そして、無茶も多分最後だろう。
11/7 中尉の会話を少し直しました
翌日、結有と吹雪は宮戸島に乗り込んだ。
仮設の橋の手前に、検問所が設けられていて、上陸許可証を見せる。
宮戸島の街中に入ったら、何もなかった。
動物一匹すら……
ジープや車が乗り捨てられて、人骨や、深海棲艦の骨らしきものが、あちらこちらに散らばっている……
「狂気の世界だね」
「うん………」
車を、市街地の中心に停め、あちらこちらを見て回った。
いろんなものが朽ち果て、崩れ落ち、そして、コンクリートの建物だけが残る……ゴーストタウン。
「ちょっと、車停めて」
「うん」
外を見ていた結有が、銭湯と思しきものの前に転がっていた、錆びたボトル風の入れ物を見つけると、吹雪に停車してもらう。
車を降りると、手に取る……ボロボロと崩れる。
そのまま、中に入っていく。吹雪も、サイドブレーキを引き、飛び降りて、追いかける。
浴場は、既に干上がっていた。
そして、浴槽には、高速修復材の色をした粉末が、こびりついていた。
「ここで、時雨は入渠したんだね。高速修復材を薄めて」
「そうみたいだね………」
そして、結有はボソリと呟く。
「ここじゃない」
「……え?」
振り向いた結有は、
「行こう、吹雪」
「……うん」
二人は、再びジープに乗って、街中から山中を探して回った。
至るところに落ちている、武器だったもの……南端には、
そして、スーパーマーケットの前に、車を停める。既に、秋に入った東北の空は、斜陽から、夕暮れに変わりつつある。
ガラスは割られていて、薄暗い。
二人は、中に踏み込むと、マグライトを取り出し、点けた。
中には、朽ちかけたビニール袋、錆びた缶、ビン類、ペットボトルが転がっている。
全て、飲んだり食べたりした形跡があった……
その奥に、なんとか、布団と言えそうな、朽ちかけたものが、転がっている。
「ねぇ……吹雪。僕達が半年間、孤立無援で戦わないといけなくなったら、どうやって、正気をつなぐんだろうね?」
「……私達は、片桐の元にいて、休む間もなく、遠征で物資を集めてたから、なんとも言えないかな。本当に、狂気の世界だったのは、捨て艦戦法専門の、
「………僕が、もし……あの二人の立場だったら、こう言うかな?『明日は生きよう、明後日死ぬ為に』 それの繰り返し」
その海色の瞳は、悲しげに語っていた。
「明後日死ぬ為に、明日は生きよう……悲しいね」
吹雪の言葉に、結有は頷いた。
「悲しいね。でも、それしか生きる道はなかったんだ、と思う」
「僕だったら、毎日吹雪に抱きしめられてない……と」
その言葉で、結有はハッとした。
「ねえ、不知火さんの話覚えてる? 人間の三大欲求」
「食欲でしょ?睡眠欲でしょ?……あっ、性……欲。男女が極限状態で戦い続けてた、艦娘と言っても、心もあれば、感情もある……」
最後の言葉に、吹雪も、はっとなる。
「わかった、ようやくわかった。僕は二人の、『生きたい』という、霊子が生み出したんだ。明々後日はいらない、明日が欲しい、明後日死ぬ為に」
「……そうやって、お互いの温もりを感じないと、生きていけなかったんだろうね……でも、そんなの悲しいよ……」
結有の言葉に、吹雪は涙を零した。そんな吹雪を、結有は抱き寄せた。
「悲しいね。でも僕は、吹雪を死なせたくないから、死にたくないから、狂ったと言われても、吹雪と抱き合って、それで戦えるなら……」
「結有……」
「さあ、出ようか……」
スーパーを出た先には、白い髪の深海棲艦……夢に出てきた、駆逐水鬼が立っていた。
夢と違うのは、あちこち傷や砂に塗れた姿で……
「ヤットミツケタ……ワタシノナカマタチヲコロシタ……ユウジ……シグレ……オマエハ……フタリノ…レイシノニオイガスル」
「……だったら?」
結有は、腰に帯びていたコンバットナイフを、左手に逆手で構える。
「ナカマノカタキダ、シネェ!」
ダッと加速して、距離を詰める。両手には鋭い爪……
「っ!!」
結有は、左手のナイフで、突き立てる爪を弾くと、鋭い横蹴りを駆逐水鬼に放つ。
「チイッ!!」
バックステップで下がると、腹部を殊更に押さえる。
空を見上げると、太陽が沈むところだった。
「待ち伏せの夜戦か……」
結有が、ぽつりと呟く。
「結有!」
吹雪は、すぐにジープから、トマホークを手に取り、構える。
「………キサマ、ウミニシズメタハズヨ……フブキ……」
その言葉に、結有は、武器を構えながら、不敵な笑みを浮かべた
「やっとわかったよ。時雨のやり残したこと……時雨の仲間の、吹雪の仇である、お前の命を
その叫びと共に、構えが、掌打ではなく、拳に変わる。顔面を振り抜く、右フック。
駆逐水鬼は、はっとガードをあげようとしたが間に合わず、吹き飛ばされ、何度も地面を転がり、よろよろと、立ち上がろうとしている。
「駆逐水鬼がこんなに……弱っている……それに、何で十何年もここに……?」
吹雪は、その異常に気づいていた……そして、結有は、殴った時に一瞬、ザザッと見えた光景に、動きを止めていた。
海兵旅団によって、塹壕に追い詰められる光景が……
「………吹雪!南端の崩れた塹壕だ!急いで!」
「うんっ!!」
二人は飛び乗ると、ジープを走らせる。
駆逐水鬼は、立ち上がり、それを追いかけるが、その動きは遅かった……
塹壕に辿り着くと、昼間崩れていた塹壕が、中から掘り返された跡があった。
「僕が来たからか……?それまで駆逐水鬼は、この崩れた塹壕の中に……閉じ込められて……」
「結有……というより、両親の霊子の匂いで、目を覚ましたのかも……?」
「……そうか。なんで今まで、危険地域扱いで、立入禁止にしてたか?駆逐水鬼を、海兵旅団が生き埋めにして、生死確認不能にしたからか!」
「……それで、最後の力を振り絞って出てきた……」
二人が辿り着いた結論、頷き合った二人。
「
「うん、宮戸島の悲劇を終わらせよう……!」
二人はすぐに、来た途をジープで走っていった。
月明かりが差し込む廃墟で、二人は対峙していた。
片方は、目の血走っている駆逐水鬼。
もう片方は、トマホークを持った結有。
ジープの横に、コンバットナイフを構えた吹雪。
「ふ…フフフ……ヨルノヤミハ……コワイ……ジメンノヤミハ……モットコワイ……」
「終わらせてやる! かかってこい!」
「……ふ・・・フフフフフフアハハハハハハハハハ!!!!」
突然、狂乱した駆逐水機が、トマホークを現出させる。
「これが……僕の……ラストダンスだぁぁぁぁぁ!!!!」
先に駆け出したのは結有で、その次に、結有に向かって駆け出したのは、駆逐水鬼で……
「クライヤミニシズメェェェェェェェェ!!!」
二人は、擦れ違い様に、トマホークを振り抜いた………
お互い、光り輝く霊子の軌跡を描いて……
駆け抜けて、背を向ける二人……
「ぐぁぁぁぁ!!!!!」
脇腹を抑えて、膝をつく結有。その手から、夥しい血が流れている。
「結有ぅぅぅぅ!!!!」
それを見て、駆け寄ろうとしながら、駆逐水鬼を、一瞬見た。
振り抜いた姿のまま、動かない……それから、ゴロン……と首が落ちた……そしてそのまま、前のめりに倒れた。
吹雪は、はっと思い出した。そして、ジープに駆け戻り、濃縮高速修復材を手に取って、結有に駆け寄る。
「結有、手を退けて!時雨!結有を助けて!」
手を退かさせると、結有の脇腹の傷は、思ったより深い……これで止血出来なかったら、結有は……死ぬ。
「沁みるけどゴメンね!!!」
意を決した吹雪は、結有の傷口に、高速修復材をかける。見る見るうちに、一番の危機、大きな出血が止まる……
だが、傷は閉じていないし、いずれは、また大出血するだろう。結有は、激痛で気を失って、呼吸も弱まっていた……
「急いで戻らないと……あ……」
遠くから、装甲車のライトが見えた……
戻りが遅すぎる、と、検問担当者が、捜索を要請していたのだ。
吹雪の処置は、的確だった。軍担当者に、「人間が、
検問担当者が、武装装甲車ではなく、
そして、同乗していた陸戦隊長が、『水鬼』の討伐を確認して、吹雪と陸戦隊員は、ジープに乗って、その後を追う。
陸戦隊長が、「これで、再度安全を確認してから、宮戸島の立入禁止は、解除になると思うよ」そう教えてくれる。
「何で、今まで、このままにしてたんです?」
吹雪は、意を決して陸戦隊長に問いかけると、
「そうだね、ここだけじゃないんだ。ここは、もう一つ
30代の中尉は、悲しそうに笑った。
「これから、始まったばかりなんだ。戦争が終わって、まだ『直後』と、いえる時期なんだよ。まだ小笠原諸島も、ご遺骨・ご遺品だけ、回収できてるのが現状だから。硫黄島のように、回収だけで終われないからね。青ヶ島以北の、東京と沖縄の島嶼部以外の離島は皆、こんな感じだね。軍の責務として、無責任な状態で、民間に返せないんだ」
「…………」
吹雪は、助手席に座りながら、複雑な思いを胸に抱いていた。
「結局、血と涙と、悲しみの30年だったんですね。私達艦娘も、人間も、そして『彼女等』も」
「まだ、終わってないけどね」
その言葉に、吹雪も頷いた。
――――
意識が混濁している中、結有は、夢を見ていた……
「結有ちゃん、ありがとう」
目の前には、己に生き写しの姿の少女。
「……
時雨は、困ったような笑みを浮かべる。
「本当に君は、裕二に似て無茶だし、自分を顧みないし……僕もか、あは」
その言葉に、自分もまた、笑っているような気がした。
「これで、僕の思い残したことも……」
その中で、結有は時雨を抱きしめた。
「……僕が、父さんと時雨の
「ううん、裕二の娘らしい。そう思った……僕は、結有と交わり溶けて、消えてなくなる。 もう二度と、駆逐艦時雨は現出しない……永遠に」
時雨も、結有を抱きしめ返す。
「じゃあね、僕の大事な
「さよなら、そしてずっと一緒に、永遠によろしく
ぱあっと光に包まれて、注ぎ込まれる、時雨の思いや記憶……
そして結有は、『全部欲しい』と言った、時雨の記憶を、走馬灯のように見ていた。
酷い司令官に使い倒された日々、衝撃的で、凄惨な半年間……生きる実感を求め、肌を重ね続け、明後日を追い求めた、狂気の世界と、その先の平穏でも、色々の大騒ぎで、笑えた佐世保の思い出、そして、ハワイでの最後の記憶……
最後に、時雨の声が聞こえた……
「結有は、結有のやりたい途を進みなよ。僕達が大事に大事にしてきた、大切な子供だから……」
その言葉で、すうっと意識が遠のいた。
――――
「っ!!!」
目を覚ましたら、病室だった。
「結有!?」
起き上がったら、目を泣き腫らした、吹雪の姿。
「………あー吹雪……」
「結有……?」
焦点の合ってない目で、吹雪を見下ろす結有。
「ごめん、もう我慢できないや」
「ふぇぇっ!?」
強い力で引き寄せると、体勢を入れ替えて、吹雪をベッドに押し倒す。
「ゆ……結有……?」
「僕は吹雪も全部欲しい、吹雪大好き」
「うぇぇぇぇぇぇ!?」
そのまま乱暴に、唇を重ねた。
「んんぅぅっ!?」
――――
「酷いよ、結有」
数日後、帰りのジープで吹雪は怒っている。
あのあと、吹雪は、結有にメチャメチャに襲われたのだ。泣いても叫んでも、結有は止まってくれない。乱暴に、狂ったように、襲われた……
我に返った結有が、脇腹の痛みと共に目にしたのは、服を引き裂かれて、気を失ってる吹雪の姿、一糸まとわぬ己、気を失う前に、吹雪が押した、ナースコールで駆けつけた看護師だった。
結有は即座に、譫妄状態と判断され、
翌日、目を覚ました結有は、看護師に怒られ、傷口も、思いの外安定しており、保護室からの解放と同時に、強制退院を言い渡された。
おそらく、縫合後にもう一度かけた、高速修復材のおかげである。人間でも多少効くのだ、艦娘ハーフなら、それよりもマシに効いたのだ。
完治はしてないが……
「だから、何度もゴメンって、謝ってるじゃないか。時雨の記憶を見てたら、我慢できなくなっちゃったんだよ」
「こうなったからには、結有には、責任を取ってもらうから。絶対、
吹雪は、どさくさに紛れて、とんでもない発言をする。
「はいはい、吹雪さんのお側におりますとも。
ふっと笑いながら、ジープの助手席の、背もたれに凭れかかり、隣で膨れている、吹雪を見る。
そんな結有を、横目で見ると、ふうっと溜め息を吐いて、許してあげる。と笑みを浮かべる。
「それじゃあ、最後の総仕上げだね。結有、行き先は軍大学だね?」
「うん………」
――――
「父さん、話があるんだ」
吹雪と共に、軍大学の応接室で、父親の各務原裕二少佐と対面していた。
「……その顔を見ると、扉を開けてきたようだね?」
「うん。僕の母さんは、時雨だったんだね?」
その言葉に裕二は、ふっと優しい笑みになる。
「やっぱり、結有は時雨そっくりで、芯が強くていい子に育ったよ。でも、結有は艦娘でもない。それに、軍に縛られる必要もない。この先の……」
「士官学校に進みます」
きっぱりと告げる結有に、吹雪も決意していた。
「私も、結有と一緒に士官学校に行きます」
その二人に、裕二は立ち上がって後ろに回り、二人の頭を、ポンと撫でた。
「私は結有に、『
「………」
「………」
照れて、言葉が止まる二人を他所に、再び対面に座り直す。
「そ、それよりも!お見合いって、誰とするの!?」
照れ隠しに、結有は割と強めに裕二に問うと、裕二は笑いながら、
「軍大学の講師に、鈴木少将って人がいて、その娘さん。
「……」
「……」
二人がよく知っている、中部警備府の幕僚部広報課の鈴木大尉。御年29歳。10歳以上の年の差だ。
「「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」」
二人の叫び声が、軍大学に響き渡った……
――――
中部警備府。
結局、結有は、けが人であることは変わらないので、半月ほど、医療部に通院することになった。
戻ってくるなり、二人は、湊の呼び出しを受ける。デスクの椅子に座っている、半分諦めた顔の湊に、くすくす笑っている電。
「
と言いながら、兵長の階級章と、三枚の士官学校編入の推薦用紙を前に、
「結有。今、
「……はい!」
その、決意に満ちた声を聞くと、三枚目の推薦用紙に、己の名前を書く。
「これで、編入願書を提出すれば、貴方は、来期士官学校一学年に、入校となります。着校日は来年の四月一日。入学式は四月五日。本日より、従卒の任を解いて、司令官付きとします。あと数ヶ月、名古屋で英気を養ってから、頑張ってください」
「はい!」
「駆逐艦吹雪。本日より、第2艦隊の副旗艦の任を解いて、総秘書艦付きとします。時間がありません。手の空いてる、士官学校卒業生が交代で、入試対策を叩き込みます。寝る時間はない、と思ってください。吹雪は、『推薦
「は、はい!」
そう。艦娘に関しては、『
「では、第3艦隊から曙をスライド、第4艦隊の単艦旗艦の恵海を、第3艦隊の旗艦に異動させるのです」
「はい、寮長に伝達お願いします。二人とも下がっていいです」
「「はい、失礼します!」」
二人は出て来ると、司令官室の前で、顔を見合わせる。
「吹雪、一緒に行こうね。絶対!」
「うん!結有と一緒に行く為に、頑張る!」
こうして、二人の少女の、自分を見つける旅は、終わった。
だが、これからも、彼女達は前に進み続ける。命果てる日まで。
おまけ
――――
結有「ふと思ったんだけど、お父さんって
吹雪「あ、あはは」
裕二「実に遺憾である」
――――
真の貧乏くじクイーンは吹雪だった。
吹雪「うん、そうだね」(遠い目
☆宣伝☆
各務原裕二と時雨の出会いから別れまでのスピンオフ
Ground Zeroー絶望からの船出―
https://novel.syosetu.org/138790/