小さな提督と艦娘日和   作:SAMICO

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結有と吹雪は自分のルーツを探す旅にでた。

まずは父の出生である祖母に会いに行き、
そして、東北へと向かう。

ベールに包まれた宮戸島に……。

そして、答えを知っているものたちの考える
もしもの世界。


結有と時雨―自分を探す旅(前編)《真理を探す者と理解する者》―

中部警備府前。

「結有、荷物はちゃんと持ちましたか?私が渡してある、『上陸許可証』だけは、大事ですからね」

湊と鳳翔が、見送りに来ている。他の子達には、敷地内で既に、行ってきますと、挨拶済みだ。

吹雪は、ジープに荷物を積み込んでいる。

二人共私服ではない。青色の海軍迷彩服(戦闘服)、腰にはコンバットナイフと九ミリ自動拳銃。

そして、ジープにも私物の他に、タクティカルトマホーク(CQB用手斧)と、89式自動小銃に加えて、携帯用高速修復材が積まれている。

宮戸島は、未だに民間人の立ち入りが禁止されている、『危険地区』の一つ。他には、小笠原諸島等もそうだ。

その為、将官以上の許可がないと、立ち入りが許されないのだ。当然、武器携帯は義務だ。

「結有!荷物はオッケー!」

吹雪の声に、コクリと頷く結有。

吹雪は、実は運転免許を持っている。ただし、『国防軍車両に限る』という、条件付きだ。

今、普通に、限定解除免許を持っているのは、長門、加賀、赤城くらいだ。

「はい、無事行ってきます!」

「無事、結有をエスコートします!」

敬礼をする結有に、吹雪も隣に立ち、敬礼する。

「これ、お弁当。道中食べてくださいね」

居酒屋鳳翔の裏メニュー、『鳳翔弁当《特上》』である。

「はいっ!ありがとうございます!」

「それじゃあ、行ってきます」

 

吹雪の運転するジープは、名古屋に仮設されている、中央道と東名高速を連結する、中東連絡自動車道から東名に乗り、

一路、横須賀へ向かった。

途中のパーキングエリアで、お茶を買い、一緒に美味しいお弁当を食べる。

そして二人は、横須賀鎮守府に寄って、武器を預けると、一路各務原家に向かった。

 

「結有ちゃん、久しぶりだねえ」

「そっちの子はお友達かい?それより結有ちゃん、お話があるから、ちょっとお座敷に来なさい」

祖父はにこやかに、そして、祖母は不機嫌な顔で、結有を連れて行く。

吹雪と、祖父はそれを追いかける。

「結有ちゃん。あんた等は、()()()()()、私等の寿命を縮めるつもりかい?」

「豊橋の一件だよね……ごめんなさい」

「あの……私が止めなかったのが、いけなかったんです。あ、私は駆逐艦吹雪です」

しっかり反省をしている二人に、祖母も笑顔になる。

「もう、無茶はしちゃダメだよ?嫁入り前の娘だからね」

「ばあさんや、最近はLGBTといって、いろんな結婚の仕方があるから。のう、吹雪ちゃん」

目敏く、指輪を発見した祖父は誂うと、

「おお、この吹雪ちゃんが、結有ちゃんの彼女なのかい。裕二もお見合いするし、良いことだねぇ」

同じく誂う、祖母の、最後に出たその言葉に、結有は、驚いて立ち上がろうとした。

「はぁぁぁぁぁ!?聞いてないんだけど!?」

「結有!?」

立ち上がろうとするのを止める吹雪。そんな二人に、首を傾げる祖母。

「そう、裕二が、『結有には、此方から相手を話すから、一切言わないでほしい』ってさ」

「……あの、言ってますよね」

吹雪のツッコミに、祖母は、

「既に、知ってると思ったんだよ。これはナイショにね」

 

 

「ところで、僕達が来た用件なんだけど。僕の母さんについてと、父さんについてなんだ」

その言葉に、祖母は困った顔をして、代わりに祖父が、咳払いをして口を開く。

「結有のお母さんは、裕二が、東北で知り合って、出産で死んだ。……としか聞いてなくて、わかんなくてねえ……」

祖母は、そっと厨房に向かった。お茶菓子を用意するのだろう。

「元々、この各務原家は、代々小笠原にあってね。深海棲艦の侵攻時に、東京に避難して……その時に、裕二と裕二の妹の、有美(ユミ)が逃げ遅れて、その後裕二だけが、近くの島に流れ着いてねぇ……その後、裕二は軍に入ったよ。それからは、ずっと音信不通でね。ある時、戦死の連絡が来て、仮葬儀とお墓まで建てて、半年以上たった後、発見されて。生きてるって。それで、帰ってきてね。その数ヶ月後、赤ん坊の結有ちゃんを、連れてきたんだよ」

そう、祖父が、懐かしそうに語る。

「それで、裕二は、結有ちゃんを、そりゃあかわいがって、箱入り娘にしたものさ。幼稚園に入れず、学校の先生だったお祖母ちゃんに、勉強を教えさせて、私立の女子小学校に入れて、中学校に進学させて、送り迎えも毎日やって。男の子の友達は、一切連れてこさせなかった」

「………」

どんだけ男から遠ざけたいんだ、あの人は……吹雪は、思いながらも黙っている。

「ワシ等に分かるのは、このくらいかねえ。その後の名古屋の話は、結有ちゃんも覚えてるだろうし」

「うん、ありがとう、お祖父ちゃん。僕達、もう行かなきゃ」

「あら、せめてお茶でも飲んで行きなさいな。お夕飯は?」

お茶を目の前に置くと、さすがに、「お茶だけ飲んでいくね」と結有は答える。

「このまま、東北に向かうので、あっちで食べます」

代わりに、吹雪が答える。

 

そうして二人は、横須賀鎮守府で、預かってもらっていた荷物(武器類)を受け取り、ジープへと乗る。

そして車を走らせていく……

 

「今日は、石巻で一泊して、それから明日だね」

「そうだね」

運転席で、ハンドルを握る吹雪。そして、助手席に座り、背もたれに体を預ける結有。

それを見送る、人影が二人。

 

 

「彼女等は、扉を開けに行ったようだな」

本日より、監察部の任務から離れ、統合幕僚監部付となっている、安藤龍少将。

これは、異動の前の一休みポストである。

「そうね……自分の手で扉を開くわ。答えを知っている私達の手を借りることなく。そして()()()()()()()()()()()()()()……」

隣には、新任の司令長官として赴任した、高梨未来中将。

「人間も、深海棲艦も、そして艦娘も、根源的なものは、一つ。『想い』なんだろう」

「……ええ」

同意する未来に、龍は、海の方を向いた。

「霊子という存在が、科学的に解明される日は、おそらく来ないだろう、永遠に。艦娘も、深海棲艦も、そして『霊子』も、我々はそうである、と受け入れた。それでいいのだ。科学が万能なら…… やめておこう」

ふっと、意味ありげな笑みを浮かべると、未来は首を傾げる。

「科学が万能だからこそ、起こりうる悲劇もあるだろう、ということさ」

「どういうこと?」

不思議そうに、問いかける未来に、

「君は幼い頃から、艦娘という存在に触れて、生きてきたから、感覚で理解しているのだろうが、やはり人という生き物は、未知のものに畏れを抱く。そうだな、私は歴史論や政治論、架空戦記が好きで、色々考える趣味を持っていてね」

そういうと、近くのベンチに視線を向け、先に向かっていく。

その後を続く、年下の上官。

 

二人は腰掛けると、安藤が言葉を続ける。

「最初の段階から、戦艦三笠を受け入れた、

この国の政治家は、高梨提督の進言した、『差し当り、そうであると、受け入れる他ない』という、場当たり論で、()()()()()()()、を受け入れただろう。

 そして、一人の政治家が艦娘に興味を抱き、艦娘と共生する社会を作り上げようとして、今は、この国の行政のトップに居る。

 それを支えたのは、数多の人間の支えのもとにある。矢部晋太郎と言う男を信じ、『艦娘政策』という概念を作り出した、数多の政治家達。

 艦娘を、広報として市民に知らしめた広報部、良くも悪くも、真っ先に艦娘を受け入れた、秋葉原での所謂『サブカルチャー層』。

 そして、ゼロにすることは叶わなかったが、腐敗を最小限にするために、日夜努力していた制服組。今も、艦娘の代表として、永田町という戦場で戦い続けている、特命大臣大淀。

 共に戦い、傷つき、それでも信じて散っていった、同輩(将兵や艦娘)達や民間人達。そしてその遺族達。

国民が、いや全世界の大多数が、『そうであるものを、そうである』と、受け入れた集大成が、今、私達が生きている、世の中なのだよ。

その中には伝説の提督や、軍神と呼ばれた艦娘元帥、不敗の女神様、老練の名将、横須賀の鬼、日本海の鬼神、憲政史上、最も清廉な政治家、他にも色々いるが、彼等も、その中のひとりにすぎない。

そして、そうである、と受け入れなかった者は、滅びていった。横澤元少将や片桐元准将が、いい例だ。人には、『開けてはいけない扉』が存在するのだ」

「……ええ」

「歴史に、『もしも』というのは禁物だが、『そうであることをそうであるように』受け入れるのを拒み、霊子も、艦娘も、科学的な解明の元に、管理された社会になったら、どうなる?

人……少女に、艦娘の魂と艤装を取り付けて、戦わせる社会。あるいは、深海棲艦すら解明し、悪意に満ちた社会。艦娘のシステムを解明して、彼女等を道具のように、使い捨てることが許される社会。

そんな社会を、三笠が見たら、おそらくは―――絶望するだろう。私は、そんな世界は御免被りたい。正気を保つ自信はないからな」

「…………」

「だから……科学は、万能ではないから、人は、希望を持てる。可能性に蓋をせぬ限り、人は『進化』していく生き物だからな。そして、正しく進化するからこそ、『開けてはいけない扉』は守られる。

私の姉が言っていたよ。科学が万能なら、私は、死の淵にある患者さんに必死になれないだろうし、医者なんて、要らない……と。私の姉は、世界有数の消化器外科専門医でね……話が逸れたようだ」

そう言うと、安藤は、こほんと咳払いをする。

「いずれにせよ、平成時代も、『平和に成る』との、希望を持って戦い続けて、そろそろ30年となる。これから先は、漸くやって来る―――待ちに待った、戦後復興期の時代になるだろう」

「そうね」

ふっと、笑顔を見せる未来を、流し目で見やると、安藤はふっと笑う。この場では、上官と部下ではなく、年上の男と年下の女だ。

「……武とは、不要な争いを避けるために磨くもの。武とは、避けられる戦いを戒めるもの。武とは、避けられ得ぬ戦いにおいて、決して負けぬもの」

ぽつりと、呟くように云う安藤に、「何?それ」と問いかける未来に、立ち上がる安藤は、

「私の同級生に、梶本真太という男がいる。彼が日頃、口にしている言葉だ。力を持つ者が、持つべき『心得』と、いうものだそうだ」

「……真理ね」

同じく立ち上がる未来に、安藤は敬礼をする。

「では、失礼します。 統合幕僚監部付きでも、山本の爺様は、未だに教え子に、物を押し付けるのがお上手のようでして。名古屋で、妻に会う暇もありませんでな」

「それは、ご愁傷様」

ふふっと笑う未来に、安藤も、笑いで応えた。

 

結有達は、石巻の温泉宿で、一晩を過ごすことになる。

石巻にある軍施設に、ジープと武器を預けて、徒歩で旅館に移動する。

結有も吹雪も、自分探しの旅、とはいいながらも、湊からもらった旅費で、貧乏くじから解放され、

楽しい旅行気分で、お互い寝床についた……

 

 

―――――――――――

吹雪は、夢を見ていた。

 

燃え上がる石巻の街並み、空母が抜かれて、追いかけようにも、分断されて、動きようもない。

「時雨ちゃん!逃げて!!」

傷ついた時雨を突き飛ばす。時雨は、浮かんだまま倒れ込み、近くの島に流されていく……

そして、はっと前に振り向いた時……

 

駆逐水鬼の残忍な顔と、砲塔が目の前に……

魚雷と砲撃で、自らの身体が、木っ端微塵に砕ける感覚を覚えて……

 

そこで、目が覚めた。

 

―――――――――――

「―――――――――っ!!!!」

 

汗びっしょりになりながら、目を覚ます。隣りにいた筈の、結有がいない。

ふっと、辺りを見回すと、テラス状になっている小部屋で、結有が椅子に座って、外を眺めていた。

「吹雪、どうしたの?」

「………ううん、なんでもない」

浴衣で汗を拭いながら、吹雪も、テラスに向かう。

「起きてたの?」

対面になっている椅子に腰掛けながら、吹雪は、結有の顔を見る。

「眠れなくってね、変な夢を見たんだ。時雨の夢を。吹雪に突き飛ばされて、深海棲艦の魚雷と砲撃で、沈んでいく吹雪……そして、燃えている、石巻の町……」

「………私も、同じ夢を見た」

その言葉に、結有は、吹雪に、顔を向けた。

「きっと、時雨が、僕達を誘っているんだと思う。()()()()……」

「……うん」

静かに頷く吹雪。

「前に、司令長官だった山本さんに、聞いたことがあるんだ。艦娘ってね、死ぬと同じ艦娘が、何処かで浄化して、現出することがあるんだって。同じ見た目、でも違う人。だから、前の子の記憶はない。それって、悲しいことだよね。だから、艦娘を死なせないように、賢く戦うべきなのだ。と」

「………」

黙り込む吹雪に、オカルトチックな話だよね、と笑いながら、続ける。

「全ての答えは、あの島にあるんだと思う。幸いなことに、危険地として、そのままになってるんだって。もう、10年以上経ってるのに」

「……うん、今日は……一緒の布団で寝よ? このままだと、不安で眠れないよ……」

「うん、僕もだよ……」

 

その日二人は、一緒の布団で、寄り添うように眠った。

 




わりと安藤はこの世界における『真理』を無自覚に掴んでいる人間です。

スピンオフのURLは次話に延期になります。
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