明石の壊れっぷりとそれに振り回される日向師匠。
そして、《ザ・デストロイヤーズ》解散阻止の真相
そして士官学校時代の湊の心を大きく変えた言葉。
季節は、秋も終わりを告げる、10月に入った。
吹雪と結有は、あの自分探しの旅が終わった後、勉強漬けである。
吹雪は、もちろん入試対策だが、
結有は、高校相当の勉強を、先行して今までやっていたので、
それを続けている。
未だ使用予定のない執務室を、勉強部屋に割当て、
机を二つ、対面に設置して勉強をしている。
そこに、士官学校卒業生である、湊や奈緒、恵一郎に智子、鈴木大尉その他の士官学校出の士官達が、手の空いている時間にやって来ては、吹雪と結有の勉強に、付き合ってくれている。
呉の仕事は退屈だと、溜まってる有給休暇を、纏めて二週間取って、名古屋ライヴの
「自慢じゃねえけど、オレは入学から卒業まで、
「
と、バンド仲間の、
そして、いつものライヴハウスで、ライヴを行う。
不知火は、それに参加する為に、
スリーボーカルという、メインの後ろにコーラス二人という、重厚なボイスのバンドだ。
湊も、士官学校時代のシャウトが戻った、と拓哉に評された。
電曰く、前回のライヴ後、頻繁にカラオケデートが続いたらしい。基本湊が歌い、電は聞いている。
たまに電も歌うが、片桐の影響で、基本が演歌だ。「あの
そして、ライヴの打ち上げは、居酒屋鳳翔でやる。
この日ばかりは、結有と吹雪にも、お誘いがあった。
そんな中、拓哉と湊は、
今日、清霜はお休みの日、だというので、宜しく伝えるように、バーテンダーに言うと、
「かしこまりました。
と答えがあり、思い思いのカクテルと、おつまみを注文する。
「清流をお願いします」
最後に告げた、綾波の注文がこれだった。
「かしこまりました」
バーテンダーが、清酒とブルーキュラソー、ライムジュース、レモンジュースを取り出すと、
清酒6分の3、ブルーキュラソーとライムジュース、レモンジュースを各3分の1、シェイカーに入れて、シェイクする。
氷を入れたグラスに、それを注いで、コースターに載せて差し出す。
「お待たせしました」
清流のように、青くてスッキリとした、カクテルである。
「日本酒カクテルですか。珍しいですね?」
湊が声をかけると、
「サムライ・ロックだけじゃないんです。日本酒カクテルは」
そう綾波は、笑顔で答える。
「レシピ
そうバーテンダーに声をかける拓哉に、バーテンダーは、
「とんでもないことで御座います」
と軽く一礼して、作ったカクテルの後片付けに入る。
「ところで。明石さんは相変わらず、魔改造の日々ですか?」
それを見てから、隣の拓哉に話を切り出す。
向こうの席では、電と綾波が、楽しく会話をしている。
それだけ見れば、
「んー。最初は、日向を
綾波をちらっと見た拓哉は、苦笑いを浮かべる。
「別件ですか?」
「呉への着任時に、やっぱり日本海の鬼神って異名は、轟き渡ってるわけだろ?不知火の一件も、呉管内の艦娘とのトラブルだから、呉にも一報入れてたし。それで明石も、気を遣うわけよ。そんで、「武器装備のことなら、なんでもお申し付けください」という言葉を、綾波は
その言葉に、馴染みの薄い弾薬のことを思い描いて、ふっと思い出す。
「それ、A―10サンダーボルトⅡの
「いやあ。ザ・デストロイヤーズを、
その豪快な言葉に、湊は、
「よくお金ありましたねぇ……」
と呆れるが、
「戦時中、使い道は楽器くらいしかねぇから、馬鹿みたいに溜まってたし、終戦直後で、鎮守府近辺の地価が、下がってたのよ。ほんで、皆で出し合って買っちまった。改造費は、元持ち主がサービスしてくれたわ」
そう、答えてから拓哉は、「本題戻んぞ」と続ける。
「そんで、綾波に訓練担当させっと、再起不能艦が出るのは、目に見えて明らかな訳じゃね?実際、戦艦なら良いだろって、榛名の訓練担当を、お試しでさせたら、三日でトラウマ抱えて、昨日まで寝込んでた。ほいで、深海棲艦の減少で、最近またソマリア沖で、海賊行為が増えてるらしいから、国連活動協力の一環で、綾波を手伝わせてる訳よ。船に乗り込んだ時、海賊に使うとか言ってたな。船の上じゃ、艤装使えないし」
その言葉に、湊が流石に突っ込む。
「待ってください。人に向けていい、銃弾じゃないと思います」
「だよな。結局試作品が、
その、ある意味ぶっ飛んだ話に、当の本人は、聞いてるのか聞いてないのか、しれっと電と楽しく話をしている。
そして、その頃には、鳳翔に綾波がいないのに気づいて、やってきた不知火も合流する。
そして三人は、テーブル席に移動して、
それを見送ってから、
「あの。それってあれですよね?12.7x99㎜……M2
「そう、それ。しかも、
「………さすがは、日本海改め呉の鬼神、恐るべし……人に当たったら、どうなるんだろう?」
ちらりと、綾波の方を見ると、三人の駆逐艦が、楽しそうに会話をしている。多分、内容は、物騒な話だろう。
遠くから見ていると、とても可愛い、
「ところで。さっき言ってた、BBG日向って何ですか、それ?相変わらず日向さん、明石さんの
「そうなのよ。『まあ、そうなるな』といいながら、律儀に、明石に付き合ってんだよ。
「空飛ぶ……日向……今度は、どうやって、飛んだんですか?」
「80㎝砲三連装は、さすがにやり過ぎたと。そういう訳で、試製51㎝連装砲を三連装化して、OTO 152㎜三連装速射砲を元に、速射砲化して、試射させたら、二発目で日向が宙を舞って、庁舎のガラス突き破って飛び込んだそうな」
「………これはひどい」
「……だよな?本人は、『まあ、そうなるな』って、己の運命を受け入れた、達観した修行僧のような顔をしてる。ついたあだ名が、『日向師匠』」
その言葉に湊は、苦笑いを浮かべたままだ。
「それで、DDG海来から剥ぎ取った、艤装装備のVLS+イルミネータとファランクスと四連装SSMを取り付けたと?」
「そうよ。日向も、『まあ、そうなるな』って拒否しねえのよ。もう10年以上の付き合いらしくって、なんだかんだで、明石とも仲がいいわけよ」
その言葉に湊は、日向の器がでかいのか、明石が日向に好かれているのか、考える。最終的には両方なんだな、とフッと笑みを零す。
「しかし先輩。デストロイヤーズ解散阻止の件、よくあんな無茶通せましたね?さすがは、『国防軍史上最速で尉官・佐官を駆け抜けた男』です」
笑いながら言うも、拓哉は真顔だ。
「馬鹿野郎。あれは、
そういうと、ちらりと綾波を見る二人。
「アンドリューも色々動いて、艦娘本部勤務経験者の、
その真剣な言葉に、湊は押し黙る。
綾波は元々、『
湊には、想像することはできなかった。きっと自分なら、生きてはいけないだろうから。
「ほいで、プロトコルは万能じゃないし、『極めて高い霊子』を持つ相手には通じない。高い霊子の前提が、
そう言って笑う拓哉に、湊も笑みを向ける。
真摯に、真剣に考えている相手に、『真の天才』という者がいるなら彼なんだろう、と湊は笑った。
「ところで。戦果を上げても、昇進しない
「聞きたいか?」
そう言うと、拓哉は湊の耳に口を近づけ、何かを囁いた。
湊は、信じられない、という顔をして大声を出す。
「はぁっ!?」
「おい、声がでかい」
拓哉の声に、はっとして両手で口を抑えて、小さな声になる湊。
「……舞鎮管内の他部隊に、対深海棲艦の戦果を分けてるって、どういうことですか?」
「いやあ、俺が昇進すると、陸に戻されるわけよ。だから、対人戦果を、いずも改側、対深海棲艦の戦果を、戦果不足で降格にされないよう調節しながら、他部隊にマイレージのように、配ってたのよ」
ヒソヒソ声で答える拓哉。
「バレたら、書類偽造でクビですよ。何処の
「結局は綾波よ。一度、俺の異動話があった時に、別の少将を、お試しで指揮官にしたら、色々大惨事になって、その少将、ノイローゼとうつ病で入院したのよ、そのまま退院できずに退役、もう何年も経ってるけど、未だに舞鶴の病院の中らしいぜ。だから、幕僚監部黙認の上での措置よ。ほんで、他部隊も、うちらに余計な気を遣わせねえように、奮闘するわけよ。だから、デストロイヤーズが、地味だったのもあんだよ」
二人して、大きな溜め息を吐いた。
「いずも改元艦長の村井准将が、どれだけ器の大きい人か、よくわかりました。
「俺も含まれてないか?」
不満そうに、文句を言う先輩に、湊は笑う。
「武勲を隠すためにやってるんでしょうけど、『ザ・デストロイヤーズ』兄妹の、一番上のヤンチャなお兄ちゃんですよ」
「ばっか。
そんな言葉をふふふ、と笑う湊に、拓哉は妹を見るような、優しい笑顔に変わる。
「……あの
その言葉に、湊は照れ隠しに顔を背ける。
「あの頃は……一番荒れてた時期でしたからね。先輩との出会いがなかったら、不敗伝説を残していたとしても、ただの嫌な女で終わってました。『不敗の女神』伝説の恩人です」
そういう湊の頭に、拓哉は、手をぽんと置いた。
「高梨はなぁ、最初っから、優しいいい娘だったぜ。ちょっと、強情で、
「………」
「俺が最初に言った言葉、『無法を以って有法と為し、無限を以って有限と為す。考えて、感じてみな。人生なんて――わりとチョロいもんよ』きちんと、理解してくれたみたいだしな。『
「……はい」
湊の振り向いた笑顔は、素敵なものだった。
「ちょっと妬けるのです。あのツンツンイケメンめ」
そんな二人を眺めていた、電がぼやく。
「
同じく綾波も、二人を眺める。
「……あの時、不知火をあそこまで徹底的にやったのは……?」
はっとして、綾波の顔を見る不知火。そんな顔を、優しい笑みで、見つめ返す綾波。
「あの人の命令です。『後輩に、不知火さんの長くなった鼻を折ってくれ』と頼まれたと。……私自身、あの
「……ありがとうございます」
静かに語る、綾波の真意を初めて知った不知火は、ふっと笑った。遠い地にいる、夫への感謝も込めて。
「『無法を以って有法と為し、無限を以って有限と為す』、これは艦娘の有り様にも重要なものです。『オーバーロード』という形から脱却した時。艦娘の真髄である、『
そして、その言葉に頷く二人を見て、綾波は頷いた。
「いずれは、音楽以外の、『愛』とかを、お二人に教えてもらう日が、来るかもしれません。私は、まだまだ未熟者、戦闘マシーンと言う鎖を、引きちぎる途上です。いずれ私も、
少し照れながら言う、綾波の言葉に、電も不知火も、ふっと笑顔を見せて……
それから三人は、再び、物騒な話題に戻るのだった。
その頃の居酒屋鳳翔。
「やっぱりこうなったよ!こんちくしょう!」
「結有ちゃん、人は運命には逆らえないから」
「智子さんは俺が連れて帰るよ……何でここの連中、オフになると、壊れるんだよ……?」
「貴方達も、律儀ね……それが、人の良さでもあるのだけど」
今日も、
Tips『尉官・佐官を最速で駆け抜けた男』
草加拓哉は首席・次席特権で中尉で任官。
北海道道東戦線に自ら志願して配属、綾波の存在をこの時に知る。元々幼少期から続けていたジークンドーの達人だったために上位深海棲艦の討伐(内姫討伐あり)により、大尉に昇進。そのまま、『姫討伐の功績』を幕僚長が認めたため軍大学に推薦入学し、飛付少佐、1年のカリキュラム後中佐で任官。その後、准将まで舞鶴鎮守府で艦娘部隊(綾波以外の5人)と共に功績を積み上げ、少将に昇進して軍艦との混成部隊『ザ・デストロイヤーズ』結成。この際綾波を道東から呼び戻している。
なので、少将の時期がそれ以外の階級の時期より長い。
軍大学制度の理論上最速昇進と、戦時中という情勢も鑑みて、これを超える昇進速度は後にも先にも彼一人だろう。
余談だが不知火に「無法を以って有法と為し、無限を以って有限と為す」と伝えたのは彼。
その後のフルオーバーロードで単独姫撃破を為した時の言葉はその影響。
そして、安藤龍と高梨湊の人生を大きく変えるきっかけを作った兄貴分
Tips『世界最強の拳銃プファイファー・ツェリスカ』
世界最強の拳銃という称号のため『だけ』に作られたロマン銃。
全長550mm 重量6.0kg
普通の人間はまず撃てない。撃つには匍匐射撃やバイポッド、トライポッドが必要で
それ、もうライフルで良いんじゃね? って武器。
なお、.500BMGの初活力(発射時に弾丸に発生する運動エネルギー)は本銃の弾薬の約2倍。
これを用いた拳銃なんか普通の人間が扱える代物ではないです。
こぼれ話《湊の男運のなさ》
恵一郎、アンドリュー先輩、草加先輩
湊の人生に大きく影響を与えて、湊が好きだった男3人
全員が彼女を
つまりは『恋愛対象』としては論外の存在だった。
で、結局思いが伝わって振り向いてくれたのが
完全に百合に傾倒している湊さんでした。