「ただいま。」
誰ともなく呟いたのは、誰かに向けてではなく、家に向けて放った。
朝起きてすぐ永遠亭を出て家へと帰った。
紅魔館へ行こうと思っていたので、帰宅早々出かける準備を始めた。
準備という準備は特に無いが、家に酒が放置されていたので、消費のため持っていくことにした。
前の住民が置いていった物らしい。
紅魔館は里の北側から出た方向にあるので、まずは北の入り口まで向かった。
『最近聞いたか?』
『ああ正体不明の妖怪のことか?』
『寺子屋の子達平気かしら?』
『なにせ目撃者がいないからねぇ。』
『勘弁してほしいや。商売上がったりだ。』
『そっちもかい?人通り減ったもんなぁ。』
里を歩いていると、いろんなところで妖怪の噂を聞いた。
(正体不明……わざわざこんな回りくどい方法をあの敵がするとは思えないな。)
『案外この妖怪も刺客かもしれないぜ?』
天智の言うとおりかもしれないが、里に姿を現す必要はない。
刺客の線は薄いだろう。
(とにかく紅魔館に行こう。結局戦っただけで目的も果たしてないんだからな。)
紅魔館に行った目的は挨拶と、パチュリーに会いに行くことだった。
会った方がいいと紫から言われた者の中に、パチュリーはいたのと、そいつが溜めてる本に興味があった。
今日はその目的のため紅魔館に向かっているのだが、妖怪の噂ばかり聞こえる。
無視を続けるのも難しいが、慧音が里の異変を無視することはないだろう、と不干渉を続けることにした。
「ん?琴羽じゃないか。どこか行くのか?」
団子屋の前を通ろうとしたら、不意に声をかけられ足を止めた。
「慧音か。そっちこそ寺子屋はどうした?」
声の主は慧音だった。
真ん中に団子、横にはいつかの竹林で俺を焼いてくれた妹紅がいた。
「あ…琴羽?…ごめん前スペル当てちゃって。」
「いや前謝ってもらったし別にいい。そのあと殴った俺も悪かった。」
俺と妹紅が知り合いとは知らない慧音が、「なんだ、二人は知り合いだったのか。」と言っている。
「いや、もとはといえば私のスペルが原因だ。…そうだ!奢るから団子一緒に食べてかないか?」
俺もやり返したからあれで手打ちにしようと思ったが、妹紅はそれでは満足しないらしい。
「…じゃ言葉に甘えるとするよ。慧音にも聞きたいことあったしな。」
「よし!おじさん!団子追加!」
「それで寺子屋はどうしたんだ?」
さっきも聞いたが、答えは聞いてなかった。
「謎の妖怪が現れたとかで、寺子屋は数日休みになったんだ。目撃者がやっと今朝一人見つかったから、容姿どおりの相手を探そうと思ってな。朝食を摂って行こうと思ったら琴羽が来たんだ。」
妖怪については既に容姿が判明しているようだ。
「どんな妖怪だったんだ?」
「妖獣…というよりは聞いた限りだと魔獣に近そうだ。三つ首の四足歩行、大きさは人並み、外の世界の物語で言う『ケルベロス』という奴と似た容姿をしているらしい。」
どうやら妖怪の正体はケルベロスらしい。
里の人はその容姿を知らないから正体不明の妖怪などと言っていたようだ。
「ケルベロス?何でそんなのがここにいんだよ。外の世界でのそいつの呼ばれ方は地獄の番犬だぞ?それに物語どおりの狂暴性なら何人か死人が出ててもおかしくない。見間違いじゃないのか?」
「分からない。目撃者も襲われて動転してたんだ。……いや、襲われたかすら分からない。とにかくまだ何も分からないんだ。琴羽も何か分かったら知らせてくれ。」
「分かった。団子ごちそーさん。また機会があったら一緒に食おう。」
「え、私空気だったんだけど。」
妹紅がなにやら言っていたが、紅魔館へ急ぐことにした。
(次は俺が奢るか。)
「美鈴。何でまた寝てんだ。」
紅魔館に着いて早々、美鈴が寝ていた。
無視するのもよかったが、一応起こして行くことにした。
殴っても起きなかったので、ナイフを作って刺した。
(これでも起きなきゃ弾幕喰らわせてやる。)
弾幕を当てるのを少しだけ楽しみにしていたが、思ったよりナイフは効果的だったらしい。
「さ、咲夜さん!眠ってなんていませんよ!?」
半眼の状態で自分は寝てないと無理な言い訳をしている。
「寝ぼけてんじゃねえよ。」
気付いてなかったようなので声をかけた。
「あ、あれ?琴羽さん?退院出来たんですか!よかったです!」
ナイフを刺したことは気にしてないらしい。
俺の退院を祝福してくれた。
「前は来て直後に病院送りだったからな。あまり話せもしなかったし、問題無いか?」
「いえ、問題なんてありませんよ。魔理沙さんじゃあるまいし。とにかく入りませんか?お嬢様も心配してました。」
魔理沙の場合は問題ありらしい。
「ああ、あとパチュリーって奴はここにいるのか?」
「パチュリー様ですか?奥に大図書館があって、基本そこから出てこないので、後で行ってみてはどうですか?」
この広い館の奥とはいったいどこなのだろう。
とにかく後で行くことを決め、門をくぐった。
「美鈴どうしたのかしら?」
急に咲夜が現れた。
しかし以前も三度程見たので、たいした驚きもなかった。
「あ、咲夜さん。いえ、琴羽さんが来たのでお嬢様のところに連れていこうと思いまして。」
美鈴が簡潔に現状を説明した。
「琴羽さん?退院していたのですか。おめでとうございます。」
こちらも美鈴と同じく、退院を祝福してくれた。
「美鈴、後は私が引き継ぐから、貴女は仕事に戻りなさい。」
「分かりました。」
どうやらここからは咲夜が案内するらしい。
「では、行きましょう。」
「ああ。」
「ところで琴羽さん。美鈴との戦闘で永遠亭に泊まった後、入院したようですが、何があったのですか?」
多分大天狗のことを言っているのだろう。
…いやどこから情報を得たんだ?
考えると美鈴にも退院を祝福された。
「何でそのこと知ってんだ?」
「いえ、永遠亭から家に戻っていれば、ここに来ると思っていましたが、一向に来る気配がないので…」
行動を予測されていた。
ほとんど初対面のようなメイドに見透かされた。
今までも永琳に何度か俺の行動は見透かされていた。
(そんなに分かりやすい顔か?)
俺は少し疑問に思ったが、嘘をつけないというのは別段悪いことではないと思い、思考を止めた。
「…まあ間違ってない。実際来てるしな。でも入院の理由はちょっと事情があって話せない。」
「……聞くつもりはありません。いつかは話してもらえると思うので。」
こいつはさとりなのか。
「着きましたので私は仕事に戻ります。では。」
一礼して咲夜はその場から消えた。
俺は一応ノックだけしてレミリアの部屋へ入った。
「三日ぶりね。元気だったかしら?」
「病院でくたばってた人間が元気だったわけねえだろ。」
実際は傷を治してからは疲労しかなかったが。
「そう。でもあそこのお姫様には付き合わされたみたいね。疲れた顔してるわよ?」
どうやら隈が出来ていたようで、睡眠不足なのはレミリアにさえばれたらしい。
指を指されて初めて気付いた。
おそらく咲夜と美鈴は気付いていたが、原因は予測できたから黙っていたのだろう。
「ああ…輝夜に付き合わされて寝てないだけだ。」
「疲れてるところ悪いのだけど、また美鈴と戦ってくれないかしら?」
「お前俺殺す気か?だいたいもう戦う意味ないだろ。」
「言い方が悪かったわね。実は紫から少し頼まれたのよ。」
美鈴との戦闘を紫は隙間から見ていたらしく、大天狗との戦いの後、美鈴に俺へ武術を教えるよう頼みに来たらしい。
「武術を教われか。」
確かにこれから戦うことは増えるだろう。
『必要ねえぜ。俺の能力ありゃ近接戦なんてする必要ねえからな。それにお前も弾幕打てるようになったろ?』
天智から言われたが、天智の能力は隠している。
人前で使うことが許されない以上、武術は知っておくべきだろう。
『まあお前がそう思うなら受けたらいいんじゃねえか?』
(分かった受けよう。)
「じゃあ頼む。でもその前に図書館に行っていいか?」
「ええ。それで一つ提案なのだけれど、貴方教わる間だけでもここに泊まらない?」
思わぬ提案に俺は目を丸くした。
移動時間はなくなってさらに図書館の本を読むには都合がいい。
「いいのか?正直こんなでかい屋敷で俺ができる仕事なんてないぞ?」
下手したら永琳のとこほど働きたくないところかもしれない。
だがレミリアから返ってきたことは働けではなかった。
「働けとは言わないわ。どうせ美鈴に稽古付けてもらうならそんな余裕ないでしょ?だから…暇な時間は私の妹の遊び相手になってほしいのよ。」
レミリアの妹、フランドール・スカーレットは、495年間あらゆるものを破壊する程度の能力が原因で閉じ込められていたらしい。
霊夢と魔理沙によって出ることができたものの、夜にしか行動出来ない吸血鬼にとって、昼間は紅魔館の外に出ることは出来ず、また夜では遊び相手になりそうな妖精もいない。
紅魔館の従者は基本働いており、日傘をさして外に行くことは付き添いがいなければレミリアが心配して外に出してもらえない。
実質フランドールは自分の部屋に一人でいるしかない。
だからせめて遊び相手として琴羽に頼んだらしい。
「まあそんぐらいいいけど、俺子供と遊んだことないから、なにすりゃいいか分かんねえぞ?」
「それはあの子の好きにしてあげて。図書館に入り浸るつもりなら一緒に本でも読んであげて。」
「……分かった。そこは会ってから考えるよ。まあとにかく図書館行ってからそのフランドールって奴のとこに行くから、図書館の場所とそいつの部屋だけ教えてくれ。」
場所を聞き、まずは図書館へ向かった。
ついでに家から持ってきた酒は移動中咲夜に渡しておいた。
次は図書館から始めます。予想はしてたけど紅魔館や妖怪の山は広い分長くなってしまいましたね。美鈴の稽古は多分あまり描写は書かないと思います。その分パチュリーとアリスの役目の断片は見せるので許してください。では。