ある夏の日の、午後のこと。
晴天眩く、風は爽やか。
とある鎮守府の脇にある、小さな小さな原っぱで。
白い手袋が、揺れていた。
風に靡いて、揺れていた。
最新鋭の阿賀野型。
軽巡洋艦一番艦。
阿賀野はここが好きだった。
日当たりの良いこの場所が、阿賀野は凄く、気に入っていた。
=======================
いつのまにやら阿賀野の横に、この鎮守府の提督さん。
「なぁ、阿賀野」
ーーーなになに?提督さん
「長門っているじゃん、戦艦の」
ーーーうちにはいないね
「中央の会議に参加したとき、見かけたことがあるんだよ」
ーーーまあいるだろうね
「あいつの腹筋すげぇよな、バッキバキ」
ーーーえ、何言ってんの
「ちょっと触らせてって頼んだんだけどさ」
ーーーなにやってんのさ
「真っ赤な顔して引っ叩かれた。あいつ乙女だわ」
ーーー何やってんの、ほんとに
=======================
提督さんは、缶ビール。片手に持って、赤ら顔。
ーーー特別な日だからって、昼間からお酒飲むと、能代に怒られるよ。
「陸奥っているじゃん、戦艦の」
ーーーうちにはいないね
「へそ出しいいよな」
ーーーへそフェチだったの
「お前のもなかなか良いと思ってた」
ーーー……うっさい
「けどもうちょい引き締まってるほうが……」
ーーーうっさい!
=======================
提督さんは、ビールを一口。
「伊勢っているじゃん、戦艦の」
ーーーうちにはいないね
「あの髪型なんていうのかな」
ーーーうーん。ポニーテール?
「ちょんまげ?」
ーーー本人聞いたら泣くと思う
「武士かな」
ーーーまあ、ちょっとかっこいいよね
=======================
提督さんは、まったりだ。
「日向っているじゃん、戦艦の」
ーーーうちにはいないね
「瑞雲が好きらしいぜ」
ーーーへぇ、聞いたことはあったけど
「カ号とか、晴嵐あげたらもっと喜ぶかな」
ーーーどうだろうね
「なんか瑞雲って聞くと、武士って感じがするよな。日本刀?」
ーーーわからないでもない
=======================
のんびりゆったり夏の午後。
「雪風っているじゃん、ビーバーの」
ーーーうちにもいるね。駆逐艦のね
「だれか服買ってやれよ」
ーーーズボンかスカートかな
「水にぬれるとちょっと透けるし」
ーーーどこみてんのさ
「さむくねぇのかな」
ーーー子どもは風の子っていうからね
=======================
吹き抜ける風が気持ちいい。
「赤城っているじゃん、空母の」
ーーーうちには……いないけど来たこともあったね
「視察で来た時に、ちょっと接待したわけ。飯おごって」
ーーーそうなんだ
「すげぇよあいつ。一晩で駆逐艦5隻の3日分平らげたぜ」
ーーーそ、そうなんだ
「どこに消えるんだろうな、あの質量がさ」
ーーー艦娘だからね。自分たちでもわからないよ
=======================
ビールを一口、欠伸を一つ。
「加賀っているじゃん、空母の」
ーーー赤城さんと一緒にきたね
「あいつ歌うまい」
ーーー知らなかった
「演歌がやばかった」
ーーーちょっと聞いてみたいかも
「加賀岬~♪」
ーーー提督さんは下手くそだね
=======================
のんびり過ごせる一日が、これからずっと続けばいい。
「蒼龍っているじゃん、空母の」
ーーーあの人も来たね、飛龍さんも一緒に
「乳でかい」
ーーーちょっと
「九九艦爆乳ですよ」
ーーーサイテー
「でもお前くらいのサイズが一番いいわ」
ーーーう、な、もうサイッテー!
=======================
提督さんは、酔っぱらい。
「飛龍っているじゃん、空母の」
ーーー………ん
「幼馴染感がすごい」
ーーーまあ、わかる
「多聞丸に挨拶しなきゃ、飛龍さんをくださいって」
ーーー3秒でヤられるね
「膝枕してほしいなー」
ーーー高望みだー
=======================
気分は上々、提督さん。
「島風っているじゃん、ウサギの」
ーーーうちにもいるね、あと駆逐艦。
「信じられるか、軍の指定服らしいぜ、あれで」
ーーーマジ?
「軍の上層部って変態の集まりなんだなって思った」
ーーーそしてこの部下ができた、と
「日本大丈夫か」
ーーーみんな提督さんには言われたくないと思うよ
=======================
ーーー全部飲んじゃったの?
「また、来るから」
提督さんはそう言って、薄く笑って帰っていった。
ーーーまたねー。
=======================
最新鋭の阿賀野型。
軽巡洋艦一番艦。
阿賀野はここが好きだった。
日当たりの良いこの場所が、阿賀野は凄く、気に入っていた。
鎮守府脇の小さな原っぱ。
小さな墓標に掛けられた、白い手袋が揺れていた。
風もないのに、揺れていた。
真夏のある日。
お盆にだけは、会える人。
あの世にビールは、ないらしい。
晴天眩い、午後のこと。
読んでくださって、ありがとうございました。