「まだ見つからないのか?」
「悪い…やっぱりこの世界自体にいないようだ。」
「そう、か……」
早朝からずっと探し回っている。
残った二百の敵を。
既に街中は探し終え、街の外れに来ていた。
しかし魔力は全く感じず、見つかることはない。
「……………!?」
数秒黙ったと思ったら、光司が顔を勢いよく振り上げた。
「琴羽!上に……」
という光司の言葉の直前、気付いた俺は跳んでいた。
強烈な落下音がすると同時に、一つの声が響いた。
「良い日だのぅ天宮。滅ぼすには……丁度良い日じゃ。」
『!?』
以前感じた一人だけ強力な魔力。
その持ち主が、目の前にいる。
乗っているのはワニ。
老人の姿をしたその手には、一つの頭蓋骨が持たれている。
地を揺るがし、全てを見通すその者は……
「アガ……レス……」
ソロモン七十二柱の魔神。
第二柱、アガレス。
「久しいのぅ天宮よ。いつ以来じゃったか?」
「………!」
光司は、何も言えずに顔を伏せる。
会話から見て二人は間違いなく知り合い。
戦闘がすぐに始まることはなかった。
その中、俺も動けなかった。
光司以上の魔力の前に、動くことを許されなかった。
そしてもう一つ。
俺達の前には絶望があった。
過去スサノオが倒し、草薙を生み出した怪物。
八岐大蛇。
その姿と力の前に、俺は恐怖していた。
「だんまりか。折角こいつまで用意したのだ。楽しもうではないか!」
「……お前には何もさせない。もう、お前に心は許さない。ここで殺す……!」
「ふん。我に望み、自ら失ったのはお前であろう?なにを怒ることがある?」
何故ここまでの殺意を向けるのか。
何をアガレスはしたのか。
何を光司は望んだのか。
何も知らない俺は、光司を見るばかりだった。
「……む?お主が宮代か。何も分からないという顔をしておるな。教えてやろうか?」
「!」
「天宮はのぅ、元々は神ではなかったのじゃよ。神になりたいがために、我に魂を売った。それがその男の真実じゃ。」
「………光司……?」
「………本当の…ことだ……神になりたいがために悪魔と契約し、神になりたいがために人を殺した。」
「…………」
「数え切れないほど、その体を壊し、数え切れないほど魂を喰った。俺は………」
光司は力を弱めた。
いや、無意識に弱めてしまったのだろう。
その姿は、かつて自分を倒した男の姿ではなく、殻に籠る子供のようだった。
「死ぬことが当たり前のような者なら、潔く死ぬがよい。」
大蛇が光司に首を伸ばす。
まるで死を受け入れたような光司に向かって。
その首を、俺は切り裂いた。
『ガラアアアアァァァ!』
首を切られたことにより、大蛇は咆哮をした。
「恐怖を感じた俺が馬鹿みたいだ。」
俺は光司を殴った。
「なあ光司。俺さ、誰も死なせたくないし殺したくもないんだよ。俺だって、家族を殺した。その償いなんて出来もしない。自分が死んで償いになるなら、喜んで命を絶つさ。でもな、自分が死ぬことなんて、償いにならないんだよ。だから、お前も死のうとするんじゃない!自分の殺した奴らに償う気持ちがあるのなら、殺した奴より人を救え!還らない者を想うなら、生きる者を思え!昔の悲しみに打ちのめされるなら、今を守るために戦え!」
「!………」
「茶番は終わりかね?では、君たちの今というものも終わりとしよう。」
大蛇が全ての首を伸ばしてくる。
その全てが、一つの刀に弾かれる。
「ああ……そうだな。街の奴守るのは俺の仕事だよな。琴羽、強力してくれるか?」
「当たり前だろ?今は競争でも何でもない。ただあいつ。あのじじいをぶっ倒せ。大蛇は任せな。」
「ああ!」
それぞれの戦いが始まる。
アガレスと光司は、アガレスの創った別の世界へと移動していた。
そして俺と大蛇は、場所は変わらず戦っていた。
「雷槍!」
雷で創った槍が、大蛇の首の一本に刺さる。
だが威力が弱かったせいか、叫ぶこともなく首を伸ばしてくる。
それを跳ぶことで大きめに避けた。
それと同時に一つの弾幕を展開した。
「『雷槍乱舞』!」
無数の槍により、大蛇の首も体も串刺しになった。
『アアアアア!』
一つ一つの首に痛覚はあるのだろう。
大蛇は大きく叫んだ。
しかし八つの首は襲ってくる。
俺を喰らうために。
しかし音速を越える速度を出せる俺に、その大蛇はあまりにも遅かった。
首の全てを避け、その体を撃ちに行く。
首や尾は八つある。
だがその体は一つしかない。
(そこを叩けばそれで終わる……!)
そう思うも、その考えはすぐに正される。
「!?」
強烈な酔い。
視界がぐらつき、感覚が麻痺する。
大蛇は伝説上、酒で酔って眠ったところを倒されている。
この大蛇は、そのアルコール成分や体内の毒素。
それらを周囲に張ることで、一種の強力な毒の結界を張っている。
おそらく上位妖怪に与えられる能力と同種のもの。
首は薄くなっているが、体はおよそ人間の耐えられるレベルではなかった。
体には近づけない。
首の近くにも、あまり長くいれば危険だろう。
近づくことが出来ないことが分かった俺は、ただ伸ばされる首の一つ一つを回避することしか出来ない。
(長期戦になったらまずい……なら!)
回避を続けながら、雷槍を撃ち込む。
可能な限り弱点を速く見つけ、そこ一点を狙い撃つ。
雷槍乱舞をつねに使い続け、全首体を貫く。
順番に、一つずつ。
『ガラアアアアァァァ!』
「!」
その結果、一本だけ過剰な反応を見せる首があった。
(なるほど……一つ一つに痛覚があるんじゃなく、あの一本が本体なのか……?)
それが本当かどうかの確認のために、雷槍を全てその首に集中する。
『アアアアアァァァ!』
どうやら正解のようで、同じように異常に反応した。
だが、見つけるのが少し遅かった。
「!?」
先の毒膜と同様の感覚が襲ってきた。
横目に確認すると、首の一つが少し離れたところから毒を吐いていた。
毒のせいで動きが鈍くなった瞬間、全ての首が襲いかかる。
避ける術もなく、襲ってきていることすらも分からない俺はただ……吠えた。
「アアアアア!」
ハウリング。
能力で付加した道具は、スピーカー。
さらにその音の波には、雷の付加。
怯んだ上に、その体は痺れる。
人間や下等妖怪ならそれだけで死ぬ。
だが大蛇には、その程度の効果しかなかった。
それでも十分だった。
光司を倒すために編み出したスペル。
俺はそのスペルの名を、高々と叫んだ。
「雷鳴『雷界・雷の輪廻』(らいかい・いかづちのりんね)!」
辺り一面、大蛇の体の全て、俺さえも飲み込む雷の結界。
それはもはや、雷による世界を一部造ることと同じ。
その雷は、消える度にまた出現する。
俺の霊力が尽きるまで。
それをもろに受けた大蛇の体は本当に少しずつ、その体を崩していく。
まるで、元々の姿が土のように。
その姿は崩れていく。
力を使い切った俺は、そのまま地面に倒れ込む。
意識を手放すわけにもいかず、体は動かない。
光司が戻るまで、俺はただ待ち続ける。
すみませんあと二話で終わりと前に言ったのですが、次で終わりです。あとこういう回は間章としてやることにします。この回からそうしました。では。