プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。

※Pixivにも投稿しています。


第08回「ファイブの初陣」

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 艦内に鳴り響くアラート音は、慌ただしいリズムを刻むことで兵士を興奮させ、任務に駆り立てた。だから士官室のベッドで熟睡していたプルファイブも、すぐに目を覚ました。

 

「ちっ、敵襲かよ! パイロット出払ってるじゃねェか!」

 

 毛布を跳ね上げ、勢いよく飛び起きる。一時間前に訓練を終えて仮眠したばかりだとしても、泣き言は軍人には不要だ。それに、しばらくしたらアドレナリンで眠気は吹き飛んでしまうはずだ。

 いま、この艦の正規パイロットはパトロール任務ですべて艦を離れていて、出撃可能なパイロットは他にいない。つまり、自分にとって初めての実戦になるということだ。

 

「来ていきなり実戦ってのは展開が早すぎねェか? ま、それが戦争ってやつなのか」

 

 焦点が合わずぼやけた視界に、脱ぎっぱなしの軍服が飛び込んでくる。軍隊にしては少し凝り過ぎている部屋のインテリアは、典型的なジオン艦艇の士官室だ。

 艦船でのオペレーションを学ぶために、昨日からこのエンドラ級巡洋艦《グランドラ》に派遣されている。士官だから個室を与えられたものの、忙しくて荷物の整理はしていないし、普段からしてもいない。

 部屋を飛び出す前に、壁にはめ込まれた艦内コミュニケーターを使って、同じく派遣されてきている妹に声をかけた。

 

「テン、起きてるか?! 出撃すんぞ!」

 

 モニターをみると、妹はすでに目を覚まして着替えている途中だった。これでパイロットは二人だ。実戦経験がないから僅かな不安はあるが、それを払しょくするくらいにはシミュレーションで勝利を重ねている。人間相手のシミュレーションならば、そう変わりはしないはずだ。

 バスルームで顔を洗い、髪をブラシで撫で付けるまでを一分未満で終わらせると、下着にジャケットを羽織っただけで廊下に飛び出した。すれ違う兵士が、おかしなものを見るような顔をしている。だが、敵襲ならば一秒でも早く出撃しなくてはならないのだ。

 

「パイロットがいないんだよ!」「予備のパイロットがいるはずだろ?!」「誰か探してこい!」

 

 混乱した艦内で下士官が怒鳴りあっていた。このエンドラ級巡洋艦グランドラは訓練航海中で、実戦になるとは誰も考えていなかったのだ。人が行きかう艦内通路を、床を蹴り、方向転換しながら、隙間を縫って進んでいく。

 

「おい邪魔だ! 親衛隊だからってガキが好き勝手してるな! なんて格好だよ」

 

 廊下で下士官とぶつかりそうになり、そのベテラン兵だろう男が偉そうに叫んだ。

 

「おい、もう一回言ってみろよ! 遊びでやってるように見えんのか!」

「見えるな!」

「んだと?!」

 

 相手の挑発にキレて、思わず掴みかかろうとしたが、いきなり後ろから両肩を掴まれ阻止されてしまった。

 

「あァ?! なんだよ!」

 

 勢いよく振り向くと、知り合いのメカニックの真剣な表情が視界に飛び込んできた。

 

「スインか。あいつが喧嘩を売ってきたんだよ!」

「出撃するんだろ? 落ち着かないとダメだ。焦りはミスを招くよ」

 

 彼の落ち着いた声を聴くと、湧き上がった怒りはいくらか鎮まった。

 

「……そ、そうだな。オレのモビルスーツはあんのか?」

「ガズアルは整備終わってる。さっき君が壊した腕も交換したばかりだ」

「悪りィな。助かるぜ」

「どうしても君が出るのか? 」

 

 スインの声は、妙に不安そうだった。

 

「当たりまえだろ。オレはパイロットなんだからな!」

「誰か予備パイロットがいるはずだよ」

「馬鹿だな。手柄をあげるチャンスじゃねーか! 訓練ばかりじゃ腕も上がらねーし、いつまでたっても大佐にはなれねェ」

「ひとりで大丈夫なの?」

「テンにも声をかけてる」

「なら安心か……。それにしても、その格好はまずいんじゃないかな」

「どーせノーマルスーツを着るからいいだろ?」

「目のやり場に困るよ」

「ははは! いつも見てんじゃねーか」

 

 いまさら何を言っているのかとスインの背中をバシンと叩くと、通路の向こうから妹のテンが、無重量空間を苦労して移動してくるのが見えた。彼女の長い前髪から覗く右目からは、少し動揺していることがみてとれる。まだ軍人としては未熟なのだ。

 

【挿絵表示】

「姉さん、本当に出撃するんですか?」

「ああ、きた甲斐があったよな!」

「また、そんな格好で出歩いて……」

「スクランブルなんだぜ、かまってられっか! モビルスーツデッキに急ぐぞ!」

「あ、待ってください。私が乗るモビルスーツがないんです。ガズエルは……」

「テンちゃん、悪い。修理まだなんだ」

 

 スインがすまなそうに言った。

 

「なにかねーのかよ?」

「ガザDがある。武装も搭載してるから、すぐ出撃できるよ」

 

 AMX-006《ガザD》は、高速飛行形態であるモビルアーマーに変形できる可変モビルスーツだ。比較的初期に開発された機体ではあるが、その加速力はなかなかのもので、脚部の大型クローを用いた格闘性能にも優れている。操縦性は素直で、初心者にも扱いやすい機体だ。

 

「よし、オマエはそれに乗れ! すぐ慣れんだろ」

「そんな……」

「ちゃんと整備してるから大丈夫さ」

「スインさん、姉さんのモビルスーツばかり力を入れて整備しないでくださいっ」

 

 テンは、不機嫌になってロッカールームに流れていった。

 

「あいつ、ガズエルに乗れねえから怒っちまったか」

「機嫌を直してもらうために修理しておくよ」

「頼んだぜ!」

「気をつけて!」

 

 妹を追い越してロッカールームに走りこむと、ノーマルスーツを手早く着込み、肩や胸、下半身を保護するアーマーを装着した。そしてヘルメットを抱えてドリンクパックをひっ掴むと、部屋を飛び出し、通路を駆け抜けて格納庫へと向かった。

 デッキには、銀色と青色とのツートーンで塗装されたモビルスーツが鎮座していた。騎士の甲冑を思わせるデザインが採用された、長く延長された肩装甲と接近戦用の巨大な槍が特徴的なその機体は、親衛隊用に開発されたカスタムモビルスーツAMX-117R《ガズアル》だ。

 親衛隊の任務であるVIPや旗艦の護衛のために開発された機体で、《ガズアル》はライトウイングをガードするために右腕に集中的に武装が施されている。対となる、レフトウイングをガードするモデルがAMX-117L《ガズエル》であり、本来は二機がペアとなって作戦行動を行うのだ。

 

「すぐ出撃するから、ジェネレーターを外部から起動してくれ! 発進手順を省略すんぞ!」

 

 格納庫に入ると、すぐにメカニックにスクランブル手順を指示した。本来モビルスーツは適切なプロトコルで核融合炉を起動する必要があるが、多少無理をさせても強引に機体をスタートさせなくてはいけないときもある。今が、まさにそのときだ。

 

「お前がでるのか?! 出撃許可は?!」

「いまからとんだよ!」

 

 走り込んできた勢いで通路の手すりを飛び越え、《ガズアル》のコクピットへと飛んだ。

 機体の胸部に取り付くと、装甲に埋め込まれている開閉スイッチを押下する。すると胸部装甲が手前にせり出して、かろうじて人間ひとりが通れるほどの隙間ができた。

 この《ガズアル》のコクピットハッチが妙に狭いのには理由がある。母体となったMS-17《ガルバルディ》は、標準的なモビルスーツがそうであるように、元々は腹部にコクピットが設けられていたのだが、スペース的にリニアシートを備えた新型コクピットブロックを収めることが出来ずに、胸部へと移設されたのである。つまり、いまのコクピットハッチは急遽後付けされたものなのだ。腹部には元々の丸いハッチが固定化されて残されているので、間違ってしまうメカニックもたまにいる。

 窮屈なハッチの隙間から滑り込むようにして中に入り、リニアシートに座ると、すばやくコンソールをオンにしてコンピューターにセルフチェックを実行させた。

 

「ブリッジ! プルファイブがガズアルで出る。いいよな?!」

 

 大量に行き交う艦内通信に大声で割り込む。そうでもしなければ話は無視されてしまう。

 

『出れるのか?!』

 

 よほど混乱してるのか、通信モニターに艦長が直接顔をだした。

 

「ああ、機体とパイロットに問題はねーよ」

『他に発進できる機体はないからすぐに出てくれ! パトロール中のガ・ゾウム小隊には戻るように伝えた。通信が届いたかは分からん』

 

 グランドラ艦長マクリーズ大佐の声は少しうわずっていた。上の人間が取り乱すのはみっともないことだ。

 

「オレの連れも、後からガザDで出る」

『了解だ。確か、お前たちは初めての実戦だな?』

「ああ、即戦力になるように訓練を重ねてきた。だから実戦はゲームじゃねえとか、おきまりの忠告は不要だぜ」

 

 自分はエリート部隊である親衛隊のパイロットだ。評判を落とすような弱みを見せたくないから、機体チェックに忙しいところを見せて、余計な口を挟ませないようにした。

 

『お決まりも役に立つんだ! 聞け。優勢でも深追いしないで、常に周囲の確認を怠るなよ。いつのまにか囲まれていることがあるからな。とにかく周りを警戒しろ』

「……」

『俺はパイロットあがりだ』

「艦長がか?」

 

 うまく立ち回って出世したのではなく、パイロット出身の叩き上げだとすれば、その経験は信用できる。

 

「わかった。いきなりヘマはしねーよ」

『気分が乗っているのは結構だ』

「初陣を大勝利で飾ってやんよ」

 

 景気づけに軽口を叩きながら、サイコミュ用のヘッドセットを頭にはめ、同期ケーブルをお尻のコネクターに差し込んだ。

 それぞれ猫の耳と尻尾に似ていなくもないデバイスだ。

 

「……ちくしょう、なんだってこんな形なんだよ。ガキが遊ぶオモチャかなにかと勘違いしたんじゃねーのか?」

 

 最近でこそ少しは慣れもしたが、このデバイスを身につけるのは恥ずかしかった。通信するときなどは最悪だ。猫のコスプレをして遊んでいるみたいだからだ。少佐や大佐に昇進したパイロットが仮面を被ったりするが、猫のかぶりものをしているというのは、なかなか間抜けだった。

 だが、この《ガズアル》には、親衛隊のメカニックである姉のプルフォウの手で簡易サイコミュが搭載されているのだ。だからヘッドセットで脳波を送り込めば、レスポンスが多少は向上するから我慢して被っているのである。

 シートは何度も調整していたが、しっくりとせず、もぞもぞと座り直した。実戦だからといって神経質になることはない。

 

「発進準備はオーケーだ! いつでもいいぜ!」

 

 モニター内の管制官に向かって親指を立てて、機体に問題がないことをアピールする。

 

『ハッチオープン、前方はオールクリア。一番カタパルト射出準備よし!』

 

 リニア・カタパルトと機体との接続が完了したことを、デッキ上のカタパルト・オフィサーがハンドサインで示した。

 発進だ。

 

「プルファイブ、ガズアル出んぞ!」

 

 合図と共に電磁カタパルトが火花を散らして作動し、強固な合金と複合材料で構成された人型マシーンを凄まじい速度で加速させた。《ガズアル》はリニアレールを突っ走り、あっという間に宇宙空間に放り出された。

 容赦のないGに耐えながら母艦から離れるのを待ち、十分に安全な距離に達すると、姿勢制御スラスターを吹かして向きを変えて、方向を定めて速度を維持した。

 この加速力が高性能機であることの証明だ。

 

「いい加速だぜ! 修理は完璧だな」

 

 《ガズアル》は《ガルバルディ》のカスタムタイプだが、オリジナルの《ガルバルディ》も、機動性に優れた機体である。インターセプト任務に最適化された優秀な局地型モビルスーツで、その性能を評価した地球連邦軍が、一年戦争後に流出した設計図をもとに勝手にコピーして生産したほどだ。だがアクシズ製のオリジナルモデルは、戦後さらに改良が加えられていて、強力な武装と最新の装甲材、高出力のジェネレーターを装備している。だから同じ名前を持つ連邦軍製のデッドコピー機とは比較にならない性能を誇っているのだ。

 

「連邦野郎はどこにいやがんだ。グランドラ、情報をくれ!」

 

 自分は遠隔感知能力を有する強化人間ではあるが、姉妹ほどにはその力を使うのは得意ではなかったので、レーダーとセンサーの測定結果を全天周モニターに表示させて注視した。

 

『方位はゼロ・ナイン・セブン。敵機(ボギー)の数は不明』

「了解だ。フン、これだけナントカ粒子が多けりゃ仕方ねェのか」

 

 母艦から送信されてきたデータを確認し、ディスプレイのレイヤーに重ねて表示させる。敵編隊は高速で接近中だ。

 

「アクシズが近いのに攻めてくんのかよ。ネオ・ジオンも舐められたもんだぜ。……いたか!」

 

 はたして自機の二時方向から四機編隊のモビルスーツが接近してくるのを目視した。

 

「へっ、群れやがって。グランドラ、敵を確認した。先制攻撃をしかけんぞ!」

 

 敵編隊をやや上方に捉えると、操縦桿の兵装セレクターで、バックパックから二本突き出すようにして装備されているビームカノンを選択した。このビームカノンはビームサーベルにもなる大口径砲で、インターセプト機として優れた性能を《ガズアル》に与えているのだ。

 

「ファイア!」

 

 素早く右端の敵機に照準を合わせてトリガーを引く。編隊後方の機は先導機についていくのに必死で、前方が見えてないことが多いのだ。

 

「堕ちろ!」

 

 母艦からの攻撃許可はまだ受領していなかったが、どうせモニタリングしているのだ。攻撃のチャンスを逃すことはない。

 二条のビームが粒子の光を煌めかせながら宇宙空間を走って、ターゲットに吸い込まれていった。そして、数秒後にパッと爆発が起こった。

 

「やったか!」

 

 一機撃墜。初めての戦果。タッチパネルをクリックしてガンカメラの映像を確認する。

 そのとき警戒モニターに輝点が点灯して、味方機が追いついてきていることがわかった。妹が乗る《ガザD》だ。

 

「テン! オレはこのまま突っ込むから援護してくれ!」

『姉さん待機してください。追いつきません!』

「待ってられっか!」

『連携しないと……!』

 

 一瞬艦長の忠告を思い出したが、この勢いと好機を逃すまいと、妹の言葉を無視してフットペダルを踏み込み増速した。

 敵は待ってはくれないのだ。

 味方機を撃破されて復讐に燃えているだろう敵編隊から、激しいビームが襲いかかる。その隙間を巧みにかいくぐって紙一重で避けていく。ビームを形成するメガ粒子の束が、すぐそばを通って機体を揺らした。

 このスリルがたまらなかった。実戦なのかシミュレーションなのか。没入すれば、そこにたいして違いはない。

 

「下手くそどもが! その程度の腕で偉そうに攻めてくんじゃねーよ!」

 

 戦術ディスプレイで確認すると、一機を失った敵編隊は三角形のエシュロン・フォーメーションで突っ込んでくるのがわかった。つまり火力を集中させ、そのパワーで圧倒するつもりなのだ。この勢いは危険だ。だから対モビルスーツ用ミサイルを撃ち込んで牽制をかけることにした。

 レーダーがジャミングされているから精度は落ちるものの、ミサイルはレーザーセンサーによって敵機に誘導されて近距離で爆発する。ミサイルは入れ物状のキャニスターになっていて、ある程度飛翔したあと外装が割れ、中から大量のマイクロミサイルが放たれるのである。

 敵部隊をかき乱し、混乱の中格闘戦に持ち込むのが自分の得意とする戦法だ。

 セレクターでミサイルを選択してトリガーを引くと、肩に張り出した増加装甲兼ウェポンラックに装備されたミサイル・ランチャーから、対モビルスーツ用ミサイルが連続発射された。ミサイルは熱で機体を傷つけないようにガス圧で放出されると、数秒おいてロケットモーターに点火して目標に向かって飛翔していった。

 

「起爆は近接信管モードを選択」

 

 ミサイルにコマンドを送信し、後を追うように《ガズアル》を加速させる。母艦が近いから燃料はあまり気にする必要はない。プロペラントタンクから核融合炉に燃料を最大に送り込まれて、その加速に機体が軋んだ。

 Gで胸が締め付けられて思わず呻いた。胸アーマーがきついのだ。成長期で、胸が大きくなるたびに作り直すのは面倒だから、とりあえずパッドを厚くしてしのいでいるものの、擦れて痛むのが不愉快だった。

 そんな不快さも、マイクロミサイルが連続して爆発するのを認めると、アドレナリンが放出されて感じなくなった。

 

「かかりやがった!」

 

 炸薬が詰まった弾頭が連続して炸裂し、宇宙に爆発の花を咲かせた。凄まじい爆発による圧倒的な熱量と圧力が敵を包み込み、敵編隊は散り散りになる。そうして敵機が怯んだ隙をつき、一気に肉薄するのだ。

 フットペダルを蹴り飛ばし、ロケットエンジンに勢いよく燃料を送り込む。核融合エンジンの熱を取り込んだ燃料が、爆発的に膨張して推進力となる。

 

「まとめて始末してやるぜ! 固まってるのが裏目に……なに?!」

 

 遠くの敵を見据えていたところに、いきなり目の前に飛行物体が出現してきたので、叫び声をあげて驚いてしまった。

 機体前方を塞ぐように飛び込んできたそれは、民間の小型シャトルだった。

 

「ば、ばかやろう! 死にてーのか!」

 

 緊急回避するために操縦桿を思い切り引く。ガリッと引っかくような嫌な音がしたが、紙一重で正面衝突を避けることができた。あとコンマ一秒遅れていたら衝突していたはずで、民間人パイロットの能天気さには、怒りで我を忘れそうになった。

 

「さっさと離れろ! アクシズに観光にきたのかよ! 戦場に出てくんじゃねー! 失せろ!」

 

 モビルスーツの腕を振り回して、戦闘宙域を離れるように促した。シャトルはしばらく直線飛行していたが、ようやく向きを変えて戦場から離脱していった。

 だが、その間にミサイルの爆発による混乱から回復した敵機が接近して、ビーム攻撃を仕掛けて来た。

 

「ちくしょう、こっちに気づきやがったか!」

 

【挿絵表示】

 

 

 中距離戦闘に対応するために、右手に装備していたヒート・ランスを腰横のラッチにスリングし、背面にマウントしていたビーム・ライフルをつかみ取った。

 グリップを握らせると、ビーム・ライフルに核融合炉と直結したエネルギー・ケーブルで電力が供給され、充填されたメガ粒子が発射可能となった。

 

「テンは、まだこねーのかよ!」

 

 牽制でライフルを速射し、同時に敵が放ったビームの射線を、機体をひねらせながら回避する。《ガズアル》の限界Gを超える機動にギシギシと各部から悲鳴があがり、同じく自分の身体も悲鳴をあげた。

 敵モビルスーツはやたらめったらに発砲してきている。さすがに回避機動で避けきれなくなってきたので、目くらましのために左マニュピレーターに仕込まれたダミーバルーンを使うことにした。

 ダミーバルーンとは、伸縮性の高い素材を用いてモビルスーツの形に似せて作られた欺瞞用装備のこと。モビルスーツのマニュピレーターに圧縮されて仕込まれていて、少量のガスを吹き込むことで何百倍にも膨らむのだ。小型のガス噴射装置も搭載されているので、モビルスーツのような動きでランダム機動させることもできる。

 操縦桿のスイッチを決まったパターンで押すと、《ガズアル》に似せて銀と青に練り分けられたダミーバルーンが次々と放出された。周辺を僚機のように漂い、身代わりとなってビームを受けて破裂していく。センサーを惑わすことができるので、レーダーがジャミングされた戦場では、かなり有効な戦術なのである。

 だが十数個を放出したところで、銀と青のダミーの替わりに、緑色のAMX-101J《ガルスJ》に似たダミーが発射され始めた。

 

「ちっ、切れちまった!」

 

 カスタマイズされた特殊機用のダミーを製造するにはコストがかかるので、充分な数が供給されることはほとんどない。それでも一連のダミーバルーンで目くらましにはなったようで、敵の攻撃は当たらず、逆に一機の武装をふきとばすことが出来た。このまま押し切ることが出来れば……。

 その油断がまずかった。

 ドーンッ!という爆発音と共に機体に激震が走った。左肩にビームの直撃をうけてしまったのだ。

 激しい衝撃とともに、全天周(オールビュー)モニターのサイドパネルが破裂して吹き飛んだ。

 

「ちっ……痛ェ!」

 

 左肩のパーツが胴体を直撃したらしかった。

 警告音が鳴り、異常を知らせる赤い文字が点滅する。

 パネルの破片がノーマルスーツを切り裂き、スーツの隙間から血が流れ出した。だが、この状況では怪我にかまってはいられない。

 

「ちくしょう、まぐれの攻撃で、ふざけんなよ!」

 

 偶然や運の良さで勝利するなどあってはならないことだ。鍛練を重ねた実力者が名誉を得るべきだと考えるのが軍人だ。

 いま直撃を食らわせた敵機、コンピューターの解析によればMSA-003《ネモ》が、ライフルをシールド裏に収納し、ビームサーベルを抜いて切りかかってくるのが見えた。

 《ネモ》はエゥーゴ製の量産型モビルスーツであり、その性能に突出したものはない。

 

「馬鹿が調子に乗りやがって! オレに白兵戦をしかけんのか! この槍が見えなきゃ見せてやんよ!」

 

 近接戦闘に対応するべく、《ガズアル》の右手に装備させたヒート・ランスを起動すると、穂先が青白く発光した。

 《ネモ》は加速しつつ、横薙ぎにサーベルを払ってくる。予想通り。モビルスーツは人型で縦に長いから、横に切る方が当たりやすいのだ。

 その軌道を読み、反撃する手順を頭の中で組みたてる。これはニュータイプ能力などではなく、剣術を鍛錬した成果だ。左腕は使えないので、フェンシングのように、ヒート・ランスで攻防一体の構えをとる。

 

「見切ってんだよ!」

 

 横薙ぎに払われたサーベルを上半身を反らしながら避けると、ヒート・ランスを最大速で突き出した。《ネモ》はシールドを展開して防御するが、その程度では防ぎきれるはずはない。ヒート・ランスの質量と莫大な熱がシールドを瞬時に貫通する。

 

「うおぉー!」

 

 勝利を確信しながら吠えた。

 《ネモ》の左腕を半壊させ、サーベルを握る右腕をも押さえ込み、胴体を切り裂きにかかった。

 ヒート・ランスは、ジェネレーターからパワーケーブルで直接送りこまれるエネルギーを熱に変換し、その熱量で敵の装甲を溶かす兵器である。シンプルだが、ビームサーベルとは違い実体があるので、こうした接近戦では強引に押し切ることができるのだ。

 自身を溶かさないために、白熱したランスの放熱口からバシュッと余剰熱が放出された。

 あと少しで《ネモ》を撃破できる。

 が、そのとき背後から突然に衝撃をうけた。

 

「なんだ?!」

 

 いつのまにか背後に回り込んでいたもう一機の《ネモ》が、体当たりするように組みついてきたのだ。

 

「な、抱きついてくんじゃねェ!」

 

【挿絵表示】

 

 敵機は両腕を《ガズアル》の胴体に回すと、バーニア・スラスターを全開にして逆制動をかけてきた。お互いの装甲がぶつかりあい、コクピットがガタガタと揺れた。

 

「やめろよ! こんな戦いかた、みっともねェだろうが!」

 

 振りほどこうと必死に操作するが、相手は道連れにでもするかのように執拗に掴みかかってくる。

 脳裏に、姉プルツーがモビルスーツ戦闘についてレクチャーしていたことが思い出された。半分居眠りしていたので後で殴られたのだが、エゥーゴや連邦軍のモビルスーツは、そういう戦術が推奨されているのか、やたらと組みついてくるというのだ。人型だから、それもありなのだろうが、滑稽な戦術だとそのときは思った。

 

「汚ねえ手を使いやがって! 変態野郎が、離しやがれ!」

 

 操縦桿を激しく動かして無理矢理に振りほどこうとすると、関節が過熱している警告メッセージが表示された。

 

「ナントカモーターがヤベェのか!」

 

 このままでは、まずい……!

 さらに鍔迫り合いをしていた正面の《ネモ》が、突然にパンチを繰り出してきた。モビルスーツの拳がモニターいっぱいに広がり、次の瞬間はげしい衝撃とともに映像が歪んだ。

 

「うおぉっ?!」

 

 グシャッと頭部が潰れてメインカメラである単眼(モノアイ)が失われ、モニターの映像がサブカメラからの解像度の低い映像に切り替わった。

 

【挿絵表示】

 

 さらに《ネモ》は、続けて《ガズアル》の腹部を殴り始めた。その目的は明らかで、コクピットを潰すつもりなのだ。《ネモ》がマニュピレーターやシールドで執拗に殴打を食らわせてくるたびに、リニアシートでも吸収しきれない揺れが襲いかかり、コンソールやシートに嫌というほど頭や体を打ち付けた。

 

「……容赦ねェな」

 

 ペッと血と一緒に口から異物を吐き出すと、それが折れた歯だということがわかった。

 

「ぐっ……肋骨もやっちまったか」

 

 鈍い痛みに顔を歪ませる。アドレナリンで痛みは抑えられているが、おそらく体は打撲だらけだろう。《ガズアル》の腹部は潰れ、コクピットも下から圧迫されて三分の二ほどの大きさになってしまった。凄まじい衝撃が外部から加わったのだ。

 だが完全に潰れてはいない。そう、腹部のまるでコクピットハッチのような丸いディティールが欺瞞となり、潰されずにすんだのである。《ネモ》のパイロットは、《ガズアル》や《ガルバルディ》のコクピットが腹ではなく胸にあることを知らなかったのだ。

 もし原型機のように腹部にコクピットがあったなら、自分は今ごろグシャグシャの肉塊(ミンチ)になっていたはずだ。

 

「馬鹿が、勉強不足なんだよ」

 

 だが、《ネモ》はいったん後退すると、再びビームサーベルを抜いた。とどめを刺すつもりだ。

 

「や、やべェ……!」

 

 コクピットを貫かれなくても、機体が爆発すれば一巻の終わりだ。このままでは死ぬだけだ。脱出するしかない。

 頭のサイコミュレシーバーを素早く外し、ヘルメットを被ってシート下の脱出レバーを引く。

 

「ちくしょう! 作動しねェぞ!」

 

 故障だ。あれだけの衝撃を受ければ仕方がないのだろうが、メカニックのスインに文句を言いたくもなった。

 あいつとも、あれが最後だったか。初陣で戦死がパイロットとしての経歴となるのは情けなく、出てくる言葉もなかった。

 

「……へっ、こんなもんか」

『姉さん! そのまま動かないでください!』

「テン?!」

 

 至近距離にビームの光が走り、《ネモ》の腕と頭が吹き飛んだ。正確な射撃だ。半壊した機体は、そのまま慣性力でクルクルと回転し始め、さらに二発の直撃を受けて爆発した。

 

『離れなさいよ!』

 

 さらにテンの《ガザD》は、両脚が変形した格闘用クローで、背後から掴みかかっていた《ネモ》の頭を蹴り飛ばした。

 

「テン、助かったぜ!」

 

 この好機を逃すわけにはいかないので、コンソールパネルを素早く操作して特殊動作を呼び出した。すると《ガズアル》は半自動モードとなり、《ネモ》の腕を掴むと、重心を落として前方に弧を描くように投げ飛ばした。無重量空間で態勢を立て直そうと、《ネモ》はまるで溺れた人のように両手両脚をばたつかせた。

 情けは無用だ。素早く追いかけ、ヒート・ランスを素早く胴体に突き立てた。そのまま横にスライドさせて、機体の構造材が強引に溶断していく。分断されるのを防ぐために、《ネモ》の腕がヒート・ランスを掴んでくる。

 脳裏に敵パイロットの叫ぶ声が響いた。

 

「とどめだ!」

 

 《ガズアル》の最大パワーを発揮すると、《ネモ》は真っ二つになった。爆発に巻き込まれないために素早く離れると、真空にプラズマの火球がいっぱいに広がった。

 さらに、少し離れたところに位置していた残りの一機をテンが攻撃して撃破した。

 これで敵部隊は全滅だ。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 口や腕から流れた血が、コクピット内にいくつもの赤い玉を作り出していた。それは初陣の勝利を祝うシャボン玉に見えなくもなく、加えてファンファーレに聞こえなくもないブザー音も鳴っていた。

 モニターを確認すると、酸素漏れを示す警告メッセージが点滅し、さらに機体の頭部、左腕、そして胴体の動力伝達システムが停止しているのがわかった。核融合炉が爆発しなかったのは奇跡だ。

 

「ちっ、またこいつを壊しちまったか」

 

 自分も全身に怪我を負ってしまった。血の匂いを急に意識して、心臓が高鳴り興奮してはいたが、訓練で慣れ親しんだ匂いに逆に安心をおぼえた。

 怪我を治療するために、シート下からサバイバルキットを引き出すと、ふたを開けて消毒スプレーと包帯を取り出した。

 

『プルファイブ、連邦の巡洋艦が接近していたが撤退した。お前たちも帰還してくれ』

 

 戦闘が終了し、レーダージャミングも終わったので、母艦のグランドラから通信が入った。

 マクリーズ艦長だ。

 

「了解だ」

『おい、負傷しているが大丈夫なのか? アラート音もしてるぞ』

「ああ、オレは強化人間だからな。鍛え方も違うぜ。機体は軽い酸素漏れだ。連れに牽引してもらうから問題ねーよ」

『わかった。初戦果だな。親衛隊から受け入れたのは正解だったか。うちの所属になるか?』

「退屈じゃなければいてもいいぜ、艦長」

 言いながら、ファイブは怪我の治療をするために胸アーマーを外し、ノーマルスーツのファスナーを下げて上半身裸になった。

 

『おいおい、通信を切るぞ』

「見たけりゃ見てもいいんだぜ」

 

 ひどい痛みに息をつきながらシートに身を預けると、機体が軽く揺れた。外部モニターを確認すると、モビルスーツ形態に変形した《ガザD》が肩のムーバブルフレームを掴んだことがわかった。

 

『姉さん、大丈夫ですか?』

「テン、助かったぜ」

『怪我してます!』

「大したことねェよ」

 

 患部に治療用スプレーを吹き付けると、伸縮式の治療用バンテージを腕や体にぐるぐると巻いた。ぞの思ったより深い傷の、鈍く鋭い痛みに思わず顔を歪める。

 

『あとで必ず医務室にいってくださいね』

「わかってんよ。でもよ、怪我をするくらいだと戦闘って感じがすんな。ツー姉も褒めてくれるかもな」

『姉さんの戦い方は危なっかしくて』

「危なくねー戦闘なんてあるかよ!」

「でも、可能な限りリスクを回避して戦うのが理想なんです。帰還したらデブリーフィングをしっかりとしますからね。わかりましたか?」

「わかったよ!」

 

 悔しいが、妹の言う通り今回の戦闘が酷いものだった。敵を圧倒して勝利するはずが、無様な姿を晒してしまった。その原因は、あの忌々しい民間シャトルのせいだ。

 シャトルが無事に空域を脱出したかは知らないが、戦争は他人事だと考えている奴らに同情する気はない。

 

「ま、オレには関係ねェか……。臆病な奴らは引っ込んでりゃいいんだ」

 

 プルファイブは、粘着質の『ウォールフィルム』補修剤でコクピットの穴を塞ぎながら、次の戦闘はもっと上手くやってみせると自分に誓った。

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