裏方の暗躍メイン回です。
今回は短めで簡単な顔合わせだけです、主人公サイドは
横須賀鎮守府司令長官室。
「安藤龍少将、及び駆逐艦不知火中佐、入ります」
「入れ」
中にいる男の声と共に、
横須賀鎮守府主席監察官の、安藤龍少将と不知火は、ドアを開けて入室し、
机の前まで足を進めて、敬礼する。
部屋の司令長官デスクに、大垣守大将が座っている。
本格的にこの部屋の主となったようで、前任地から持ってきた、
東北の工芸品などが、部屋に飾られている。
今日は、大鳳は席を外しているのか、所用なのか不在のようだ。
「よく来てくれた、楽にしろ。二度は言わないぞ」
低い声が部屋に響く。
龍と不知火は、姿勢を、休めの姿勢に戻す。
「通称『湊ちゃん艦隊』及び駐留泊地の監査資料、見させてもらった。有給休暇は実りのあるものだったかな?」
笑いながら、腕を組んで龍を見つめる、羆こと守。
「はっ、後輩の幸せを見届けて、私の実家と、姉のところに挨拶回りをしてきました。療養に加え、今回の長期休暇、申し訳ありません」
恐縮して、頭を下げようとする龍に、守は手を上げて制する。
「休暇は、労働者の権利だ。我々は、軍人であると同時に一労働者だ。体を休め、心を潤すことは、仕事を効率よくするための手段の一つだ。それと―――」
守は、引き出しを開けて袱紗を取り出し、祝儀袋を三つ並べる。 【祝・婚礼】 名前は、
片方は【『湊ちゃん艦隊』幕僚・艦娘一同】もう片方は【大垣守】最後に【株式会社 村上組 代表取締役 村上慎一】と書かれている。
「正式に夫婦になると聞いている。少なくて申し訳ないが、取り急ぎ、用意させてもらった。村上退役大佐が、君の休暇中に訪れて、預けていってくれた。青ヶ島からも、『草の者』が持ってきてくれた」
「これは……!ありがとうございます」
「大事に使わせていただきます」
龍と不知火は、深々と頭を下げる。龍は受け取ると、不知火に預ける。
「お前のところも、嫁に家計を預けているようだな。我が家も
と守が笑うと、不知火は、少し照れたように、
「龍に、『君に家計を任せたほうが、落ち度なく出来るだろう』と言われましたから」
と答える。
守と大鳳も既婚者であり、こちらは、ケッコンカッコカリをしないまま、夫婦となっている。
守の左小指には、シンプルで、質実剛健という言葉が似合う、チタンリングが輝いている。
「ところで、結婚式の予定は決まってるのか?」
との守の言葉には、
「名古屋が復興したら、名古屋でやろうと決めておりますので」
「そうか……」
そう、守は答えてから、真顔に戻る。
「さて、本題に移る。二点だ。貴官には、独身用官舎から出てもらう。いくら艦娘とはいえ、独身官舎規定に反する。貴官自身で、部屋を探して、住宅手当を支給するのと、将官の家族連れ向けに、軍で借り上げているマンション。どちらが良い?」
「はっ、不知火と相談して、引越し先を決めました。これから、総務に話を持っていくところであります」
守の問いに、龍は、即座に答える。次の用件が、彼にとって重要である。
「そうか。では第二の件に移る。青ヶ島泊地の監察兼資産調査、ご苦労だった」
その言葉に、龍は、司令部から指示された、追加監察点がやけに多いことに、合点がいった。
「閣下、青ヶ島泊地は、閉鎖するおつもりなのですね?」
「うむ。元々、10番台泊地は、島嶼部防衛の部隊で、目に届きにくい場所でもあって、廃止が検討されていた。13泊地だけ残したのは、次の計画のための準備だ」
守の意図には、龍も気づいていた。
「はい。駐留艦隊『湊ちゃん艦隊』は、独立艦隊です。泊地がなくなっても、解散の必要はありません。閣下がおっしゃりたいのは、新設する中部警備府の一件ですね」
意図をわかっている龍に、楽しげな笑みを浮かべる守。
「そう、彼女に中部警備府司令官・駐留艦隊司令官として、任せようと考えている。准将として。わかるな?何故、ハワイ組の精鋭幕僚に、二階級降格の幕僚がいたかが?」
龍の予想を、ズバリついてくる、大垣の意図は明白だった。
「はっ、現在鎮守府・警備府にいる、中将以上の将官は、三笠退役元帥以外据え置かれた。いずれ、その人材は、幕僚監部に入るか、軍艦組に編入される……各司令長官の離任後、司令官職として、割当階級は准将あるいは少将に引き下げるのですね」
「正解だ。さすがは、10年に一人とまで言われた天才」
「はっ、
その言葉に、守は数秒間沈黙した。
「
「しかし、小官は、ハワイ作戦には、何も寄与しておりません」
その言葉に、守は、何も答えず続けた。
「ハワイ作戦に、君は何も寄与できなかったというが、君の提出した『超高練度艦娘の艤装運用概説』レポート、三笠元帥は、旧高梨艦隊の面々と、共有していたのだ。君の功績は十分、役に立っている」
その言葉に、はっとなったのは、不知火だった。
「少将、そのレポートを提出されたのは……」
「ああ――君に、後方勤務の全業務を任せられるようになってから、書き始めたな」
その言葉に、あの段階で龍が、ケッコンカッコカリを強いた真意がわかった。
「……ありがとうございます」
照れながら小さく言う不知火に、羆、もとい守が咳払いをする。
「こっちは、嫁が所用でいないのに、惚気けんでくれ。今、全国は、『頑張ろう日本。がんばりゃあ名古屋』のフレーズで、生まれ変わろうとしている」
そう言うと、一息ついた。
「日本人ってのは、凄いよな。太平洋戦争の終戦後も、今も。復興期の速さというか……もう鉄道は、名古屋駅を起点に、開通している。貨物輸送に、最優先で手を付けたそうだ。そして高速道路も、新たな名古屋のデザインに、ふさわしいものになるそうだ」
「そうですね」
答える不知火に、守は続ける。
「いずれは、深海棲艦の脅威は減り、海軍で主流を占めていた、艦娘本部も、陸軍、海軍、空軍、沿岸警備隊に次ぐ、第五軍にスライドするだろう。そして海軍は、軍艦組が主流となり、艦娘達は、深海棲艦から平和な海を守る存在となる。艦娘も、民間に帰る者もいるだろう」
そう言ってから守は、「私が退役する頃に、取り掛かるくらいの、先の話だがな」と話を切った。
「話がそれてすまない。貴官には、青ヶ島泊地閉鎖の、閉鎖後監査を任せる。前回監査のレポート及び、退去時報告書を元に、民間に返すもの、公共施設・資産として残すもの、解体・廃棄するもの、そのすべてを取り仕切り、綺麗にしてくれ。ただし、『湊ちゃん艦隊』の引っ越しが終わるまでに、三~四ヶ月は予想される。あっちはあっちで、急ピッチで動いている。その間は、現在の職務を行いながら、ゆっくり新婚生活に浸ってくれ。以上だ」
「はっ」
――――――
そんな企みから、少し遡る。
ケッコン大騒動の翌日……
軍港から、昨日着任した艦娘達が、司令官執務室を訪れていた。
司令官のデスク前に、湊が立っており、副官兼専任秘書艦の電も、横に控えている。
「私が、『湊ちゃん艦隊』司令官の高梨湊准将です。本日より、皆さんの指揮を執らせていただきますので、よろしくお願いします」
敬礼をすると、艦娘達も敬礼で返す。
「曙よ、宜しく、クソ提と……く」
いつもどおりの曙のセリフは、言い終わる前に、曙の顔面は、真っ青になる。冷や汗も、ダラダラ流す。
目の前に、日本刀を突きつけられていた。
「なにか、いいましたか?なのです」
笑顔だが、電は、目が全く笑っていない。他の面々も凍りつく――阿賀野以外。
「電、しまいなさい」
少し怒った口調の湊に、「すみませんなのです」と、刀を仕舞う電。
そんな、冷え切った雰囲気を、阿賀野が打ち砕く。
「湊ちゃんでいいんじゃない?あ、阿賀野です。湊ちゃんよろしく~」
「そ、それよ、宜しく湊ちゃん提督!」
この日より、クソ提督から湊ちゃん提督に口癖が変わった。
電恐ろしい……
「比叡です!気合!入れて!がんばります!」
「朧です。よろしくお願いします」
「天津風よ。よろしくね、湊ちゃん」
「瑞鶴よ。一航戦には、負けない自負があるわ。宜しく」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、顔合わせは、無事終了した。
残念ながら今回守さんと湊ちゃんは接点ありません。
安藤さんは「考え、感じ、行動する」タイプの天才です。
でも、もう湊には電という大事な奥様が夫婦ならぬ婦婦
今回から電はじゃっかんプラズマ化してます。(娘のことになると豹変する某父親みたく)
あと、阪神淡路大震災も、東日本大震災も発生していない世界観です。
あったら深海棲艦に負けてる。