変態先輩は未来にも影響を与えていた
その二人の深い絆
「久しぶりね」
五月も半ばになった頃。休暇を兼ねて、復興の視察にやってきた、
横須賀鎮守府司令長官高梨未来中将。
彼女が、湊と電のいる執務室を訪れていた。
「ヘイ!湊、電、久しぶりデース!念願の『秘書艦検定一級』受かったのデース!」
金剛の服の襟に留められた、
「おめでとうございますなのです」
「頑張った甲斐がありましたね」
そんな時、バタンと開かれる扉。
「ヘーイ!未来ちゃーん!」
高菜結衣大佐が、未来に後ろから、むぎゅっと抱き付いて、ぐるぐる回す。
「
「オゥ!結衣サーン!マイ・ダーリンを返すのデース!」
「ほい」
未来は、無表情で溜め息を吐き、抗議の声を上げる金剛に、結衣はくるっと向きを変えて渡すと、金剛が抱き止める。
身長差の関係で、未来の足は床についてない。
抱っこされたまま、未来は結衣に声をかける。
「高菜大佐、大垣幕僚長からの伝言よ。高菜直樹中将を大将に昇進、特別防衛功労章の授与が決定したわ」
その言葉に、結衣は困ったような笑みを浮かべる。
「きっとまた、遺族に恨まれそうですねー」
その口調に、未来は首を横に振る。
「今まで通りでいいわ、結衣さん。言わせたい奴には、言わせておけばいいのよ。それより『
「その結果が、ママの統合失調症じゃ、救いも何もないけどね」
その言葉に、はっとなって申し訳無さそうな顔をする未来。
「ごめんなさい……」
「よかよか。未来ちゃんは、強い子のままで行けばよか。結衣も弱くないから、大丈夫」
抱っこされたままの、未来の頭を撫でる。
横須賀鎮守府司令長官で中将だが、ちっちゃいから、威厳はあまりない。
「ところで、結衣さんと未来さんは、どういうつながりなのですか?」
「んー。
あっけらかんと暴露する結衣に、金剛と未来が苦い顔をする。
「結衣さん、その話は湊には」
「ノーなのデース!」
「でも、湊ちゃん、『
更にあっけらかんと答える結衣に、未来は睨み付けると怒鳴る。
「結衣さん!なんで湊に!?湊には、そんなもの背負って欲しくなんか!!」
「姉さん」
その言葉を遮るように、湊は立ち上がり、未来の前にやってきた。
「お姉ちゃん……辛かったね。これからは一緒に背負っていこう?私の背負ってきた物も、お姉ちゃんの背負ってきた物も、『
その言葉に、そっと未来を降ろす金剛。
「湊ぉぉぉっ!!!」
「お姉ちゃん……っ!!!」
ぎゅっと抱きついて、泣き出す未来。湊も、未来を抱き締めながら泣き始める。
「……皆、席を外そうか?」
結衣が促すと、泣き続ける二人を残して、三人はそっと、執務室を後にした。
警備府内の個室に、場所を移す。機密情報を話す時の為に、設けられている。
それぞれ缶コーヒーを片手に、椅子に座っている。
「ごめんね、金剛」
「いいのデース。いずれ、話さなくてはいけないことデース」
声をかける結衣に、金剛は首を横に振る。
「ちょっと妬けるのです」
「デスねー」
電の言葉に、少し笑みを浮かべた金剛は同意する。
「ね、姿形は似てなくても、
その言葉に、二人は頷いた。
「ところで、結衣さんと未来さんは、どういうつながりなのですか?」
「んー……」
結衣は、金剛の顔を見ると、頷くのを確認して、
「未来ちゃんはね、湊ちゃんよりも、もっと辛い思いをしてきたんだ。本当に酷いよね、小さな女の子を兵器に作り上げようとした、『第三世代艤装計画』。結衣は士官学校を出た後、すぐに情報部に配属になった。あとから聞いたら、あの
「「ないない」」
「ひどっ!?」
即座に否定される結衣は、少しだけショボーンとするも、すぐに元気を取り戻す。
「分かった、分かった、分かりました。結衣の神経は、極太ワイヤーロープですよ。フンだ」
腰に手を当てて、ケロッとした顔で、「おこだよポーズ」を取ると、その直後、真顔に戻る。
「それで、陸軍から統幕監部の情報部に、ずっと出向してたのね。そのうちに、未来ちゃんが
「そうデスね。その頃だったデース」
確認するように、金剛に顔を向ける結衣は、同意するように答える金剛に頷いて、続きを話す。
「20代の大佐。妹は大尉だったから、三階級も上だね。小さな頃から軍に居た、未来ちゃんの初めて出会った印象は、『凍てついた目をする子』。
そう言うと、金剛が大きな溜め息を吐く。
「最初から『反乱を企ててるか否か調査に来た内偵捜査官です』と名乗る、
「それ
その金剛の言葉に、電は唖然としている。
「んー。どうせ内偵なんかしたって、ボロも出さんでしょ。だから二人で、『
「ワタシも時雨も、ヒヤヒヤものだったデース」
「まあ、そうなるのです」
結衣の型破りっぷりに、抗議の声を上げる金剛と、生暖かい目になる電。
「んで、最後に二人っきりになったのね。結衣が『話があるから二人きりで出かける』って言ってね。楽しかったよ。銃向け合いながら、お話し合い。お互い持ってる銃を、眉間に突き付け合ってね。結衣のお話もしたんだ。『結衣は、ママをおかしくした軍にいるのは、結衣が何かを恨んだらパパ無駄死にだから、結衣はしなかったんだよ』って。未来ちゃんは、『自分のことは諦めてる。でも妹を歪ませた軍を許せない』って」
初めて聞いた話に、金剛は息を呑んだ。電は黙って耳を傾けている。
「結衣はこう言ったんだ。『許せない、そんなことはないよ。未来ちゃんが許したくないだけ。結衣は、未来ちゃんが本気で、この計画を実行するなら、協力するよ。本気で計画したもんね。うまくいくと思う。ただ……湊ちゃんの奪われた幼少期も、高梨提督も、パパも、金剛も、矢部総理も、艦娘の皆も、国民の皆の思いの詰まった『艦娘基本法』、艦娘と一緒に歩む社会、そして、辛いなりに頑張った未来ちゃんも。皆がやってきたことが、全て無駄な事になるよ?結衣は……そんな世界、嫌だな』って」
黙って耳を傾けている二人に、優しい顔になって続けた。
「もう一つ言ったんだ。『まだ、諦めることはないよ。過去はもう変えられないんだ。ママの心も、高梨提督も帰ってこないし、過去はやり直せない。名古屋の人々も生き返らない。湊ちゃん、名古屋の作戦の時、胃潰瘍で血を吐いたんだって。湊ちゃんは壁を乗り越えたよ。未来ちゃんも、後もうちょっと、あと一歩、乗り越えようか?』って言って、銃を下ろしたの。これで、解ってくれなかったら、結衣は死んじゃってたかな、あは」
「壮絶すぎて言葉が出ないのです……」
言葉が出ない金剛の代わりに、電が言葉を発する。
「でも、一緒に乗り越えるのは、結衣じゃない。金剛を呼び出したの」
「いきなり、『ラブホテルに来い』と言われた時には、何事か?と思ったのデース!」
その言葉に、
「ラブホテルで、銃突き付け合ったのですか!?」
驚愕のあまり、大声になってしまう電に、結衣は、口元に指を当てる。
「鎮守府内には、『草の者』も送り込まれてたからね。清霜とかいう、配置予定のない駆逐艦がうろついてたし。結衣は、
「シャラーップ!混ざった結衣さんが、言っていい言葉じゃないデース!」
びしっと金剛に指差された結衣は、あっけらかんと笑う。
「それな。金剛と二人で、本音を吐き出しあったの。心の奥底の闇まで、二人共全部吐き出し合って……二人共、辛かったんだよね。その時、お互いの指に指輪が現れた。結衣は、この光景、一生忘れないなあ。ある意味『
「すごいのです………」
ぽつりと、電が漏らした言葉に結衣も頷く。
「それで結衣は、『
それだけ言うと、結衣は俯いて、表情を消した。その冷徹な表情に、二人の背中がゾクッとする。
「『
その言葉に、電が絞り出すように、
「どういう……ことなのですか……?」
「ん?清霜を捕まえて、吐かせたの。清霜は、『
「………
電は、その意図を察した。
「そういうことなのです。結局結衣も、『
「「………」」
二の句が継げない二人に、ちょっと口元を歪めて、冷たい笑みを作る。
「結衣ね、売られた喧嘩は買わないと、気が済まない性格だからさぁ。親戚の、『
それだけ言うと、ふっと暖かい笑みに戻る結衣。
「その後、今度は『
その結衣の言葉に、二人も笑みが戻る。
「その後は未来ちゃんも、『妹分』みたいな感じで連絡とり合ってたんだよ。湊ちゃんには内緒で」
「しかし、どうやって清霜に白状させたのですか?」
そう問うた電に、「知りたい?」と言い、耳打ちする。見る見るうちに電の顔が、真っ赤になる。
「ひ……酷いのです!変態なのです!極悪変態結衣なのです!」
「What?」
真っ赤になって、矢継ぎ早に抗議の言葉を浴びせる電に、首を傾げる金剛。
「いやあ、最高の褒め言葉だね、だって結衣、『
「そうだったのです……」
その言葉に、漸く落ち着いて、溜め息を吐きながら、生暖かい目で見上げる電。
「ところで。さっきの混ざったって、もしや……」
と、電が言いかけたところで、扉が開く。湊と未来が、手を繋いで入ってきたのだ。二人共笑顔だ。
「ご想像にお任せするね」
結衣は、電にウィンクすると、振り向く。
「うん、二人共いい笑顔。かわいい。二人共お持ち帰り……」
「「させないのデース!」のです!」
即座に動いた二人に、結衣は拳銃と日本刀を突き付けられる。
「う、うん。しないかな。あはは」
流石に冷や汗タラリの結衣は、両手を上げて、降参の合図をする。
「金剛。結衣さんは、私達の大事な『
「そうですよ、電。私達の大切な、『
「えっへん。『
その言葉に、銃と刀を突き付けられても、なお胸を張る結衣は、やっぱり神経が太い。
「「はぁ……」」
金剛も電も、溜め息を吐いて、武器をしまう。
「それで、姉妹でしっかりお話できた?湊ちゃん、未来ちゃん」
「「はい!」」
二人して笑顔を見せると、結衣は、二人の頭をそれぞれの手で撫でる。
「よかよか。そんじゃ二人共、大事な人のところで、撫で撫でしてもらいなさい」
その言葉に、湊と未来は、それぞれの愛する人の元に、飛び込んでいく。
結衣は、壁に凭れ掛かって、両手をポケットに突っ込んだ。
その時、四人のケッコンリングが光り輝いて……湊と電の指輪が、白銀色に変化した。
その現象に驚いている四人に、結衣は、左手をポケットに突っ込んだままで、
「愛にはね、『家族愛』って言葉があるんだよ。そんじゃ、ごゆっくり。結衣は、湊ちゃんの仕事を、代わりにやってくるよ。今日はオフだからね、今日湊ちゃんと休み交代ってことで。どっかで代休ちょうだいね~」
そう言うと、出ていってしまった。
その結衣を見送ると、四人でぎゅっと抱きついた。
「四人と……あと母さんで、家族ね?」
「そうですね……」
「私達も家族になれて、嬉しいデース」
「嬉しいのです」
そう言うと、四人で笑い合った。
一人、廊下を歩く結衣は、ポケットから左手を出す。
そこには、白銀色の指輪が填められていた。
「家族愛か……結衣も入れてくれてありがとう……ママ……結衣は、幸せだよ」
ふふっと笑うと、司令官執務室に歩いていった。
その翌日、結衣の母である、高菜春絵が息を引き取った、と連絡が入った。
死因は心不全。眠りながら、苦痛もなく亡くなった、と聞かされた……
葬儀は矢部家と結衣、そして高梨姉妹、金剛、電、それに夕張のみの家族葬で行い、父同様、硫黄島海域で散骨された。
「ありがとう、ママ。パパと一緒に、
結衣は最後まで泣かずに、散骨を終えた。
……一つの家族の『終戦』を迎えた瞬間だった。