でもやる時はやるのがアンドリューさん。
とある昼下がり。
青ヶ島泊地軍港庁舎会議室。
高梨湊准将はじめ、艦隊の幕僚達が、会議室に集まっていた。
「それでは、臨時会議を始めるのです」
副官でもある、電の合図に一同が頷いた。
「本日の議題は、艦隊通称の決定なのです」
艦隊通称。各鎮守府及び幕僚監部外郭独立部隊は、艦隊通称を決める権利が与えられる。
舞鶴鎮守府外郭独立艦隊――草加拓哉少将の指揮する艦隊――の艦隊通称は『ザ・デストロイヤーズ』であったり、
嘗ての幕僚監部直属独立艦隊――高梨道一中将、現元帥の艦隊――は『高梨艦隊』であったりしている。
余談だが、舞鎮外独艦隊の艦隊名の初期案は、『ザ・デスメタラーズ』だったが、艦娘全員の反対で諦めたという伝説が残っている。
電の議題の発表と共に、高天原智子少佐が立ち上がる。
「通称の決定について、嘗ての『高梨艦隊』以後慣例となっており、元々は、独立艦隊の権利だったものが、半ば義務化したものになっています。現存する独立艦隊は、舞鶴鎮守府の外独艦隊『ザ・デストロイヤーズ』と、佐世保鎮守府沖縄及び島嶼部防衛艦隊『海人(うみんちゅ)艦隊』の二つです」
その説明をしてから、湊を見やる。
「なお、『
という、付け加えた言葉に、
「ええっ……」
と、湊の言葉が漏れる。己は『高梨艦隊』でいいや、と思っていたようで……
「付け加えますが、地名の艦隊も不可です。よって、『青ヶ島艦隊』も不可ですし、当然ながら『第13艦隊』も駄目です」
とどめの智子の言葉に、机に突っ伏す湊。
「………あっ」
電が、突然閃いたように、声を上げた。
「『湊ちゃん艦隊』ってのはどうですか?」
「それな!」
「いいね」
と賛同する、参謀長と副司令官。
「え?え?え?」
顔を上げて二人を見回す。
「それにしましょう」
面白そうなので、賛同する法務士官。
「じゃあ私も、多数決に従うよ」
とにこやかに言う、最後の良心の陸戦隊長。
「あの、今艦娘のグループに、LINE送ったんですけど、全員から賛成って来てます」
と、
「え、えぅ……」
顔を赤らめて、呻き声を漏らす司令官。
その姿を見て、一同はどっと笑った。
こうして、横須賀鎮守府外郭独立艦隊の通称は、『湊ちゃん艦隊』に決定した。
「さて、次の議題というより、報告事項なのです」
その言葉に、一同は真顔を取り戻す。
「明後日より一週間、青ヶ島泊地に、査察が入るのです。主席監察官の安藤龍少将――この度昇進されました―ー及び、補佐艦の不知火中佐が、一週間滞在されます」
「あー………」
湊は、露骨に嫌そうな顔をした。
「アンドリュー先輩、早速『鎮守府管内の
こめかみを押さえながら、智子が溜め息を吐く。このメンバーの中では、呉鎮守府時代に、付き合いが長い士官であり、龍ならやりかねない、と思っていたようだ。
「まあ、やましいところがなければ、査察は一~二日で終わるし、後は、艦娘や士官の意見交換を行ったり、休暇に充てたりするのが常だね」
恵一郎が、のんびりとした口調で、のほほんとしている。
「まあ、お目当ては、シミュレーターによる、湊への
的を射た発言をする奈緒。
「安藤少将には、私は、ちょっと話があったんだ」
笑顔を浮かべて、語り出す各務原大尉。
「えっ」
娘の結有が狼狽する。
「未来中将から連絡を頂いてね。ぜひ安藤少将とは、
心なしか、背後にフラッグシップ並みのオーラが立ち込めている気がした。
恵一郎以外の全員の顔が、さぁぁぁっと青ざめる。
「と、というわけですので、準備をお願いするのです。はい会議散開!」
そのオーラに耐えきれなくなった電は、ものすごく雑に散開を宣言して、逃げ出していった。
「さ、さて僕も司令官のお手伝いを。行きましょう、提督」
「あ、は、はい」
と言いながら結有も、湊の手を引いて退散する。
「私も、提出書類をまとめなくては」
そう言って、智子も逃げる。
「あたし、始末書残ってるんだった!」
そう言って、旦那を
「大尉、今日はね、恵奈と夕飯を鳳翔で食べる約束なんだ。結有ちゃんと一緒に来ない?」
いい意味で、空気の読めない艦隊の接着剤が、のんびりと語りかけると
各務原大尉も、苦笑いしながら、
「いいですね」
と答えて、二人も会議室を後にした。
安藤少将が査察にやってくる日。
軍港埠頭には、出迎えの為に、各務原大尉以外の幹部が待機している。
到着予定時刻ほぼ丁度に、輸送艇がやってくる。
輸送艇から降り立ったのは、主席監察官安藤龍少将、補佐艦不知火、そして夕張だった。
一同は、敬礼をして出迎える。
安藤等も敬礼を返してから、龍は手を後ろで組んで、
「出迎えご苦労。これよりシミュレーション……ゲフゥ」
不知火の肘打ちが、脇腹に入り、むせる龍。
「もとい。監査を行う」
その言葉に次いで、夕張が改めて敬礼する。
「本日付けで、湊ちゃん艦隊整備担当として配属になりました、軽巡洋艦夕張です」
「………え?」
湊の言葉に、電は書類を見直す。
「あああああっ、しまったぁ!!各務原大尉の
慌てだす電に、
「ひどっ!」
と、抗議の声を上げる夕張。
「ともかく、よろしくお願いします」
笑顔を向けると、夕張に敬礼を返す湊。
龍の監査は、公平かつ厳しいものだった。
矛盾点があれば厳しく報告し、是正させる。要点を押さえて、効率的に監査を行っていた。
また、自らの足で各部署を見て回り、的確にアドバイスを行う。
智子以外は初めて見る、『真面目なアンドリュー先輩』の姿だった。
不知火はそれに従い、落ち度なく、監査実行を補佐するものだった。
なお、この監査において、奈緒の始末書が数枚増えたのは、余談である。
また、各務原とのサシの
「事故のようなものとはいえ、ご令嬢への非礼は貴官にも詫びよう、申し訳なかった。それに、結有嬢には既にきちんと謝罪を行って許しを頂いている。貴官の大切なご令嬢の事とは言え、軍人として理性を放棄して、上官に向かってそのような物言いは、如何なものだろうか?」
と、上官として理路整然と反論を行い、諭した後、居酒屋鳳翔に共に飲みに行き、親交を深めたそうな。
その際やんわりと、
「確かに大尉の気持ちは、痛いほどわかります。ええ、わかりますとも。姉貴が嫁に出た時は、親父はそりゃあもう泣いたものです。でも、娘がこの人と共に暮らしたい、という人を連れて来たら、受け入れてあげるのも父親の度量でしょう。実際大尉だって、他所の娘を奪ったじゃないですか」
等と、年下の男として語ったそうな。
翌早朝、夜も明けぬ
不知火は、司令部へと赴いた。
丁度、夜間担当は湊だったので、司令部で紅茶を飲んでいた、
もちろん、結有は側にいる。
今日は、夜間担当は第2艦隊天龍隊(天龍・暁・響)で、艦娘詰め所にいる。
そんな司令部に、不知火が入るなり、
「司令官。第1艦隊非常呼集、お願いします」
突然の物言いだが、湊にはその意図がわかっていた。
「了解しました。『
戯けて立ち上がって、敬礼をしてから、座り直すと、司令部についてるマイクを手に取る。
「第一艦隊非常呼集!軍港埠頭に集合せよ!」
それと共に、艦娘宿舎だけに、起床ベルが鳴るように、ボタンを押す。
「ご協力感謝いたします。では」
不知火はびしっと直立不動で敬礼すると、出ていった……
そして戻ってくる。
「各務原結有さん。あとで、通達事項があります。司令官と一緒に、安藤少将の元に出頭してください」
「は、はい!」
不知火の言葉に、飛び上がるように立ち上がり敬礼すると、不知火はくるっと出ていく。
軍港埠頭には、両手を後ろに回して組んで立っている不知火と、
第1艦隊の面々がその対面に並んでおり、巻き添えで起こされた吹雪、電、雷とたまたま、雷と寝ていた恵奈ちゃん。詰め所から出てきた天龍、暁、響がその様子を見ている。
その恵奈の姿を見た不知火は、恵奈のところまで、後ろに手を組んだまま歩いて、
しゃがみこんで視線を合わせ笑顔を見せ、頭を撫でる。
「起こしちゃって、ごめんなさいね」
「うん、だいじょうぶー」
にへらっと、眠そうに笑う恵奈の頭を数度撫でてから立ち上がり、再び第1艦隊に正対する。
「不知火補佐艦、非常呼集の理由をお聞かせください」
不機嫌そうな顔をしながら、問いかける加賀に、
「これより、練度確認の演習を行います」
そう言って、クルッと背を向けると、海に降りた。
「艤装展開……
不知火の身体に、艤装が展開し装着される。
そして振り向いたその目は、鋭い……獰猛な目をしていた。
「相手をしてあげるから、かかってきなさい。
「何だとッ!」
「
その挑発に怒りを覚えた長門が海に降り、艤装を展開させる。
他の面々もあまり愉快ではないようで、長門に続いて海に降りて、艤装を展開する。
「6対1か……どう思う?」
響は、あくびをしている恵奈に、何となく問いかけてみた。
「んー……」
恵奈は、距離を取り始める艦娘達をジーっと見てから、
「不知火さん!」
と笑顔で答えた。
「ここは譲れません!」
「一航戦の誇りを見せます!」
赤城と加賀から、艦攻・艦爆が次々と発進する。
無数に降り注ぐ、魚雷と爆撃の嵐……
「タイミングが甘い……!」
不知火は目にも留まらぬ速さで、艦載機の攻撃をくぐり抜け、対空砲で艦載機を撃ち落としていく。
「それなら!海の藻屑と」
「なりなよー」
大井と北上が、魚雷を放射状に発射させる。
「…………まだまだ!」
二人の連携の甘さをついて、その魚雷も躱すと、一気に距離を詰めた。
「エンゲージ!」
今度は不知火の魚雷と常識外の砲撃の乱射に、加賀と赤城は中破判定、大井と北上は轟沈判定の、大破を食らう。
「くそっ!!沈め!」
「これでビッグセブンとは―――嗤わせるッ!――」
砲撃と同時に、不知火は長門と陸奥とすれ違い……軍港埠頭に飛び移り、艤装を収納した。
その手に握られていたのは、高梨道一の持っていた軍刀だった……
「ぐあっ……」
「ううっ……」
膝をつく長門と陸奥、恐らくは大破判定だろう。
「ふう、
演習の途中で出てきた湊に、不知火は声をかけると、
「んー、
等と、湊はぽりぽりと頬を掻く。
「どういう事なんです?」
艤装を収納して上がってきた加賀が、湊に問うと、湊は困った笑みを浮かべ、
「不知火はですね、元
不知火は、第1艦隊の面々に振り向いた。
「話は聞いています。あなた方は、当時の高梨大佐の指揮を無視して、工廠を占拠し、サボタージュを行っていたそうですね?」
「…………」
「片桐元准将の所業を思えば、致し方ない所ですが、その間、第2艦隊が防衛と遠征を同時にやっていた間、貴方がたは訓練すらしていない。そういうことで間違いありませんか?」
「……間違いない」
長門が苦々しく答える。
「片桐の元、休み無しで遠征をし続けた第2艦隊。捨て艦戦法で死地に送り込まれ、いつも二隻だけで帰ってきた元第4艦隊旗艦電および雪風。そして、湊大佐着任後数ヶ月の間、
「不知火!」
その言葉が、湊によって遮られる。
「……貴方の言いたいことはわかりますが、私の艦娘達を侮辱することは許しません」
その、めったに見せない怒りに満ちた湊の表情を見て、不知火は、嘗ての亡き道一提督に叱られたような感覚を覚えた。
「……今のは私の落ち度でした、申し訳ありません」
深々と頭を下げると、湊の表情は穏やかに戻る。第1艦隊の面々に向き直った。
「暴言の数々、お許し下さい」
再び頭を下げる。
「……いや、私達が『どうせ新しい司令官も、片桐の同類だ』と決めてかかっていたせいだ」
長門が答えると、ふっと柔らかな笑みを浮かべる不知火。
「司令官閣下、本日の訓練の評価をお願いします」
直立不動で敬礼をする不知火に笑顔を向けると、第1艦隊の面々に、満面の笑みを浮かべる。
「そうですね。監査も終わったようですし、明日から第1艦隊は、不知火と共に哨戒活動と演習を命じます」
「げっ……」
大井が、つい声を漏らす。
「では、高梨提督のご命令により、監査期間の間、この不知火が訓練教
その言葉に、長門の、
「教艦殿に敬礼!」
の掛け声で、全員が敬礼する。
「よろしい。では早速、都道236号青ヶ島循環線を五周!」
「ええっ!?」
第1艦隊の面々が、不知火と死のロードワークを行っている間――5分の1とはいえ、結有と吹雪は日課である――
結有は湊と、監察官執務室に充てられた、小会議室に出頭していた。
「各務原結有、入ります」
「高梨湊、入ります」
「うむ」
扉を開けて入室すると、龍の前まで来て直立不動で敬礼をすると、龍も立ち上がり、敬礼を返す。
「各務原結有。貴君を本日付で、高梨湊准将の従卒を命ずる。また軍属二等兵に任ずる。
本日より、艦娘基本法及び、国防軍基本法に基づき、中学校課程を修了したものと認定する。以上」
厳かに龍が告げると、二等兵の階級章と、軍属の職種章、中学校修了認定書を手渡す。
「ありがとうございます!」
「うむ。では、ここまでが、フォーマルな部分だ。後は、カジュアルでいい」
そう言うと、龍は腰をかける。
軍属を志願する中学三年生は、八月を過ぎると、『中学卒業試験』を受けることが出来る。
その合格者及び、八月時点での成績優秀、と中学校長が認める者は、半年早く卒業認定され、軍属二等兵として任官される。
もちろん給与も発生する。
軍属の場合、人事権は司令官に帰するものであり伍長――正式な軍人――に昇進するまで、司令官、つまり湊が手放さない限り、湊のそばにいることが出来る。
「しかし、結有くん。今すぐでなくてもいいが、君は、父親とは違う部署に行ったほうが良い」
置いてあったコーヒーを飲み干すと、二人に座るように勧める。
「どうしてですか?」
湊と共に腰掛けながら、結有は問いかける。
「いやね、君のお父さん、各務原大尉と昨日飲んで色々聞いていたんだが、子離れが出来なさそうな傾向が少し気になってね」
「……わかります」
「君
涙とともにね、と言うと立ち上がって外を眺める。そんな湊は、
「他人のことは、よく見えるんですね。アンドリュー
と、湊がからかうように言うと、
「……不知火には、いずれ、思いを伝えるつもりだ。艦隊を外れてまでついてきてくれた娘だ。だが……不知火は本当に、私でいいのか、ちょっと勇気がな……」
困ったように笑う龍に、結有が、ドンと机を叩いて立ち上がる。
「不知火さんは、少将のことが好きなんですよ!この鈍感!もう見てられません!」
「ちょっと……結有ちゃん?」
《続く》
勢いで書いたら、アンドリューがおかしい、どうしてこうなった。
長くなりすぎたので、掟破りの前後編です。
tips 艦娘の強さ
参考までに
第1艦隊の平均レベルは70~80
第2艦隊の平均レベルは90台後半 雪風は99
電のレベルは131(片桐とのケッコンカッコカリを破棄したため99キャップ中)
不知火のレベルは165です。
雪風はもはや異能生存体レベルの幸運持ちです。
この物語は艦これのデータを考慮しておらず、不知火は未実装の改二装備となっております。
レベルそのものが『霊子の量』となっていると思えばわかりやすいと思います。
なお、150~160くらいが、艤装のレッドゾーンを出しても暴走しない霊子を持つボーダーラインです。
それを超えたら、今度は艤装が出力不足になって強さが頭打ちになる設定です。
艦種によってそのボーダーラインはまちまちです。
なので、不知火改二とか大和改二とか龍驤改二とかは超サイヤ人みたいなもんです。
人間にも『霊子の強い』人間は存在します。