「狐!狙いは俺だ!時間は稼ぐ!早く行け!」
言いながら紫様の連れて来た少年は、私達のいる側とは逆に走った。
「藍様…?」
橙がどうすればいいのか困っていた。
私にも分からない。
何故大天狗にあの少年が狙われているのか。
人間でありながら、何故私達のような妖怪を助けるのか。
あの少年から感じる力は通常の人間と変わらない。
ここで逃げれば、彼を見捨てることと同義だろう。
(どうすればいい?何が正解なんだ?)
私は少し考えた。
時間がないからほぼ即決になってしまったが、大天狗に対抗することが出来るのは、彼女達だけだ。
今二人の戦いに乱入すれば、間違いなく大天狗に切り裂いかれるだけだ。
仕方がないと無理矢理自分を納得させ、地底へ向かうことを決めた。
私は橙にその意を伝え、地底へと向かった。
「藍様!あの人置いてきてよかったんですか!?助けに行ってももう間に合いませんよ!?」
橙の言い分はもっともだ。
だけど私も分からない。
だから…
「信じるしかないでしょう。仮にも紫様が連れて来た方。ある程度の実力はお持ちと願いましょう。今は彼を早く助ける為に、一刻も早く地底を目指しましょう。」
「……はい…」
橙は人間が好きなので、彼のことが気がかりでしょうがないようだ。
橙の為にも、そして自分の為にも行かなければならない。
「橙、少し速度を上げますよ。」
「はい、藍様。」
地底の入り口に着いた。
入り口まで響き渡る笑い声から、鬼達が朝から酒宴を開いていることが分かる。
「橙、飛ぶだけの妖力はありますか?」
「は、はい、大丈夫です!」
「そうですか。なら行きますよ。」
私達は飛び降りた。
地面に足を着いた頃には、酒の匂いが強くなっていた。
どうやら入り口の近くの酒場で飲んでいるようだった。
「ん?何だお前ら?狐の妖怪と猫の妖怪か?地底に何か用か?」
入り口付近を歩いていた鬼の一人が、私達に気付き話しかけてきた。
鬼は人間以外となら友好的な妖怪なので、襲ってくるつもりはないようだ。
「おお~その尻尾九尾か。ならなかなかの強さを持ってると見た!いっちょ手合わせ願おうか?」
……前言撤回、強者を見ると衝動を押さえられない戦闘狂のような性格も持っていた。
「ら、藍様…」
橙が少し怯えている。
私も戦える程の妖力はもう残っていない。
それに早く行かなければ彼がどうなるか分からない。
「すまないが、今は戦える妖力は残っていない。それに今は少し急いでいるんだ。勇儀と萃香はいるか?」
宴会で何度か会っているので、二人の強さは知っている。
助けを求めるなら、あの二人以外に適任はいない。
「姐さん達ならあっこの店で飲んでるぜ?」
案の定二人はすぐ近くで飲んでいるようだ。
「すまない、感謝する。橙。」
私達は急いでその店へ向かった。
「次来たときは手合わせ願うぜ~。」
「勇儀と萃香はいるか?」
店員にに勇儀と萃香が居るかを聞き、二人の居る場所へ向かった。
大量の鬼達が一ヶ所に集まっている中心に二人はいたので、すぐに見つけることが出来た。
「ん?よぉ藍じゃないか!橙も一緒か!地底に来るなんて珍しいじゃないか!何か用かい?」
萃香は普段博霊神社にいるが、こちらもまた珍しく地底にいたようだ。
「二人に頼みがあって来た。今、地上で大天狗が正気を失い暴走している。私達や紫様、霊夢でさえも負けた。もう頼めるのは二人しかいない。どうか協力してくれないか?」
「大天狗の暴走ねぇ。でも霊夢や紫が負けた相手に私らじゃ勝てないと思うけど?まぁそういう相手の方が楽しめるかもね。」
萃香は勝てるとは思っていないようだが勝つつもりではあるらしい。
「萃香、そういえば大天狗の能力って何だった?」
「ああ~あの能力は勝てるの私らくらいだね確かに。」
「能力?大天狗の能力とは一体…」
戦う中解析してはいたが、予想出来るとすれば弾幕を消す能力としか思えなかった。
「まあこれは知識の問題だね。私らは一応天狗の上司だし、部下の能力は把握してるのが当たり前だからね。」
「萃香はわざわざそんなもの把握しているのか?私は大天狗くらいしか覚えてないぞ?」
「私だってそうだよ。でも大天狗は覚えてるんだろ?」
「あの、それで大天狗の能力ってゆうのは…」
橙が勢いの強い二人の言動に怯えながら聞いた。
「ん?大天狗は能力二つあってね、本人と風にそれぞれ能力があるんだ。まず本人には弾幕を写しとる程度の能力がある。そして風には、自分が理解している相手の持つ能力を無効にする程度の能力がある。」
「え…それじゃ私達の弾幕が消えたのは…」
「その能力のせいだろうね。」
萃香が能力の説明を終え、倒す方法を考えた。
そして紫様や私では倒すことは不可能だということを遅れながらも理解した。
「つまり、私や紫様の能力で倒すことは…」
「最初っから不可能だよ。なんせあんたらを幻想郷で知らない人はいないんだから。弾幕の構造は全部一緒だしね。」
「だからあんたがここに来たのは正解だったよ。なんせ私らは……」
「腕力の方が自信があるからな。」
普通なら私や紫様が負ける相手はいないが、大天狗においては二人程に頼れる人物はいない。
「私らでよけりゃ協力するよ。」
「感謝…します。」
私達は地底を抜け、あの少年が耐えていることを祈りながら大天狗のもとへ向かった。(移動中に説明は終えた)
「藍、大天狗がいるのはどのあたりなんだ?」
「もう近くまで来てる筈…なのですが…」
戦闘中とは思えないほど力を全く感じない。
人間の霊力どころか、大天狗の妖力さえ感じない。
「本当にこっちで間違いないのかい?」
諏訪子がもっともな疑問をかけたが、間違いはない筈だ。
「とにかく向かうしかないだろ?間違っていても分からないんだ。」
「そう…ですね。とにかく周りに注意しながら行きましょう。」
「……いやもう見つかったみたいだよ。」
「え?」
諏訪子が向いている方向を見ると、さっきの少年が大天狗に頭を掴まれているのが見えた。
力無く項垂れている少年からは、霊力も一切感じず、体はぼろぼろで死んでいてもおかしくない状態だった。
「そんな……間に合わなかった…」
「?藍、橙、諏訪子!少し離れるよ!」
「な!?何を…!?彼を見捨てる気…」
言い切る前に異変に気付いた。
少年の空っぽだった霊力が、神力となり増幅していた。
髪は白くなり、力無く垂れていた腕は力を取り戻していた。
そして少年は力を取り戻した腕を動かし、大天狗の腕を掴んだ。
直後、少年の声が、音のない空間に響き渡った。
「天上『天風貫雷』!」
少年の腕からは雷が延び、その雷からは鎌鼬が飛び散った。
あるものは大天狗を裂き、またあるものは周辺の木々を倒してゆく。
『ガアアアアアアァァァァ!?』
「いったい何が…!?」
「とにかく近づくのはまずい。遠目から見守ろう。」
「…はい。」
『ガアアァァァァ!』
目の前で死にかけていた少年の突然の攻撃に対し、大天狗は反撃した。
「幻符『影槌拳』!」
その反撃を受ける直前、少年はスペルを唱えた。
大天狗の攻撃はスペルを唱えた少年の体をすり抜け、少年の背後にあった木を裂いた。
当然大天狗の体制は崩れ、消えた少年が突然姿を現したのにも気付いてなかった。
現れた少年は大天狗の足を殴り、大天狗の動きを封じた。
封じると同時に、静かな声で囁くようにスペルを宣言した。
「解放『付与術消去』」
そのスペルに込められた力は、神力だった。
宣言後、風に囲まれた大天狗は、意識が無くなった状態で倒れていた。
一部始終を信じられないという心境で見ていた私達は、ただ見ていることしか出来なかった。
少年も力を使い果たしたようで、その体からは神力も霊力も感じなかった。
なので当然意識も無くなっていたようで、その小さい体は地面に倒れ伏した。
「!早く永遠亭へ…」
私は二人を永遠亭へ運ぶべく駆け寄った。
「藍様!私も手伝います!」
「知り合いなんでね。私も手伝わせてもらうよ。」
意図を察した二人も同時に駆け寄った。
「私は先に永遠亭に行ってるよ。ベッド空いてるか分かんないからね。永琳に伝えるだけ伝えとく。」
「分かりました。とりあえず応急処置だけでもしておきます。」
「じゃあまた。大天狗は頼んだよ勇義。」
「私以外こんなでかいの運べるかい?早く行きな。」
「はいはい。」
霧状になった萃香は、永遠亭に向かって飛んでいった。
戦わなかったとしても、二人を呼んだことは間違ってなかったようだ。
三人がかりで永遠亭へ二人を運んで行った。
藍視点なのに括弧付いてないところ琴羽視点と変わらないですね。僕にその表現力はないのでお許し下さい。あ、ここでは大天狗と天魔は同じにしてます考えんの面倒だったんで。…すみませんwiki設定スルーです。能力もwikiにないので勝手に作らせてもらいました。では。