神「転生特典は?」俺「ハーレムで!」 作:モテたい男
北斗はそこに存在した時から人として認識できる者は1人だった。名を伊月。
伊月だけが北斗に認識できる。伊月だけが北斗の特別。とはいえ、それだけなら別に懐いたりはしない。
単純に、優しかった。最初は怯えるような視線、でも次は申しわけなさそうな視線、何時しか優しさのこもった暖かい視線に変わった。
その瞳が好きだ。
撫でてくれる手が好きだ。
抱きしめてくれる腕が好きだ。
名を呼んでくれる口が好きだ。
日の匂いを感じる髪が好きだ。
全てが好きで、全てが欲しい。
何時だったか押し倒し口付けをして、衝動的に伊月の舌を引きちぎり食べた。しばらく怒られたが、もうしないと、反省したと泣き出した自分をちゃんと反省したことを確かめてから慰めてくれた。嬉しかった。
伊月の敵は全て壊す。そう決めた。決めたのに、伊月の敵は後から後から湧いてくる。
伊月が嫌がっている蝙蝠。これは何故か伊月から止められた。次にカラス。この前、伊月がダテンシ……カラスの呼び方を呟いて苛立っていた。敵意を持っていた。
つまりカラスが敵として現れたという事だ。
直ぐに殺しに行った。
だというのにまた現れた。今までのカラスに比べて少しだけ強い。少しだけ。
「妙な気配がするな。悪魔や天使、ましてや堕天使でもなければ妖怪とも違う。しかし人間でもない、なんだお前は、どこの誰だ?」
コカビエルは拠点にしていた廃墟にやってきた少女を見て尋ねるが少女はボーッと虚空を見つめる。
そういえばこの廃墟は瓦礫が全くなかったり逆に集まって山になっている場所があった。彼女の隠れ家的な場所だったのだろうか?
格好は巫女服。しかし裾がすれぼろぼろだ。異教の追放者か何かだろう。
「まあ良い、死ね」
しかし異教徒なら異教徒でこの町を歩き回れるとは思えない。仮にも魔王の妹が見逃すはずがない。つまりは関係者、ならば生かしておく理由もない。コカビエルは光の槍を少女の顔に向かって放つ。
眼前に迫った光の槍にようやく少女が反応した瞬間にはよけるまもなく北斗の体が仰け反った。
「……む?」
しかし血が流れない。不思議に思うと少女はゆっくり上体を起こし、顔が見える。顔は無事だった。光の槍は彼女の歯によって受け止められており、少女はそのまま槍を噛み砕く。
「ほお!」
手加減したとはいえ防がれるとは思っていなかった。フリードも帰ってこないし、暇をしていた。ちょうど良い暇つぶし相手になりそうだ。
少女も漸くコカビエルを認識したのか左右色が異なる瞳でコカビエルは見る。
「───!?」
ぞわりと悪寒が走る。まるで全てを見通すかのような瞳。忌々しい父たる神を思い出す。
「……か……カラス………」
「何だと、貴様!」
カラス扱いされ激昂するコカビエル。その瞬間少女はコカビエルに向かって飛んできた。飛距離も速度も人間のそれではない。人外でもそういない速度の接近に一瞬虚をつかれるも即座に翼で防御態勢をとる。瞬間、吹き飛ばされた。
「……が!?」
翼に衝撃が走ると同時に床に向かって落下する。途轍もない威力だ。接近戦はまずい!
そう判断したコカビエルは再び飛翔し距離を取ろうとするが少女は何と壁を踏み抜きながら走ってきた。
「な!?」
「あああ!」
そのまま床が崩れたことにより天井からぶら下がっている状態になっていた上階の柱をへし折り叩きつける。とはいえ、ただのコンクリート。コカビエルは片手で破壊するが破片の間から白い手がのびてきて顔面を掴む。
死人のように冷たい手がギシリとコカビエルの頭蓋を軋ませる。
「はは」
ドゴォ!と地面に押しつけられ、そのまま地面を削りながら少女に引きずり回される。堕天使の自分にとっては脆いとは言え、この速度で地面を削り続ければダメージは少なくない。
そして少女は引きずるのに飽きたのか、今度は力任せにコカビエルを振り回す。
柱に、壁に、床に、瓦礫に、残っていた家具に何度も体をぶつけやがて意識を失う。それでもなお少女はコカビエルを振り回し続け、また飽きたのかやめた。
「………そ……うだ………伊月に、見せよ」
そういうとコカビエルを掴んだまま歩き出す。そして──
「ひ、ひぃ!そんな、コカビエルが……バカな!」
騒ぎを聞きつけたのであろう男が腰を抜かして少女を化け物を見るような目で見ていた。いや、事実聖書に記されるほどの堕天使を一方的に倒すなど化け物だろう。
その化け物が此方に来ている。男は顔を青くして必死に床を這おうとするが肥満な体はろくに鍛えてもいない腕では動かすことが出来なかった。
「ま、待て!そうだ、これをやろう!だから頼む、見逃してくれ!」
男はそういって輝く球体を取り出し命乞いをする。が──
「…………」
「……へ?」
少女はあっさり男の横を通り過ぎる。ともすれば足がぶつかっていたかもしれない距離を、まるで男が見えていないかのように。
ブチリと、男の中で何かが切れる。
「……ふ、ふざけるなよ……私を、誰だと思っている………これを何だと思っている!」
男は自分が優秀であると自負していた。聖剣の適性を持たぬ者に適性を与える技術を確立した優秀な人間だと。その自分を、そして自分が造った素晴らしい物を無視だと?
別に見えていないわけではなかった。一瞬だけ見て、直ぐに興味を失いそこに居ることすら忘れられただけだ。
「ふざけるな………ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!」
不当だ、不快だ、不合理だ、不条理だ、自分がそんな目を向けられて良いはずがない。この、誰しも聖剣が扱えるようになる世紀の発明を無視されて良いはずがない。
男は怪しく光るそれを胸に押しつけ、走り出す。目指すは剣が保管されている部屋。
「………?」
カラスを運ぶ途中、北斗は不意に振り返る。先程自分がいた場所から妙な気配がした気がした。
「…………未練?」
そう、この気配は知っている。自分に近い、死に際の敵が良く漏らす未練という感情だ。それが今、何かを飲み込んだ。
まあ、しかしどうでも良いかと再び歩き出す。早く持っていて、伊月に誉められたい。目指すは
男は、バルパー・ガリレイは走っていた。
自分でもどこを目指しているのかわからない。しかし、因子を取り込んでから胸の内から湧き続ける何かに従い走っていた。
やがて、何やら不気味な気配を放ちブツブツ呟いている男を見つける。途端、胸の内から湧き続ける何かが、バルパーの意志を無視して口を動かさせる。
「………イザイヤ」