睦月の嫉妬と湊の思い。
そして、第三世代艤装計画の悪意と、継ぎ接ぎ深海棲艦とは……。
※最終回ではありません、season4第1話である
睦月再び
駆逐艦睦月・初雪と言う「存在」は、この戦争中、ある時を境にして、戦場からいなくなった。
『第三世代艤装計画』によって、当時高梨艦隊に次ぐ練度を持った二人の駆逐艦を、五歳の少女と《融合》させた。
初雪は、高梨未来という少女と混じり合って、
だが睦月は、五歳の時の、『
『艤装を
それ以後、与えられた
睦月には
でも、日々楽しく過ごしている湊に、ちょっと嫉妬を覚えていた。如月が、翼と共にやって来て、翼は
――睦月って、我儘なのかな……?
(どうして?)
湊は、書類の手を止めて、目を伏せる。睦月の存在を心で感じる、いつもの仕草である。
――如月ちゃんに、会いたくなっちゃった。きっとあの如月ちゃんは、『違う』如月ちゃんだと思うけど。それに……もっとお友達も欲しかったな、って……
その言葉に、胸がチクリと痛む。結衣から告げられた、計画の詳細が正確なら、
(………ごめんなさい、睦月。姉さんみたいになってれば……
――そんなこと言わないで!それは、『
その強い口調に、一瞬ハッとなるが、再び目を伏せて、ゆっくり目を閉じる。
真っ暗な闇の中に、睦月の姿がゆっくり浮かび上がる。その姿は少し―――怒っている。
――睦月は、湊ちゃんが消えちゃえば、なんて思ったこと、一度もないよ。同じこと、電ちゃんにも言える?怒るよ、絶対に。
そのまっすぐな言葉に、目を閉じたままふっと口元を崩す。
(ごめんなさい、でも……)
心の中で、睦月に言おうとした言葉は遮られた。
――湊ちゃんだって、被害者だよ。酷いのは、
(…………)
――わかった、湊ちゃん。ちょっと、『
(えっ?)
久しぶりに睦月が、『表に出てきた』。
――――
「というわけで、『
「はい?」
「はぁ……」
工廠に集められた山本軍医少佐と夕張は、キョトンとしている。
突然、仕事を中断して集合するように、言い出したのだ。
湊の
そのツケは、電が払っている。
ちょうど、廊下を歩いていた休日の電を、執務室に放り込んで、書類仕事をやらせている。
「なんか、
と、ぼやきながら書類仕事をこなしている。電には
「なんか、バイオテクノロジー的なサムシングで、何とかなりませんかね!?」
いつも以上に、テンションの高い
そんな中入って来る、変態女王こと高菜結衣大佐。
その様子を見た瞬間、だいたい
「おー、
その言葉に、苦笑いを浮かべる
「あれ、バレちゃった……?」
――そりゃバレるよ……睦月ちゃん……
その反応に、山本軍医は首を傾げ、夕張は大きな溜め息を吐いた。
山本軍医にも、第三世代艤装計画の全容と、睦月のことを告げた。
医師である彼女は、もの凄く渋い顔になる。
「戦争の裏で、そんな人道に反する行いがされていたんですね。全く度し難い……」
「そうですね……」
『
「いや、過去のことは良いよ。それで、
夕張の肩をぽんと叩き、笑顔を向ける結衣に睦月が、
「うん、そう。湊ちゃんったら、実験の時最初から自分が消えてしまえば、って言うんだよ!酷くない!?」
――睦月ちゃん、何で言っちゃうんですか!?
心の中の抗議を無視する。結衣が腕を組んで、渋い顔をする
「うんうん。それは酷いね」
ぴっとスマホを取り出す。
――まって!!睦月ちゃん!!止めて!!!!
(やだよーっ)
睦月は、笑いながらふっと目を伏せる。
――鬼!悪魔!睦月!
その抗議を無視する睦月に見守られながら、結衣は電に連絡した。
「なんか、湊ちゃんがあの計画の時に、消えてしまえばよかったんだ、とか言ってたらしいよ?……うん、うん、伝えとくね」
電話を切ると、結衣はニカッと笑った。
「なんか、『明日、二人共有給休暇申請出すから、今夜から明日は夕方まで、寝かさないのです』だって。激おこだったよ」
――うわああああ、本気でお仕置きパターンなんですけどおぉぉぉぉ!?
(その時は、睦月はゆっくり寝てるから、ごゆっくりどうぞ~)
――うわあああああああん!!!!
「事情はだいたいわかった。必要な人員と設備と資材を揃えるから、来週まで待ちやがりなさい。はーい、かいさーん」
結衣が解散を宣言すると、一同は自ずと解散になり、結衣は、
睦月は、湊の執務室に戻ると、ふっと目を伏せた。
(それじゃあ、湊ちゃん、
――えええっ!?
再び、睦月は心の底に沈んでいった。再び人格が
「お帰りなのです、湊」
ニコニコ腕を組んで立って、湊を待っていた電の背中に、真っ赤なオーラが立ってる。
「お……おこですか?」
「当たり前なのです」
その夜から、本当に翌日夕方近くまで、めちゃめちゃ
(酷いよ、睦月ちゃん……)
――あはは、ちょっとやりすぎちゃったかも。ゴメンね。
ぐったりしながら、心の中で文句を言う湊に、ちょっぴり謝る睦月だった。
その間結衣は、斉藤の警察庁ルートをフル活用して、片っ端から当時の関係者を、
人間側の責任者である、当時の脳科学の権威であった新井田博士は、既にこの世に亡く、それに深く関わる人間も、
結衣は、もう一つの疑問を持っていた。有給休暇を取った結衣は、すぐに呉に飛んで明石に、再び貸した借金のカタに、霊子融合実験の詳細を、レポートにして提出させた。
結衣も日向同様、明石の
「ねえ、明石。初雪と睦月の『
「いつもすみません。初雪に関しては、体ごと融合してしまいましたが、睦月に関しては、あの時点では残っていた筈です。それ以降は、私も計画から外れて……」
二重の意味で、申し訳無さそうな顔をしている明石に、結衣は笑った。
「いいのいいの。結衣の無茶振りに、付き合ってくれてるし。この10万の貸しは――この間の、綾波の戦闘記録見て思ったんだけど。ほら、折りたたみ式の
「その発想はありませんでした!ウェポンコンテナが開いた時に、肩に装着されるよう組み込んで、対空・対水上・対地の人系目標に当てる誘導弾ですね!?」
明石の目が
「よかよか。それじゃ結衣は、睦月の体を探しに行くよ。次は東京だね」
その日のうちに、広島空港から羽田に飛んでった。
「……というわけなんだけど。叔父さん、何とかなんない?」
向かった先は首相官邸。前日のアポで連絡を受けた大淀と、現在の防衛大臣の小野原も同席して、応接室で話を聞いている。
密談も密談。防衛省のトップと、防衛省内の海軍の一大佐が、私的な相談をしている。
諜報対策で、四人だけしかおらず、外に声は漏れないし、電波も遮断されている。
「ううむ……」
「工廠本部に無いことは、確認しておきました。やはり、どこかに隠されているか?破棄されたか?何か記録が残っていれば良いんですが……」
「私もそう思って、防衛省のコンピュータにアクセスしてみたんですが、体の行方『
腕を組んで考え込んでいる矢部に、工廠本部に確認してくれた大淀が代わりに答えて、その彼女の疑問に、小野原も溜め息混じりで答える。
「
結衣の推論に、全員がはっとして、結衣の顔を見た。
「第三世代艤装計画は、
結衣の言葉に、全員頷いた。
翌日、結衣が踏み込んだ時には、新井田博士の家は、もぬけの殻になっていた。
周辺の住民の話では、松本元中将や横澤元少将や松本中佐らしき人物も、目撃されていた。
新井田博士の家は、息子達が住んでいたはずだったが、いなかった。
すぐに家を調べると、地下室を発見した。巧妙に隠されていて、普通なら発見するのは、困難だっただろう。
地下室には、艦娘の生体に関する様々な資料等があり、一番奥に培養液の中に眠っている、全裸の睦月の肉体があった。
結衣が手首に触れると、脈拍はある。霊子は感じられないから、『
様々な資料やノートを読み漁ると、新井田博士は自分の死を偽装して、艦娘―睦月―の細胞を利用して、
そして、横澤も、片桐も、松本親子も、新井田博士と連絡を取り合っていた記録があった。
更に、DSキラーについての記述もあり、
その、前段階として人工深海棲艦の計画を立ち上げる。それを最後に、記録も途絶えていた。用済みとなった、睦月の体をほったらかしにして。
おそらく、これら様々な資料も、新井田博士の脳の中に叩き込まれている為か、持ち出されずに残されていた。
あるいは、事前に捜索の気配を察知して逃げたか……?
「……
乱暴に、机に拳を叩きつける結衣。拳の皮膚が切れて血が流れている。結衣の指からも……怒りのあまり、強く拳を握り過ぎていたようだ。
「大佐。血が……」
結衣に同行していた、情報部の女性部員が手を開かせると、テキパキと応急処置を行う。
「呉の明石に連絡。『素材は揃った。名古屋に急いで来られたし』あと、睦月の素体は持ち帰ろう。
「はい……一冊残らず始末します……ところで」
「ん?」
「
「あはっ」
肝心なところで、締まらない結衣である。
結衣は、新井田博士の一件を、防衛大臣に報告した。
新井田博士は、国内にはもういないだろうが、松本中佐に徹底的に尋問を行ないつつ、全国の情報部が密かに動くことになった。
夕張が、継ぎ接ぎ深海棲艦のデータを情報部に提出させ、松本中佐を追い詰めていく。
松本中佐が証言したのは、「新井田博士はPMCを結成し、日米に復讐を企てている」と、いうことだった。
博士の行先は不明であるが、国内にはいない、と証言した。
彼等も、博士に会ったことはなく、通信のみの連絡を受けていただけだった。
結衣はこの事実を、他の人達には黙っていることにしたが、人間がDSキラーを制御するのは無理だろう、と考えていた。
自身を死んだことにして、歴史の影に埋没していた三十余年の間に、彼女の存在に気づいて手なづけていれば、考えられそうだが、
怨念の塊と化したDSキラーは、彼女自身の思うままに、動くだけだろう、と。そして、新井田博士自身も恨みの対象だろう、という事も。
「やれやれ。
狂った博士の狂った計画に、思いを馳せつつ、その発見のきっかけとなった睦月には、心からの謝意を送った。
結衣が、睦月の素体と共に名古屋に戻り付いたときには明石と、その
艤装も一か八かで、退役した望月の艤装を、同意を得て睦月仕様に改装して、用意した。
そして、すべての準備が整った時に、電と
「ええと、分離方法は、
明石と事前に相談した分離方法は、自然に分離するのに任せる、という方法だった。
無理やりやって、取り返しが付かなくなることを、避けようという思いもあったからだ。
その言葉に、湊は頷いた。
「それが成功したら、『第三世代艤装計画』は、全て
「頑張るのです、湊、睦月。電はここで、
『ありがとう、
二人の心が、同時に発した言葉と共に、建造装置の中に入っていった。
溶液に浸り、睦月の体を抱き締めながら、湊はゆっくり目を閉じる。
――お別れだね……とっても楽しかったよ。
(ううん、違うよ、睦月ちゃん。ずっと一緒だよ。
――睦月、モテモテになっちゃったぁ……
(ふふっ……)
二人の意識は、遠のいていった……
目を覚ました湊は、心配そうに見下ろしている、睦月型制服を着ている睦月を含めた一同に、首を傾げる。
「ん………?」
「はい、鏡」
起き上がった湊に、結衣が
「これ、私?」
「そう。睦月に髪の色素とか、肌の色素とかを持ってかれちゃって。あと高速建造剤のせいか、成長した感じ。山本先生に診断してもらったけど、艦娘ハーフは変わらない、って。黒髪にするなら、染めないといけないよ?」
「電は、このままで良いのです。もっと綺麗になったのです。おっぱいもおっきくなったのです」
「睦月も、このままでいいと思う。可愛くてきれいなお姉さん、って感じ」
結衣の説明に、電が惚れ直したように力説して、睦月がニコニコと付け加える。
「まあそれは追々。三笠さんに昔の写真見せてもらったら、癖っ毛のウェーブな感じの髪の子だったから、計画がなくて成長したら、こんな姿になってたんだよ」
「その。説明は良いんで、服着させてください」
「とりあえず、バスローブ」
「あ、ありがと……」
睦月が、すぐにバスローブを手渡すと、いそいそと着込んだ。
「それで。服なんだけど、
「大問題ですか……?」
睦月の言葉に、首を傾げる湊。
「
「あっ……」
睦月の言葉に、漸く気づいた湊。
そう。体格が大きく変わった為、湊の持っている服は、大体
急遽電が、体格の近い士官の私服を借用して、持ってきた。下着は、コンビニのものを買ってきた。
軍服も、もちろん全て仕立て直し、である。
「ふう。なんか、目線が急に高くなって、慣れないですね」
「そりゃあ、8㎝も伸びりゃねえ……?」
結衣も苦笑いである。湊の持ってる服は、全部睦月と電行きである。
「改めて……よろしくなのです。湊、睦月」
「よろしくね、湊ちゃん、電ちゃん」
「はい、よろしくね。電、睦月」
三人が抱きついて、それぞれの頬にキスをしているのを見て、結衣は満足そうに両手を上げて、高らかに宣言した。
「よっしゃぁ!『第三世代艤装計画』
こうして、
湊達は、この日、お買い物の為に、急遽有休を取って、出かけていった。
湊の服を、全て買い直す予定らしい。長門が、荷物持ちと運転手で、付き合う事になった。
湊の車は、ツーシーターなのだ。車も見に行く、と出かけ際に話し合っていた。
「あの、艤装装着試験は……?」
そんな三人に声をかけようとした夕張に、結衣はぽんと肩を叩く。
「無粋だよ、艤装は逃げない。ゆっくりやっていけばよか」
「そうですね」
その言葉に、夕張と明石が笑った。
「せっかくなので、私も日向と、名古屋を見て回ります」
「なんでも、『奇怪な料理を作る
「はい!」
腕を組んで、出ていった二人を、
『
結衣と夕張は、生暖かい目で見送ってから、それぞれの仕事に戻っていった。
今日も、いい艦娘日和である。
きっと、明日も良い艦娘日和になるだろう。
完結したっぽく書かれていますが、season4は始まったばかりである。
Tips《湊の変化》
元々湊は睦月成分の影響で成長が止まってたので、成長させて
白い髪は、リスタートと言う意味もこもってます。
この後、色々な諸手続きが行われるでしょう。
免許とか写真付きの身分証問答無用で作り直しですから