前作ではぱっと出て、何も見せ場のないまま懲戒解雇を食らった
バンド野郎の草加拓哉率いる独立艦隊のお話。
通常の艦娘とはちょっと性質の異なる任務を帯びた彼女らについてのお話。
ちらほら出てきた《艦娘基本法》と今回の《日本海の海賊》について用語説明に加えました
中部警備府は、近頃負傷から癒えた――艦娘ハーフである結有は、割りと怪我の治りも早い――結有まで駆り出されて、大忙しである。
翌週に、幕僚会議が、建て直されたばかりの、新国際展示場で行われる為、中部警備府幕僚から、艦娘達や恵海まで総動員で、準備が行われている。
幕僚会議当日。
周辺警備は、警備府管内の―――と言っても、愛知三重岐阜だけだが――泊地に、海上警備命令を出し、
暁以外の第2艦隊が、名古屋の海を警備している。
何かあれば、展示場のすぐ近くの警備府から、2艦隊も、いつでも出られるように、準備万端だ。
恵奈ちゃんは、今日は暁とお留守番である。
そんな中、結有は、会議会場である展示場の外で、不審としか思えない人物と言い争っていた。
金髪を逆立てツンツンさせて、革ジャン革ズボンにトゲトゲベルト、ギターを背負ってる男だ。
「あなた!ここは海軍の会議場です!一般人は……」
「るせぇ!オレはなぁ、
「すみません。もうちょっと、わかりやすく言ってもらえますか?」
ザ・デストロイヤーズのヘッドと言われても、結有も困る。
「あー。お久しぶりです!!草加先輩!」
それに気づいた、ちっちゃい子こと、中部警備府司令官の、高梨湊准将が走ってくる。
「そうか、草加……せんぱ……失礼しました!!」
ビシっと、敬礼をする結有。その落差に、拓哉が笑ってる間に、湊も結有の隣までやってくる。
「相変わらずパンクな格好ですね。
親しく話している湊に、この
湊の先輩の、安藤龍も『変人』だが、目の前の先輩も、結有の考えてる『変人』の領域を、飛び越えている。
「結有。この人は、舞鶴鎮守府の外郭独立艦隊《ザ・デストロイヤーズ》司令官の草加拓哉少将です。私の3つ先輩、
「僕は、中部警備府司令官付の各務原結有上等兵です。先程は失礼しました!」
恐縮しまくっている結有に、拓哉も、面白そうに笑う。
「おう、知ってるぜ。豊橋で大活躍したスーパーガールってな。今度また、カバーCD出すから、サイン付けて送ってやんよ」
「C……D……?」
キョトンとしている結有に、湊は、笑いが堪え切れなくなりそうになる。
「草加少将って、趣味で、艦娘とバンドやってるんですよ。自主制作で、何枚かCDリリースしてるんです。ハードなメタルからポップス的なものまで、幅広く。出す度に、見知った後輩に送りつけてくれるんで、今度貸してあげますね。動画もアップされてますよ」
「ハードなメタル………すみません、僕音楽詳しくないので」
申し訳無さそうな顔をする結有に、笑いながら拓哉は、バンバン結有の背中を叩く。
「おう、良いってことよ。それじゃあ、音楽初心者の為に、メタルについて……」
「先輩、長くなりそうなので、それはまたの機会に」
説明を始めようとする拓哉に、チョップの仕草で遮る湊。
「一応、その下軍服でしょう?会議には軍服でお願いします」
「おうよ。久々の幕僚会議で、ちょっと気合い入れてきちまったぜ」
その言葉に、不思議そうな顔をする結有に、湊が答える。
「久々……なんですか?」
「それはですね、このザ・デストロイヤーズの部隊の性質で、幕僚会議とかに
そんな湊の言葉に、拓哉は、
「ちょっと、ここじゃ人も多いし、ベンチでコーヒーでも飲みながら話そうぜ。まだ会議まで、時間あんだろ?」
というわけで、三人仲良く並んで、ベンチに座る。
結有はレモンティ、拓哉はブラックコーヒー、湊はミルクティの缶を、それぞれ手にしている。
「草加少将の部隊は、正式名称がものすごく長くて、
そう言うと、湊は、すーっと、息を吸い込んだ。
「舞鶴鎮守府深海棲艦及び海賊及び排他的経済水域・領海侵犯船舶に対する警備及び迎撃を主任務とする外郭独立艦娘軍艦混成艦隊」
「長っ!?」
結有のツッコミに、拓哉がコーヒーを飲むと、
「最初は、デスメタラーズにしようとしたんだけどな。音楽性の違いによって、反対されてこうなったんだよ」
ものすごく、残念そうに語る。
「デスメタラーズ……音楽性の……違い……」
もはや結有は、突っ込む気にも、なれなくなった。
「というか、海賊とか、軍艦組に任せればいいじゃないですか」
結有は名前を無視して、海賊に艦娘?と、不思議な顔をして、拓哉に問う。
「と言うだろ? 深海棲艦も
そう言うと、缶コーヒーを飲み干す。
「ヘリコプター搭載型護衛艦一隻と、艦娘が、混成艦隊を組んで、対処すれば良いんじゃね?という、な。だから、戦時中のオレ達の、主任務海域は、日本海
「練習って、バンドの練習ですよね……オカーチャン……大きな家みたいですね……」
もはや、結有も突っ込みきれない。
そんな結有の顔を見て、湊は、真顔に戻る。
「あんまり、公になっていないのは、彼女たちが「海賊にも対処」するという点なんです」
湊が、ぽつりと補足を加える。つまりは、場合によっては、人間とも、戦わねばならぬ部隊……
「艦娘が、海賊船と戦う……」
「艦隊化前も、戦場で、海賊も深海棲艦も居て、軍艦組がいなかったら、艦娘達がやらなくてはならない海域なんですよ。元々、日本海って言う海域は……そこで、精神衛生の為に、音楽を始めたんでしたっけ?」
深刻そうに考え込む結有に、湊は穏やかな笑みで、拓哉に話を振る。
「最初は、那珂がヴォーカルやるって言い出して、姉二人が加わって、オレも、士官学校時代、メタルバンド同好会やってたし、そしたら、皆マジになっちまって、バンド結成よ。その直後くらいに、独立艦隊が結成されて、そのノリと、その場の勢いでインディーズデビューしようとしたんだが、それは駄目って話になって、自主制作CD、作ったって訳よ。艦娘のアピールっつー名目で、動画サイトにもアップして、割りとネットの知名度も出てきてな。
「ええっ!?」
驚く結有に、苦笑いを浮かべて、補足する湊。
「公務員と、現役の艦娘は、副業を禁止されています。それぞれ、公務員法と艦娘基本法で。プロのバンド活動、つまりメジャーレーベルでの、CD販売は違反行為になります。インディーズでも、駄目だと思います。実際、駄目って言われたみたいですから。動画サイトは、私が、先輩と
「あはは……」
結有も、苦笑いになる。湊は、ここでも暗躍していたのか、と。
……だが、今の説明をした湊は、居酒屋鳳翔青ヶ島店の一件で、グレーゾーンをやっている。鳳翔の退役手続きを取り、経営実権を彼女の物にして、実際の経営には、極力手を出さず、『出資者』ということで、うまく副業でないことにしている。軍敷地内での営業も、『士官クラブの民間委託』ということにしており、手伝いの艦娘も、名目上は『有志によるボランティア』だ。湊も艦娘も、一銭も受け取っていない『ことになって』いる。
金城埠頭にある、現在の居酒屋鳳翔本店は、『株式会社鳳翔フードサービス』が経営している店舗で、湊は、完全に手を引いている。
「ほんで、デストロイヤーズって名称には、三つ意味があってな。一つ目は、艦娘旗艦兼秘書艦が、
「ちなみに、メンバーは、那珂ちゃんに、神通さん、川内さん、翔鶴さんに、
二人の説明を、真面目に聞いている、何もなければ、真面目な結有。
「そうだ。今夜、名古屋のライブハウスでライブやんだよ。今、改装実装試験中の翔鶴も、呉から駆けつける、ってよ」
「それじゃあ、顔を出しますよ」
「あーっ!!いーたーのーでーすー!!」
笑いながら、拓哉の出すチケットを、何枚か受け取ると、電の声が聞こえる。電が、わりと激おこで、こっちにやってくる。
「司令官!!どこほっつき歩いてるのです!?山本元帥がお見えなのです!すぐにご挨拶に!」
「ああ、そういえば。ちょ、まって、歩けますから」
ぐいっと引っ張られ、ずりずりと、引き摺られて、連れて行かれる司令官。
「あーあ……それじゃあ、僕も失礼します」
「そんじゃ、オレも着替えてくっから。ライブ、皆連れて、見に来いよな」
湊を追いかける結有を見送ってから、己も建物に歩き出す拓哉。
なお、会議中は、黒髪のストレートヘアに戻っている拓哉に、結有は一瞬、誰だっけ?と思ったのは、言うまでもない。
それに気づいた時、何故金髪にした、何故逆立てた……と思わずには、いられなかった。
もちろん、黒髪ストレートヘアは、ウィッグである。
ちなみに、湊は、電に、後でめちゃめちゃ叱られた。
会議は、滞りなく終わり、その夜、名古屋に作られたばかりのライブハウスで、《ザ・デストロイヤーズ》の、柿落としライブが始まっていた。
ネットで噂の、殆どライブをしないバンドに、一般客も、数多くやってきていた。
「
バンド構成は、綾波がドラム、翔鶴がベースで、リードギターの隼鷹、サイドギターの神通、シンセサイザーの川内、そして、ツインボーカルの那珂と拓哉。
「しょ、翔鶴姉ぇ……」
彼女の知っている翔鶴と、バンド衣装の翔鶴の、あまりのギャップに、卒倒しそうになるが、都合がついて見に来た艦娘達も、幕僚達も、デストロイヤーズのライブに、大盛り上がり。
カバーも多いが、オリジナルも多い。那珂ちゃんは、ハードなメタルから軽快なポップソングまで、なんでもこなす、このバンドのヴォーカル。
もうひとりのヴォーカル拓哉は、とにかく音域が広い。ハイトーンヴォイスから、低音デスヴォイスまで、何でもこなす。
曲によって、メインとサブが入れ替わる、ツートップヴォーカルバンドだ。
「っしゃぁー!リクエストコーナー行くぜ!各務原!今日はお前さんが決めろ!」
ライブも終盤に近づいた時、後ろでウーロン茶を片手に見ていた結有は、指名されてキョトンとする。
「え?あ?僕? それじゃあ、X JAPANの紅を」
「おー!!いいじゃん!ほんじゃやろうか!」
拓哉の、シャウトにちかいMCから、演奏が始まる。即興で行けるらしい。
那珂ちゃんの、静かなソロから始まって……
綾波は、穏やかな笑顔を崩さずに、ツインバスドラムの、激しいドラムプレイを見せる。
激しいこの曲、メインヴォーカルは拓哉かと思ったら、意外や意外、那珂ちゃんだった。
自己主張の激しい、リードギターの隼鷹に、それを支える、控えめなサイドギターの神通。某TKのように、多数のシンセを操る川内に、六弦ベースを巧みに操る、ベーシスト翔鶴。
「皆楽しそう……」
湊の耳元で、結有がポツリと漏らした感想に、
「音楽は、音を楽しむと書いて、音楽なんですよ」
耳元で囁く湊。ライブは大音量なので、なにか話すのは、基本耳元である。
終了時間を超えても、ライブは続き、
「っしゃあ! そろそろ、ハウスが終われっつーから、アンコール行くぜ!! アンコールは
「えええっ!?」
驚きの声を上げる結有に、あははっと笑う湊。
「私、ブランク長いですよ?」
そう言いながら、ステージに上る。
「そんじゃ!『海色』『吹雪』続けていくぜ!!!」
おとなしい彼女の、力強い歌声に、士官学校の同期である、奈緒と智子以外は、驚きの表情を浮かべていた。もちろん、
なお、大村旦那は、お留守番である。
ライブは、大盛り上がりで終了した。
その後は、居酒屋鳳翔で、いつもの如く、打ち上げである。
「しっかし、湊が、バンドやってたなんて、予想外過ぎたのです」
「いや。これには、深い事情がありましてね。当時の士官学校って、山本爺様の方針で、課外は、割りと緩かったんですよ。同好会活動も活発で、それで草加先輩が、『殆ど誘拐犯のごとく』私と奈緒を誘って、バンドを組んだんですよ。で、先輩は卒業しても、バンドは残る訳じゃないですか。構成が、先輩以外一・二年生で、結局私達だけになって、最高学年まで、バンド続けることになったんですよ……あ、面白い写真ありますよ?」
スマホから画像を見せる。もちろん、パンクに化粧をした、奈緒と湊である。
「おおー……湊の意外な一面、そしてカッコ可愛いのです」
「だろぉ?ちっちぇ娘が、ハイトーンからデスヴォやるギャップが、もう可愛いのよ」
ますます惚れ直した電に、拓哉も、その魅力を語る。
延々二人は、湊の可愛さで、大いに盛り上がることになった。
その頃には、湊は酔い潰れて、電のお膝の上で、夢の中である。
電は、湊が寝てるのを良いことに、拓哉秘蔵の、湊のお宝映像&動画を、大量に仕入れることに成功した。
「ヒャッハー!今日は飲み明かすぜぇ!!」
「飲むぞ―!!
「独身がなんだバカヤロー!
「夜戦だ!夜戦だぁぁ!!朝まで飲むぜぇぇ!!!」
カオス組筆頭の奈緒と智子、そして
「ああ、また
「諦めようね、うん」
帰るという、選択肢を選ばない、律儀な貧乏くじの結有に、慰める吹雪だった……
「あの子達も、放っといて帰りゃ良いのに、割りと律儀よね……」
「生真面目な子みたいですね、各務原さん達は」
「まあ、うちの酔いどれも、迷惑かけてますし……」
そんな二人を、冷静に飲みながら眺めている、
そんな二人に、苦笑いを浮かべる、常識枠の神通。
那珂ちゃんは、「アイドルは夜更かししちゃ駄目なんだよ」と、お座敷席の隅で、すやすや寝ている。
瑞鶴と翔鶴は、ずーっと二人で、仲良くしていた……
毎度のことだが、カオス軍団は、翌日お説教である。
『海色』『吹雪』は、艦これアニメはこの世界ないので、
草加らのオリジナル曲、という設定になっております。
村井大佐の外見モチーフは忍たま乱太郎の食堂のおばちゃんです。