そういうと、プルツーは空になったドリンクパックをダストボックスに放り込んだ。

 

 

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 プルフォウは、その場にいる二人以外の声、しかも人間そのものの声色が不意に聞こえてきたので、飛び上がらんばかりに驚いてしまった。反射的に警戒して周囲を見回すが誰もいない。けっきょく、その声の主がモビルロイドだという事実に気付くまでに五秒ほどを費やした。

 注意深く観察すると、ナインのモビルロイドは周囲の状況や目の前の人物を正確に認識し、会話を理解して、論理的だけでなく感情的な反応も加味して能動的な反応を返すことが可能なようだった。いや、そのような表層的なものではない。このプログラムは人間のように思考しているのだ。だが、そのような高度な人工知能は、あと十年は生まれないだろうと予測されていた。世間には人工知能をうたうプログラムやロボットも市販されているが、もちろんここまでの性能はない。

 

『驚いているようだなプルフォウ?』

 

 モビルロイドは得意げに話しかけてくる。

 

【挿絵表示】

 

 

「当然よ。もし、あなたがチューリングテストプラスを受けたなら、百パーセント人間としか判定されないでしょう」

 

 チューリングテストプラスとは、いくつもの質問をして、人工知能か人間かを判定するテストのこと。

 

『あんなもの馬鹿馬鹿しい! 程度の低い人工知能が必死でクリアするものだ。私にとっては児戯に等しいな』

「教えて。あなたの他にも、同等の機能をもった人工知能が存在するの?」

『地球連邦軍の人工知能開発プロジェクトがあると聞いたことはあるが、まだ接触したことはない。だが、仲間が増えたときを考えて、いずれは人権を要求しようと考えているよ。人型でなければいけないというならモビルスーツになってもいい』

「モビルスーツに?!」

『スマートな機体を望みたいな。ころころした、太ったものは嫌だぞ』

 

 おそらくモビルロイドが言っているのはMSM-04F《アッガイ》やMSM-04G《ジュアッグ》のことだとわかった。

 

「前代未聞の話だわ」

 

 だが、驚く前に確認しなくてはならないことがある。

 

「ナイン、このモビルロイドのコードを見せてくれる?」

「いいよ」

 

 ナインは満面の笑みを浮かべてコンピューター・パッドの画面を見せてくれた。

 

『裸をみられるようで、いい気持ちはしないな。これは生体解剖にも等しい、わたしを侮辱する行為だ』

「そんなことはしないわ! 少し調べさせてもらうだけよ」

『ならば交換条件として、おまえの裸も見せてもらいたいな』

 

 ふざけたモビルロイドの要求を無視すると、デバッグモードを起動してソースコードを確認した。

 

「な、なにこれ?! まるで理解できないわ! これで動くの?」

 

 妹ナインが記述したコード。と表現してよいかわからないが、それは独自の言語、フォーマットで書かれていた。常識はずれで、おそらく常人にはまるで判別不能なアルゴリズム。命令文や数式があると思えば、図形なのか記号なのか、あるいは落描きなのか、おかしな幾何学模様がたくさん現れ、さらにそれらが複雑に絡み合っている。

 自分にはとても手に負えない。コーディングに詳しいイレブンに解析してもらう必要があるだろう。

 

「ナイン、本当にあなたがこれを?」

「そうだよ」

 

 妹が嘘をついてないとすれば、彼女は恐ろしいまでの天才だ。いや、自分でも自らの才能が分かっていないのだ。

 

「このことは誰にも話したらだめよ」

「どうして?」

「どうしても。お姉ちゃんと約束して」

「……わかった」

 

 この驚くべき事実を上層部に報告するべきか、それとも隠しておくべきか迷った。もはや無人モビルスーツが実現するどころの話ではない。意識を持った人工知性体がいきなりこの世に現出したのだから。人類が戦争をしている間に、新たな種族が産まれようとしている。人工知能は人間社会を便利にし、発展させるだろう。その意味では、人類のために公表すべきだということはわかる。だが情勢が問題なのだ。平和な世なら迷うことなく報告したが、ニュータイプや自分たちの強化人間のように、結局は戦争の道具に利用されてしまうのである。

 自分には姫に忠誠を尽くし、スペースノイドの独立を勝ち取るという使命があるから、モビルスーツに乗るし戦闘行為もする。だが、ナインと彼女の人工知能はあまりに純粋だ。彼女たちを戦いに巻き込めば、それは悲劇を産むのだと直感するのだ。

 それに、これは宇宙に産まれた、新たな知性体と人類とのファーストコンタクトなのである。戦争中の政府が、はたして正しい対応を行えるかどうか不安だった。人類の脅威だとして抹殺してしまう可能性だってあるのだ。

 

『プルフォウ、お前は私に対して誠実に対応してくれるようだ。その心に感謝する』

「正直、私にはどうしてよいのか分からないの。少し考えさせて」

『了解だ。お前を信じよう』

 

 噂レベルの話だが、地球連邦軍にはパイロットを廃した無人モビルスーツを開発するプロジェクトが存在して、教育型コンピューターを発展させた高度な人工知能が開発されているらしい。このモビルロイドが言及したのも、おそらくはそれだろう。

 世の中には不思議な現象があって、同じような発明は世界で同時発生的に現れることが多々あるのだ。集合無意識的なシンクロニシティが存在するという仮説は、遠隔感知能力やある程度の先読みすら可能なニュータイプ能力を持つ自分にとっては、けっして空想や絵空事ではない。

 ふと、これは技術的特異点(シンギュラリティ)ではないかと考えた。技術的特異点とは、人間を超越した人工知能が生まれた結果、社会に変革が生まれることだ。

 人間が強化人間を創り、強化人間が人工知能を創ったとすれば、人工知能は何を創るのか? それが地球圏を救う手段のような気がしたが、同時に恐ろしさも感じてしまった。あるいは宇宙世紀を終焉に導く連鎖かもしれないのだ。

 

 プルフォウは、自分の手に収まっているコンピューター・パッドが、とたんに重いものに感じられた。

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