「これくらいにしておきましょう。」
言ったのは美鈴だ。
俺は今、格闘技術の基礎を美鈴から教わっていた。
中でも美鈴が能力上、最も得意とする気の操作は、どの格闘技を覚えるにも必須の能力の一つらしい。
紅魔館に来てから一日、すでに美鈴との戦闘から丸一日が経過していた。
何故昼を過ぎてから修業をしているかというと、深夜中フランの相手をしていた俺が、昼頃まで起きなかったからだ。
先日戦闘を終えてから、三時まで遊ばされて、それからは図書館に籠っていた。
夕飯を終えて俺に割り振られた部屋で天智と大天狗のことを話していると、フランが、「眠れないから遊ぼ!」と言って部屋に入ってきた。
断ってはいたが、やはり一人で過ごすのは寂しいのか泣き出してしまった。
一つ溜息を吐いて、「分かったから泣き止め。」と言うと、今度は子供っぽい明るい笑顔に変わった。
フランが眠くなったら寝かせようかと思っていたのだが、結局朝まで付き合わされてしまった。
朝までで何度か「もう寝たらどうだ?」と言っていたのだが、「まだ眠くないもん!」と言って遊ぶのを止めなかった。
フランが吸血鬼だということを忘れていたのが原因だが、その結果一睡もできずに朝になってしまった。
さすがに眠かったので、生活リズムとしてはかなり悪いかもしれないが、咲夜に伝えて、六時頃から昼まで寝ることにした。
昼食の後、数分経ってから修業を始め今に至る。
だが、さすがに寝起きなのでコンディションは最悪……だったのだが、いざ始めると疲れ以上に集中力が勝っていた。
時間がどれほど経ったかも分からず基礎訓練(気の操作、教えられた動き)を行っていた。
「まだ出来るぞ?つかもともと出来ることまで復習することねえと思うが……」
「どれだけ時間経ったと思ってるんですか。とゆうか何で五時間も続けられるんですか。私が疲れました。」
「えっ……」
……いつも寝ている居眠り門番にはその時間は長く、また五時間も経っていると知らなかった俺には疲労がなかった。
「なので今日は終わりにしましょう。この修業は精神にくるものなので、ゆっくり休んでください。」
あたかも俺を休ませようとしているように見せて自分が休みたいだけである。
しかし疲労に気付いてないだけの可能性もある、と考えた俺は素直に休むことにした。
『お前は修業が好きなのか?見ているこっちは暇なんだよ。』
「別に時間は自由に使わせろよ。何ならお前の魔力使わせろ。そっちの修業ならもっと面白いの魅せられるんだぞ?」
能力が使えないことを知りながらそんなことを言ってみると、
『煽っても無駄だぜ?使えないのは分かってんだ。使って困るのは俺だけじゃねえからな。』
ともっともな答えが返ってきた。
こんな会話ばかりでは気に入らないと思っても仕方ないはずなのだが、どうにも嫌うことが出来ないのはこいつの不思議なところだ。
『それはこっちも同じだぜ。お前も俺も結局は一人なんだ。同じ体にいるからな。』
分かってはいたがやはり考えは筒抜けだった。
俺は咲夜の持ってきたお茶に口を付けて、紛れもない本心を言った。
「これからも頼むぜ『相棒』。」
『…『相棒』とはな。ああそうだな。……いつまでもそうあれたらいいな。』
最後のほうは自分の中で発される声なのに、かすれて聞こえなかった。
「琴羽さんは基礎はほとんど出来そうなので、ここからは応用にしましょう。」
そう言って美鈴は、俺から十メートル近く離れた。
「ここに向かって気を放ってみてください。以前戦った時にとても強い殺気を放っていましたが、方々に散ってしまっていて攻撃に使えるものではありませんでした。」
「つまりさっきの基礎訓練でやった型で、一点に集中した気をお前に撃てってことか?」
「……基礎訓練があまり必要ない人って皆理解力高いんですよね……私なんて基礎だけで一週間も掛かったのに…」
昔の自分を思い出してか少し嘆いていた。
「……理解力高い奴はどうゆう形で動けばいいかの判断が早いだけだ。結局は実力なんて努力で決まるもんなんだからそう嘆くこともないだろ。」
少しフォローを入れることにした。
しかし…
「今まで鍛錬を怠ってはいなかったのに私は琴羽さんに負けましたよ。努力だけじゃ埋まらない差もあるんですよ。」
自虐していてため息が止まらない。
多少距離があるから小声でぶつぶつ言ってる美鈴の言葉の大半は聞こえないが、明らかに暗かった。
無視して気を一点に集めるために集中した。
(能力を使う時と同じように……)
能力はイメージが大切だと永琳から言われた。
そしてそれは気の操作にも言えることだった。
右手の一点に集中して構えをとった。
そしてその状態で腕をばねのように弾き、溜めていた気を一気に放った。
その気は、小声で何かを言っていた美鈴に直撃した。
「っ……!」
距離があったというのに、その気は美鈴を弾き飛ばした。
さすがに受け身をとっていたが、普通に怒っている。
「い、いきなり危ないじゃないですか!せめて防御態勢くらいとらせて下さいよ!」
「悪い、悪意がなかったわけじゃないが。」
「今悪意なかったわけじゃないって言いましたよね!?」
「とにかく、あんだけ出来りゃ十分だろ?」
うるさく喚く美鈴にそう言う。
「あ……はい…正直私が教える意味ないですよ…」
「まだ基礎だけだろ。」
「そうですが……本当に教える意味ないんですよ………そうだ!もうこれからは戦いましょう!」
突然戦うと言い始めた。
「お前またやられたいのか?」
冷ややかに却下する。
今の俺の能力の状態、美鈴から教わったものだが気も使えるようになった。
格闘技の差はあっても、実力の差は歴然。
たとえ能力を使わなかったとしても、気と身体能力は美鈴のそれとは違い、確実な殺気を持っている。
加減が利かない分、殺してしまう可能性もある。
「戦って私の格闘技を写してもらうんですよ!確かパチュリー様の本にそんな修行の方法が書かれてました!」
そんなこと欠片も考えてないのか、美鈴はあくまで戦う気だった。
物語の話まで持ち出して。
「加減利かない分死ぬかもしれないんだぞ?」
事実を言った……つもりだったのだが…
「なら加減が出来るようにルールを作ればいいんですよ!」
俺に教えるつもりはあるようだが、本人はそれと同等に戦って勝てないことが悔しいらしい。
結局俺が折れて鍛練の方法を戦闘にした。
「でも今日は止めときましょう。今から戦ったら夕食の時間になりますしね。」
時間を確認したら、既に六時になっていた。
確かにそれぐらいの時間か、と納得して夕食の時間まで部屋にいることにした。
案外一つ一つの回に題名付けられそう。ちなみに琴羽は子供は好きですが、元の世界では親が近づけないようにようにしてたので子供と過ごす時間はありませんでした。では。