旧第13泊地には、他の泊地に見られない施設が幾つかある。
まずは、艦娘専用の宿舎と食堂、専用大浴場である。
また、軍港には最新鋭の工廠を整えていたが、もちろん設置したのは、
湊が司令官として赴任した後である。
青ヶ島泊地艦娘宿舎――大浴場。
艦娘達の要望により、というより官舎の大浴場を男性陣に明け渡した為、
今は女性専用浴場として、人間にも開放されている。
日頃の憩いの場として、艦娘同士のコミュニケーションの場としても、大いに活用されている。
「ふぃー、いい湯だねぇ」
「いいお湯―」
並んで湯船に浸かっているのは、艦隊参謀長の大村奈緒中佐と娘の恵奈。
それと、司令官の高梨湊准将である。
奈緒は、風呂の中でも腕まで巻いている黒い手袋を付けている。
事情を知っている湊達は特に気にしない。
洗い場では、キャッキャと第六駆逐隊の四人が洗いっこをしている。
「そうですねー」
そんな様子を、微笑ましく見ながら湊が答える。
「残念なのは、結有ちゃんのむっちりボディを拝見できないことだねぇ」
あまり懲りてないのか、奈緒はそんな事を言う。
「結有さんは、天龍さんと吹雪さんと三人で、居酒屋鳳翔へご飯食べに行きましたよ。
っていうか、各務原大尉に聞かれたらまた怒られるよ」
「っていうか、
もう、リバーブローは食らうし、一日中背中は痛いし、説教は食らうし、最悪だったよ」
「いや自業自得だよ、それ……」
そんな会話を、恵奈は首を傾げて聞いているが、飽きたらしく、
「おねえちゃん達、まぜてー」
と、第六駆逐隊の元へとてとてと走って、洗いっこに加わり始める。
「ところでさぁ。あの最低限の物資から、どうやってこんなの建てたのさ?」
当時、次席副官であった彼女は、第13泊地の増設計画はちらっと耳にしていたが、
不思議だったのは、どうやってこの建設費用を捻出していたか、ということだ。
「それはですねぇ……」
少し懐かしそうに、湊は語り始める。
―――――――――――
それはまだ、湊が第13泊地司令官《代行》として、赴任した直後の頃で、
まだ協力者も天龍麾下の第2艦隊のみ、という状況下だった。
第1艦隊の長門達は協力拒否し、工廠を占拠していた……
第3艦隊は、湊へ暴行を加えた為、営倉に軟禁されていた。
そんな中で、物資の確保と、この最悪な待遇をなんとかしようと、東奔西走していた。
ただ、予算が無さすぎた。 片桐が不正に得た財産は、
差し当たり、自身の持ち出しと、自給自足で凌いでいたが限界も見えており……
「おい、湊さんよ。もう
司令官室にやってきた天龍は、書類の山に埋もれ、頭や腕に包帯が巻かれた湊を見ると、声をかけた。
「あ……もうそんな時間でしたか……」
「そんな時間じゃねえよ」
腰に手を当てて呆れるように言う天龍に、湊はんー……と背伸びをして立ち上がる。
「いやあ。予算はない、物資はない、ないない尽くしで……鳳翔さんは
どっかに
そんな愚痴を言いながら、天龍の元に向かうと、天龍はふと、思い出したように口にした。
「いや。あるかもしれねえぞ?」
「えっ」
司令室には湊と天龍と吹雪、唯一営倉入りを免れた雪風が集まっていた。
第六駆逐隊の四人は、哨戒に出ており、動かせないのだ。
「ふぁぁ……せっかく寝てたのに……」
寝惚け
「埋蔵金探しだ。
「埋蔵金ですか……確かに隠してそうですね……」
話をしている中、湊が思い出したように、
「そういえば、一階の階段にある扉って、掃除用具入れか何かですか?
私の持ってる鍵じゃ、開かなかったんですが……?」
「「「あ」」」
庁舎の一階にある、普通のドアを半分にしたくらいの扉――しかも、わかりにくいように壁と同じ色――
の前に、四人が立っていた。
「ほぼ隠し扉じゃねえか。それで、鍵が開かなかったら、どうやって入るんだ?」
「艤装は、地上じゃ展開できないですし……」
「爆薬関係は、長門さん達が抑えちゃってますぅ」
そんな会話を交わしている中、湊は鍵を覗き込むと、ヘアピンを二本折り曲げて、カチャカチャと弄り出して……
カチャン……
「開きましたよ」
「開きましたよ……って………」
呆れる天龍を気にせずに、扉を開く湊。
その先には、階段が続いてて……
「ビンゴ……」
呆気にとられる三人を、流し目で振り返りながら、湊は笑顔を向けていた。
階段を抜けたら、そこは四畳半ほどのスペースとなっており、
金庫や、贅沢品などが隠されていた……
「これは………」
メキッ……天龍が置いてあったバールで、無理やり金庫をこじ開けると、
中には札束が入っている。
吹雪と雪風は、タブレットを片手に贅沢品を調べる……
「すげえ。これだけあれば………」
湊だけが、険しい顔をしていた……
「…………ちょっと、お手洗いに行ってきます。誰も来ないように、見張っててください」
そう言って、そそくさと立ち去ってしまった。
数十分後、湊は戻って来て、この発見を艦娘達と共に司令部へテレビ電話で報告したら、返って来たのは
横須賀鎮守府主席監察官の横澤少将が、軍での接収を宣言したのだ。
「しかし、当泊地は前司令官の横領で、明日の食事にも困っているんです!ご再考を!」
湊は食い下がる。
「規則だ。次回の予算が下りるまで、
「ふざけんな!あたし等に、飢えて死ねってのか!?」
天龍が、堪らず割り込むが、
「天龍、下がりなさい」
と、真剣な表情で言う湊の気迫に押され、少将に頭を下げて下がる。
「部下が失礼しました。ですが、次回の予算がないのなら、どうすれば宜しいのでしょうか?」
「
吐き捨てるように、横澤がそう言い終わる前だった。眼鏡の女性が部屋に入って来て、何かの紙を手渡したのだ。
それを見た横澤は、驚愕の表情へと変わり、それが怒りの顔へと変わって、目の前の女性を睨みつけた。
「貴様!裏から手を回して!!何をやった!?」
「
穏やかな笑みを浮かべながら、横澤を見返す湊に、艦娘達は首を傾げている。
「………
「……ってことは………!」
天龍が再び割り込むと、横澤は、不機嫌そうに出ていった。
代わりに、報告書を持ってきた女性が、
「そこにあるのは、あなた方の資産ですよ。軽巡天龍」
無表情で答えると、湊にふっと笑みをこぼした。
「駄目じゃないですか。裏で手を回して政治的に解決するなんて、さすがは……」
―――――――――――
「ア・リトル・デビル(小さな悪魔)とは、よく言ったものね」
「ふふ……そういう二つ名もありましたね」
呆れた顔をした
「それで、この設備か。湊も無茶苦茶するなぁ」
「そりゃ、必死にもなりますよ。私あの時、サラ金で借りられるだけ借りて、持ち出ししてるんですから。
上手く行かなかったら、今頃軍人辞めて、売り飛ばされてますよ」
「………」
「奈緒。今、変な想像しましたか?」
「うん、すこし」
素直に言う奈緒に、大きな溜め息を吐く湊。
「しかし、どんなマジックを使ったのさ?」
そう問いかける奈緒に、湊は立ち上がりながら、
「ふふ、ナイショですよ」
と、口元に指を立てて振り向きざまにウィンクをした。
「教えろー!!」
そんな湊に、がばっと後ろから抱き付き、胸を鷲掴みにする奈緒。
「ひゃああ!?」
「司令官に!」
「何をするのです!」
「レディとして!」
「恥を知るべきだ」
と、司令官を助けるべく浴槽に飛び込む駆逐艦娘達を、恵奈は笑いながら見送っていた。
「あははっ。お風呂泡だらけ―」
その後、入ってきた加賀に、恵奈以外こっぴどく叱られたのは、言うまでもない。
奈緒がアホの子になってきたので
そろそろかっこいいところを見せないと…