※タバコのポイ捨てはやめましょう
龍田は、警備府の皆にすんなり受け入れられて、今は、艦娘寮のスタッフとして働いている。
そんな、五月も終わりに向かい、六月になろうとしている頃だった。
「龍田の艤装を探したい?夕張ちゃん、本気?」
「はい。このままでは、龍田さんが忍びないです」
結衣の執務室ーー工廠の横に、急遽設置したプレハブ小屋(冷暖房断熱完備)ーーで執務していた結衣は、突然の、夕張の訪問を受けていた。
ちなみに、補給部や工廠部はきちんとオフィスがある。
結衣は、『
先輩には、割と甘い
「んー……夕張ちゃん。探すの、結衣は賛成だけど、実際どうするの?片桐はあの世だし、どこに捨てたかわからないし、『
「そういうことです。情報部のコネで、何とかなりませんか?見つけたら、私が聞きに行きます」
その言葉に、へらへらっとした、いつもの雰囲気が消え失せ、真面目な雰囲気になる。
「結衣が副官の立場だったら、絶対に話さないと思う。無理やり吐かせる手段はあるけど、『
その言葉に、大きな溜め息を吐いて、がっくり項垂れる。
「そうですよね……すみません……」
項垂れたまま、執務室を出ていく夕張を見送った結衣は、暫し考え込んだ。
一人だけになった執務室。結衣は、携帯電話を取り出した。
仕事はガラケー、プライベートはスマホの、二本持ちである。
ガラケーの方を操作すると、どこかに電話をかける。
「もしもし斎藤さん?お久しぶりです。今も公安ですか?……え?刑事局?ちょうどよかった。斎藤さん、ちょっと『
ピッと電話を切ると、マッハで仕事を終わらせて、愛車である
翌週、結衣は、湊と夕張を呼び出した。
「夕張から依頼されてた、龍田の艤装投棄ポイント、大凡な場所は判明したよ」
「ええっ!?どうやったんですか!?」
驚いている夕張に、渋い顔の湊。
「先輩。もしや当時の幕僚に、拷問を加えて吐かせたんじゃ、ないですよね?」
「結衣も、そこまで非常識じゃないよ。そういう湊ちゃんは、こうだ!」
がばっと抱き付くと、湊の胸を鷲摑みにして、揉み始める。
「きゃあああっ!!?」
その悲鳴で飛んできた電に、フライパンのフルスイングを、後頭部に喰らうまで揉み続ける結衣だった。
「……本題に戻ろうか?」
頭にたんこぶを作って、真顔に戻る結衣。
場所も、防音設備のある会議室に移動した。
部屋にいるのは、結衣と湊、そして夕張に電だ。
「副官に、吐かせたことは変わりないけど、やったのは『
その結衣の言葉に、全員が首を傾げる。
「副官に対して、『
「………」
予想外のところからの攻略に、全員がぽかーんとした顔になっている。
「結衣さ、情報畑だから、警察庁の公安さんとも仲良しなのね。その公安さんの知り合いの斎藤警視長が、今刑事局にいるから、警視庁に頼んで逮捕してもらって、全部供述してもらったよ。多分、不起訴になるけどね。副官は残りの人生、もう一つの罪に怯えながら、暮らすんじゃないかな?『
「そういうことですか……」
湊は苦笑いをする。湊は、『
そして結衣の、『敵と認識した相手は容赦なく潰す』やり方に、相変わらずの
「だって、冤罪でも何でもない、れっきとした犯罪行為だからね。ポイ捨て、ダメ、絶対」
立ち上がり、力説する結衣だったが、
「昨日の夜、港湾でタバコを吸ってて、海に吸い殻捨ててたのです」
という、電のツッコミを受けて、
「………申し訳ございませんでした」
座りながら、テーブルに土下座ポーズをする結衣。結衣は、それがなければかっこいいのだが、全く締まらない。
「よろしいのです。続きをどうぞ」
満足げな電の言葉に、結衣は起き上がる。
「それでね。大凡の場所は判明したんだけど、捜索隊を出すなら、中部警備府でやらないといけないのと、投棄場所は、横須賀管内だから、横須賀鎮守府司令長官の許可をもらわないといけない。あと、三年の年数による潮の流れで、捜索範囲が広い。もう一つ。潜水艦娘が必要」
その現実……特に、三年前の捜し物、という事実に、全員が暗い顔をする。
結衣は、コホンと咳払いをすると、
「絶望ばかりじゃないよ。上の調整は、湊ちゃんならやってくれるし、潜水艦娘は、
それだけ言うと、ふうっと結衣は息を吐く。
「予算や補給物資は、結衣がなんとかする。でち公を、中部警備府に配属させる根回しも。あとは、
一斉に湊を見る、結衣と二人。
湊は暫し考え、立ち上がった。
「分かりました。やりましょう!」
こうして、龍田の投棄された艤装の捜索が決定された。結局東京都からも、海軍……というより、横須賀鎮守府司令長官宛に、『
未来曰く、「そっちでやってくれるなら、許可ならいくらでも出すわ」とのことである。
おまけに、仮設基地として、未だ処分未決定で保存してある、旧青ヶ島泊地の使用も許可された。
結衣は、全部根回しをしてから、話を持ってきたのだ。
捜索隊は、天龍と雪風に響と瑞鶴。そして伊58と恵海。それに、大井と北上である。
更には、ついこの間、数カ月ぶりに帰国した日向師匠も、艤装大改装中で暇だからと、『試製19式重武装汎用艤装』を装備して、やって来た。
これは例の
全て
ついこの間まで、地獄をくぐり抜け、ヒマラヤ山脈を通って、逆シルクロードを歩き、上海から舞鶴に、『
本人曰く、「全ての疲れは、『
奇しくも、天龍と大井と北上と恵海以外は、『幸運艦』が集まることになった。
恵海は、皆すっかり忘れているが、『
という訳で、退役した潜水艦娘艤装を装備して、水着での作戦参加である。
その
担当指揮官は結衣で、船上で龍田が、捜索支援を行う。
「本日より配属になった、伊五十八です。ゴーヤって、呼んで良いでち」
「おっひさー、でち公」
「皆さん、よろしくお願いね」
龍田が、嘗ての僚友に頭を下げると、皆笑顔で、「安心して。絶対見つけるから」と答える。
そんな皆の笑顔に、嬉しくて、涙が溢れる龍田。
「龍田ちゃん。近くなったら呼んでね」
「ええ…」
該当海域まで、艦娘たちの護衛の元、後方支援艦で向かう。
後方支援艦なら、補給も艦上で行えるし、簡単な応急入渠も可能だ。
結衣は、船のデッキで龍田と共に、海を眺めている。
「……ごめんね、龍田ちゃん」
「えっ?」
海を眺めながら、憂い顔でポツリと呟いた結衣に、龍田は、驚いたような顔を向ける。
「片桐のこと、気づけなかったのは、結衣達情報部の落ち度だから」
「……結衣さんが謝らないで。片桐が悪辣すぎただけ。こうやって、皆に救ってもらえただけで……幸せだから」
その言葉に、結衣も笑みを浮かべる。
「よかよか」
「あっ……圏内入りました」
はっと気づいた龍田に、結衣も顔を引き締め、無線機のマイクを取る。
「ゴーヤ、恵海。潜行探索開始!各艦、索敵警戒を厳とせよ!」
「はいっ!」
全員の返事が返ってくると、困った顔をする。
「結衣、艦娘の指揮初めてだから、緊張してんだよね」
「そう言ってる割には、楽しそうだけど?」
龍田のツッコミに結衣は、「アイアンハートだからー」と答えながら、
海の先を見つめている。
海の底では、
恵海は、元々の改二装備を装備しているだけだが、装備の関係上、そう識別されている。
「なかなか見つからないでちね」
「そうですね……」
海底を、ぱたぱた泳ぎながら、会話をしている。
潜水艦娘達は、結衣が一㎞圏内を行き来して範囲を狭めてる中、その指示を受けつつ探している。
結衣は、海図を用いて計算しながら、『中心点』を探る。
水上艦娘は、その護衛に当たりながら、深海棲艦を警戒している。
ザザーッとノイズの後、結衣からの通信が入る。
『こちら指揮艇。恵海、でち公、中心点が判明。データを送るから、恵海のGPSレーダーで向かって』
恵海には、夕張お手製の、GPS装置が組み込まれている。
ぱたぱたっとそちらに向かうと、確かに錆びた鉄の固まりがあった。
しかし、その視線の先に……
「……殺気……」
「……深海棲艦でち!」
その深海棲艦は、見たことのない形をしている。
「でちさん、雷撃戦行きますよ……」
「わかったでち!」
身構えると、謎の深海棲艦が、先に魚雷発射管から、何かを発射し……
その魚雷が浮上して……違う方向に飛んでいく……
「魚雷でち……?見当ハズレでち」
「違う……結衣さん!サブ・ハープーンがそちらに向けて発射!気をつけて!!!」
―――――
『結衣さん!サブ・ハープーンがそちらに向けて発射!気をつけて!!!』
「えっ!?」
その、恵海の通信に絶句するも、レーダーにも小型の飛翔体を確認している為、疑う余地はない。
「狙いはこの船か!?天龍!!龍田を受け取って!!」
「おうっ!!」
「きゃあっ!?」
「総員退艦!海に飛び込め!ハープーンが来るよ!!」
「はっ!!」
天龍に龍田を投げ渡すと、操船している数少ない軍人に、退艦命令を出す。
救命胴衣を付けた軍人達は、次々海に飛び込んでいく。
「後は結衣が……っ!!」
飛び込もうとした直後、勢い良く、ダイレクトモードで飛び込んだハープーンが、実艦換算の大爆発を起こす。
「うわあああああっ!!!」
結衣の絶叫が響き渡って、船が真っ二つに割れ、沈んでいった……
「結衣さああああん!!!」
雪風の絶叫に、沈んでいく船の横に、ぷかぷか浮いていた結衣は、手を上げて振る。
何とか間に合ったようだ。
「よかった……」
全員がほっと胸を撫で下ろすものの、結衣の顔は、険しいままだ。額から血をダラダラ流し、痛みに耐えているからである。
「でち!恵海!そっちは!?」
結衣は、無事だった携帯無線機で、潜水隊に通信を送る。
―――――
あの射撃の後、潜水艦型深海棲艦は、クルッと方向転換をして、去って行った。
「追いかけるでち!」
「はい!」
二人の潜水艦娘が追いかけるも、ぐんぐん距離が引き離されていく。
二人の倍以上の速度である。
『でち!恵海!そっちは!?』
結衣から入ってきた通信に、伊58が叫ぶように答える。
「引き離されたでち!倍以上の速度で、逃げてったでち!」
「そっちは大丈夫ですか!?」
恵海の呼びかけに、
『後方支援艦撃沈。負傷者はいるけど、死者は多分いない』
「えっ……?」
絶句する恵海に、結衣は、
『予定通り引き揚げたら、漂泊者を曳航しながら、青ヶ島に撤退。OK?』
「は、はい……」
「急ぐでち!」
海上では、武装ユニットをパージして、真っ先に戻った日向が、青ヶ島にあった高速艇に乗って、戻って来る。
それに結衣達を乗せて、艦娘達は、青ヶ島に帰投する。
伊58と恵海も、錆び錆びの龍田の艤装を二人で抱えると、急速浮上して、青ヶ島へと向かった。
「死ぬかと思った……っていうか、死ぬほど痛い……」
万一に備えて、青ヶ島に配置しておいた医療部スタッフによって、旧青ヶ島泊地の埠頭で、負傷者の応急手当が開始された。
結衣は応急処置を受けつつ、艦娘達から、報告を受けている。
最後に飛び込んだ結衣は、破片があちこち刺さり、重傷の域である。
刺さった破片を除去して、深い裂傷を仮縫合している。艦娘達も痛そうだ、と顔を顰める。
結衣には、一応鎮痛剤を投与したものの、かなりの痛みに耐えているが、それでも、優先して報告を受ける。
「龍田さんの艤装は、回収できましたけど……錆び錆びです」
「アレは、一体何だったでち?あんな高速な潜水艦、見たことないでち」
「まさか、潜対艦ミサイルが飛んでくるなんて…」
「こんなことなら、榛名も連れてくるべきだった」
恵海が口を開き、伊58が続いて、瑞鶴が腕を組んで眉を顰めて、日向が後悔の念を語る。
「結衣には何とも……ハープーンが飛んできて、推定30ノットで逃げてった。ということは、攻撃型潜水艦……現代艦艇だね」
「………」
結衣の言葉に、全員が沈黙する。
「とにかく、敵は逃げたし、一隻だけしかいなかったということは、後方支援艦を狙い打たれたとはいえ、遭遇戦だと結衣は判断する。この事実を報告して、対応策を練ろう。まずは、横須賀に厳重警戒を取ってもらって、結衣達は帰還しよう」
結衣は、応急処置が終わると立ち上がり、全員の顔を見て、指示を出す。
「……はい」
代表して、恵海が頷く。
そのまま高速艇で、中部警備府に帰着する頃には、夕方になっていた。
日向も、今日は中部警備府に滞在する予定だ。
中部警備府第1艦隊は、電の指揮で、伊勢湾に展開している。
連絡を受けた横須賀からは、大和率いる本隊が青ヶ島周辺に駐留して、厳重警戒を行い始める。
呉もザ・デストロイヤーズを中心に、警戒態勢を取り、佐世保でも海人艦隊等が、警戒態勢を取った。大湊でも、大鳳率いる艦隊が展開している。陸上では陸戦隊や陸軍が各地に配備され、いつでも出動できる態勢だ。
空軍では、領海内の哨戒活動が再開され、伊58や恵海から送られてきたパターンを元に、いつでも艦娘部隊に通報できる態勢を取っている。
ハワイ以来、約二年ぶりの警戒態勢である。
脅威なのは、まだ敵艦一隻なので、名古屋の復興は継続する、という判断を、行政は下している。
中部警備府は、名古屋の防人となるのだ。
艦娘達は電に報告に行き、結衣は、工廠に運ばれた龍田の艤装の様子を、見に来ていた。
この後、医療部で本格的な縫合を行う予定だ。
「大丈夫?直りそう?」
結衣が問いかけると、夕張は渋い顔をしている。
「ダメですね。武装は全部、塩分でやられてます。幸い、中枢部のコアは、塩分に侵食されてないので、分解してから、部品取り用に保管してあった、最上と木曾の部品で、組み直すしかないですね。でも、加賀さんの改二甲実装もあるし……」
頭を掻いて悩んでいると、龍田と天龍が現れる。
「夕張ちゃん、私のは後回しでいいわよ。ありがとう」
「そうだぜ。龍田が、『
その言葉に、結衣も頷く。
「対潜対策も取れる、加賀の方が優先だよ」
「はい!」
夕張は頷いた。
「よかよか。結衣は、怪我の治療をしてくるよ」
そう言って、医療部に向かう結衣。
医療部に向かいながら、結衣はポツリと呟く。
「あの潜水艦型深海棲艦は何か異質だ……あれは、今までのとは、『
翌日、各拠点の司令長官・司令官が、テレビ会議を開き、厳戒態勢で捜索を続けたが、あの潜水艦型深海棲艦を見つけることは、できなかった。
いつまでも、警戒し続けるわけにも行かず、一ヶ月経った頃、一旦警戒態勢を解除して、様子を見ることとなった。
――――
深い深海の何処か……
海の底に、白い肌の深海棲艦が潜んでいた。
「ニクイ……
深い深い海の闇に、その凍てつく青い瞳が輝いていた。
シリーズ最大の敵が動き出しました。
謎の潜水艦型深海棲艦とは…?