『本当にそれでいいのか?』
何もない空間の中、少年は呟いた。
距離が遠くて顔も分からないのに、声だけが頭に響いてくるように聞こえる。
それでいいか?
いいもなにも関係ないだろ。
俺には選択肢なんてないんだから。
頭押さえつけられて、魔力は空っぽで、出来ることなんて何もない。
どう頑張ろうが、死は絶対に来るものだ。
それが今だった。
ただそれだけのことだろ?
何故か声が出なかったが、少年は俺の言いたいことを分かっているようだった。
『…もう一度聞くぞ。それでいいのか?』
…………いいわけがないだろ。
何も出来ずに死んでいくことが…願いも叶えられずに死んでいいと思うわけがないだろ。
でも駄目だった。
俺は結局、力を持たないただの人間と変わらないんだよ。
世界を跨いでも、俺は弱いままだった。
守りたいものがあった。
助けたいものがあった。
なのに俺は何も出来なかった。
いつだってそうだった。
自分で願いを捨て去って、自分で居場所を消してきた。
俺の願いは叶わないものばかりじゃなかった。
きっと叶うものだってあった。
親友や家族と一緒に居たい、その場所を守りたい、俺の願いはいつもそんなことだった。
だけど…叶ったことなんてなかった。
結局は俺のエゴでしかなかった。
何もないからこそ、何かが欲しかった。
俺が手に入れたのは、願いと体よく言った汚い欲望だ。
大天狗だって、白狼天狗達だって、助けたかった。
でも、こんな考えだって、強欲の証明でしかなかった。
俺はそんな欲望しかない俺自身が、どんなものよりも「大嫌いだ!何も出来ないくせに欲望ばかりが増えていく。大天狗を助けることも、出来なかった。…なあ、教えてくれよ?俺が生きる理由をさ。強くなる方法をさ…」
いつの間にか声の出るようになっていた俺は、涙を流しながらその少年に救いを求めた。
少年は全く読めない声音で話始めた。
『それがお前の望みだろ?お前は救いたいんじゃない。救われたいんだ。お前は弱くなんてない。お前の本質は自分より他人ってことだ。自分の為に他人を救おうと考える奴が弱いはずがないだろ?俺はお前を救える。気付いてるだろ?大天狗が正気じゃないことぐらい。こいつを倒すんだ。俺達であいつを救おう。それがお前の救いになる。』
どうすればいいのか、どうするべきなのか、最初から知っていたように頭に浮かんだ。
「……お前は誰なんだ?どうして俺に協力してくれるんだ?」
『俺はお前さ。能力とでも考えてくれ。俺はな、お前に感謝してるんだよ。生きてることにな。俺が協力するのは、俺の為さ。…さて、ここは精神世界だ。時間の進みは現実とは違う。現実に戻れば、お前はまだ押さえつけられてる。ここからは、もう分かるな?』
「ああ。存分に使わせてもらうぜ。お前の力…」
能力との会話を終え、俺の意識は消えていった。
現実に戻った俺は、自分の頭を押さえつけている大天狗の腕に向かって、新たなスペルを唱えた。
「天上『天風貫雷』(あまかぜのかんらい)!」
直後出た雷は、大天狗の腕を貫通し、雷から散った風は鎌鼬となって大天狗を切り裂いた。
『ガアアアアアアァァァァ!?』
瀕死の相手が急に動きだしたことに対し、大天狗は意味が分からないというように、また体の痛みから雄叫びを上げた。
新しいスペルは二つ。
この戦いにのみ、この一瞬にだけ使えるようにされた、“風のスペル“。
『ガアアァァァァ!』
予想通りの反撃に、再びスペルで対応した。
「幻符『影槌拳』!」
狙い通り飛んできた攻撃を難なくかわし、全力の拳を大天狗の脚に叩きこんだ。
動けなくなった大天狗に向かって、与えられたもう一つのスペルを唱えた。
「解放『付与術消去』(エンチャント デリート)」
静かな声で唱えたそのスペルは、大天狗の体を風で包み込み、晴れる頃には大天狗は意識を無くしていた。
戦闘のある回の文字数いつもより少なくなるかもです。
この作品では致命的ですが仕方ありません。今回戦いは終わったけど、最初いた藍と橙が琴羽戦闘中何してたか次の回で出します。あと、オリスペカには振り仮名振るようにします。では。