そして、一人の艦娘が中部にやってくる。
駆逐艦最強と呼ばれる不知火、だが彼女はそれを否定した。
二人の鬼神と呼ばれた艦娘。
結有は不知火の話を聞いて、己への疑念を告白する。
デストロイヤーズの総秘書艦まわり直しました
季節は、秋が近づく九月に入った。
軍部内は、一つの話題で持ちきりだった。
八月の終わりに、山本八十六元帥が、遂に現場から離れた。
統合幕僚監部副部長という立場に就いた。
その山本八十六元帥が、二つの軍改革を行った。
その一つは、軍属の、士官学校入学規定の見直し、である。
現在は、伍長
これに加え、
入学時点で、
二つ目は、
艦娘功労章を持つ艦娘に限り、士官学校受験資格を得るのだ。
こちらは試験が必要となるが、導入後数年は、艦娘枠を設けるそうだ。
士官となった艦娘は、同時に艦娘の身分は、そのまま持つ。これは現在、階級を持っている艦娘と同様である。
これには、理由があった。
30年にも渡る、長い戦争で、中級指揮官が、足りなくなってしまっている。
そう。艦娘だけではなく、この国は、多数の
民生では、子育て支援の拡充が強化されており、財政は戦時中、全世界から届けられた支援で、大きな傷を負わずに済んだ。
太平洋沿岸で日米艦娘達が、戦っている間、
欧州・アフリカ等、深海棲艦被害の少ない国は、日米同盟に支援をしていたのだ。
もちろん、ロシアや中国も、例外ではない。
一部の例外を除いて、人類の敵に対する戦いの、支援体制が、国連の枠組みで作られていた。
今後は、日米で鍛えられた艦娘達が、祖国を護り、再び深海棲艦が、勢力を盛り返してきたら、今度こそ、「国連
そういう事情や、財政状況の安定している今、中級士官の養成と、艦娘本部の規模縮小の為、士官学校の門戸を広げたのだ。
次期校長は、既に決定しているが、まだ公表されていない。
空席になった、呉鎮守府司令長官には、草加拓哉少将が、中将に昇進して入った。
ザ・デストロイヤーズは、日本海警備の目的を達成して、解散……
草加拓哉中将が、「解散するなら、異動も昇進もお断り。軍辞める」と、脅すという、前代未聞のことをやらかし、
呉鎮守府司令長官直卒独立艦隊「ザ・デストロイヤーズ」として、存続となった。
総秘書艦兼ザ・デストロイヤーズ副旗艦は神通、旗艦は綾波が、それぞれ担当する。
舞鶴鎮守府司令長官は、海軍幕僚監部運用部長に異動した為、
舞鶴警備府に規模を縮小の上、村井大佐が准将へ昇進して、司令官となる。
ザ・デストロイヤーズのオカーチャンが、舞鶴のオカーチャンとなった。
佐世保鎮守府司令長官は引退し、海人艦隊の我那覇少将が、司令長官となる。
海人艦隊司令官兼任となるらしい。
そして、大垣守大将は、海軍幕僚監部に異動した。海軍幕僚長となる。
後任の司令長官には、高梨未来が、横須賀に戻る形となる。
総秘書艦には、金剛を連れてきた。
その、空席になった大湊には、准将である装甲空母大鳳が入る。
ずっと連れ添ってきた夫婦は、奥様が単身赴任となる。
最後に、釧路警備府は廃止された。
こうして艦娘本部の拠点は中将鎮守府二、少将鎮守府一、准将警備府三の体制となる。
そして監察部は、海軍幕僚監部の所属となり、現在の任地が担当となる。
安藤龍は、職責が、海軍幕僚監部監察部横須賀方面担当主席監察官となる。
そして、不知火は、同中部担当監察官。大佐となって、やってきた。
そんな大ごった返しの中、誰も異動者のいない中部警備府は、のんきだった。
正確には、不知火が赴任してくる、という異動だけではあるが、彼女は
「海軍幕僚監部、中部方面監察官不知火大佐です。警備府オフィスを間借りしますが、よろしくお願いします」
不知火は、湊の部下ではない。警備府が拠点を貸している、
だが、不知火も形式張った事は嫌いなので、規則違反以外は、大目に見るだろう。
早速、夕張の、『高速建造剤の無駄遣い』について、是正勧告が出された。
落ち込んだ夕張に、不知火は、
「要は、きちんと提督を通して、計画的にやればいい。ということです」
と、一言添える。
監察官の仕事の合間に、艦娘達の訓練にも参加する。
特に恵海や電、そして吹雪を厳しく扱いている。
結有には、CQBの基礎の、手解きを行っている。
電に関しては、定時後からの訓練だ。そして夜は、湊に癒される。
「監察官、ご飯に行きましょうなのです!」
現れたのは湊に電、結有に吹雪と恵海だ。年の近い智紀は、最近智子と一緒で、付き合いが悪くなった。
「分かりました。不知火の仕事が終わり次第、向かいますので、鳳翔の個室席をお願いします」
顔を上げずに、書類を書き進めながら答える。
彼女は彼女で、忙しいのだ。
居酒屋鳳翔の個室に入ると、お通しが出される。
その頃に不知火もやってくる。
「お待たせしました」
「新婚なのに、単身赴任も大変ですね」
隣に座る不知火に、湊がからかうように言うと、
「これも軍命令です。大垣家の
お座敷には電に湊、不知火。その対面には、恵海と吹雪と結有。
「昨日も、不知火さんにコテンパンだったのです」
「私もダメでした」
「でも、電は二本。吹雪は一本、取ってるじゃないですか?」
完敗の二人に、湊は、慰めの言葉をかける。
電と吹雪は、不知火に、一対一の白兵戦を鍛えてもらっている。
毎日、10本試合をして、一本でも取れれば、終了。取れなかったら、20本か、取れるまで延長。という、死のトレーニングだ。
素手での模擬戦だが、基本、マジモードの戦闘なので最悪、そのまま
安藤龍が、艦娘について、徹底的に研究した理論を吸収した、駆逐艦不知火は、二人にとっては、まだまだ、足元にも及ばない。
「電さんは、なかなか強くなってます。吹雪さんも、あのハートブレイク掌底は、防げませんでした。あれは、結有さん直伝ですね?」
「はいっ!」
元気良く答える吹雪に、結有と不知火が軽く笑う。
「不知火さんは、最強の駆逐艦なだけはあるのです」
「………」
電の言葉に、不知火は、手に持っていた日本酒のグラスを持ったまま、視線を落とす。
「不知火さん?」
結有も、心配そうに声をかける。他の面々も不知火の顔を見ている。
「不知火が最強など、烏滸がましいです。……不知火が足元に及ばない駆逐艦を、少なくとも二人、知っています」
「………」
その言葉に、一同が押し黙る。不知火は持っていたお酒を流し込むと、テーブルにおいて続ける。
「一人目は、艤装を含めて、現段階で最強だと思う人です。……綾波です」
「綾波さん……あのデストロイヤーズの」
その間に、鳳翔さんが、焼き鳥の盛り合わせを持ってきてくれるが、この雰囲気に、そっと置いたら速やかに去って、障子を閉める。
「はい、デストロイヤーズ旗艦・駆逐艦綾波。またの名を日本海の…‥
「え?でも、あんな優しくて、物静かそうな人ですよ?」
吹雪が、信じられないという風に問うと、
「あの人は異質なんです。不知火は、四国の室戸泊地に、ハワイ決戦直前まで所属していました。そこで、龍に、単独深海棲艦ハンティングを命じられていました。 トレーニングとして。 オーバーロードを身に付けていた不知火は、有頂天で、己が最強の駆逐艦だ、と驕り高ぶっていました」
そう言うと、ボトルキープをしていた日本酒を、自分のコップになみなみと注ぐ。
「不知火は、日本海側にも、本州と九州の間を通って、狩りに出かけていました。その時出会ったのが、綾波。海賊とも戦う部隊というのは、龍から聞いていましたから、手合わせをお願いしました。というより、『実力確認です。かかってきてください』と、上からの物言いで……今思うと、恥ずかしいです」
「それで……どうなったのですか?」
電が続きを促すと、不知火は半分だけ飲む。
「聞きたいですか? オーバーロード状態の不知火を、通常艤装で避けて、燃料切れで強制停止になったところで、笑顔でボコボコにされました。両腕は折られ、両肩は外され、両膝は逆方向に折られ、首をへし折られ、最後に、頭をハンドアックスでガツンと。不知火が旗艦で
その言葉に、全員の顔色が青くなった。
あの、ニコニコとおとなしい笑顔の綾波に、ボッコボコにされる、不知火の姿を思い浮かべて。
誰かが、ゴクリと生唾を飲んだ。
「入渠から出た後、いずも改の村井大佐に言われました、『あの子は、
「………」
誰も言葉が発せられない。重苦しい雰囲気だ。
「数日間、いずも改に、お邪魔させていただくことにしました。他の子達は、草加少将大好きっ子で、綾波はそれを、離れて見ている。でも全員、ケッコンカッコカリしている。綾波さんに、『草加少将のこと好きなんですか?』と聞いたら、『いいえ』と。その後言いました、『絶対的な忠誠を持って、お仕えしています』と。そのあと、付け加えて、『Likeという意味でなら、はいですよ』と。その時の笑顔は、優しかったです」
そう言ってから、笑顔を浮かべて、空気を和らげる。
「というわけで、綾波さんが最強です。あれ以来、メールの交換をするようになって、それから不知火は、綾波さんの大ファンなんです。笑顔で、あんなハードなドラムプレイして。あの笑顔がキュンキュンです。龍は、『私は、あのシンセは、かつてのTKのようで、素晴らしい』と言っていましたが。あと、アップされてた名古屋ライブ。湊さんも、かっこよかったです」
「ふぁぁっ!?!?」
湊が、変な声を上げる。
「あれ、
「そうなのです。このちっちゃい湊が、パワフルなボイスで歌うのに、キュンキュンされたのです」
「あははー……」
間に挟まれた湊は、苦笑いである。
「ところで、もう一人の鬼神って、誰なんですか?」
結有が、湊を救助がてら、不知火に声をかけると、不知火は真顔になる。
「こちらは、霊子の根源に関わるものです。この話は、『やばすぎて機密扱い』と、なってますので、口外なさらぬように」
その言葉に、全員が頷く。
「まず、綾波さんの話でもあるんですが、戦争初期は、東北と道東の沿岸陸地は、激戦地でした。
綾波さんは当初、艦の記憶が強過ぎて、海に
そして、それ以来ずっと、陸で戦ってきました。新設された、海兵旅団にも移籍して……
デストロイヤーズ結成直前に、草加少将のスカウトで、来たらしいんです。
その時綾波さんは、感情が麻痺してたそうです。今もそうだ、と言ってましたが、草加少将が『ドラム探してんだけど、ドラムやらない?海の上は――広くて楽しいよ』と、海に浮けない艦娘に、海に浮く機会を、与えてくれた。
それが忠誠の理由で、あの無茶苦茶な強さは、明日をも見えない、地獄にいたからこその根源的な霊子、『生きたい』だったんです。人間にも、私達にも、三大欲求があります。食欲と睡眠欲と……性欲と」
ちらっと、ピュアな吹雪と結有を見ると、ちょっと顔を赤らめている。恵海も顔が赤い。
「その根源は、『種としての生存欲』なんです。龍はああいう、変態そうに見えますが、シャイなところも……はっ」
龍のことを語りそうになった不知火は、ブンブンと頭を振る。
「では、やばすぎて、機密扱いの本題に入ります。海兵旅団が、恐れ慄いた『二人の鬼神』。一人は、駆逐艦時雨。もうひとりは、各務原裕二。結有、貴方のお父さんです」
「えっ………?」
その言葉に、結有は、ウーロン茶のコップを取り落とした。吹雪が慌てて、お絞りで拭き始める。
「各務原少佐は二度、MIAで
「片方は、私も知ってます。名古屋大侵攻ですね。撤退を拒否して、足止めをした陸戦隊員が、絨毯爆撃を、名古屋地下道でやり過ごして、数十人生き残った、と聞いています。その中の一人です」
湊が代わりに答えると、フリーズした結有も、
「はい、そっちは知ってます。父さんに、『馬鹿』って怒ったら、ショックで泡を噴いて気絶しちゃいました。小学生の時ですが、もしかして、僕が生まれる以前にも……?」
その問いに、不知火が答える。
「あまり、肉料理を前にして、お話できることでもないんですが……」
そう言いながら、焼き鳥を一本頬張って、食べ終えると、
「昔、深海棲艦が、石巻に襲来したことがありました。
我々高梨艦隊は、関東で鬼クラスに、半年間も足止めをされていました。道東・東北の沿岸部は激戦地で、死闘でした。名古屋も惨劇ですが、此方も十分酷い戦いです。
当時の各務原曹長は、宮戸島で、本州に戻る、連絡路を絶たれ、時雨と共に、孤立しました。
その中で、何があったかは、裕二さんにしかわかりませんが、半年以上、抵抗を続けていたそうです。
その半年間の戦果は、『算定不能』。イ級まで食べて、生き残ったらしいです……鎮圧後、陸戦隊の調査が行われました。島の生存者は時雨と裕二さんだけ。
島のあらゆる所が荒らされ、車は多数乗り捨てられ、スーパーの食料は一つ残らず持ち去られ、ホームセンターの武器になりそうなものも、一つ残らずあちこちに転がっていた。全て戦闘に使って壊れて……
救出に向かった、当時の海兵旅団の連隊長から、お話を伺ったことがあります。『我々は愚連隊だが、彼らに比べたら上品なものだった。彼らは、まさにオーガだった』と……これも強烈な、『生きる』という、霊子のなせる技だと思います。
人間だって、霊子を爆発させると、すごい力が出せるんです。彼らを、人は人外やチートと言います。
30倍の敵を、損害ほぼ無しで蹴散らした、古代スパルタ兵。フィンランドの冬戦争で、圧倒的に不利な中、狙撃銃で死体の山を築き上げた
そして死んだ筈が、蘇って大暴れした
「…………」
結有は、思い悩んだ顔をして、自分の手を見ている。
「結有さん、私は貴方に、この話をするつもりでした。誰も、貴方に、告げる勇気がないので、私が代わりに申し上げます。貴方の体には、艦娘の血が流れています」
その事実に、結有は、意外と冷静な反応だった。
「……だろうと思いました。薄々は、感じていました。ぼんやりとした不安感から、疑念になったのは、あの豊橋での一件です」
そう言ってから、湊を見る。
「………湊さん、僕に二週間、休みをください」
「……わかりました。貴方のルーツを、探しに行くんでしょう?行ってらっしゃい。延長も可ですよ。あと、吹雪も一緒に行きなさい。任務は、各務原上等兵の護衛」
「はいっ!!」
「さて、場を湿っぽくさせて、申し訳ありません、飲みましょう!」
不知火のその言葉で、飲み会が再開された。このあとの話題は、龍との夫婦生活に集中した。
悪ノリをする高梨婦婦に、顔真っ赤の清純派トリオ。そして、照れながらも、誠実に答える不知火。
この場の悪ノリで、結有が何気なく聞いた、第13泊地制圧戦における、湊の、「男性には見せられない姿」が、
スタングレネードが、自分をも直撃し、その衝撃でお漏らしをした、というのを、電に暴露された為に、
湊が、恥ずかしさを紛らす為に、一気にペースを上げたのが、今日のカオスの発端となった。
「いいもん!電には、もっと恥ずかしいところ、見せてるもん!」
「良いんです、良いんです。それが愛ってものなんです。不知火は龍に……」
これ以降は、本人たちの名誉の為に、伏せておこう。
そして、この暴走カオスは、誰も止められない……三人が酔い潰れるまで。
結局、高梨さんちと安藤さんちの夫婦(婦婦)生活事情を、延々聞かされ、
あまりの過激さのために、恵海が気を失ったので、大井北上を呼んで、連れ帰ってもらい、
酔い潰れた三人は、いつもの貧乏くじコンビが、お持ち帰りすることになった。
「やっぱりこうなったよ!」
「もう、諦めようね、うん」
結有と時雨の前日譚、
裕二のスピンオフは投下準備中です。
次の次の後書きにリンクを記載します。
綾波さんは「怒らせちゃいけない」娘です。
真意は後々