女神に籠愛を求めるのは間違っているだろうか   作:ボージョレ

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第1話 籠愛の騎士

「ここは…?」

 

重い瞼を開けたロートレク。彼は薄暗い岩壁にもたりかかっていた。周りを見渡すと、神聖な装飾が施された建物が並んでいるアノール・ロンドとは程遠い、原始的な岩。そして静かに滴る水の音。最下層程の汚れた場所では無いだろうが、雰囲気的には似ているとロートレクは思った。

 

「何だここは…っ!?」

 

重い腰を上げると腹に痛みが残っており、ロートレクはよろけてしまう。

 

…確か

 

痛みに苦悶の表情を浮かべながら、ロートレクは意識を失った事を思い出す。

名亡きのパリィにより、ロングソードの切っ先を腹に貫かれた筈。その時には完全に死んだ筈であり、アノールロンドで灯した篝火に転送される。

 

だというのに、見たことのない場所に彼は佇んでおり、その不幸の連続として篝火も無いときた。

今までに体験をしていない事に動揺を覚え、さらに動揺を隠せない自分自身に、ロートレクは憤る。

 

「…チッ」

 

とにかく案山子の様に立っていたとしても、何も分かる訳が無い為、ロートレクは甲冑の鉄同士が擦れる音を立てながら薄暗い岩の道に足を踏み出した。

 

何時間経ったのだろうか、ロートレク自体が不死な為、時間の概念に縛られていない。そもそも、様々な怪物が徘徊しているロードランの地では、その様なものは巡礼者にとって邪魔の一言。

 

だが、様々な場所を探索してきたロートレクも、流石に化け物もいない一本道に飽きがきていた。彼自身は来て欲しいという願望では無いが、流石に何も無いという状況が続けていては、変化を求めてしまう。

 

「まさか…な」

 

あまりの一本道にロートレクは思わず呟く。彼の思考の中で、ある可能性が浮上してきたからだ。

 

ここはロードランの地ではない

 

ここがもし地下となれば、どの様な道でも不死教街への水路や病み村、地下墳墓。それら等の場所へと着くはず。それ程までにロードランは地上よりも地下の方が賑わっている。…悪い意味でだが。

考えても仕方ない。そう結論づけ、体力を回復しようとし、ロートレクは壁沿いに背を預けた瞬間。

 

ロートレクが通っている道の少し先にほんの一瞬だけ、光が灯った。それはランプが照らす優しい光ではなく、燃え盛る炎が吐き出す激しい光。

急な光にロートレクは目を細める。炎を出すといえば、ポピュラーなものとして呪術による発火。それか炎の武器のものか。

連続的に、その光が点滅しているのを目にして彼は確信した。あれは戦闘によるもの。人間とは分からないが、誰かが戦っているとなると、情報を得られるかもしれない。

 

ロートレクは両手でショーテルを握り、光の発生源へと走っていった。

 

 

 

------

 

 

見習い冒険者である、ベル・クラネルはこの危機的状況をどう打破するのかを、考えていた。

周りは頑丈な甲羅を纏った蟻のキラーアント、1つ1つの個の力はそれ程でも無いが、集団となると話は別であり、低レベルの冒険者にとっては所謂一種の災害となるまでに恐れられている。

 

そして、実際にこの場で、ソーマ・ファミリアのメンバーが1匹の瀕死の死体を使い、フェロモンによってベルの元へと大量に引き寄せられている。こうなれば逃げるという選択肢は無い。

 

「ベ、ベル様…何で…」

 

「そんなのは後。今はこの状況をどうするかだよ…!」

 

そして背後には小さな少女のリリがいる為、守りながら戦うという辛い縛りもある。

だが、その様な絶望的状況であっても、少年は諦め無かった。

 

「『ファイアボルト』ッ!!」

 

左手の指先をキラーアント達に向け、叫び上げる。その激しい叫びに応えるように、雷を帯びたような炎の球が1匹のキラーアントへと直撃し、燃え盛る。

 

「ギィィ!!」

 

仕返しとばかり1匹のキラーアントがベルの背後に、鋭利な顎をちらちかせながら襲いかかった。

しかし、この極限の状況で感覚が研ぎ澄ましているベルは、キラーアントの襲撃よりも速く反応、そして迅速に身体を振り向かせ、上質な武器の1つであるヘスティアナイフを逆手にし、キラーアントの頭部に突き刺した。

 

「ぐうぅ…!?」

 

『ギィィ…!!』

 

絶命とはいえず、尚身体を痙攣させているキラーアント。虫特有の気色が悪い動きにベルは、そのまま握ったナイフごと地面に叩きつけた。

 

『ギィィ‼︎』

 

1匹を殺すだけでこれまで程に手間がかかる。この様な事が続けるのであれば、体力的にも限界を超え、他のキラーアントの乱入に対応できず、隅々まで喰いつくされるだろう。

 

魔法の連発

 

比較的消費する精神力(マインド)が少ない、ファイアボルトならば、ここら辺のキラーアントは殲滅する事は可能だ。

ベルはそれを考えると、その言葉が脳に過る。しかし連発というのは精神力も大幅に削られ、気絶する可能性がある。ベルにとっては諸刃の剣に等しい。

 

だが、ここで躊躇していてはか弱き少女である、リリを守る事はできない。

ベルは決断し、指先を強くキラーアント達へ向ける。

 

「『ファイアボルト』!!」

 

先ずは真正面のキラーアント達から。腹から声を上げた詠唱によって、指先に火球が弾き出される。そして、続けざまに詠唱を繰り返し、連射を行なった。ファイアボルトの連発により、ダンジョンには眩い光が拡散し、キラーアント達の骸が重なってできていく。

 

「『ファイアボルト』…!!くっ…数が!」

 

決してリリに被害が及ばない様に、そして確実に奴等へと魔法を直撃させる。

この2つを強く念じ、魔法連射の手を休めない。

 

「ファイアボ…っ…!」

 

「べ…ベル様⁉︎」

 

詠唱をした瞬間に、ぐらりとベルの視界が揺らぐ。そして頭の奥からくる痛みが現れ、言葉に表す事のできない気持ち悪さがベルに襲いかかる。

 

精神疲弊(マインドダウン)

 

ベルは薄れていく思考の中で、自分が力がまだ弱いという事実、そしてリリという少女を守りきれなかった事に嘆き、地面へと倒れた。

 

「あ、あぁぁ…ベル様ぁ…!」

 

『キシシャァァ…』

 

燃え尽きた同士の骸を踏みながら、キラーアント達はベルの近くへと歩み寄ってくる。

リリは救ってくれた少年の名を叫ぶ事しかできず、ただ地面にへばりついている。

助けようと、地面に転がったクロスボウの取っ手を掴もうとしたが…

 

「…ぁぁ…」

 

恐怖に腰を抜かしてしまい、思う様に動けない。どれだけ動こうとしても、危険を察知した本能に抗う事がリリにはできない。

 

余りの非力さに、目の奥から熱いものがじんわりと溢れていく。こうしている間にも、ベルは死の間際へと近づいているのであっても、リリは動く事ができなかった。

 

「やめて…‼︎」

 

人間の情に、本能のままに動いているキラーアント達が理解できるはずも無く、御構い無しに地面に伏せているベルへと近づいていく。

そして大きな顎を開き、ベルの腹を突き破らんとそれを振り下ろした。

 

「やめてぇぇ!!」

 

『ギッ!?』

 

リリの叫び声と共に、キラーアントの身体が吹き飛ばされ、壁と叩きつけられる。

 

「え…」

 

いきなりの不意打ちと壁との衝撃により、ベルを襲おうとしたキラーアントは、低く唸りながら項垂れる。

その光景を、リリは大きく目を開かせながら見ていた。

ベルの近くには、黄金の甲冑が左足を大きく上げている姿が見える。リリは余りの唐突さに思考が混沌に飲まれそうになったが、あの黄金の甲冑がキラーアントを蹴り飛ばした。リリは推測する事はできた。

 

「…あ、あの!」

 

リリが黄金の甲冑を呼ぶ。しかし無視しているのかは定かではないが、黄金の甲冑は彼女の方には顔を向けず、周りのキラーアント達を見渡す。

 

「…初めて見た敵だな?だが、蹴り1つで死ぬレベルならば亡者よりも脆い」

 

曲刀を両手に持ちながら、黄金の甲冑は低くくぐもった声で呟く。そして倒れているベルを目にし、切っ先で彼の襟部分を引っ掛けた。

「…い、一体何を…!?」

 

「もう1人、人間がいる様だな。それならば、この少年のお守りでもしろ」

 

リリの動揺の声に、黄金の甲冑は振り返った。よくよく見れば胴体部分は腕の様な隆起したものがあり、まるで誰かに抱かれている様に見えている。様々な冒険者を見たリリであったが、悪趣味なものだと感じさせる鎧を見たのは初めてであった。

 

「って、わ!?」

 

黄金の甲冑がベルを吊るしている曲刀をリリの方へと振りかざし、彼が投げ飛ばされた。

小さい身体で彼を受け止めたものの、やはり少女の力では抱える事ができず、そのまま地面へと倒れてしまった。

 

『キシシ…』

 

「虫如きが何匹集まっとしても無駄だ。

…クックックッ」

 

両手の曲刀を構え、黄金の騎士でもあり、女神の騎士でもあるロートレクは静かに笑った。




ダンまちとダクソのクロスの熱にあてられ投稿。
ロートレクカッコいいよロートレク。
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