東方独団記   作:十六夜凜

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多勢に無勢とは戦いにおいて、もっともなことだと思います。fpsでパーティーメンバーがすぐにやられて、たくさんの敵に囲まれる。苦しいです。……そんな話は置いといて、久しぶりの投稿です。絶対僕を覚えてる人はいないでしょう!まあ以前よりは早く投稿しましたし、許して下さいお願いします。学校も用事もあったので朝から夕にかけては無理なんですよぅ。深夜に投稿しろ?………iwannaの中毒性にやられました。
……ではでは~


第五十六話 傀儡

今俺は、学校までの道を戻っていた。

数分前に俺が気絶させた暴徒や妖怪が転がっていたが、避ける余裕もなく走る。

(間に合え……!)

そう願いさらに速度を上げる。

 

 

 

 

「あ……ああ……?」

目の前には爪が迫っていた。

自分に迫る死への恐怖が私を蝕む。

いつか見た映画に、死ぬ前には走馬燈が見えるって表現があった。

体内時計の感覚が狂って、時間が遅くなる。

死ぬ。

ただその事実だけが迫っている。

そんな中で私は今までの人生を思い出した。

今までに出会った人、友人たちの顔、両親の姿。

(死にたくない!)

私は本気で思った。

私は目を閉じた。

血の噴き出る音が聞こえた。

私の顔に血が付いた。

……顔に?

痛みはなかった。

当然だった。

私に傷はなかった。

噴き出た血は全て、目の前の化け物の腕から出ていた。

否、切れ落ちた腕の切断面から。

『ギャアアアアァァァァ!』

「……え……?」

理解出来なかった。

助かった喜び以上に、何故そうなったか、頭が追い付かなかった。

その時、声がした。

まるで記憶の中の会話のように、その声は脳内で直接流れた。

『あいつが変われそうなんだ。だから……お前の身体、少し借りるぜ。』

その声と同時に、雷が唸りながら化け物を飲み込んでいく。

「みゆ!大丈夫!?」

いつの間にか傍に、衛人と音々がいた。

「みゆ!しっかりして!早く逃げよう!」

「う、うん!」

とりあえず助かったとだけ分かってればいい。

それだけ理解した私は、二人と一緒に逃げた。

先生達に追い付いたが、休むことも許されず走った。

グラウンドには入り口が二つ。

そのどちらも化け物に塞がれていた。

周りはネットに囲まれており、グラウンドから出るには入り口からしか出られなかった。

しかしさっきの雷によって、一方が開いていた。

その方向に走る。

「!」

私はあることに気付き、足を止めた。

自分の真横を、一人の少年がすれ違っていく。

まるで少女のようなその姿は、真後ろにいた化け物を軽々と裂いていく。

「みゆ?」

止まった私に気付いた音々と衛人が、後ろを振り返る。

その目線は、その後方へと向けられた。

「……琴羽……?」

そこにいたのは、宮代琴羽という少年だった。

 

 

 

 

 

「間に合った……」

俺はそのことに少し安堵し、妖怪達に向き直った。

数は百にも満たない。

その程度なら、雷咆だけでも終わる。

しかしここまで戦い詰めだった琴羽には、もうそんな力も残っていなかった。

そこで琴羽が選んだ選択は、全てを雷槍で貫くことだった。

手元の一本。

槍術など基本も出来ない琴羽には勝算はない。

やらなきゃやられるということのみが頭にあった。

槍を構え、足に風を纏う。

そのまま妖怪に向かって突撃した。

目の前の妖怪の腹を貫き、振り回して横の妖怪を薙ぐ。

そのどちらも、声にならない悲鳴を上げて倒れた。

次に一体、視界に入った妖怪の顔面に槍を叩き込み、地面に叩きつける。

前から更に二体。

その状態で少し持ち上げ、槍を前に突き出す。

一体に刺さった状態でもう一方の攻撃の盾にする。

構わず味方ごと裂いてくる妖怪の腕を殴り、軌道をずらす。

盾の妖怪の肩が裂かれ、腕が切り落ちる。

槍を妖怪から抜き、回すようにして二体の妖怪を同時に殴る。

この動作にかけた時間は十秒。

倒れた妖怪は五体。

残り八十。

全て倒す力はない。

ならばどうするか。

答えは簡単。

逃げるしかない。

学校に避難していた教職員や生徒が逃げられれば俺のいる意味はない。

なら後は、全員が逃げるまで、耐えればいい。

(五分……いや十分か?そんぐらいならやってやる…!)

俺は風の魔法を解いて、雷槍に魔力を溜めた。

そしてその形を鞭に変え、逃走中の避難民と妖怪の前に立ち塞がった。

「来やがれ……!」

 

 

 

 

 

避難者side

「はぁ、はぁ、」

「急いでみゆ!」

 

[__市に謎の生物が多数発生。既に軍も出撃しており、怪我人は多く出ていますが、幸いにも死者はありません。隣の市まで謎の生物が出てくることもないようです。__市にまだ残っている市民も多く、_____」

 

先生の聴いていたラジオ音が急にノイズになった。

「よし。すぐに移動しよう。軍の人に守ってもらえれば安全なところに避難できるかもしれない。」

「でも皆走り続けでもう体力が……」

「……そうだな。少し休もう。」

 

 

 

 

 

 

「そろそろか……」

風を足に纏って後方に跳躍する。

着地と同時に振り返り、能力を解いて走る。

避難はさせたが、安全とも言い切れない。

学校の柵を一つ破壊して持っていく。

 

 

 

 

 

「……ん?……!おい!あれ!」

「?どうしたの衛人?」

避難していた奴らを見つけた。

それと同時に衛人が俺に気付いたようだ。

「やっぱりさっきの琴羽だったのか!お前すげーな!」

やはりこいつは馬鹿だった。

通常恐怖を持つはずのこの力に、凄いという一言で済ます。

普通とは言えない。

だからこそ、周りの生徒は俺に暗い眼を向ける者もいる。

平静を装う者。

俺を睨む者。

衛人のような者は少数でしかない。

そしてその注意は、すぐに俺から離れることになる。

『オオオオオォォォォォ!』

『!』

上空を一匹の妖怪が通る。

そしてその妖怪は、俺たちの目の前に着地する。

「久しぶりね。琴羽。」

その背から、一人の少女が飛び降りる。

「久しぶり?俺は会った覚えは無えぞ。」

実際見たことはない。

この世界でも幻想郷でも、一度も見た覚えはない。

しかし妖怪に乗って現れたことから考えると、こいつは敵。

ありえるとするのなら、この騒動の元凶。

「いいえ。貴方は私と会っている。少なくとも、私は貴方のその幼い姿をよく覚えているわ。私が初めて、憎しみを覚えたその姿をね!」

「!お前……まさか……」

「お父さんは、凄く優しくて、いつも私達のことを第一に考えてくれた……お母さんは、私達とたくさん遊んでくれて、皆をいつも笑顔にしてくれた……」

「………」

「貴方は…‥お前はそれを奪った!何故だ……あんなに素晴らしい人たちを……何故殺したぁ!」

『ガアアァァ!』

「!」

妖怪の尻尾のようなもので、腹を殴られ、壁に叩きつけられる。

衝撃で壁は壊れ、既に霊力が限界だった俺は、動く体力すらも刈り取られた。

「かはっ……がっああぁぁ……」

「一つ教えてあげる。私の目的はね?貴方への復讐。私と同じ思いを味わわせる。私の場合は大切な人を。貴方の場合は、その誓いを。護ると決めていた者達の残虐なる死を!そこで見ているがいいわ!」

(動…けない……意識が…朦朧と……やめ…ろ……)

このままでは、全員が殺される。

俺への復讐で、関係のない者を巻き込んでしまう。

(動け……動け!)

「そうそう、もう一つ教えてあげる。妖怪が私の意のままに動いてくれる理由はね?私の能力が、幻想郷で強化されたから。強化されて得た力……スペルカード、傀儡『怪異のマリオネット』。妖力を持つ者を操る特殊な力。鵺、殺りなさい。」

鵺と呼ばれた妖怪は、逃げ出した生徒を追い、その腕を噛み砕いた。

腹を貫き、足を潰し、頭を叩きつけ……喰らう。

内臓を引きずり出し、頭蓋を割り、血を、骨を、肉を、喰らっていく。

殺し、喰らう。

妖怪の本能がままに、人間を喰らっていく。

目の前で喰われていく皆を見ながら、俺は何も出来ない。

その光景に、俺は怒った。

憎しみ、殺意を覚えた。

 

(動け!動いてくれ!俺は何も出来てない……何が護るだ…役立たずが!奴を止めろ!奴を殺せ!)

『いいのか?殺して。』

頭のなかに直接声が響いた。

『俺がやってやろうか?』

(必要ない……)

『誓いを自分から破るのか?』

(違う……俺は……)

『護りたいんだろ?』

(……ああ。)

『助けたところで、見捨てられるのがおちだぞ?』

(……そうだろうな。)

『それでも助けるのか?』

(……やっと分かったことがある。俺は一人じゃなかった。いつも誰かに助けられてきた。嫌われることがなんだ?憎まれるのがなんだ?そんなこと知らない。俺は、俺の自己満足のために皆を助けるんだ!)

『力がない今の状態で、何が出来るっていうんだ?』

(そうだな……でもお前が語りかけてくるのなら、貸してくれるんだろ?)

『……くくっ。欲しいか?ならくれてやる。ただし……最後に俺に勝てたらなぁ!』

その世界は黒に染まる。

獄羅と琴羽の、最後の戦いが、始まる。

 

 

 




視点説明琴羽→結花→琴羽。珍しく三千越えましたね文字数。次回も越えるかもしれませんが。幻想郷にはあと二話あるかないかで帰ります。なかったら次回がやたら長くなるし、あったら次回の投稿が中途半端に終わります。どっちもやですね。そこは頑張ります。では。

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