彼女もまたいろいろな意味でパワフルだった
一番最初に湊の心の闇と接した『対番』の先輩。
彼女もまた心の闇を克服した人物だった
※若干の下ネタ注意
※11/24結衣のスピンオフの作成上ちょっと修正しました
(草加先輩を同郷にすると結衣を先に救ってしまいそうなので)
湊ちゃんと変態先輩
四月も半ばを迎え、追加人事が発令された。
陸軍からの鞍替えにより、中部警備府技術補給監理官として、高菜結衣大佐が着任した。
夕張の工廠部と、総務部の補給関係の、一部の業務を受け持つ事になる。
湊達の、一つ上の先輩である彼女だが、湊にとって、特別な意味を持っていた。
「お久しぶりです!先輩!」
「やっほー、相変わらずの、プリティ・ガールっぷり」
駆け寄る湊を抱き締めて、ぐるぐる回している結衣。
「湊、この方は誰なのですか?」
「湊ちゃんの愛人ー」
問いかけた電に、しれっと答える結衣、凍りつくその場。
日本刀を抜いた電を、不知火が慌てて、羽交い締めをしている。
「ってのは冗談で、士官学校時代の対番。湊ちゃんの事は、頭の天辺からつま先の先まで、前の穴と後ろの穴まで、熟知してるんだよ」
「先輩、皆ドン引きしてますよ」
艦娘達は、ドン引きしている。士官学校組の三人は、生暖かい目で見ている。この先輩が「変態」だ、というのは昔からである。
「それな。という訳で、技術補給監理官としてお世話になる、高菜結衣大佐です。大佐の三人は先任者なので、結衣が後任者ってことで、ご指導ご鞭撻お願いしますね~」
なんだか、気の抜けた人である。
「まあ、安藤先輩・草加先輩に次ぐ、変人先輩トリオの一人ね」
奈緒が解説する。
ちなみに、
「噂によると、智子っちはショタと結婚したとか? やったの?もうやったの?」
いきなり、突っ込んだ質問をしてくる結衣に、智子は顔を真赤にする。
「今は、旦那様が士官学校に単身赴任なので、火照った体を持て余しているのですよ」
と電が言うと、更に顔を真赤にする智子。
「こうさ、智ちゃんはさ、『私は、誰の施しも受けません。実力で、一番を目指します』キリッ とか言って、プライドが高い子でね。湊ちゃんとのシミュレーションで、過剰なまでにフルボッコされて、そんで湊ちゃんに、『大した事ない努力でしたね』って、笑顔で言われて、泣いちゃったんだよね?」
当時の智子と湊の真似をすると、智子は苦笑い、湊はすごく苦い顔をする。
「湊ちゃんね、当時も頭良くって、顔も良くって、覚えたことはすぐものにできるし、天才だったのね。だけど、ひとつ、『相手の気持を思いやる』ことが、
そう言ってから、結衣がはっと気づいて、
「立ち話も何だから、お茶にでもしよう」
という訳で、カフェに移動する結衣と湊、奈緒と恵一郎と智子、それに不知火と電。
「いやあ。あの頃は『嫌な女』でしたよ」
皆が腰掛けた後、湊がぽつりと呟く。
「士官学校にはね、『対番制度』ってのがあって。二年生が、新一年生に付きっきりで、一年間世話をするの。その一年がミスれば一緒に懲罰だし、人間関係も、一緒に直してったんだよ。湊ちゃんの起こす対人トラブルは、皆結衣も連帯責任」
その結衣の言葉に、信じられないという顔をする、不知火と電。
「人当たりは良いの。大人の傍で、
苦笑いの湊に、へーっと納得している艦娘達。
「今の湊がいるのも、皆さんのおかげなのですね?」
「おっと、湊ちゃんの彼女ってのが、この電ちゃん?やったの?もうやったの?」
「二日に一回は、
「ちょっと!電!?」
高梨家の婦婦事情を、暴露し始める電に、湊が慌て出す。
その様子に、不知火は引きつった顔をして、隣の夫婦と智子に問う。
「カオス要員ですか?」
その問いに、三人揃って答えた。
「「「カオスクイーン」」」と。
顔真っ赤にしている湊を尻目に、電の女性用夜のおもちゃの相談に乗り始める結衣。
「さて。仕事に戻りましょうか?」
カオスを止めようとして発した、智子の号令と共に、仕事に戻る。
後に、電とメール交換した結衣から、湊のお宝秘蔵映像(裸あり)が、大量に送られることになる。
その足で、結衣は工廠に向かった。
「あなたが夕張さんですかね。結衣は中部警備技術補給監理官ですよ。よろしく」
「はい、よろしくおねがいします」
そういうと、すすすっと近づいて、夕張の耳に口を近づけ、ふぅっ……吐息を吹きかける。
「ひゃああっ!?な、なんですか!?」
「あははは、やってみたかっただけー。叔父さんから、今度の名古屋視察、時間を空けたから調整しといて。だ、そうだよ。叔父さんって矢部総理ね?」
「もう、晋ちゃんったら。そうやって、無理を通して」
結衣の言葉に、大きな溜め息を吐いた。
結衣の母は矢部晋太郎の姉で、旧姓矢部春絵、高菜直樹と結婚している。
「よかよか、それも愛。結衣も、ここの着任時に、晋太郎叔父さんから聞いてね、夕張さんのこと。これからは、夕張さんとも親戚になるわけだし、オモシロイ改造があったら、結衣に相談してくれれば、通しちゃう、上に。あと、補給責任者でもあるから、銃弾から核物質まで、なんでも相談に乗るからね。うんうん」
「は……はぁ……」
こうして、史上最凶のコンビが誕生した。
その日、夕方は歓送迎会。
「それじゃあ、高菜先輩の着任を祝って~」
「カンパーイ!!!」
結衣はこまめに、いろんな艦娘に気さくに話しかけ、弄ったりして居た。
「へー、恵奈ちゃんは、暁とケッコンカッコカリしたんだ。やったの?もうやったの?」
「ちょっと!?結衣さん!?」
「何を?」
内容を察知して、顔を真赤にする暁と、首を傾げる恵奈。
「エッチ」
「うんっ!」
その次の、結衣の言葉に、顔を赤くして、笑顔で答える恵奈。
「おお……二年生にしては、背もおっきいもんね。もうそろそろ、湊ちゃん超えるんじゃないかな?」
「どーせチビですよ~だ、ふんっ!」
その会話が聞こえてた湊が、不貞腐れて、日本酒を飲む。
「湊は、ちっちゃいほうがかわいくて良いのですよ!」
それを、電が慌てて宥める。頭もナデナデして。
その様子を見て、ふっと笑うと、結衣は腰をかける。
「恵奈ちゃん。
「うんっ!暁お姉ちゃん大好き!」
「よかよか、いい子だ。チューしちゃれ」
「うんっ!!」
「んんぅ!?」
恵奈は、真っ赤な暁に抱きついて、唇を重ねる。
その様子を見て、笑いながら席を立って、また別の艦娘のところに向かった。
最終的に、結衣は阿賀野と意気投合して、またまた阿賀野達は、二次会にカオス組を連れて行った。
結衣は阿賀野に、「結衣はあとで合流するよ」
と言ってから、湊と電の頭を、ポンと撫でる。
「二人共、結衣がごちそうするから、ちょっと別の二次会しよっか?」
結衣が、湊と電と連れ立ってやってきたのは、BISTRO KIYOSIMO。
「いらっしゃいませ。結衣さんもお久しぶりです。統幕情報部に出向の時、以来ですね」
「うん、キヨシーがバー出したってから。これ開店祝い」
分厚い祝儀袋を手渡すと、
「ありがとうございます。大事に使います」
と、清霜は大事そうに、引き出しにしまってから、
「ではお客様、ご注文をどうぞ」
各々の注文した、カクテルやおつまみが並ぶ中、
「それじゃ、乾杯だね」
「はい」
「なのです」
「湊のかわいいサンタ姿は、きちんと電ちゃんより貰ってるから。対番としては、しっかり目に焼き付ける義務があるからねー」
「ふぁっ!?」
結衣の言葉に、絶句して電を見る。電はにこにこな、『なのです』顔。
「色々、お宝映像をもらったお返しなのです」
「お宝………はっ、先輩、まさか……?」
お宝映像、というところで、はっと結衣の顔を見る。
「生着替えとか、アレとかソレとか、ヤバいやつー」
へらへらーっと笑う結衣に、湊はぐにゃあっとカウンターに突っ伏す。顔を真っ赤に染めて。
「そんで、湊ちゃんがこうやって、心から笑顔を見せられるようになって、嬉しいわけさ。
「どういうことなのですか?」
そう、聞こうとする、電の服を引っ張って制す湊に、「いいよ」と笑顔を向け、
「結衣のパパ、硫黄島の基地司令だったのね。最後まで撤退を拒み、一兵残らず玉砕した。でも、部下の遺族から、結衣たちは恨まれたんだよ。同じ遺族なのにね。嫌がらせは毎日あったんだって。あの時、結衣はまだちっちゃくてね。今結衣が四月一日生まれの33で、32年前くらいのことだから、一歳くらいかな。投石や張り紙は、毎日だって聞いたよ。パパが殺したわけじゃないんだよ。深海棲艦が殺したんだよ?でも、そういったことが何年か続いたら、ママ、おかしくなっちゃったんだよね。『統合失調症』ってやつ。見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたり。今でも、その嫌がらせがフラッシュバックしたり、日常生活が送れないのね。だから今も、閉鎖病棟の中で暮らしてるんだ。それで結衣は、母方の矢部お祖父ちゃんの家に預けられたんだよね。パパの実家とは、縁切られたから」
穏やかな顔で話す結衣に、湊も体を起こす。
「でも、結衣がこれで、何かを恨んだりしたら、パパ無駄死にじゃん?だから、パパと同じ道を歩く、って士官学校に入ったのね。結衣も、割りと問題児だから、対番の先輩を困らせながら一年過ぎたある日、手のかかる後輩が、
そして結衣は、言葉を区切って湊を見た。
「自分は、
確認すると、湊が頷くのを見て、結衣が続けた。
「学校にも行かず、高卒認定資格を取って、士官学校を受けたんだって。その十何年間かの、『失敗作』ってレッテルとの戦いで、何を思ったか、結衣は知らないよ。聞かなかったから。でも、結衣のことも話したんだ。パパは、国民を守る盾となる、その建前を信じて。部下達も自ら残り、死んでいったのに、遺族からは、部下殺しとレッテルを貼られ、ママは頭がおかしくなっちゃって。だから、こういったんだよ。『二人共失敗作とか、部下殺しの娘とか、そんなレッテル、捨てちゃおうか?』って。結衣も、気持ちが楽になったし、湊ちゃんも、何か思うことがあったのか、翌日智子に謝罪をした。智子も、嫌な女と言いながら受け入れてくれた。最初に友達になったのは、結衣の友達が対番の、奈緒ちゃんだったかな?それでバンド活動が始まって、湊ちゃんが対番を教える立場になった頃には、友達もいっぱいいる、笑顔のかわいい良い子になったの。それは、草加先輩やアンドリュー先輩、同期の友達、皆のおかげだね」
「そうですね……後、結衣先輩も」
結衣の言葉に、湊が頷いた。
「結衣も情報部に居たから、
「はい、姉さんも話してくれませんし、私も特に聞いてませんでしたから。私と同じような感じなのかな、ってだけで」
その言葉に、真顔になって暫し考える。
「知りたい?但し。生涯、湊ちゃんの心の中に、留めておくこと。ソレを約束できるなら」
「………はい」
二人、奥のカウンター席に移ると、耳元で語った。
第三世代艤装計画……高梨未来の受けたことを。
湊の顔は、驚きに染まり、やがて口を抑えて、嗚咽を漏らした。
自分なんかより、もっとずっと酷い目に遭っていた姉……何も言わずに飄々と。そして、それでも許すと言った、彼女のことを考えると、涙が止まらなくなっていた。
「……あの子は、ずっと軍に残ったから、金剛が精神的な拠り所になったんだよね、色んな面で。霊子は、三大欲求の集大成である、『生存欲』が一番強いわけだから、三つの欲求を刺激させる方法。ひどい計画だったよね。……失敗してよかったんだよ、あんなクソな計画。結衣は、湊ちゃんみたいな子が増える世界なんて、まっぴら御免だよ」
嗚咽を漏らす、湊の背中を擦りながら、結衣は続けた。
「あの子も、湊ちゃんも、こうやって元気にやってくれて、結衣お姉さんは嬉しい訳。そして、その部下として着任できて、先輩としては後輩の大出世に鼻高々ってこと」
「……はい」
やっと、笑顔になった湊の頭を撫でると、
「そんじゃ、あがのんのところに合流しようか?キヨシー、お会計~」
そうして三人は、カオス組の待つ、カラオケボックスに向かった。
そして、度を越したカオスの結果、カラオケボックスを出禁にされそうになった。
曙と比叡と電の必死の謝罪で、今回は出禁を免れた。
「王様ゲームがやばすぎた。あの
との、曙の供述だった。
そして、結衣も湊も他のカオス組も、翌日二日酔いもなく、きちんと仕事をこなしている。
「それが中部警備府だよ」
と誰かがいったとか。