どれぐらい経ったのだろう?
既に辺りは夜になっていた。
(帰ろう。)
そう思い立ち上がる。
―――残り三日
「琴羽~起きろ~」
光司の声が部屋に響く。
「んん……分かった……」
「眠そうだな。」
部屋を開けて入ってくる。
「……勝手に入るなよ。」
「この部屋も家の一部なんだから別にいいだろ?」
「………」
「とりあえず食堂行くぞ。」
「……ああ。」
「今日も行くんですか?」
「うん。」
修行に行くかどうかを聞いたのだろうが、即答した。
技が完成したとはいえ、鈍ってしまっては意味がない。
継続は力と言う言葉は、かなり的を射た言葉だと思う。
「……なあ、琴羽。」
「ん?」
「今日は…家にいてくれないか?」
「は?なん……」
何でという言葉は言えなかった。
その顔は、悲しそうな、覚悟を決めたような、――――別れの前のような、そんな顔をしていた。
過去の記憶を見た時、父親がしていたように。
覚悟を決めるようなことがある。
光司程の神が、死ぬ気でいる。
家にいてほしいと頼む光司の真意は分からない。
だが、一人で行かせてはならない。
それだけは本心から思える。
光司一人に苦しみを与えることは間違っている。
なら、俺も苦しんでやろう。
俺は笑みを浮かべてこう言った。
「悪いが俺はここを出る。ここに俺がいる理由が、分かった気がするからな。」
「……お前……まさか来る気……」
「どうだろうな?能力でも使ったらどうだ?」
「………本気か。ふふ……」
「貴方……まさか…」
「俺らは少し出かけてくる。友美、明友のことは任せるよ。」
「……ええ。」
何が起こるか、正確なことは何一つ分からない。
たった一つ分かることは、試練の始まりはこれからだということ。
「どこまで走るんだ!?」
「あと2kmなら一分もかかんねえだろ!?」
俺と光司の二人は、能力を使った全力疾走を行っていた。
走りながら光司に事情を聞いていた。
要約すると、一月前に異変が起きたらしく、その異変と同様の魔力を、つい数日前に感じたらしい。
光司はここにいる神、天照大神と同様、須佐能乎命としてここに存在している。
神力の把握を神は出来る。
光司の話ではもう一人の神、月読命がここにいない分、異変には気付きやすいらしい。
結果、今から一月前に異変に気付き、すぐに解決に迎えたらしい。
その異変の首謀者は少し力の強い悪魔。
その程度なら光司が命を賭ける必要はない。
光司が気付いた魔力が桁外れに強くなければ。
一月前の異変の首謀者、その魔力が千近く。
その中の一人、光司と同格の魔力を持つ者がいる。
光司の警戒はそれだ。
今向かっているのは、その魔力の固まっている場所。
そしてその場所に警戒する一人はいない。
異変が起きる前に潰すための……殲滅。
そのために能力を使ってまで全力で走っている。
その一人が来る前に、他を全滅させるため。
「数は!?」
「二百!まだ八百いる!急げ!」
少し見えてきたところで数を聞いた。
何人やればいいかを知るために。
「百は任せた!」
「百以上やってやるさ!」
『ん?なんだ?あれ……』
『どうし……』
「雷光、一閃!」
「神速!海崩!」
俺は雷の剣による斬撃を行い、斬ることはなく全員痺れさせることに止まる。
光司は神力を解放して殴る。
それだけで二十は倒した。
そこからは範囲の広い攻撃を行うのみ。
「雷槍乱舞!」
「波紋・草薙!」
殲滅の始まり。
「ふぅ…他に敵は?」
「問題なさそうだ。敵はいない。次に行こう。」
「ああ。」
昨日も一度思った。
どれぐらい時間が経ったのだろう。
千いた敵は、何らかの作戦なのか、二百ずつ四方に散っていた。
その全てを倒しきり、最後の二百対を倒しに行きたいのだが……
「…………やっぱり魔力を感じない。琴羽、ここは一度引き返そう。」
この通り光司にも居場所が分からない。
行く宛がない以上、どこに行くことも出来ない。
「そうだな。霊力と神力の消費が大きいし、少しぐらい休んだ方がいい。」
俺達二人は家に帰った。
帰って来る頃には、もう既に夜になっていた。
「それで残りはまだ見つからないのか?」
「力を少しも感じない。おそらく今、俺達の行ける場所には存在しないんだろう。」
「……そうか。」
相手は悪魔。
天国や地獄があるぐらいなのだ。
魔界のような場所があってもおかしくはない。
相手が出現しない以上、奇襲どころか遭遇すらも出来ない。
友美さんも明友も眠っている。
俺達も体を休め神力を回復するために、眠ることにした。
――――残り二日
そういえば前の回の???なんですがあれは次話で出ます。今回の異変の首謀者です。ワニに乗った老人の姿。詳しい人ならこれで分かるんじゃないですかね?では。