紅魔館から逃げ出す直前と同じように、フランはいた。
ただし、獣ともとれる異形の姿。
いるだけで痛みを与える殺気。
そんなフランは俺を見るなり襲い掛かってきた。
『ルアアアアアアア!』
フランの声とは思えない咆哮。
襲い掛かってくると同時に俺は、その場から跳びのいていた。
その鉤爪のような手は、さっきまで俺がいた場所を切り壊し、壁を破った。
館内で戦うのは確実に不利、そう判断した俺は今のフランと同じように壁を蹴り壊した。
『ガアアアアアァァァァ!』
(フラン、着いてこいよ……)
蹴り破った壁から飛び降りた。
フランの部屋は二階。
能力を使う必要もない。
狙い通り俺を追ってフランも飛び降りた。
ご丁寧に攻撃の体制をとりながら。
飛んで躱すが、その衝撃は俺を軽く吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
すぐに体勢を立て直し、フランの姿を見た。
四足で立ち、殺気の篭った眼光、かろうじて見えるフランの目は、血走った赤眼だった。
『グルル………!』
その姿はまさに、獣が獲物を狩るときの姿と同じだった。
「来いよ…!」
挑発的に笑みを浮かべ、気を集中した。
『ガアアアアアアア!』
獣に考える頭はない。
その獣は、馬鹿正直に、一直線に突進してくる。
横に跳び、カウンターを決めようと手を振りかぶった。
「っ!」
突進の風圧は俺を吹き飛ばすのに十分だった。
横に跳んだ時点で、俺の体は宙を舞った。
そんな隙を見逃すわけもなく、見たことのない量の弾幕が周囲に出現した。
『『生物の行動は考える頭がなくなれば、体が覚えている動きを行う。能力も同様だ。』』
過去に天智に言われた言葉を思い出した。
つまりこの弾幕は、フランの素の数。
(やべえ……!)
「解放『付与術消去』!」
咄嗟に発動したスペルで、弾幕は凌いだ。
消えた弾幕の隙間から、フランが飛び掛かってくるのが見えた。
ギリギリで避けるが、再びその風圧に飛ばされた。
半ば地面に叩きつけられるようにして、地面に着地する。
追撃に爪を前に出して降ってくるフランから、能力を使った瞬間移動じみた速度で離れる。
(冗談じゃねえ!近づけもしないならどうしろってゆうんだよ!?)
『止まるな琴羽!来るぞ!』
「チィッ……!」
近づけない以上、弾幕やスペルで攻撃するしかない。
もはや出し惜しみするつもりもない。
新しく作ったスペルは十や二十にも上る。
いくつ使っても、あの獣を倒す。
(スペルのコンボはやったことねえが……数を作るぐらいは簡単だ!)
スペルなしに集中して密度を濃くした弾幕を、フランの周囲に張り巡らす。
やはり動きを止めることさえ出来なかったが、一瞬の目くらましにはなった。
弾幕を視界を塞ぐように張ったおかげで、その一瞬の間に背後に回ることが出来た。
「雷符『ハイボルテージ』!雷熱『エフェクトライトニング』!」
雷符は体に雷の力を溜め、雷熱はその力を即座に放出するスペル。
ただし雷熱の力の放出は、高温まで高くなった雷を辺りに線のように張り巡らすもの。
その線は発動者である俺を除き、他に触れたもの全てを焼く。
当然フランはそれを避けることは出来ない。
それは全て、フランに向かっているのだから。
雷のワイヤーは、フランを串刺しにするために、ただ一直線に向かっていく。
光から逃れることは出来ない。
その光は完全にフランを串刺しにした。
『アアアアアァァァァ!』
苦痛の声。
初めてあの獣に痛みを与えられた。
普通なら死ぬ筈の電圧。
しかしフランは、それを耐えた上、あろうことか反撃をした。
(ペースを握られれば終わる。一気に終わらせる!)
反撃をしてきたフランに、さらにスペルを浴びせる。
『ハイボルテージ』は使用後一定の時間、量の雷系能力の威力を上げるもの。
それが切れる前に片をつける。
天智から受け取った神力の量から考えれば、少なくとも三十秒。
(その間で勝つ!)
「天上『雷鳴の轟(らいめいのとどろき)』!」
天上のスペル、『天風貫雷』の進化、風はなく、閃光のみが走る。
一つは迷わずフランを貫き、無差別弾幕のように雷が飛び散る。
だめおしのラストスペル。
「雷符『閃光の檻(せんこうのおり)!』」
フランの周囲から、雷の線が出た。
そしてその線は、フランを捕まえるように刺さっていく。
威力を上げ、数で圧倒する。
俺に出来たのはここまで。
しかしここまでやればフランもまともに動ける身ではないだろう。
そう思いフランを見る。
しかし人生とは時に残酷であり、神は時に薄情である。
ぼろぼろになりながらも立ち上がるフラン。
こちらは力を使い切って満身創痍。
誰がどうみても勝敗は明らかだった。
だが、諦めることが許されない。
諦めることを自身が赦さない。
そんな絶望的な状況にも関わらず、俺の闘志はまだ消えない。
死ぬことに未練がないわけじゃない。
死ぬことが怖くないわけじゃない。
なら何故まだそんな小さな希望を捨てないのか。
その答えは単純だ。
(約束した。死なないことを。この程度の絶望で倒れてたまるか。)
ぼろぼろの体で、霊力もろくになくて、それでも倒れることはない。
腕が折れようが目がなくなろうが足がもげようが内臓が潰れようが、そんな程度、痛みにもならない。
フランを助ける。
その覚悟を超えることは出来ないのだから。
だから俺は諦めない。
死ぬことに変わりはなかろうが、絶対にフランを救い出す。
「それが俺の覚悟だ。簡単に潰せると思うなよ獣風情が。」
『ガアアアアア!』
フランの突進を食らえばおそらく死ぬ。
避ける力も残っていない。
霊力は生命力。
ただの突進が俺へのとどめ。
この獣の力ももうない。
だが俺の命を奪うだけなら簡単だ。
死を直前にして、俺からはこの言葉しか出ない。
「すまない。」
どんなに取り繕うが、俺はフランを救えなかった。
守れなかった。
自分の覚悟も通せなかった。
そんな俺からこれ以上の言葉はでなかった。
ただ涙を流して、しかしその姿から目を逸らすことはなく、俺はそのまま突進を受けた。
飛び散る血、裂かれる体、まず助からない。
そんななか、一つの声が鳴り響いた。
『手伝ってやるよ。』
その一言は、俺の頭に異様に残り続けた。
『フラッシュオーバー』この言葉を知っている人なら雷系スペルの元ネタは分かるでしょう。それ以外も出しますけど。では。