小さな提督と艦娘日和   作:SAMICO

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『不敗の女神』伝説へ挑む智紀、
そこには智子への深い愛があった。

入学決定から夏に至るまでの彼の戦いとは。




士官学校騒動記③-栄光の超越者-

――お客様扱いは終わりだ。

その、教育課長各務原裕二中佐の言葉に対し、彼は強い決意を持った瞳で、前を向いていた。

高天原智紀は、士官学校に入るにあたって、軍大学への入学を早める『()()()()()()』の他に、もう一つの目的を持っていた。

それは、あの結婚の日初めて肌を重ねた後、眠っていた時の夢だった。

 

それは、あらゆる奇計奇策を駆使されて、徹底的に叩きのめされるシミュレーションの画面。

それを見つめている若い智子は、蒼白になっている。

手元には、びっしり手垢の付いている戦術教科書と、びっしり書き込まれたノート。

勝率100%の同級生に対して、万全の体制で臨んでいた。

最初の段階で、ベストを尽くせない状態になっていた。

そして、ブースから出たところにいたのは高梨湊。今の彼女より、『()()()()の笑顔』

「今までの努力が……」

という言葉に、投げかけられたのは、

「大した事ない、努力でしたね」

と、笑顔と共に叩きつけられた()()の言葉の刃。

 

 

「!!」

ばっと目を覚ました智紀は、眠っている智子を見る。

心をつなげる指輪(結婚指輪)が見せた、智子の記憶だと気づいた。

「そうか……()()『不敗の女神様』にやられた記憶か……」

その智紀の瞳には、静かな怒りが灯っていた。

 

その日から、戦術を学び始めた。

まずは、『仇敵(高梨湊)』から、戦術のいろはを学んだ。

そして、士官学校とリンクしている戦術シミュレーションコンピュータのアクセス権限をもらった。

ひたすら戦術を学んだ。それと並行して、他の学科の勉強も、結有や吹雪と行った。

休みの日には、いろんな所に出かけて戦術を学んだ。

ちょっとデートの頻度が減った智子は、最初のうちご機嫌斜めだったが、彼の真意にはいち早く気づき、協力するようになっていた。

智子は、中部管内の戦術のエキスパートを何人も紹介して、智紀は彼らのアドバイスも、聞きに行った。

最大限協力してくれたのは、志摩泊地だった。

前線に出ていた、艦娘達の話も聞いて、参考にした。

彼の心には、大きな炎が燃えていた。『()()()()()』への怒りと、智子の果たし得なかったことを成し遂げること、そして、『()()』への挑戦。

腐って腐りきって、自らも傷つけて、ヤケになってた自分を変えてくれた大切な人への、彼なりの()()()()()』だった。

 

士官学校に入った頃から、結有や吹雪とは、距離を置くようになっていた。

結有が起こした『不良学生鎮圧事件』も、『ファンクラブ結成』も、『ハーレム結成事件』すら見向きもせずに、勉学に励んだ。

シミュレーションは、学生の間は、教官の許可が必要である。

自由に使えるのは、上位学生のみだ。今の時代は、戦術に特化するより、バランスを重視していたからだ。

その為に、実技もしっかり熟す()()()でなくてはいけない。

そんなある日、智紀は、校長である安藤龍との、面会の機会を得ていた。

「校長閣下。小官に『()()』を教えて下さい」

「私に、面会を希望していると聞いたが……戦術など、授業でやるだろう?」

安藤龍は、訪問の用件に、訝しげな顔をする。

「小官は、『()()()()()()』を倒したいんです!」

「………」

安藤は長い沈黙の後、彼の意図を察し、笑い出す。

それを、訝しげな顔をしてみる智紀。

「校長閣下?」

「クックック……いや、申し訳ない。その動機は、『仇討ち』かね?忘れてはいないかね?私は、高梨くんの対番の、そのまた対番の()()()なのだぞ?」

その言葉に、「はぁ……」と答えるのみだ。

「よろしい。少々待ち給え」

そう言うと、校長室の書棚の奥に置いてある、古ぼけたノートを数十冊取り出す。

「これは、私が四年間の勉学で書き溜めていた、戦術・戦略メモだ。これを貸与しよう。だが私は、()()()()()()()天才だ。理解できるかは保証できぬし、理解できるように説明は致しかねる。公平である、()()()()に反する。もう一つ、『()()()()()()()()()は、常識の()に出た天才だった。このノートを、完全にモノにするだけでは、不十分だ」

そう言いながら、引き出しに置いてあった、カードを取り出す。

「これは、戦術シミュレータのパスカードだ。校内規定の『勉学意欲が()()()高い者』として、貸与しよう。存分に励み給え」

そう言ってから、付け加える。

「君も、来年には、対番の世話をすることになるだろう。挑戦できるリミットは、『一年間()()』だと思い給え。()()()()()()()も、果たさねばならぬのだろう?」

「はっ!」

パスカードとノートを受け取って、敬礼をして出ていく智紀を見送ると、安藤は窓から空を見上げた。

「どうやら『()()()()()』伝説は、終焉(終わり)を告げそうだな」

自身や草加ですら成し遂げられなかった、不敗への挑戦。自身は、別の形で自分を納得させた。

それでも()()()()()()()()()()を、安藤はこの学生に託した。

 

 

「わ…わかんねぇ!?っていうか、読めねえ!?」

隠語や、自分だけに分かる言葉を多用する、走り書きに近い安藤ノートの()()は、時間を要した。

だが、一冊読み解いてしまえば、あとは楽だった。

「理解を欲しない天才、か……」

智紀は、安藤龍のストイックなまでの孤高な姿勢に、改めて敬意を感じていた。

その頃には、結有や瑞希が様子を見に来るようになった。

瑞希の話は、かなり役に立った。『()()』にいた者の、生の話。恵海のレ級(一匹狼)の記憶とは違い、部隊を率いてきた者の、生の()()()だ。

結有からは、『喧嘩の仕方』を聞いていた。それは戦術概論にも直結する。護身三論が、戦術にも通用する事に気づいたのだ。

対番である加納明彦も後輩の為に、色々な戦術本を借りて、手伝ってくれた。

それを踏まえての、『不敗の女神像(MT-AI)』との初対戦。

 

結果は、惨敗だった。

兎に角、後手後手に回った。戦略上の()()を無視した戦略に、初手から崩された。

「これか……?智子の感じた絶望感は」

この対戦で、それに気づいた智紀は、『不敗の女神像』との()()()()()()()のは意味が無い、と直感で感じていた。

その翌日から、高難度のAIと対戦。兎に角、敢えて相手の戦略と相性の悪い戦術を繰り返す。

それは、奇計奇策を通り越して、『()()()()()()』戦術である。

対番の加納も、結有も吹雪も、その二人の先輩も、智紀がおかしくなった、と心配するくらいだった。

一人、瑞希だけは、『常識を投げ捨てた連中(裕二や時雨)に敗北した』者として、少しの笑みを持って見守っていた。

最初は勝率が低かった、そのシミュレーションも次第に、勝率を上げていく。

()()()、戦術のボーンヘッドを犯しながら勝つ、という背反した作戦は、AIの処理想定を逸脱している、からだ。

 

その裏で、高梨湊は秘密裏に、『不敗の女神像』のアップデートを、繰り返し行なっていた。

彼女にだって、『()()』があった。負けず嫌いの()()はなくなっても、『十数年間の軍務で積み重ねてきた』()()がある。

いろんな先輩達から吸収した、先人の知恵も、全て注ぎ込んだ。

これで負けたなら、もう()()()()()。そう思いながら。

 

季節は、八月になっていた。

専念できる期間は、()()()()()と、安藤から言われていたが、此処から先、()()()()()()()の次席卒業の為には、ここがリミットだった。

この夏季休暇前が、最後に挑戦できる期限……これが、泣いても笑っても()()

最終授業日を、対戦日に選んだ。

「頑張ってね。僕達応援してるから」

皆を代表して、結有が声をかけた。

その噂は広まり、校内の学生の多くが、伝説の終焉を見届けに来ていた。

艦娘の艦隊編成は、敢えて()()()()()()()()()で行った。

戦艦2、空母2、雷巡2の、攻撃型である。

コンソールに座ると、相手側のAI起動をする各務原中佐が、コンソールを操作して、『MT-AIVer.F』のロードを行った。

「それでは、始め!」

安藤龍の号令と共に、戦闘は始まった。

智紀は、全軍を突っ込ませた。

「全軍突撃!押し潰せ!」

全員は、狂ったか?!と思った。だが、()()()()()だった。

彼女の奇計奇策は、相手の常識を破壊すること、に気づいた智紀は、『()()()』で、()()()()()()()()()()を選んだ。

兎に角、空母を真っ先に潰す。制空権を奪い返すことに専念した。

初手は、雷巡2に防空を任せ、空母を守る。

戦艦の砲撃で、敵陣を崩す。

相手が手を変えれば、それに対応した、オーソドックスの方法を取る。

()()()()()()()()()

それを繰り返す。それには、かなりの精神力が必要だった。兎に角、臨機応変に頭脳を回転させるのと、冷静な判断力を維持する必要があった。

皆、不敗の女神伝説に目が眩んで、()()()()()のだ。

『これは、高梨湊()()()()()()』と。

そして、漸く智紀は、戦術の切れ目を見つけた。

「よし、艦載機は引き上げろ。雷巡突撃。魚雷を叩きつけろ!着艦のタイミングを狙え!」

その、僅かな隙を見出したのは、開始から二時間後だった。

『不敗の女神像』に、()()()()()()瞬間だ。

空母に、轟沈判定が出された。

「今だ!」

「智紀くん!」

「意地を見せろ!!高天原!!お前の『()』を見せてやれ!」

結有が叫び、吹雪が続き、対番の明彦が叫ぶ。

「よし!戦艦、砲撃開始!空母は、第二次攻撃隊発艦!」

敵戦艦が、炎に包まれる。

 

「それまでっ!高天原候補生、判定S!」

安藤龍の声が、シミュレーションルームに響き渡った。『不敗の女神像』が『()()』したのだ。

『………』

その言葉に、全員が沈黙して、

「いやったぁぁぁぁぁ!!!!!智子!!!やったぜぇぇぇぇぇ!!!!」

智紀が立ち上がり、両手を突き上げて叫んだ。

 

その様子を、特別に中継してもらっていた、中部警備府司令官執務室で、智子と湊が見ていた。

()()()()()()()()()、ですね?」

ちょっぴり、悔しさを滲ませて、それでも漸く、『不敗の女神』伝説に、終止符を打った解放感も帯びた笑みを、湊は浮かべていた。

「ふふ。やっぱり()()()だわ。私には勿体無いくらい」

そう言うと、ふふっと笑う智子。

「ねぇ。貴方の()()はいい男よ……?」

ふっと、悪戯っぽく笑う智子は、現在妊娠五ヶ月。()()()()のは、出発前夜だった。

その事実を、モニターの先で胴上げされている、智紀は知らない。

もちろん、妊娠の事実も湊と山本軍医少佐だけの、()()()()になっている。

そろそろ、公表するには、いい頃合いだろう。

 

夏季休暇で、彼等が明日、帰ってくる。

この中部警備府に……

高天原智紀は、この時三つの称号を得たのだ。伝説を終わらせた、『栄光の超越者(ザ・グロリアス・オーバーライザー)』と、『()()()()()』と、『地獄を開封した者(ヘルズオープナー)』。

 

そう。我那覇陽子が最後に組み込んだ、『MT-AI』の()()()に起動する、プログラムが発動したのだ。

『敗北した時、()()()()()()()の戦術を取り込み、分析する』プログラムが。

こうして、陽子が組み上げた真の目的、『最強のAI』が目覚めることになった。

湊のアクセスも拒絶し、プログラム名称も、自ら『ヘルズキーパー(地獄の門番)』と変えて、候補生達に立ちはだかることとなる。

姿を変えて、士官学校の生徒達に今後も立ちはだかる、『()()』は今、始まったばかりだ。

だが、それに智紀が挑むことは、ないだろう。

 




地獄の門番「真の地獄はここからだ」

智紀くんは努力の天才です。
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