今回はこっちの主人公(湊ちゃん)は殆ど出てきません。
結有が、負傷から復帰して、少し経った。
恵奈のお付きという役目が、暁に移った為、未だに司令官付きということで、自由な時間も多い結有は、今日も、日が昇った頃から、吹雪と早朝ロードワークに、出かけている。
高低差の多い、青ヶ島とは違って、埋立地にある金城埠頭は、割と平坦な道路の為、結有も、自転車から走りに代わり、吹雪を追いかけながら、ついていく。
半年以上、青ヶ島で、毎朝走り込みを行っていた二人は、いつしか、名前で呼びあうほど、仲良くなっていた。
そして、途中の公園で、二人で組手をやる。それから、少し休憩して、警備府庁舎に戻り、シャワーを浴びてから、朝食を摂るのが、ここに来てからの、日課となっていた。
もちろん、恵奈のお世話をしている間も、朝に弱い恵奈は、ロードワークが終わって、シャワーを浴びて戻ってくる頃に、起きてくるので、吹雪とのロードワークは、欠かしてはいない。
数日前に、吹雪の日課の、ロードワークの同行に復帰した結有だったが、
復帰してからと言うもの、吹雪から見ても、オーバーワークに感じられて、吹雪は、不安を覚えていた。
途中の公園で、組手をこなした後、ベンチにふう、と息を整えながら座る結有に、吹雪は、自販機で買ってきた、スポーツドリンクを差し出してから、隣に座る。
「ねえ、結有ちゃん」
「あ、ありがと。どうしたの?吹雪」
スポーツドリンクを受け取りながら、吹雪の方を見る結有に、
「最近、無理してない?」
「あー……吹雪には隠せないか……」
お見通しだろうな、と言わんばかりの、苦笑いを浮かべて、スポーツドリンクを飲むと、前を……海の先の水平線を見て、ポツリと語り出す。
「僕はね……自分が何者だか、わからなくなる時があるんだ」
「えっ?」
キョトンとしている吹雪に、軽く笑うと、
「あのね、僕は、普通の人間だ……と思うんだけど、なんだろう。前に、僕は、沈んでいく、時雨の夢を見たんだ。その後から、僕は、自分が何者か、わからなくなる時があるんだ。あのレ級の時だって、なんというか、ハイになった。一瞬だけ、
「………」
その言葉に、吹雪はかけるべき言葉を、見つけられないでいた。
「でも、こうやって吹雪と走っていると、僕は僕なんだ、と思うことが出来るよ」
「うん、結有ちゃんは、私の友達だからね!」
その言葉に、優しい笑顔を向けた結有は、立ち上がる。
「よし、戻ろっか。目標は、昨日のタイム1秒短縮!」
「うん!それじゃあ、いくよ!」
立ち上がると、二人して公園を走って後にする。
警備府に帰り着くと、艦娘寮に立ち寄り、艦娘浴場で、シャワーを浴びる。
恵奈や結有は、慣例的に、こちらの方を利用しているのだ。
一応、警備府の規則は、国内法、艦娘基本法、国防軍基本法などの関連法規、部隊規則に反しない限り、司令官・湊麾下の警備府幕僚会議で、決定することが出来る。
こっそり、「女性は、艦娘寮長に申し出の上であれば、艦娘浴場も利用可」と、加えておいてあるのだ。
ただ、営内には、男女それぞれ浴場がある為、わざわざ寮長に申し出るのが、二人しか居ない、という訳である。
「痣になっちゃったなぁ……」
頭を洗いながら、鏡に写ったお腹の痣を見て、溜め息を吐く結有。
「強烈だったの?レ級の蹴り」
その結有を覗き込んで……一瞬、上に視線が移ってから、痣を見つめながら、問いかける吹雪。
「なんというか、交通事故に遭ったら、こんな感じなんだろうな、って衝撃だった。空手の道場でも、こんなケリは、滅多に無かった」
「滅多に………」
滅多に、ということは、あるのかなあ?と思っていると、
「うん、通ってた横須賀の道場って、全国にある、僕の流派の総本部で、プロレスラーの梶本真太選手も、よく顔を出していて、青ヶ島に来るちょっと前に、プロテクター完備、サンドバッグ越し、後ろで大人が支えてる、って状態で、ケリを受けさせてもらった時も、こんな感じだった……」
「うわぁ……」
梶本真太という選手は、真日本プロレスのトップレスラーで、強烈なケリで、外人レスラーを蹴り倒して行く、巨漢の選手だ。
中学生で、そんな無謀なことをする方も、やる方もどうなんだろう?と吹雪は思いながら、声を漏らす。
「次に、あんな奴が出て来たら、僕は、絶対負けないよ」
「ちょ、ちょちょ、あのですね、結有ちゃん?」
力強く言う結有に、慌てた口調で、ツッコミを入れる吹雪。
「ん?」
「結有ちゃんは、海兵旅団みたいになりたいの?半分
艦娘側からしても、上陸すると、砲雷撃が出来ないにせよ、陸上で、深海棲艦を駆逐してきた海兵旅団は、ある意味『人外』の存在という認識が、大多数なのだ。
「そういう訳じゃないんだけど、不要な争いを避ける為に、腕を磨くのが武道なら、避けられない戦いでは、
「武道…か……きっと結有ちゃんは、努力する目的と意味を知ってて、そこにまっすぐ向かってるんだね。でも、焦っちゃだめだよ?」
まっすぐ、真面目な顔をして語る結有に、吹雪は、優しい笑顔で、ぽんと背中を叩くと、自分の体をシャワーで流して、湯船に向かう。
「ん、ありがと」
小さく礼をいうと、自分も、シャワーで泡を流して、吹雪の後をついていく。
「ふぅ、いい湯だなぁ~」
「そうだねぇ~」
のんびりお湯に浸かってると、脱衣所から、賑やかな声が聞こえる。
扉が開くと、朝は弱いが、起きると元気娘である大村恵奈、後ろからやってくる暁。二人の左薬指には、白銀色のリングが輝いている。
「わー、やっぱり、結有お姉ちゃん達いたー!」
「恵奈、ちゃんと身体洗ってから、お湯に入るのよ」
結局、『寮長の特別な許可』の上で、恵奈は、電以外の暁型と同じ部屋で、寝泊まりすることになった。
艦娘の重要性を認識している艦娘本部は、寮内に限り、割りと寮長に権限を持たせて、自由にさせているのが普通である。
中部警備府艦娘寮長加賀は、規則違反には厳しいが、規則の範囲内で、融通を利かせることに関しては、気の利いた寮長である。
ケッコンカッコカリをしている相手と、艦娘の『同居』は問題ない。という、今までの前例を、うまく適用した形になる。
もちろん、軍人の家族とはいえ、民間人とケッコンカッコカリをする事は、ほぼ皆無であり、あったとしても、
「おはよう、恵奈ちゃん、暁」
「おはよう!」
結有達は、そろそろ上がるところなので、お風呂から上がりながら、挨拶をする。
「おはようございます!」
「よく出来たわね、恵奈。おはよう」
恵奈を褒めながら、挨拶をする暁。
「今日はオフだけど、どこか行く?」
「んー……まだ、色々揃ってるのは、名駅くらいなんだよね」
二人共、ちょうど非番の為、吹雪は寮長、結有は司令官の湊―――は本日休暇で、電と
艦娘も軍属も、その辺りは、きちんと報告すれば、外出は門限までに帰れば、問題はないのだ。
丁度、艦娘寮の、外に出られる出口から出た時、挙動不審の男が、警備府から出るのを目撃した。
「吹雪、あれ……」
「何だろ……?」
軍服は着ているが、辺りを窺って出て、駅に向かう男を、不審そうに見てから結有が、
「追いかけよう」
「ええっ」
その言葉で、追跡が始まった。
ちなみにその頃湊ちゃんは電と仲良くお菓子作りの真っ最中。