さみしいはなし   作:かさつき

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さみしいはなし

ある夏の日の、午後のこと。

 

晴天眩く、風は爽やか。

 

とある鎮守府の脇にある、小さな小さな原っぱで。

 

白い手袋が、揺れていた。

 

風に靡いて、揺れていた。

 

最新鋭の阿賀野型。

 

軽巡洋艦一番艦。

 

阿賀野はここが好きだった。

 

日当たりの良いこの場所が、阿賀野は凄く、気に入っていた。

 

 

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いつのまにやら阿賀野の横に、この鎮守府の提督さん。

 

「なぁ、阿賀野」

ーーーなになに?提督さん

 

「長門っているじゃん、戦艦の」

ーーーうちにはいないね

 

「中央の会議に参加したとき、見かけたことがあるんだよ」

ーーーまあいるだろうね

 

「あいつの腹筋すげぇよな、バッキバキ」

ーーーえ、何言ってんの

 

「ちょっと触らせてって頼んだんだけどさ」

ーーーなにやってんのさ

 

「真っ赤な顔して引っ叩かれた。あいつ乙女だわ」

ーーー何やってんの、ほんとに

 

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提督さんは、缶ビール。片手に持って、赤ら顔。

 

ーーー特別な日だからって、昼間からお酒飲むと、能代に怒られるよ。

 

「陸奥っているじゃん、戦艦の」

ーーーうちにはいないね

 

「へそ出しいいよな」

ーーーへそフェチだったの

 

「お前のもなかなか良いと思ってた」

ーーー……うっさい

 

「けどもうちょい引き締まってるほうが……」

ーーーうっさい!

 

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提督さんは、ビールを一口。

 

「伊勢っているじゃん、戦艦の」

ーーーうちにはいないね

 

「あの髪型なんていうのかな」

ーーーうーん。ポニーテール?

 

「ちょんまげ?」

ーーー本人聞いたら泣くと思う

 

「武士かな」

ーーーまあ、ちょっとかっこいいよね

 

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提督さんは、まったりだ。

 

「日向っているじゃん、戦艦の」

ーーーうちにはいないね

 

「瑞雲が好きらしいぜ」

ーーーへぇ、聞いたことはあったけど

 

「カ号とか、晴嵐あげたらもっと喜ぶかな」

ーーーどうだろうね

 

「なんか瑞雲って聞くと、武士って感じがするよな。日本刀?」

ーーーわからないでもない

 

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のんびりゆったり夏の午後。

 

「雪風っているじゃん、ビーバーの」

ーーーうちにもいるね。駆逐艦のね

 

「だれか服買ってやれよ」

ーーーズボンかスカートかな

 

「水にぬれるとちょっと透けるし」

ーーーどこみてんのさ

 

「さむくねぇのかな」

ーーー子どもは風の子っていうからね

 

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吹き抜ける風が気持ちいい。

 

「赤城っているじゃん、空母の」

ーーーうちには……いないけど来たこともあったね

 

「視察で来た時に、ちょっと接待したわけ。飯おごって」

ーーーそうなんだ

 

「すげぇよあいつ。一晩で駆逐艦5隻の3日分平らげたぜ」

ーーーそ、そうなんだ

 

「どこに消えるんだろうな、あの質量がさ」

ーーー艦娘だからね。自分たちでもわからないよ

 

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ビールを一口、欠伸を一つ。

 

「加賀っているじゃん、空母の」

ーーー赤城さんと一緒にきたね

 

「あいつ歌うまい」

ーーー知らなかった

 

「演歌がやばかった」

ーーーちょっと聞いてみたいかも

 

「加賀岬~♪」

ーーー提督さんは下手くそだね

 

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のんびり過ごせる一日が、これからずっと続けばいい。

 

「蒼龍っているじゃん、空母の」

ーーーあの人も来たね、飛龍さんも一緒に

 

「乳でかい」

ーーーちょっと

 

「九九艦爆乳ですよ」

ーーーサイテー

 

「でもお前くらいのサイズが一番いいわ」

ーーーう、な、もうサイッテー!

 

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提督さんは、酔っぱらい。

 

「飛龍っているじゃん、空母の」

ーーー………ん

 

「幼馴染感がすごい」

ーーーまあ、わかる

 

「多聞丸に挨拶しなきゃ、飛龍さんをくださいって」

ーーー3秒でヤられるね

 

「膝枕してほしいなー」

ーーー高望みだー

 

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気分は上々、提督さん。

 

「島風っているじゃん、ウサギの」

ーーーうちにもいるね、あと駆逐艦。

 

「信じられるか、軍の指定服らしいぜ、あれで」

ーーーマジ?

 

「軍の上層部って変態の集まりなんだなって思った」

ーーーそしてこの部下ができた、と

 

「日本大丈夫か」

ーーーみんな提督さんには言われたくないと思うよ

 

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ーーー全部飲んじゃったの?

 

「また、来るから」

 

提督さんはそう言って、薄く笑って帰っていった。

 

ーーーまたねー。

 

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最新鋭の阿賀野型。

 

軽巡洋艦一番艦。

 

阿賀野はここが好きだった。

 

日当たりの良いこの場所が、阿賀野は凄く、気に入っていた。

 

鎮守府脇の小さな原っぱ。

 

 

小さな墓標に掛けられた、白い手袋が揺れていた。

 

風もないのに、揺れていた。

 

 

 

真夏のある日。

 

お盆にだけは、会える人。

 

あの世にビールは、ないらしい。

 

 

晴天眩い、午後のこと。

 

 

 





読んでくださって、ありがとうございました。
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