第五十四話 精神の崩壊
一体何日が経ったのだろうか?
獄羅との戦いはずっと続いていた。
倒し、倒され、裂き、裂かれ、壊し、壊され、潰し、潰され、……殺し、殺され。
精神内の戦いに死は存在しない。
俺が死ぬことで獄羅に体を盗られることもあり得ないことを知った。
この体は、俺の所有物として、所有権は俺にある。
奪うためには俺の合意、または完全に俺を消滅する。
必要なことはこれぐらいだ。
以前に精神世界での戦闘で獄羅に負ければ、体は奪われるものだと思っていた。
事実体の所有権の全てが俺にあるわけではなく、天智と獄羅にも分かれて与えられていた。
いつの間にか天智の権限は俺へと譲渡され、統合された俺と天智の権限によって獄羅の権限は消失した。
結果、俺の精神、魂から創られた世界から、死という概念が完全に消滅した。
俺が消した。
だからこそ、本気の殺し合いを何十回と続けている。
首が切れること。
全身が灰になること。
無数の針で串刺しになること。
細切れになること。
死ぬ理由なんていくらでもあった。
だがだからこそ、俺の精神は壊れかけていた。
生の終わりである死を、何度も繰り返しているのだから。
「俺は……何がしたいんだ?」
騒々しい教室に、無言のまま入り込み、無言のまま席に着く。
誰かが話しかけてくる。
何も言わずに会話を切る。
罵倒されようが知ったことじゃない。
獄羅との戦いに備えて、力を蓄えるのは正解だ。
会話をするのも、動くことさえも無駄なこと。
力の拮抗した相手と何度も戦うことは、両方が死ぬことを覚悟することだ。
死ぬことがない現状、その覚悟はぶれる。
そうならないために、感情を抑えなければならない。
ならどうする?
答えは既にあった。
一人になればいい。
俺にとっては簡単なことだ。
だがどこかで分かっていたんだ。
こんな状態の俺では、獄羅を倒すことは出来ないと__
『お前、弱くなってねえか?』
戦闘中、突然獄羅がそう言った。
「あ?」
俺は苛ついた声で言葉を返した。
『お前、最近弱えよ。俺とお前、死んだ回数はどっちが多い?死んでもいいって思って気が緩んだか?』
「………そんなわけがないだろ……!」
『ならもう限界だろ?』
「………」
図星だった。
確かに限界に達していた。
だが、やめるわけにはいかなかった。
「関係ねえだろ……限界なんざどうでもいいんだよ……!お前の存在が俺にどう影響してるかなんて知らない。そんなもの関係ねえ。お前のしたことを、俺は許さない。だからこそ、お前を支配する!」
『……今のお前じゃ無理だな。』
「………お前が決めることじゃない……!」
獄羅に向かって踏み込む。
しかしその拳は届くことなく、獄羅に掴まれる。
そしてそのまま、針によって串刺しにされる。
「がっ…!ああ……」
たったその程度で、俺の意識は刈り取られた。
琴羽が意識を失った直後、俺は誰に聞かせるでもなく呟いた。
『今のお前じゃ駄目なんだよ……何も分かっていない。今のお前じゃ、死んじまう……帰って来いよ…琴羽…』
「………?ここは……?」
体を起こし、辺りを見回してみると、獄羅の姿はなく、明らかに自室に戻っていた。
(また……負けた……)
負けてはいけないと理解しているのに。
何度戦っても勝てない。
生きているのに、生きている気がしない。
自分が壊れる寸前だということが分かる。
守らなければ。
そのために倒さなければ、勝たなければならない。
誰も傷つけないために。
勝たなければ。
倒さなければ。
封じなければ。
殺さなければ。
殺せばなくなる?
俺の苦しみも周りの危険も。
あいつがいなければ消える?
(ああそうだ……殺せばいいんだ。)
死の概念を創ればいい。
本気で殺せばいい。
(殺せば………殺す?)
殺してもいいのか?
逆に俺も死ぬのではないか?
あいつに勝てない俺じゃ、殺すことなんて出来ない。
それに約束もある。
殺しは、赦されない。
この約束だけが、俺の精神を保ち続けている。
生きるんだ、俺は。
今はただ、眠ろう。
壊れないために……
「宮代最近どうしたんだろうな?」
衛人がそう言った。
「さあ……なんか元気ないよね~」
音々が返した。
正直私も気になっていた。
ここしばらくの宮代君は話さない。
それどころか自分の席から動くこともない。
号令の時や指名の時以外は立つことすらない。
疲れた顔で、今にも気を失いそうなほどに弱々しい。
そんな彼に、私どころか二人でさえも話しかけようとしない。
周りの人も誰も……
「みゆ?」
「あ……」
考えてると音々に声をかけられた。
「どしたの?」
「あ……ううん。何でもない。」
「?そう。」
どうすればいいのかも分からず、私は外に目を向ける。
私は後になって思う。
この時にもっと気にかけていればよかった。
宮代君のことだけじゃない。
外を見た時に見えた、不敵に笑う少女を……
いつも通り視点説明~琴羽→(一瞬)獄羅→琴羽→結花。
そろそろ学園祭の日が近いですね。ま他の学校がいつかなんて知りませんけどね。時間が減る一本です。では。