そして結衣にも一つの区切りが訪れることになる。
ジ・アンブレイカブル・ハートのもう一つのエピローグ
高梨姉妹メインと思いきや結衣メインのエピソード
しんみりなショートエピソードです。
お盆間近なある日。湊と電と結衣と不知火は、休暇を取っていた。
そして、東京へ向かっている。車も八人乗りワゴン、運転席は湊、助手席には電、それから前の後部座席には、結衣と不知火そして最上。
最後部座席には、キャプテン・キソーこと木曾と、佐世保から名古屋にやってきた龍驤。
嘗ての
皆、
横須賀からは未来と金剛、そして大和が、向かっているらしい。
ハワイ大戦後から、三年目のお盆。それぞれの任務や仕事で多忙の為、なかなか集まれずにいた。
天城の、「今年こそは、お盆には皆で集まりましょう」との、呼びかけで実現した。
集まるのは、高梨艦隊の六人と三笠と高梨姉妹と、そのパートナー艦娘。それに、新たに姉妹の『
結衣は、お盆の集いには、初参加となる。
「そういえば、龍の対『
不知火がポツリと言う。湊以外はわからないので、不知火は、不敗の女神像伝説とそれを砕いた智紀の愛と、その後の地獄伝説の始まり、を説明する。
「なんや、純愛やな。ちらっと智紀って奴見たけど、ええ男やわ。ちょい、不器用そうやけど」
そんな龍驤の言葉に、佐世保時代の顔見知りの結衣が同意する。
「ん、なんというか不器用な子なんだよね。うん、不器用。智子もそうだから、波長が合っていい夫婦になれるんだろうね」
「俺も、そろそろ結婚しないとなあ」
そんな木曾のボヤキに最上は、
「だめだよ。木曾は僕と約束したでしょ。結婚する時は一緒に、って」
「そういう言い方するということは、お前
「いないよ?」
「なんだ、いないのか」
お互いの気持が、それぞれお互いに向いていることを、なんとなく知っている不知火は、大きな溜め息を吐く。
「まあ、それはともかく。湊さんは挑戦されたんですか?『
「一度だけやりました。瞬殺でしたよ。智紀とタッグを組んでそれだから、大分掛かりそうですね。前線を退いたら、時間をかけて攻略しますよ。それまで生きてるかなぁ……?」
そんなボヤキを、横目で見ながら、電はふっと笑う。
「元々、智紀はそういう素養があったらしいのです。趣味でやってた、
「
湊が、電に訂正すると、
「そう、それなのです」
その言葉に、湊がふふっと笑いながら、
「活動時期は、被ってなかったんですが、私も同じゲームをやってて、ここ数日、対戦してるんですよ」
「お、そうなの?今度こそ、仇討ちなったの?」
結衣の言葉に、電が笑う。
「
「ふぅん、五分五分かぁ。指揮官タイプか参謀タイプだからねぇ」
結衣がふふっと笑う。結衣の『
東京の閑静な住宅街にある、お屋敷のガレージに車を駐車させると、屋敷の玄関から未来と金剛、それに大和がやってくる。
「待っていたわ。結衣さんはお久しぶり」
「やっほー、未来ちゃん!」
両手を広げて、ハグをするポーズをすると、未来は金剛を見て、金剛の許しを得ると、結衣に抱きつく。
「おー、よしよし」
頭をナデナデすると、金剛が
「ユイはそれで満足したでしょうから、ダーリンを返すのデース!」
「ほい」
結衣も、あっさりと返却する。
「さあ、三笠さんがお待ちです」
大和の言葉に、全員が高梨家の門をくぐった。
一同揃って玄関に入ると、天城と三笠が立っていた。二人共真剣な表情である。
結衣は、きれいな敬礼をする。
「ご無沙汰をして、申し訳ありません。三笠退役元帥閣下」
「……高菜結衣。私を……『
膝をつき、手をついて、頭を下げる。
「母さんは、高菜少将の名誉を守れなかった、父さんの代わりに詫びたい、と」
未来がそう横で言うと、結衣は少し優しい笑顔を浮かべて、三笠のもとに膝をついて、優しく手を取った。
「閣下、
「……高菜……」
その母の姿に、不器用だな……と思う姉妹。
「それに、私は、大事な、『
その言葉に、三笠の左薬指に身に着けていた、くすんだ銀色の指輪が輝いて、きれいな白銀色になっていた……
「これは……」
驚いた顔をすると、二人の娘とその愛する者、そして結衣が指輪を見せると、三笠はふふっと笑った。
「私は、希望を持ち続けてよかった。こんなに
「結衣は、いい子たちに出会えて、よかったですよ」
その結衣の笑いに、残りの四人も、その周りに集まる。
「色々ありましたし、これからもあるでしょうけど、母さんは安心して、見守っていてください」
「そうよ。母さんの決断のおかげで、今の平穏な時期があるのだから」
二人の娘の言葉に頷く三笠。その様子を、天城や他の高梨艦隊の皆で、見守っていた。
高梨提督のお墓に向かいながら、ふと三笠は、疑問に思っていたことを、結衣に聞いた。
他の艦娘達は、もう既に先に向かっている。
「結局、高菜少将の実家とは?」
「んー……この間、会いに行きましたよ。祖父と祖母は、九州の山奥で、ひっそりと暮らして、余生を過ごすそうです。
その言葉に、未来がふっと嘲るような笑いをした時、静かに結衣が続ける
「未来ちゃん、そして湊ちゃん。決して、パパの両親を嘲笑うようなことはしないでね。あの人達だって、色々
「でも……」
その言葉に納得できない湊に、結衣は首を振る
「誰も、悪くないんだよ。本当に、
『……』
押し黙る皆に、ふっと溜め息を吐く結衣。
「もう自分を責めるのはやめましょう、って何度も言ってるんだけどね。あの人達なりの『
「……だから、『
その頃には、高梨提督が眠る霊園に着いていた。
母の死を契機に、結衣は矢部家のお墓から、高梨提督の眠る、この霊園に両親の墓を作っていた。
高梨提督に、可能な限り近い場所で……
「もう
先に行っていた艦娘達は、墓石をきれいに磨いて、花を供えている。
四人も、高梨提督の眠る墓前にやってくると、未来が日本酒を供え、湊がお饅頭を供える。
そして、三笠がお線香に火を点けて、全員で手を合わせる。
暫しの黙祷の後、三笠が声を掛ける。
「さあ、迎え火だ。道一さんを迎える、準備をしよう」
『はい!』
三笠の言葉に、艦娘達と二人の娘が、返事をする。
一番後ろで手を合わせていた結衣は、スマホのバイブレーションに気づくと小さく、「ごめんね」と告げて、その場をそっと離れた。
暫く電話をしていると、スマホをしまって、ふうっと溜め息を吐いた。
「どうした?」
三笠が声をかけると、結衣は、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
「今、訪問看護師から連絡があって、祖父母が亡くなっていたそうです。遺言で、葬式は不要。訪問看護師からは、『自治体で火葬の後、無縁仏として埋葬して欲しい、と依頼されている』と……お任せします、と言っておきました。……あと一人です。三笠閣下。結衣を、高梨家の養子に入れてください?」
「………いいのか?」
その言葉に、結衣は頷いた。
「これは、結衣達で決めてたことです、高菜家の血筋を絶やすことは。だから、父の墓も、『硫黄島で散った不器用で誠実な男とその妻、ここに眠る』と、墓碑銘を刻んであるだけの墓です。結衣も、父の汚名を晴らして、父に追いついた頃には、戦死でもしてるかな、と思ったんですが、
「……分かった。『高梨若奈』として、お前を養子として迎え入れよう。今日から『高梨結衣』となる。だが、
「……はい!」
「では、結衣。今日からお前も、私の『
「良かったわね、『
「よかったね、『
二人の妹に、ギュッと抱きつかれると、結衣は心からの、穏やかな笑顔を浮かべていた。
こうして、結衣の人生は、一つの区切りを迎えた。
高梨家のお屋敷に戻ると、庭で迎え火を行い、夜は、供えたお酒のお下がりで、皆で高梨提督の思い出を語る。
高菜直樹の死後も、深海棲艦と初めから戦い続けてきた、高梨提督の人生の、一つ一つのエピソード。
それに結衣は、耳を傾けながら、静かに聞いている。
その傍らには、二人の妹、そしてそれぞれの最愛な人。
それを見ながら、ふっと笑顔を浮かべて、月を見上げる。
――パパ、ママ。おじいちゃんとおばあちゃんを、優しく迎えてあげてね。結衣はもう、大丈夫だから。
翌日、名実共に、結衣は二人の妹の、姉となった。
次回はようやくやれそうな水着回の予感。