「ん…ここ…どこだ…?」
おそらく大天狗を倒したあとに誰かが運んでくれたのだろう。
ベッドに寝かされていた。
傷ついた人間を連れて来たということは、ここはおそらく永遠亭なのだろう。
(退院直後にまた入院とか…永琳に謝んなきゃな。)
などと考えていると、自分の視界がぼやけているのに気が付いた。
起きたばかりで視界がぼやけてしまっているのだろう。
あまり気にしないで視界が治るのを待った。
……何か違う。
視界がぼやけているのは確かだが、違和感を感じる。
右側はぼやけているわけではないようだ。
そう思い手を伸ばしてみた。
だがその手さえも動かなかった。
左手を動かそうとしたら痛みはあるものの、動かすことは出来た。
左手を右目に持っていったとき、あることに気付いた。
右目が無い。
右目があるはずの場所には、空洞があった。
なぜだかその事実に気が付いても、驚きはなかった。
大天狗との戦い、そして自分の精神世界にいたもう一人の自分とその能力。
もともと能力に対価があったことから大きな対価が反動としてくることは予想していたからだ。
右手や左手も確認してみると、形はあったが動かすことは全く出来なかった。
魔力は回復しており、体を動かすことはさして痛みはなかった。
(そうか…あのとき…死んでないのは能力のおかげか?)
『琴羽?聞こえるか?』
「!お前…!?何で…」
別のことで驚かされた。
その声は大天狗との戦いの中に現れた、もう一人の俺自身だった。
『現実で会話してたら他人来たとき面倒だ。会話は精神世界でするぞ。』
「は?」
精神世界に連れていくと言われた直後、金縛りにあったかのように体が動かなくなった。
それと同時に治りかけていた視界が真っ白になった。
視界が白から変わらないが、もう一人の俺が話しかけてきた。
『よう琴羽。よく生きたな。現実のお前の体は普通なら死んでるぜ?』
口調は俺と同じだが、出てくる言葉は俺が普段言わないようなほど軽かった。
「……言われてみれば腕は動くし、目もあるな。精神世界だから姿は現実と違うのか?」
確認したら無くなった目、動かない腕など、現実で壊れていた俺の体は治っていた。
『はは!やっぱお前の理解力は高えな!だけど惜しい。ここはお前の精神世界だ。それは間違いない。だがその支配権は俺にある。お前の姿は俺が創り出しているものだ。』
「お前が創り出している?いや、それ以前に何故俺の世界の支配権をお前が持っているんだ。」
『……俺はずっとここに居たんだよ。知ってるか?二重人格者の人格支配権は、片方が存在を認識していない状態で、もう片方が存在を認識していれば、認識している側にいくんだ。たとえ裏の人格でもな。その支配権はそう簡単に移せるものじゃねえ。お前が今更俺の存在を認識したところで、この世界の支配権は俺から移ることはない。』
「……つまりお前の存在を俺が認識していなかったから、この世界の支配権をお前に譲渡されたってわけか?ならなんで現実での俺の意識は存在出来ている。この世界がお前の支配下なら、俺の精神がお前に蝕まれてるも同然だろ?」
『くく、やっぱりお前は俺らと比べて頭がいいな。確かにその通りだ。俺は現実に出ることは出来る。少し言い方を変えよう。支配権は確かに俺にある。だが意識と精神にはそうとうな違いがある。簡単に言うと内側がどうなろうが外側はお前以外には無理なんだよ。仮に俺が他人と会話すれば、すぐにお前じゃないことぐらいばれるだろ?そういうことだ。』
質問ばかりで面倒くさくなったのか、答えが投げやりになってきた。
だがこいつに関してはなんとなく分かった。
「最初にお前は俺の能力だって言ってたな?あれはどういう意味なんだ?」
『ああ言ったな。別に嘘はついていない。お前は特殊なんだ。』
「は?特殊?」
『ああ。お前は二重人格ではない。だが俺は存在している。お前の能力によってな。』
「?俺の能力はあの二つ以外にもあるっていうのか?」
こいつの言葉からはそうとしか思えない。
『お前の能力はあんな程度の低いものじゃねえ。まあ今はまだ俺は教えられない。ある奴の願いでな。いつかちゃんと教えてやる。(まあ思い出すの方が正しいな)』
その答えは子供に何かを聞かれたときの大人の対応とほとんど同じだった。
「………分かった。いつか教えてもらえるまで待つことにしよう。」
『そうしてくれ。それと、お前が俺を認識したんでな。お前が望めば俺も表に出られる。たまにはこの世界以外にも俺を出してくれ。お前の能力上手く使えば分裂くらい出来るだろ。そうだな……俺のことは…………天智(あまち)とでも呼んでくれ。呼ばれなくとも勝手にお前の頭には話しかけるがな。』
「分かった。まあお前もここにいたら暇だろうしな。霊夢達にお前のことは話した方がいいか?」
『永琳には話しとけ。必要になる。あとは好きにしな。』
「必要になる?」
『現実に戻ったら分かるさ。そろそろ現実に戻すぜ。』
「ああ頼む。」
たった一人目の前に立っていた天智は消え、完全に真っ白な空間が続いた後、見知った部屋に戻った。
「戻った…?ん?………!?」
俺はあることに気付いた。
右目が戻っている。
(腕は………?)
腕も動く。
自分の体が完全に治っている。
だが驚きも一瞬、何故治ったかを理解すれば驚くことでもなかった。
「天智、お前の言ってた必要になるっていうのはこのことか?」
予想を確信に変えるため、天智に聞くことにした。
『ご名答~ついでにお前の霊力に関しては俺の神力で代用しといた。まあ一日寝てたけど。』
「そうか…お前には助けられっぱなしだな。」
『それが俺の役目だ。結局お前がいなきゃ俺はいねえからな。言い忘れてたけど俺の力使いたけりゃ勝手に使いな。』
「そういえばお前の能力はなんなんだ?そうとう強かったが……」
『天の力を操る程度の能力だな。その気になれば付与術や回復、風さえも操れるぜ。』
「すげえ能力だな。…なら紫達の傷治せるのか?」
『望むならやってやるよ。ただし俺の力をお前が使う形になる。制御はお前がやることになるから頑張りな。』
「なら行こう。紫なら練習台にしても問題ない。」
「……何一人で話してるのよ。何か悲しいわよ?」
天智と話していると、永琳が入って来た。
「永琳か。悪いな気付かなかった。…そうだ!紫達のいる部屋はどこだ?」
「貴方まさか行く気?そのから…あれ?何で!?目は!?腕は!?」
今更俺の目と腕に気付いたらしく、永琳にしてはとても珍しい程声を張り上げた。
「治した。それと一人紹介したい奴が居てな。えっと…こうすりゃ出来るか?」
能力を使って以前ニトリに見せてもらった道具を使ってみた。
天智はこれを見越していただろう間違いなく。
ニトリの道具はさまざまな生物の魂分離装置だった。
なんでも別の体に別の人物の魂を入れたときどんな反応するか、という遊び心で作ったらしい。
つまりは肉体入れ替え機のようなものだ。
案の定分けることは出来たが、疲労が半端じゃない。
「数分な。」
と天智に言い、いままでのことを永琳に説明した。
「すまん。天智…もう無理だ。」
『説明は終わったから問題はない。じゃあな。』
説明が終わると力を使い切り、天智の姿が消えた。
「なるほど。とにかく事情は分かったけど、どっちにしろここに今日明日は泊まりなさい。様子見も必要だからね。当然働いてもらうわよ?」
「分かってるよ。従業員としてここに来る筈が患者としてしか来てないからな。天智の能力使って怪我なら俺が治すよ。永琳は病気の奴優先して紫達は任せてくれ。」
「分かったわ。それなら私も優曇華も助かるわ。でも無理はしないように。また寝込まれても困るから。」
「当然。ただ……今は疲れたから少し寝かしてくれ。」
「…ええお休みなさい。」
疲労が大き過ぎてそのまま意識を失った。
会話多くなっちゃいました~。まあ会話だけの回出してる作品もあるしいいですよね?……今度言葉だけの回出そうかな。では。