その頃、豊橋沖では……
「くっ!!」
第2艦隊一の練度の、吹雪とは言え、大量のル級を相手の迎撃戦は、燃料と弾薬を消耗していた。
不幸なことに、この周辺の泊地は、みな廃止されており、深海棲艦に対抗できる手段が、失われていた。
まさか――――廃棄された泊地で、深海棲艦の増殖を試みてるなんて、思う筈もなく、
半包囲を受けていた…… 一番後ろの、ル級
「ごめん……結有ちゃん……」
――――諦めるな……!
「!?」
その、一番大事な友人に、
背中が………熱い……
「はぁぁぁっぁぁぁぁぁっ!!」
その熱さに乗っかるように、大きな叫び声を上げると、吹雪の身体は、光り輝いた。
輝きが収まると、いつの間にか、改二艤装が展開されていた……背中はまだ熱いままだ……
「吹雪……抜錨します!!」
ル級の砲撃を、くぐり抜けるように、駆け抜ける。
とても……熱い……熱すぎる……
バチッ……背中の熱さと共に、スパークが走り出す……
「艤装暴走………死なば諸共!!!ごめんね……結有ちゃん!」
特攻しようと、向きを、ル級に向けようとした時、
「吹雪ぃぃぃぃぃ!!!!」
ル級FSの後ろに、Uターンして滑り込むモーターボートから、結有が叫び声を上げた……
「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
モーターボートの手摺りを左手で摑んで……ル級FSの側頭部に、全身全霊の、回し蹴りを叩き込んだ。
その回し蹴りは、光り輝く霊子の軌跡を描いて、振り抜かれた。ゴキッ……鈍い音が響いて、そのまま、ル級FSは海面に叩きつけられ……浮かび上がることは、なかった。
結有の左薬指には、白銀色のリング、そして鋭い目つきの瞳は、
「うおっ!?マジかよ!水飛沫で、注意逸らすんじゃなかったのかよ!?」
深海棲艦を、海上で蹴り倒した結有を見て、驚愕の声を上げる木曾。
「吹雪ぃぃぃ!!!諦めるなぁぁぁぁ!!!」
「結有ちゃぁぁぁぁぁん!!!」
その時、吹雪の艤装が、光り輝いた……
光が収まった吹雪は、自分の艤装が、正常に戻ってることに気づいた。
両手を見ると、左薬指に白銀色のリング……
その時、陸地の方で、大きな爆発音が響いた。
ハッとして、陸地を見ると、泊地の建物だった場所で、爆発が起こっていた。
「最上ぃぃっ!?」
木曾が叫ぶと、吹雪が結有に叫ぶ。
「結有ちゃん!戻ろう!」
「え?でも、ル級の群れは……あ、うん。行こう!」
結有は、遠くから、強い霊子が、高速で近づいてくることを、感じ取っていた。
おそらく、吹雪も……感じているだろう……
「急ぐぞ!吹雪も摑まれ!」
木曾が、急激なUターンをかけて、ル級に背を向け、旧豊橋泊地跡に向かう。
吹雪は、オーバーロードの、目にも留まらぬ速度で、ル級を擦り抜け、モーターボートに追いつくと、そこに摑まって、曳航される形になる。
それを追いかける、ル級の群れの背後から、現れたのは……中部警備府の駆逐艦部隊、暁型四姉妹だった。
そう、湊は
暁は、恵奈からの、
「あんた等の相手は、この雷様達よ!」
「間に合ったわ!恵奈ちゃんの大好きな、結有達をやらせないわ」
「ウラー!」
「三枚にフ゛チ゛お゛ろ゛す゛の゛て゛す゛!」
電は、日本刀を背負っていた……そして、
そして、電だけがオーバーロード状態で、日本刀を抜いて、ル級に突っ込んでいった……
「あ、ちょ」
呼び止めようとする雷。
「うん、デートの邪魔されたから、仕方ないね」
完全に他人事のように、肩を竦める響。
「ああもう知らないわ!砲雷撃戦開始!」
通常状態に艤装を戻しながら、半ばやけっぱちのように叫ぶ暁。
もちろん、その後方からは、中部警備府の主力艦隊が、向かってきている。
ル級達の命運は、ここに、尽きたのだ。
多分、主力艦隊到着前にはだいたい……
旧豊橋泊地跡に向かうと、見たこともない、巨大深海棲艦が、建物を破壊している。
最上は、なんとか埠頭に脱出している。
「アレ、何……?」
「見たことのない、深海棲艦……」
「最上!何があった!」
その言葉に、最上が、戻ってきた面々を見て、安堵する。
「ボクもわかんないよ!突然、壊れた機械が融合し出して、深海棲艦化したんだ。倒れてる人間も、取り込んで溶かして……」
「ここで倒さないと……街に被害が及ぶ!」
結有は、モーターボートから、埠頭に飛び降りる。
「結有ちゃん!なんとか、海に叩き落として!」
「わかった!最上さん、木曾さん!」
「うん、ボクは、生存者の救助に行ってくる!!木曾!これがあったよ!」
結有の言葉に、軍刀を持っている最上は、木曾に投げ渡す。
受け取った木曾は、スラリと刀を抜き放つと、声を上げた。
「よっしゃ!ラストダンスだ!」
三mを越す、巨大深海棲艦だ。
パンチをする度に、埠頭のコンクリートが抉れる。
「うわっ!これ食らったら……?」
結有が、引きつりながら、攻撃を躱す。
「オレ達も、ヤバイかもな」
軍刀で、背後から切りつけ、ダメージを与えながらも、木曾も、戦慄を覚える。
最上は、崩落している瓦礫を、高練度の元艦娘の強靭な力で退けながら、生きてる人間を運び出す。
「結有ちゃん、後ろ回って!」
「うん!」
吹雪の声に、結有は、深海棲艦の背後に回る。吹雪は、高角砲を向けようとして……
深海棲艦は、吹雪の方に向くと、口を開き、超巨砲を展開させる……
「え゛!?」
ズドォォォォン!!ズドォォォォン!!
「キャアアアっ!?」
全速で、後ろに避けるも、
当然ながら、深海棲艦自体も、反動でズズズ……と後ろに下がる。
結有は、その瞬間を、見逃していなかった。
「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
発射の直前、バックステップして、発射と同時に、全力で飛び込んで、巨大深海棲艦の背中に、全力での胴回し回転蹴りを叩き込んだ。殆ど、浴びせ蹴りに近い体勢で……
「ガアアアアアアアアア!!!!!」
砲撃の反動も加わった、強烈な衝撃が、背中から全身に及んだ巨大深海棲艦は、ヨタヨタと、海に向かっていく。
「うおあああああああああ!!!!」
「おちやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
地面に叩きつけられながらも、立ち上がる結有と、同じく後ろに回り込んだ木曾が、再び、巨大深海棲艦の背中に、タックルを喰らわせる。
「ガアアアアアアアア!!!!」
ドッボォォン!!
バランスを崩し、海面に倒れ込んだ、巨大深海棲艦を、待ち受けていた吹雪。
「吹雪、いまだぁぁぁっ!!」
「魚雷発射ぁぁぁ!!!沈めぇぇぇぇぇぇ!!!」
真っ赤に燃えた艤装から放たれた、真っ赤な酸素魚雷が、立ち上がろうとする、巨大深海棲艦に命中し……
カッ!!と巨大深海棲艦から、強烈な光が放たれた。
「え゛!?うわああああああ!?」
慌てて、防御態勢を取る吹雪。
ズドォォォォォォン!!
巨大深海棲艦の中に、内蔵されていた、弾薬諸共、木っ端微塵に吹き飛んだ……埠頭や建物ごと……
空には大きなきのこ雲…… きっと豊橋市は、大パニックだろう。
「はぁ……はぁ……あ、あれ……ゆ、結有ちゃん!?結有ちゃぁぁぁん!?」
「こ、こっちだよー………」
「はー……死ぬかと思ったぜ……」
爆炎が晴れた先に、結有の姿がなく、結有の名を叫ぶと、後ろから、弱々しく声が聞こえる。
はっと後ろを見ると、モーターボートの残骸に摑まってる、結有と木曾の姿があった。
あの瞬間、木曾が
「やべえ!あのバケモンの中にある、砲弾の弾薬が誘爆したらやべえ!海に飛び込め!」
「はいっ!」
と、木曾が、結有を庇うように抱きかかえながら、巨大深海棲艦を飛び越え、海に飛び込もうとしたのは良いものの、大爆発の衝撃で吹き飛ばされ、吹雪を飛び越えて、海へと真っ逆さまに、ダイブしていた……
「「ぎゃあああああああ!!!!!」」
という、二人の悲鳴は、爆音と衝撃に、防御姿勢を取った吹雪には、聞こえなかった……
ダイブした先に丁度、モーターボートの残骸が浮かんでいたため、仲良く摑まっていたのだ。
二人共、かなりボロボロである……
沖の方からは、主力艦隊と暁型姉妹が向かってくる、
完全に、瓦礫と化した建物から、最上が這い出て来る。
「し、死ぬかと思った……」
こちらも、ボロボロである。
最上は、横澤元少将を含め、何人か救助していた。
ナイフで刺されたのに、しぶとく生きている、横澤元少将はじめ生存者は、駆けつけた
吹雪は、木曾達を曳航して、豊橋港の埠頭に降り立った。
もちろん、結有を
「おい、扱い違うぞ」
という、木曾の文句を受けながら……
「しかし、派手にやっちまったなあ。オレたちの休暇、どうしてくれるんだよ?」
「全くだよ、明日からまた、名古屋で工事だよ」
爆発した、旧豊橋泊地跡地の残骸を眺めながら、愚痴を零す、村上建設の社員である、木曾と最上。
港周辺は大混乱だ。救急車や消防車、パトカーのサイレン音が、至るところで、聞こえている。
「あはは。そっちは、司令官に掛け合ってみます」
苦笑いをしながら、結有を降ろして、一旦横たわらせる吹雪に、起き上がろうとする結有だが……緊張が解けたのか、右足から走る激痛に悶絶する。
「―――――っ!!!」
「結有ちゃん!?」
「あー、言わんこっちゃない」
「救急車呼ぶね、あ……画面割れてる。」
声すら上げられず、右足を押さえて唸る結有に、吹雪は、心配そうな声を上げ、
木曾は、大きな溜め息を吐き、最上は、画面が割れても安心の、ガラケー派だったので、さっと119番通報する。
木曾と結有のスマホは、当然ながら、液晶もグシャグシャの上、水没である。
結局結有は、再び救急搬送されたのだった。
吹雪以外は、大小の負傷を負っているため、全員、病院で治療を受け―――軍人ではなくなった木曾達には、軍用品である、高速修復材は使えないので―――
結有は、全身の擦り傷、軽いやけどの他に、右足首靭帯損傷に、亀裂骨折複数、骨折が治りかけてた肋骨に、再びヒビ。
電を除いた、中部警備府の艦娘達は、旧豊橋泊地跡の残骸を、陸軍警務隊に引き継ぐと、即日、帰還の途についた。
電は、ル級を片付けたら、光の速さで帰還した。とは、長門の談である。それを見送りながら、艦娘寮長加賀は、「困ったものね」と呟いたとか。
電「只今なのです」
湊「帰ってくるの早すぎない!?」