エナツキ誕生のお話。
「えっ?MeTubeに動画を上げたい?」
恵奈の相談を、工廠に入り浸って、自作のロボットメタルフィギュアを作ってた結衣が、キョトンとして聞き返した。
最近導入した、工業用3Dプリンタで、
当然ながら、
軍での使用時には、貸し出す事も設置条件である。
「うん。自由研究のサイエンスマジックが楽しくて、もっと見てもらいたくて」
「それで、暁と恵奈で動画作ろう、って事になったのよ」
その恵奈と暁の言葉に、「うーん……?」と腕を組んで考え込むと、真面目な顔で二人を見る結衣。
「結衣は、良いと思うけど?楽しいこと
「そうよね……それは、色々動画見て知ってるわ」
「わたしは大丈夫!そういうの、知った上でやりたい、って思ってるから」
その言葉に、結衣はもう一度考え込んでしまう。
「そうだねえ。結衣としては、面白そうではあるんだけど、サイエンスマジックかぁ……ちょっと、預からせてくんない?」
真面目な顔をした結衣が、この一件は預かりたいと告げると、二人は艦娘寮へと戻っていった。
「……と、いう訳なんだけどさぁ?」
夜のBISTRO KIYOSIMO。
呼ばれて集まったのは、大村
「ふーむ……?あたしは面白そうだと思うし、恵奈のやりたいことは、叶えたげたいな?」
そういうのは、母親である奈緒。
「私は、どうか?と思います。顔を出して出演する、リスクを考えると」
慎重論なのは、
「僕は、大人がきちんと監修すれば、良いと思うんだけどなあ……?」
そう、ほんわか言うのは、恵一郎である。
「BGM等は、拓哉さんが用意しますが、やはり編集は大人がやる。危ない実験は、大人の出演者が一緒にやる。あとは、セクシャリティに関わるものは禁止。所謂『恵奈タンハアハア』的なコメントは、大人が目を光らせて消す。この辺が、
そう、常識的な意見を告げるのは神通。
「恵奈さんなら、自衛も出来ますし、
という、ぶっ飛んだ見解は、やはり綾波である。
人間をミンチにすることに
「まあ、軍の管理下にある、ってことを明確にして。学校と相談して、動画内容は大人達の監修の元やれば、手を出す馬鹿おらんだろ?ぶっちゃけ『ストレートな防衛行動』で、大人を一人
その、綾波のトンデモ理論をスルーして、見解を述べる拓哉。
例の変態おじさん、あのあと女性恐怖症(特に
だが冷静に考えれば、あんな蹴りを叩き込む
「取り敢えず、BGMは川内に発注しとくわ。恵奈ちゃんっぽい、ほのぼのなやつ、幾つか候補作って選べばよくね?」
「そっちはまあ追々だけど。大人の出演者って、誰が良いと思う?」
結衣がそう言うと、一同の目は
結衣は、たははっと笑いながら、お酒を飲み干した。
「言い出しっぺの法則ね?了解了解。科学監修は、夕張にやってもらおうか?結衣も、割りとそう言うの好きなんだよね」
その言葉に、湊もふっと笑みを零す。
「皆がそう言うなら、私もそれで。軍施設の使用許可は、警備府司令官の権限内なので、広報部と相談しながら出せると思います。私としては、クリーンなイメージ、恵奈がアンチコメや酷いコメントに耐えられなくなったら即終了、軍の信頼を失うようなことはしない……要は法令遵守。これが要求事項です」
その言葉に、両親も頷く。
「よし。そんじゃあ、拓哉先輩と奈緒と暁と湊と恵奈と結衣と香菜さんで、打ち合わせをしないとね。その上で、やるかやらないか最終決定は恵奈ちゃんにしてもらう。OK?」
結衣の言葉に拓哉が、
「そんじゃあ、川内連れてくるわ。その場で曲作った方が、早いだろうしな」
と続ける。湊が、
「わざわざすみません」
と言うも、拓哉は気にしていない顔だ。
「俺も楽しいからな。確かに、俺の動画にも変なコメントもあるけど、良いコメントで打ち消してくれるしな。俺達は音楽限定だけど、恵奈ちゃんなら、軍の広報活動にも使えるんじゃないか?『子供達が疑問に思ってる軍のこと』とか、な。機密事項は避けた艦娘達のこととか?」
拓哉の言葉に、一同感銘を受けたように、聞き入っている。
こうして、『恵奈ちゃんMeTuberプロジェクト』が始動した。
企画会議が、小会議室で開かれた。
参加しているのは恵奈・暁・結衣の出演者トリオ。結衣は、編集も兼任だ。
科学監修の夕張、
総監修の湊と奈緒、
そして、アドバイザーの草加拓哉に広報の各務原少佐、
BGM制作担当の川内である。
「という訳で、恵奈ちゃんのMeTubeの企画会議を始めるよ?」
結衣の号令で、企画会議が始まる。
夕張からは、まずは簡単なサイエンスマジックから始めよう、という提案がなされる。
家庭で出来る実験から始めよう、というものだ。
「火や薬品を使う実験は、もう少し反応を見てからでも、遅くはないと思います」
というのは、科学監修の夕張だ。
その合間合間に、川内が持ち込んだキーボードで、BGMの案を恵奈に提案しては、恵奈はこんな感じと返事をして、曲ができあがっていく。
ザ・デストロイヤーズの作曲担当は、拓哉と川内で最近は、殆ど川内担当なのである。
拓哉はメタルしか作曲しない為、こうなったのだ。
「あとは、恵奈ちゃんと暁は、
と言う湊の注意に、こくりと頷く二人。要するに、『クリーンなイメージの二人』は、厳守なのだ。
「広報としては、出せる情報と出せない情報を把握してもらえるなら、艦娘の紹介企画には協力可能です。というより、
恵奈の立場というのは、広報としても目をつけていた部分でもあったが、恵奈が断るだろう、とお蔵入りにしていたのだ。自ら動画を作る、と言われたからには、好都合なのだろう。
「出演者としては何か、考えてる所はあるの?」
母親であり、監修の奈緒が三人に問うと、
「二人で相談したんだけど、サイエンスマジックと、広報のお手伝い、後は都市伝説とかもやりたいわね?」
「うん。ちょっとした探検も、いいかなって」
「ドッキリとかも、面白そうじゃないかな?」
暁が答え、恵奈、結衣と続けて答える。結衣は、『危ない実験限定』の筈なのに、しゃしゃり出ようとしている。
やっぱり、
「それじゃあ、その方向で考えるか?撮影機材とかはまあ……」
大人達と恵奈と暁は、夕方遅くまでああでもないこうでもないと、相談をする。
翌日から、予備実験が始まる。
動画で失敗しないように、まずは夕張から、サイエンスマジックの原理を教わるのだ。
それから、二人と結衣で、予備実験をする。
最初は、穏やかな科学の実験。
と言いながらも、最初のお題は、
『ガラスを溶かす液体に、コップを入れてみた』
という、危なそうな実験である。
夕張の提案に、暁が噛み付く。
「いきなり、危ない実験じゃない!?」
しかし、原理を知っている結衣は、ふふっと笑い出す。
「使うのは、サラダ油と水槽だね。字幕で「きちんと食堂で使いました」とか、入れとけばいいでしょ?」
結衣の説明に、キョトンとなる二人。
「ええとね……」
ゴニョゴニョと、暁と恵奈に仕組みを教える。
『あははっ、そういうことかぁ』
それを聞いたら、二人は大爆笑する。
というわけで、予備実験をして、実際の動きを確認する。
それから撮影である。
そして結衣が動画を編集してから、湊が動画をチェックする。
奈緒は、湊がOKなら安心、と任せている。
カメラが回っている中、二人と結衣が黄色い液体の入っている水槽と、コップの置いてある工廠内のテーブルの前に立つ。
『はいどうもー!』
「恵奈です!」
「暁よ!」
『二人合わせて『エナツキ』でーす!今日も、頑張っていきましょう!』
息の合った声で、カメラに笑顔を向ける二人。
「はいはい、結衣お姉さんだよ」
ひょこっと顔を出す、迷彩服姿の結衣。
「お姉ちゃん。今日はコップを溶かしちゃうんだよ!」
「びっくりするわよ!」
自信満々な二人に、怪訝な表情を浮かべる結衣。
「まさかぁ……?コップが消える訳」
そう言ってる間に、恵奈がゴム手袋をして、コップを黄色い液体に傾けて沈めていく。すると、コップの底の方から消えていく。
「うっひゃあ!消えちゃったよ?」
「すごいでしょ~!」
わざとらしく驚く結衣に、恵奈の横で胸を張る暁。
すると、結衣はふふふっと笑い始める。
「ふふっ、分かった。『光の屈折を使った』んだね。コップは……」
そう言うと、黄色い液体に手を突っ込んで、コップを引き出す。
「ほら、あった!」
「ぴんぽーん!」
笑顔で、黄色い液体のはいったコップを持っている結衣に、笑顔を向ける恵奈。
「コップを溶かす、というと危ない薬品と思うけど、実はこれ、サラダ油なんだ。物には光の進路を曲げたり、反射したりするんだけど、光の進路を曲げるのを、屈折っていうんだね」
指を立てて説明する結衣に、恵奈が続く。
「その屈折の仕方が、ガラスとサラダ油、後は、アクリルってプラスチックも一緒だから、油の中では、見えなくなっちゃうの」
「皆も、お家で実験してみてね!」
そして、暁が締める。
「そうそう。油を沢山使うから、家族の人の了解を得て、大きいコップに小さいコップを入れてから、油を入れてみようね。ちゃんと、油は料理に使ってね。今回使ったこの油は、このあと、食堂に持っていって、皆のご飯に使ってもらうから安心してね!」
そう結衣が付け加える。
テロップに、『※この動画は海軍艦娘本部中部警備府工廠で撮影しています』と書かれている。
『それじゃあ、次回もまた見てくださいね』
と言う締めで、動画が終わる。
動画の途中に効果音やテロップも、いっぱい使っている。
見終わった湊は、コクリと頷く。
「OKです。アップロードしましょう」
こうして、エナツキはMeTuberとなった。
ザ・デストロイヤーズが宣伝したり、紹介したり、艦娘達も見たりで、割と好評である。
軍の広報活動や艦娘の紹介等をやったり、建設中の建物のレポートや、
都市伝説の検証等、楽しく動画を配信している。
恵奈も、
それを紹介して、艦娘の頑張りを知らしめる広報という役割もまた、一つの『想い』なのだ。
今日もいい艦娘日和。
そして、エナツキの動画は始まったばかりである。
多分動画ネタメインはさほど出来ないと思います。
結構難産だったので…