小さな提督と艦娘日和   作:SAMICO

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幸運艦雪風とバカ参謀長の狂想曲………


ラッキーガール狂想曲

「提督―!失礼します―!」

「どうぞー」

 

昼下がり、従卒見習いの各務原結有は、司令官室に顔を出す。

司令官室は秘書艦の電の姿はなく、湊もまた、司令官デスクではなく、

ミーティングテーブルに座って、本を読んでた。

ティーカップには、冷めた紅茶が少しだけ残っていて……

「あっ、すぐお茶を淹れてきます!」

「お願いしますね」

素早く給湯室に行くと、ティーポットを洗い、新しい紅茶を、温めたティーカップに淹れると、

トレーに載せて、給湯室に置いてあるクッキーをお皿に添えて戻ってくる。

「お待たせしました」

さっと、ティーカップを入れ替えると、湊は笑顔を向ける。

「ありがとうございます」

「は、はい。ところで、提督は何をお読みになってるんですか?」

そう問いかけると、ちらっと目に入った本は、太平洋戦争に関するものばかりだった。

「私、近代史が好きで、こうやって時間の空いてる時に、近代史に関する書物を読んで、研究しているんですよ」

そう言って、隣の席を引いて勧めると、結有は敬礼して、隣りに座る。

そんな結有の頭を軽く撫でると、本をテーブルに置いた……

 

「幸運艦と呼ばれた艦、雪風……1940年1月20日就役、1947年中華民国に賠償艦として引き渡し、1971年解体」

「………」

「結有。幸運艦と呼ばれた雪風は、一番……仲間の沈んでいくところを見てきた艦船、なのかもしれません」

「………」

「太平洋戦争が終わって、日本が復興して、高度経済成長をなし得た頃、深海棲艦が現れました。ハワイ近辺の米海軍は全滅。日本は、自衛隊を派遣するも全滅。大量の自衛官の血を流す結果になりました。その時、軍艦三笠が姿を変え、単独で深海棲艦に立ち向かいました。原初の艦娘、戦艦「三笠」……その後、自衛隊は、彼女と共に闘う道を選び、彼女が浄化した深海棲艦は、嘗ての軍艦の魂を持つ娘『艦娘』として、生まれ変わりました」

「艦娘起源概説ですね」

「まあ、()()()()()()されてるのはそうですね」

その時の、湊の表情は、憂いを帯びた笑顔だったのが、結有の心に残っていた……

「そうだ、結有さん。今度、幕僚会議の随員として東京に連れて行くので、今日の定時後に、軍服のサイズ合わせしましょう」

「え、あ、は、はいっ」

 

 

―――――

その頃、艦娘専用食堂。

丁度13人の艦娘が一同に会しての、毎週定例のお茶会の最中である。

そんな中、一人()()()()()()()も混じっていた。

参謀長の大村奈緒中佐。昨日から数日、旦那と娘は旦那の用事で東京へ。娘は父方の祖母のところに遊びに。

自分は、上官不在時の残留幕僚なのだが、今日は非番で、暇を持て余していた。

「なー、ユッキー」

「参謀ちょぉ、何ですか?」

クッキーをつまみながら声をかける奈緒に、雪風は顔を向けた。

「ユッキーって幸運艦じゃん?」

「そう言われてますぅ」

「宝くじとか買ったら、当たるんじゃね?」

「はぁ?」

 

全員がキョトンとしてから、

「まさか。幸運だからって、そんなの当たるわきゃねえだろ?」

天龍が笑い、

「全くだ。そんなので大当たりしたら、苦労はしない」

長門が続くが、

「……一度だけやってみませんか?なのです」

と口を挟んだ電に、一同は顔を向けた。

「それじゃあ、こうしようか。次回のロト7、雪風に番号を選んでもらう。あたしらが、一口ずつ同じ番号を14口買う。当たれば一口分ずつ平等分配」

奈緒が、ポケットからごそごそと、ロト7の購入用紙を取り出す。

「何で持ってるのよ?」

「いやー。ここ来て娯楽少ないから、島で唯一のスーパーに、販売所あんのめっけちゃって、最近やってる」

雷のツッコミに、てへーと笑いながら答える奈緒。

「子供の教育に、あまり良くないわね」

「そうでもないですよ、加賀さん。子供は、親を反面教師にして育つ、といいます」

容赦も何もない一航戦。

「恵奈はいい子だ。異論は許さん」

と、力説するのは長門。最近恵奈に懐かれて、恵奈を溺愛しているようだ。

「で、雪風に選んでもらうんですか?」

「一人一口300円ね」

大井と北上が続ける。

「300円なら、小遣い程度だし良いでしょう」

陸奥も賛同すると、奈緒は、さっと雪風の前に、マークシートを14枚差し出した。

「まあ、当たったら一人二~三億円かな。14口だし。四回連続で一等なかったし」

奈緒はスマホを取り出すと、サイトを確認する。

艦娘達は、キャイキャイと、当たったらどうしようかと、夢を語り始める。

ま、何万かずつ当たって、みんなでぱーっと使って終わりでいいや、なんて気持ちで、奈緒は頬杖をついて眺めている。

駆逐艦娘達は、お菓子や、ぬいぐるみなど。巡洋艦娘達は、割りと実用的な夢を語り始める。

長門は「スポーツカーが欲しい」と言い出す。

そんな中、冷や汗ダラダラ流しながら選んでる雪風は、そんな余裕はなかった。

 

 

かくして、スーパーあおがしまで買った、14枚の同じ番号のロト7くじ券。

艦娘達は「来週の金曜が楽しみだね―」と、宿舎への帰途についた。

 

 

 

翌週金曜日。

「あ、ごめん、ちょっとあたし、艦娘と夕飯の約束しててさ、行ってくる」

そう言い残して、司令官室を飛び出した奈緒を、湊と電と結有の三人は、首を傾げて見送っていた。

「何慌ててるんでしょう?」

「さぁ?」

「なのです」

「あ、そうだ。結有さん、結有さんの夏制服と冬制服、仕上がったそうですよ。今日の定期便で届いてました」

「それじゃあ、結有さんの晴れ姿を見せに、居酒屋鳳翔にいくのです」

「はーい。あ、父さんに連絡しないと……」

そう言うと、スカートのポケットから、スマホを取り出す。

「もしもし?父さん?僕、提督と居酒屋鳳翔でご飯……えっ?父さんもいるの?えええっ!?うん、うん、また後でね」

電話を切って、二人を見回すと、少し頬を掻いて、

「父さん達も、僕の軍服姿みたいって、待ってるみたい……」

そう言うと、二人でVサインをする、湊と電。

 

 

 

その頃、艦娘食堂。

艦娘達が、テレビの夕方のニュースにかじりついてる。

普段は野球中継を見ている艦娘達も、野球そっちのけである。

そう、ロト7の結果発表の日だった。

 

「おっす―、お待たせー」

そう言ってるところで、発表が始まっていた。

「…………」

一つずつ、発表される本番号。

「……三つは、当たってるから……」

「……こ、これも当たりよ!?」

「……ま、まさかな………」

「………」

全部、当たっていた……

 

「やったぁぁぁぁぁ!!」

艦娘達は、飛び上がるように喜んでいるが、一人顔が青ざめているのは、奈緒だった。

「うわあ……大事(おおごと)になっちまったぁ……」

「騒々しいですね」

「うひゃあああ!?」

背後から掛けられた声に、奈緒は腰を抜かす。声を掛けたのは、艦隊法務士官の(兼作戦参謀)高天原智子少佐だった。

 

 

「……で、雪風が幸運艦だから、試しに宝くじ買ったら、一口あたり約三億当てたと。馬鹿なの?死ぬの?あんたの馬鹿は世界級なの?そんなんで当てたら、苦労はしないんですよ」

艦娘から事情を聞いた智子は、相手が一階級上の上官ながら、遠慮のない毒を吐いている。

もしかして、受け取れないんじゃあという、不安そうな顔をする艦娘達。

「……結論から言うと、艦娘が当選金を受け取ることは、艦娘基本法に則り問題ないし、奈緒、あんたが受け取るのも問題ないです」

その言葉に歓声を上げる艦娘達。

「ですが――――そのお金は、必要な分を除いて、定期預金にすることをお勧めします」

その歓声を手で制すると、智子は続ける。

「あなた達も、いずれは艤装を脱いで、軍を去ることもあるでしょう。ですが、我が軍はあなた方に、退役少尉の格の年金しか差し上げられません。だから、艦娘向けの婚活支援があったり―――元艦娘が身持ちを崩して身を売った……という事例も、少なくはないです。もっと差し上げれば良いのですが、仕方がありません。軍にも、無限にお金があるわけじゃないです」

そう言うと、智子は眼鏡を外して、艦娘達を見回した。

「人間は、いきなり大金をポンと渡されると、正気を失います。それで身を持ち崩します。衣食住は、不自由してないのですから、遠い先のことを考えて、大事に使ってください」

普段の冷たい、愛想のない、怖そうの三拍子の智子らしからぬ、真摯な語り口と説得力のある物言いに、艦娘達は素直に頷いた。

「あと、換金は銀行でないとできないんですが、あなた達を内地に全員連れていくのは、無理があります。

銀行員に来てもらいましょう。諸手続きは私が行います。手続きは本人の同席が要りますので、来週月曜、全員を軍港待機命令にしていただきます。それまで、大事になくさないように。―――あと、誰にも言わないように――ートラブルを招きます」

それだけいうと、智子は奈緒に向き直ると、眼鏡をかけ直した。

「アンタは、旦那に管理してもらいなさい。アンタに大金持たすと、碌な事にならないもの。大佐にはメールしとくわね」

「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そんな叫びが、艦娘食堂に響き渡った。そんな奈緒を、艦娘達は、どっと笑いながら見守っていた。

 

「ところで、当選口数15口なんだけど?」

「ま、誰か当たったんでしょう」

 

―――――――――――――

結局、艦娘達の当選金の殆どは軍が預かり、元本保証で、元艦娘に対する支援基金を立てるということに落ち着いた。

彼女達が退役する時には、それまでの月利を付けて償還する事になっている。

 

 

それから数週間後。

「提督、失礼しまーす!……って、何ですかこれ!?」

結有が軍服姿で中に入ると、司令官室には、ダンボール箱がたくさん置いてあった。

「いやあ、ほら。私、誕生日近いんですよ。それで、艦娘の皆からプレゼントが届いて……

 まだ、開封してないですけど、皆から、何ほしいか13個選べって言われたから、

まあ、中身は大体察しがついてるんですけど……」

そういうと、執務をしていた湊が、おどけて肩を竦める。

「大事な妹たちからのプレゼントです、ありがたく使わせていただきます」

「それとは別に、あなたに皆から」

そう言うと立ち上がり、クローゼットボックスにかかっていた服を取り出して渡す。

「白露型の制服のレプリカ。軍服も凛々しくていいけど、皆とお揃いの、艦娘風の姿が見たい、って」

そう言われて、キョトンとしてから、ぱあっと笑顔になる。

「わぁ……僕、大事にします!早速着替えて、皆に見せてきますね!」

そう言うと、出ていってしまった。

そんな姿を、にこやかな笑顔で見送る湊。

それと入れ違いに、中に入ってくる智子。

「副官も不在、ちょうどよかったわ、湊」

「智子さんも、お骨折りありがとうございます」

「これは貸しよ。ったく、艦娘達に、大金の使い方教えてあげたら?」

「何でです?」

「いいとこのお嬢様だったんでしょ?あなた」

その言葉に、少し困った笑みを浮かべながら、両手を上げる。

「さすがは元呉鎮守府情報参謀。昔のことです、よしてください……まぁ、ちゃんと、生命線残してるんだから、あの子達も、使い方を学びながら使うでしょう」

そう言いながら、窓から見下ろすと、

埠頭に、スポーツカーを停めて、サングラスを掛けている長門と、それに集まる艦娘達の姿がある。

そこに、白露型の制服を着た結有もやってきて、賑やかにしている。

それを湊は、軽く笑いながら眺めてから振り返ると、真面目な顔に戻っていた。

「高天原少佐、それじゃあ例の報告を」

「はい」

 

 

 

 

ちなみに、雪風はその後、もう一回宝くじを数口買ってみたが、一つの番号も当たることはなく。

結局、あのラッキーガール・ラプソティの原因は、わからずじまいに終わりましたとさ。

 

 

なお、奈緒の当選金は、半分娘名義の定期預金に入れて(※贈与税処理済み)、

娘の嫁入り時に、渡すことになりましたとさ。

残りは、きっちり旦那が管理するということになったとさ。

「あたしの三億円んんんんんんんん!!!!!!」

 

 




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