あちらの世界の敵もこっちではフレンズ
「う゛……うーん……アタマイタイ……」
翌日。司令官私室で頭痛がする中、湊は目を覚まして起き上がった。目の前には、脇に控えていた電……
「司令官、お水なのです」
専任秘書艦の電が、起き上がるのを見計らったように、ペットボトルの水を渡す。
「あ、ありがと………」
起き上がると、周囲を見渡す……自分の部屋だ……彼女は首を傾げた。
「あれ………?」
最後の記憶は、居酒屋鳳翔でぷっつり、途切れている。
今は司令官私室。ということは、酔い潰れたか……湊は、思考を巡らせる。
「昨日は、長門さんに送ってもらったのです」
そんな、湊の表情を察したのか、一番の力持ちに送ってもらったことを告げる。
湊はお酒が進むと、ニコニコとし始めて、そのまま突然、バタッと寝てしまう。
これまでに、その姿を晒したのは、居酒屋鳳翔の開店日だけだった。
ああ、やってしまったと時計を見ると、
自らの格好を確認すると、シワだらけのカーディガンに、迷彩服ズボン……
そのままの姿で寝てしまったようで、大きく溜息を吐くと、送別会前に用意しておいた、着替えをひっ摑んで、バスルームへと消えていった……
数十分後。流石に今日は海軍の制服、白いズボンに白い詰め襟姿で、先程のペットボトル片手に戻ってくる。
もちろん、念入りにお化粧も済ませてある……
普段の姿は、可愛い事務員のお姉さん、と言った雰囲気だが、白い詰め襟姿だと、
士官学校で伝説となった、『不敗の女神様』という、あだ名のままの、可憐な姿に電は思えてきた。
「今日の予定は、追加人員の受け入れと、退役希望者の輸送船乗り込みと、歓迎会、他にありましたっけ?」
姿格好はビシっとしているが、柔和な雰囲気で微笑みながら――きっと裏では頭痛と戦いながら――電にスケジュールを確認した。
電は、手に持っていたクリップボードを手渡す。そこには、今日の予定と通信事項等が、抜粋して記載されている。
「どれどれ……ぶっ!?」
水を飲みながら確認しようとして、噴き出すところだった。
……と言うより噴き出した……
着任予定者(主要者)
・独立外郭艦隊副司令官 大村恵一郎 大佐
・同参謀長 大村奈緒 中佐
・同法務士官兼作戦参謀 高天原智子 少佐
・青ヶ原泊地防御隊長 各務原裕二 大尉
また、専任秘書艦電は艦隊司令官副艦を兼任するものとする。
……士官学校出でない各務原大尉以外は、
「ちょ、これなんですか?!さては……あの……っ」
彼女の脳裏に、今の彼女の上官であり、士官学校当時の校長でもあり、今回の核使用問題も、留守部隊として統括しており与り知らぬ立場ながら、
先手を打って、軍部全体の責任として辞表を出し慰留された、山本司令長官のしたり顔が浮かんだ……
あの狸爺!! と口に出そうになるが、必死に堪える。
そもそも、この泊地にやってきたのも、前任者の横暴に耐えかねて、助けを求め、横須賀に瀕死で逃げてきた電を救助し、
湊率いる制圧隊が第13泊地を制圧した後、
しかも、少佐から
「はぁ……どうするんですか……士官学校同期を首脳部に固めて……軍閥化の第一歩じゃないですか。
しかも、あの新婚夫婦まで……それか……」
心配そうな顔をして、見ている電を気にせずにブツブツ呟く、たまに見せる電命名『ブラック湊ちゃん提督』モードである。
この司令官、物腰穏やかだが、そのままどぎつい
しかも、かなりエグい切り込み方をする為、その
その新婚夫婦、大村奈緒と恵一郎は士官学校の同期だった。
大村奈緒は、湊の親友でもあり、士官学校次席卒業後、横須賀鎮守府作戦参謀だった頃も、少佐と大尉の関係ながら、
同等な付き合いをしている仲である。後に判明したのだが、大村家は代々海軍・海自の家系であり、
彼女の高祖父(曾祖父の父)は大和の乗組員だったそうな……
卓越した白兵戦技術と優れた戦略眼の、バランスの取れた士官である為、昨日までは司令長官護衛を兼ねて、横須賀鎮守府次席副官の任を帯びていた……
恵一郎は先年、かねてからの想い人奈緒と結婚することになるのだが、一人娘の奈緒と結婚する条件が、
大村家へ婿入りすることだった為、長男だが大村姓を名乗っている。旧姓は神南。
彼は、本来だったら准将だったが運悪く、連合艦隊司令部分艦隊司令官だった為、全員降格の巻き添えを食らって、大佐に降格していた。
その為、分艦隊司令たる資格を失い、無任所の身として、昨日までは横須賀鎮守府司令部付きとなっていた。
士官学校は主席卒業。 エリートコースを進んでいたが、
組織の接着剤とも言うべき存在で、数多の部署で活躍してきた英才である。
湊が、その親友達の着任に呆れ返った理由は、一つである。
仕事はきっちりこなすが、プライベートが
結婚した時には、既に奈緒は妊娠しており、恵一郎は危うく、激怒した奈緒の父親に殺されるところだった。
それを救ってくれたのも、奈緒の
今は一人娘の恵奈ちゃんーーもう五歳になったそうだーーと三人の家庭を築いている……
両親は娘を溺愛しており、夫婦揃っての赴任ということは、娘も同伴であろう……
言い方は悪いが、体よく押し付けたのだ。三十路を迎えてなお独身を持て余している湊に……
そしてもう一人の懸案事項は、高天原智子である。
冷静沈着、高い事務処理能力と情報処理能力を併せ持つ、クールな眼鏡美女である軍官僚であるが、
一つだけ問題があった。湊よりも純度の高い、
ただ、最終的な面倒見は良いので、ツンデレだのクーデレだの言われている。
最後の一人は、各務原裕二。
この時43歳、現場の叩き上げで、元レンジャーで西部方面普通科連隊に所属していたところ、
人材交流という名目で山本に引き抜かれて、国防軍となった後も、陸軍に籍をおいたまま海軍へ出向し、横須賀鎮守府第一陸戦隊長を務めている、大ベテランである。
愛妻家だったが、病弱の妻は出産時に夭折した為、一人娘の結有(ゆう)を、男手一つで育てているそうだ。今年15歳になる……大のパパっ子だそうだ。
湊にとっては、訓練の鬼と称されるほどの訓練の厳しさ以外は、穏やかで常識的な彼が、
「あの、司令官……」
ふと、我に返ると、湊はこめかみを軽く揉み解してから、笑顔を作る。
「いえ、
などと、毒物で真っ黒くなった言葉を続けて吐くと、電の顔は、少々苦笑いへと変わる。
「そ、そうなのですか……」
その苦笑いに気づくと、湊はふぅと溜め息を吐いて、穏やかな笑顔に戻る。
「まあ、優秀な人材です。思いつく限りの最高の護衛兼副官と、信頼できる副司令官。性格に難はあるも、優秀な作戦参謀、あとは、唯一の良心の防御指揮官、あとは……」
そう言って、言葉を止めるとにこやかな笑顔を浮かべる。
「
などとほざいた………
ああ、
次回は着任の様子。
当面は主要面々と艦娘達を
一人~二人づつスポットを当てたお話にしていこうと思います。
あれ短編とは一体……