男は、大事そうにカバンを抱えて、電車を乗り継いで、名古屋駅に向かう。
私服である彼女達も、同じ電車に乗り、追いかけた。
まだ、新幹線と仮設電車しかない名古屋駅は、かつての名駅の頃よりは、人は多くないが、見失わないように、気づかれないように早足で、二人で男を追いかける。
男は、新幹線の券売機で、特急券を買って、改札を通る。
「どうする……?どこで降りるか、わからないよ?」
「……東京まで買おう!」
吹雪は即決すると、券売機で、東京までの特急券を二枚買って結有に渡すと、二人は急いで、改札を通り抜ける。
そして、男の乗る新幹線に飛び乗った。
「勢いで来ちゃったけど……大丈夫?」
「うん、なんでもなかったら、プチ旅行ってことで、東京行って、ちょっと遊んで帰ろ?二~三時間位は遊べるから」
衝動だけで、結果新幹線に乗ってしまった結有に、ポジティブに答える吹雪、もちろん男の様子を見ながら……
結局、男は、豊橋駅で降りた。
結有達も、豊橋駅で降りて、男を追いかける。
大事そうに、鞄を抱きかかえながら、海の方へ向かう男に、追いかけて行く、少女達。
そんな様子を、駅前で、釣り道具を片手に、電子タバコを吹かしている、眼帯をした女性が、不審そうに見ていた。
「おまたせ、コーヒー」
ボーイッシュな女性が、駅の売店から出てくると、眼帯の女性は、その少女たちを指差す。
ボーイッシュな女性も、ハッとした顔になって、コクリと頷いた。
かくして、結有達は、男を追いかけながら、眼帯の女性達に、尾行されることとなった。
豊橋港にある、大きな倉庫―――かつてブラック泊地だった場所で、終戦後、安藤監察官着任前に、閉鎖となった場所。
今は、半分廃墟と化している、その建物に、男が入っていくのを確認して、
吹雪と結有は、お互いに頷いて、敷地の中に向かった……
もちろん、ここが、かつての泊地だった、等とは、知る由もないが、怪しげな廃墟に入っていく軍人、というだけで、十分怪しいと判断して……
「おい、ここ……」
眼帯の女性は、二人が建物に入っていくと、咥えていた電子タバコを、ホルダーにしまいこんで、
「ブラック泊地で、閉鎖された、って聞いてるけど」
「それにしても、時雨カッコカリみたいな子と、アレは吹雪だったか、私服で、何やってるんだ?」
「とにかく、行ってみよう」
二人の女性も、それを追いかけて、廃墟と化した、旧豊橋泊地の門をくぐった。
結有達は、大きな倉庫の建物を、外からぐるっと迂回して、中が覗けるところを、確認していた。
「あそこ、覗けそう」
「うん」
そーっと、窓から覗き込むと、倉庫内には、所狭しと建造装置が並べてあり、多数の、作業着姿の男達が、中にいる。
そして、中では、偉そうなスーツの男が、一人座って、その様子を見ている。
先程の男が入ってきて、鞄から、瓶を取り出す。
「あれは……?」
「……!!」
結有は、馴染みが薄いが、吹雪には、見慣れたものだった。
そう、高速建造剤の
通称【バーナー】の、燃料だが実際には、高火力バーナーとしても使用できる、可燃物なだけで、建造プラントに、
原理は、科学的には解明されておらず、そういうものだ、という結果を元に、艦娘の夕張と明石が、設計した代物である。
こんな、使われていない泊地で、大量の建造装置……男が取り出した、高速建造剤の原液を受け取った、中の男たちが、希釈して流し込むと……
生み出されたのは、艦娘
「!!」
その光景に、衝撃を受けた二人は、足元のガラス瓶を、踏んでしまう。
パリンッ……
「何者だ!!」
軍服の男が、即座に九ミリ拳銃を抜いて、発砲する。
銃を抜いた瞬間、二人共、屈み込む。
発砲音と共に、ガラスが割れる。
「吹雪、海から逃げろ!」
「でも、結有は!?」
「僕は、陸から逃げる!」
「わかった!」
吹雪は、そのまま走ると、その先の海に飛び込んで、艤装を展開する。
そのまま沖まで加速する……ここから名古屋まで……突っ切れば……
背後から、次々と、泊地の軍港から、追いかけてくるのは、戦艦ル級の群れだった。
そして、前からも……
「う、嘘でしょ……?」
吹雪は、背筋に、悪寒を覚えていた。
「くそっ!」
結有は、先程の道が、男達に封じられる、と気づくと、敢えて建物の中に入って、追いかける男達と、死闘を繰り広げていた。
扉の陰に隠れ、開けて、中に入ってくる男を、扉ごと蹴り飛ばしたり、
階段を上がって、階段の脇に隠れ、上ってくる男にケリを入れ、追いかけてくる男達を、将棋倒しのように倒したり……
銃を持ってるヤツは、あの士官だけだった。作業着姿の男達は、刃物は持っているが、銃は持っていないようだ。
刃物を、うまく躱しつつ、建物の死角から、急所に打撃を与えていく。
ただ、奥まで潜り込み過ぎた……走り抜けた先は、行き止まりだった……
「ここまでだな………」
「くっ……っ!」
先程の、偉そうな男が、ニタニタと、下卑た笑みを浮かべて、歩いて来る。
結有は、この男を見たことがある。
「横澤元少将!?」
「私のことを、知っているようだが……見たからには、死んでもらうよ」
手に持っていた拳銃を向け、トリガーを引いた。
「ごめん……吹雪……」
発砲音がして、ギュッと目を瞑った瞬間、目の前のガラスが、派手に割れ、中に、誰かが飛び込んだ。
マントを羽織って、眼帯を着けた女性が……
何時まで経っても、痛みが来ない結有は、目を開ける……
横澤元少将は、銃を握ったまま、倒れていた。胸には、投げナイフが刺さっている。
「うぐぐぐ……」
まだ、生きているようで、苦悶の声を上げる、横澤元少将。
目の前の、マントの女性が、投げたようだ。
「あ、貴方は……」
警戒しながら、問いかけると、マントの女性は、ニヤリと笑った。
「オレは――――通りすがりの海賊だ」
「は、はい?」
そういった直後、ボーイッシュな女性が、階段を登ってやってきた。
「木曾!中部警備府に連絡したよ。すぐにお嬢さ……湊提督が、高速艦艇差し向けるって!あと、下の連中は、全員片付けたよ!」
「よっしゃ!最上、こっちも片付いたぜ。ええと、お前は、
木曾が、再び結有を見ると、
「はい、中部警備府司令官付き、各務原結有軍属一等兵です」
「軍属か、よし。ついてこい」
「はい!」
最上、木曾と共に、先程のプラントに戻ると、男達は、全員殴り倒されており、建造装置は、最上によって、ハンマーで破壊されていた。
「これでいいな。後は、軍の到着を待つだけ……」
「吹雪!?」
結有が、何気なく沖を見ると、追撃を受けている、吹雪の姿があった。
「おい!各務原!!」
木曾が止める間もなく、結有は、埠頭に接舷していた、モーターボートに飛び乗って、エンジンを掛けていた……
「おい!」
慌てて、木曾も飛び乗る。彼女は、既に
「吹雪を助けに行きます!」
「ああもう!わかったから、オレが操縦やる!どけ!」
その言葉と共に、木曾は、半ばヤケッパチで、スロットルを全開にする。
電「湊とのデートを邪魔するやつゆ゛る゛さ゛ん゛のです!」
湊「ご、ごめんね……」