今回は学園モノにありがちな「生意気な奴を寄ってたかってシメよう」というお話。
だが、相手が悪かった。
ロング編と言わない限りは1話完結です
「何のつもりだお前達!」
各務原結有士官候補生は、数人の同級生に囲まれていた。
ここは、校舎裏の人気のない場所。
なぜこうなったかというと、入学式後に遡る。
各務原と安藤の指導方針は、メリハリだった。
山本翁の放任主義と、その後の厳格主義との、折衷主義を取ったのだ。
課内では、極めて厳しい訓練が課せられる。
訓練課長の部下には、各地から現場で戦ってきた、叩き上げの士官を揃えた。
座学には、各地の教導隊から秀才を集めた。
訓練は厳しかったが、課外活動は、割と自由に行えた。
結有と吹雪は、女子候補生の中で、中心的存在になっていた。
男子候補生からも人気が高い。
それを気に入らない連中が複数いた、ということだ。
「あの各務原ってガキ、気に入らねえな。まだ16だろ?」
「どうせコネだよ。何が『名古屋のスーパーガール』だよ?」
「ちょっとシメてやるか?」
「なんなら犯っちまおうぜ、そうすりゃ辞めちまうだろ?」
そんな連中が企んだ結果、結有はそいつ等に呼び出されて、囲まれていた。
彼女の対番である村井杏奈が、結有が連れて行かれるのを見かけて、教官を呼びに行ったことも知らずに。
「何のつもりだお前達!」
結有は身構えながら、囲んだ男達を睨みつける。
「ちょっと、『名古屋のスーパーガール』に痛い目に遭ってもらおうと思ってな」
「いい気になってんじゃねえぞ、クソガキが」
「家に帰って、ママのおっぱいでもしゃぶってな」
「それとも、俺達の子供でも孕むか?『名古屋のスーパー妊婦』ってなぁ?」
下品な笑い声を上げる男達に、結有は冷たく、
「クズだな」
そう、一言吐き捨てると、男達は、逆上して襲いかかる。
結有は一切攻撃を加えず、受け流す、避けるを繰り返している。
「くそっ!!ちょろちょろと!!」
「避けるだけしか能がないのか!!」
「逃げ足ばっか達者なガキだ!!」
男達は、次第に息が上がっていくが、結有は息一つ乱さずに避け続ける。
「何をしている!貴様等!!」
聞き覚えのある声が響き渡った。
ちょうど杏奈が発見した教官が、訓練課長の各務原裕二中佐だった。
「結有ちゃん!大丈夫!?」
各務原中佐の隣で、心配そうに声をかける。
「うん、大丈夫。
にぃっと、結有は裕二に向けて笑みを向けた。
その頃には、人だかりが出来ている。
「よろしい、各務原候補生。
「はっ!」
短く返答すると、手近な男に右の逆突きを放つ。鳩尾にダイレクトヒットだ。
「がはっ!!」
「でやぁっ!」
更に、結有は左肘を相手の脇腹に入れる。リバーブローだ。
一人目は、腹部を押さえてのたうち回る。
「次は……!!」
一気に距離を詰め、胸へ強烈な掌底を放つ。
トクン……
ハートブレイクショットに、相手の動きが止まり、間髪入れず、股間に膝を叩き込む。
「グギャッ!!」
倒れると、股間を押さえて泡を噴いている。
「沈めぇ!!!」
背後から襲い来る男に、後方上段回し蹴りを放とうとして……
漸く、騒ぎを聞き付け、駆け付けた、吹雪が叫んだ。
「結有!!だめ!!!その蹴りは
「っ!!」
そのまま、その蹴りをフェイントにして、縦回転に移行し、胴回し回転蹴りを相手の肩に叩き込んで、倒れ込む。
ボキィっと鈍い音がして、男は肩を押さえて悶絶する。
その頃には、他の連中は戦意を喪失していた。
「……各務原候補生。後刻対番と校長室に出頭せよ。誰か。こいつ等を医務室に運んでやれ」
背中に手を回し組んだまま、無表情の裕二は救護の指示をすると、足早に立ち去った。
他の教官達が駆け付け、無事な男達は連行され、負傷者は医務室に搬送される。
彼等には、厳しいペナルティが課せられるだろう。
結有は、「
結有と杏奈は、校長室に向かっていた。
「無茶しないでねって、言ったんだけどね……」
苦笑いを浮かべながら、後輩を軽く叱責する。
「ごめんなさい」
申し訳なさそうにする結有に、ぺしっと、頭を軽く叩く。
「結有ちゃんに何かあったら、私、高梨准将や各務原教官に申し訳が立たないよ。結有ちゃんは
「はぁい、カーチャン」
「二代揃って
二人でくすくす笑いながら、校長室の前に立った。
コンコン
「各務原候補生、入ります」
「村井候補生、入ります」
「うむ、入り給え」
中に入ると、士官学校校長安藤龍中将が、デスクの椅子に座っている。
二人は敬礼をすると、
「まあ、此方にきたまえ」
そう勧めると、デスクの前まで歩いてくる結有と杏奈。
「話は聞いた。各務原君。君は無茶な娘だと常々思っていたが、これほど無茶をする娘だと思わなかった」
「申し訳ありません」
「……これも
ふっと、諦めたような顔をする安藤に、結有は苦笑いし、杏奈は首を傾げる。
「かもしれません」
「閣下、恐れ乍ら申し上げます。『両親の血』とは?」
「うむ。君は、母があの村井准将だから、話しても良いだろう。彼女の母親は、駆逐艦時雨だ」
その言葉に、杏奈は少しの沈黙の後、口を開いた。
「………艦娘、ハーフ」
「そういうことだ。それに彼女の父は、壮絶な伝説を残していてな……」
宮戸島での、壮絶な伝説を聞かされた杏奈は、絶句した。
「もう一つ。村井君、ついでに面白いことを教えてあげよう」
くつくつと笑いながら、安藤は告げた。
「各務原結有の公式戦果。陸上戦で、
「………えっ?」
信じられない。と言った顔で、結有と安藤を見回す杏奈。
「だから、陸上戦で駆逐水鬼を単独撃破。と言ったのだ」
「……まじ?……結有ちゃんって、バケモノ……」
と言ってから、慌てて敬礼をする。
「失礼しました!」
結有は、苦笑いしたままだ。
「校長閣下。『瀕死の』という形容詞を付けていただかないと、僕がバケモノみたいじゃないですか?」
その言葉に安藤は、ドン引きしたままの杏奈に笑いかけた。
「クックック。君の妹分は、『
「失礼な。僕は、
不服そうに抗議する結有に、安藤はなおも笑い続ける。
「文字通り
「ゆ、結有ちゃん……吹雪ちゃんが止めて、よかったね」
「そ、そうですね」
青い顔をする杏奈に、苦笑いに戻る結有。
「いずれにしても今回は不問に付す。寄ってたかって、女性に暴力を加える連中に、掛ける慈悲はない。それに、
「例の件って、あの校長閣下の架空戦記……あっ」
「!?貴様!なぜそれを知っている!!」
ガタンと立ち上がって、驚愕の顔で見つめる安藤に、杏奈は数歩下がって、引きつり笑いだ。
「結有ちゃんに呼ばれて。あと、上坂ちゃんも一緒に、拝見させていただきました……素晴らしい作品でした……」
杏奈の白状に、がくんと項垂れ、椅子に座る。
「何ということだ……やはり、卒業前に焚書しておくべきだった……」
「あ……あの……私は以前から、その存在は高菜大佐から……素晴らしいとお伺いして……」
まさかの杏奈の告白に、龍は激昂した。
「またあの
「「ひいっ!?」」
その声と形相に、二人の候補生は、盛大に怯えることとなった。
その頃。医務室に呼び出された、最上級生の寮長は大きく溜め息を吐いていた。
「お前等、殺されなくてよかったな。よりによって、何で「あの各務原」に手を出した?あの娘は、『
「!?」
負傷していた候補生も、こってり絞られた後見舞いに来た候補生も、一気に顔面蒼白になる。
深海棲艦ならともかく、
正確には、『
あの可愛い女の子が、今では恐ろしい顔に見える。
その、真っ青な顔をしている下級生を見ると、寮長は怒る気も失せたのか、再び大きな溜め息を吐いた。
「まあ校長からは、今回の件は不問にせよ。十分報いは受けてるだろう、とのお達しだ。早く各務原に謝っておくんだな。お前等
「は、はいっ!!」
翌日、暴行を企てた男達は結有に、揃って土下座をして、彼女を困らせていた。
そして、あの騒動を見て憧れを抱いた、
もちろん会長は、対番の
「モテモテですね。結有ちゃん」
「待ってよ、吹雪。僕は吹雪一筋だよ!」
「ふんだ!」
「待ってよ。吹雪ぃぃぃ!!!」
そして、その人気に嫉妬して、へそを曲げた吹雪のご機嫌を取るのに、苦労することになる、結有だった。
やはり士官学校に入校しても、貧乏くじは変わらなかった。
ちなみに吹雪は、ファンクラブの『
おまけ
龍 「高菜!貴様!!なんということを。だが、今度こそ焚書して闇に葬ったわ」
結衣「クックック、あのノートは結衣がスキャンして全てデータ化してあるんだよ(※)」
龍 「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
結衣「せいぜい悶えるが良い!恨むが良い!若き日の中二病をこじらせた自分になァ!」
龍 「貴様という女は血も涙もないのか!!」
結衣「結衣にあるわけ無いじゃん」
龍 「おのれ高菜結衣め!!」
結衣「あ、でも不知火が素晴らしい作品って惚れ直してたよ」
龍 「む、そ、それならまあ良いか」
結衣(ちょろいな)
※:前々回だかの『不知火と読みに行こう』という記述。
結衣曰く黒歴史とは現物を本人の目の前で読むことに意義があるのだそうです。
おまけその2
裕二「やはりやってしまいましたね」
龍 「解っていて『鎮圧命令』を出したのだろう?中佐」
裕二「さすがは中将、よくおわかりで」
龍 「ククッ、やはり君を呼び寄せて正解だったよ」
割と悪巧みがお好きな士官学校上層部