さみしいはなし   作:かさつき

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世界観は同じですが、前のお話とつながりはございません。


さみしいはなし 2

ある秋の日の、夜のこと。

 

星天清く、波は穏やか。

 

大海原のど真ん中、暗くて深い海の上。

 

船が1隻、浮いていた。

 

名前も知れぬ、その船は。

 

いつかの時代に、棄てられて。

 

いつの間にやら、忘れられ。

 

船員、乗客、人っ子ひとり。

 

或いは彼らの、亡骸すらも。

 

命の証は、見当たらない。

 

名前も知れぬ、幽霊船。

 

その船室の、片すみにて。

 

 

白露型の五番艦。

輸送が得意な駆逐艦。

 

春雨は空を、見上げていた。

壁の穴から、見上げていた。

 

さみしいことに、この海の。

元気な風が、凪いでいる。

 

彼女がどんなに、かなしいときも。

彼女がどんなに、さみしいときも。

 

この風だけは、吹いていて。

元気な声を、聴かせてくれる。

 

言葉に出せない、わだかまり。

心を引っ掻く、小さなトゲを。

 

元気いっぱい、その身に乗せて。

 

しらない海へ、解かしてくれる。

どこかの空へ、飛ばしてくれる。

 

そういう風に、思っていたが。

 

どうやらそうも、いかないみたい。

残念だけど、仕方ない。

 

かなしいことに、今日だけは。

元気な風が、凪いでいた。

 

============

 

彼女の横に座るのは、軍帽被った提督さん。

 

 

「なぁ」

ーーー何でしょう

 

「吹雪って駆逐艦、いるじゃん」

ーーーはい、いますね

 

「今こっちに、向かってる奴だけど」

ーーーそうですね

 

「あいつ、めっちゃ良い娘なんだよ」

ーーーへぇ

 

「パンツ見せてくれるもん」

ーーーえぇ

 

============

 

星空に向け、ため息一つ。

 

 

「白雪も、いるんだな」

ーーーええ、そうですよ

 

「世間知らずなんだよな、あいつ」

ーーー艦娘が世間に詳しいのも、変ですけど

 

「箱入り娘だな」

ーーー箱から出る娘の方が、珍しいんですよ

 

「でも、主計学校いってたらしいんだよ」

ーーーえっ、嘘

 

============

 

春雨の気も知らないで、憎らしいほどの晴天だ。

 

 

「初雪も来る、と」

ーーー特型勢ぞろいですね

 

「あいつとは、よくゲームするんだ」

ーーーそうなんですか

 

「俺、ホラー駄目なんだけど。付き合わされてさ」

ーーーあら

 

「嫌われるようなこと、したかなぁ」

ーーーあの娘も、怖いだけじゃないかな

 

============

 

秋の夜空は晴れ渡り、彼女の心は曇り気味。

 

 

「勿論、深雪もいるわけだ」

ーーーあの娘、今度はきちんと参加できたんですね

 

「そらもう、うちの切り込み隊長ですよ」

ーーー似合います

 

「あの屈託のなさが、武器なわけ」

ーーー知らないことは、大事なんですね

 

「そういう奴が居なきゃ、みんな駄目になっちゃうさ」

ーーーはい、本当に

 

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南南東に感アリと、水上電探が色めき立つ。

 

「俺が連れてかれる時さ、叢雲めっちゃ怖かったよな」

ーーーしかたないです。大好きな提督さんですから

 

「普段ツンツンしてるけど、結構可愛いぜアイツ」

ーーーあらま

 

「“その辺で拾った”バレンタインチョコを、毎年くれるんだ」

ーーーもう少し上手い言い訳、ないんでしょうか?

 

「その不器用さが、また良いわけ」

ーーーグッとくると

 

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敵の姿は見えないけれど、きっといまにも現れる。

 

 

「磯波のあんなデカい声、初めて聞いたなー」

ーーー大人しい娘でしたっけ?

 

「大人しいってもんじゃないさ。借りてきた猫が、デフォルト」

ーーーそれは、なかなか

 

「でも、カメラが趣味」

ーーーえぇ?

 

「70万位のカメラ持ってんの」

ーーーななじゅっ………嘘でしょう

 

=============

 

この船諸とも、沈んでしまう。私は絶対、助からない。

 

 

「綾波は……来ないかな。遠征出てた気がするし」

ーーーつい先ほど無線拾いましたけど、合流したみたいです

 

「おお、やったぜ。あの娘、癒し」

ーーーマイナスイオン?

 

「ふっくらと、こう、ある訳さ。ほっぺが」

ーーーあぁ、小動物的な

 

「また揉みたいよ」

ーーー無事に帰れても、あんまり揉まないように

 

=============

 

風はないけど、ざわめく心。悲しい予感が、締めつける。

 

 

「癒しと言えば、敷波ん」

ーーーシキナミン?

 

「もちほっぺⅡ。ツン成分も添えて、バランスも良い」

ーーー大したものですね

 

「あの二人にサンドイッチされたら、昇天できるぜ」

ーーー死ぬわこいつ

 

「ノリいいね、きみ」

ーーー恐縮です

 

============

 

せめて司令官だけは、怪我のないよう、返さなきゃ。

 

 

「俺が死んだら、大井っちは泣いてくれるかな」

ーーー死なせませんから

 

「もし泣いてくれるなら、キュン死する」

ーーーもう死んでますから、安心ですね

 

「北上ラブを隠せれば、何処に出しても恥ずかしくないよ。やらんけど」

ーーーお父さんですかっ

 

「どっかの馬の骨が、大井っち泣かせたらぶっ飛ばす」

ーーーキュン死したら、ぶっ飛ばしておきます、はい

 

============

 

ここでさよなら、しなければ。残念だけど仕方ない。

 

 

「スーパー北上さまも来てくれたら、百人力なんだがな」

ーーーどちらか片方で、十分かと

 

「いや、ハイパーズは二人で一つだ」

ーーーは、ハイパー?

 

「息ぴったりで、実力十分。いつも一緒のハイパーズ」

ーーー連携は大事です

 

「先制雷撃の、標的も一緒」

ーーー戦術的にそれは……うーん

 

===========

 

 

「お」

ーーー迎えが来ましたね

 

「帰っていいの?」

ーーーはい

 

「そうか」

ーーー怖かったですか?

 

「うんにゃ。死んでも良かったし」

ーーー死なせませんって

 

「もう、会わないかもな」

ーーー……ええ

 

 

「ごめんな、春雨」

 

提督さんはそう言って、皆と一緒に帰っていった。

 

ーーーさよなら、司令官

 

===========

 

 

 

「………キヅイテ、クレタンダ。シレイカン」

 

白露型の五番艦。

 

輸送が得意な駆逐艦。

 

ポツリと溢した呟きは、夜凪の海に解けていく。

 

彼女の気持ちを、知ってか知らずか。

 

元気な風がふと吹いて、頬の涙を飛ばしてくれた。

 

 

星天清い、夜のこと。

 

 




読んで頂き、有難う御座いました。
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