その記念式典に呼ばれた湊は複雑だった。
夏も終わった10月の末、一つの案件が舞い込んできた。
名古屋の復興のシンボルとして建設された新・名古屋電波塔、最近通称も決定して『名古屋セントラルタワー』と呼ばれる、名古屋復興の先駆けとなるタワー。
名古屋駅からすぐ近くの、各種電波塔の再建として作られたが、名古屋市長の
「
と云う発言から、市が半分以上の費用を拠出することで建設が決定した。
その関係上、旧小牧空港の再建場所を変更したりしたが、
日本の建築学者オールスターズの、技術の粋が結集して設計されたタワーが着工されたのは、湊が着任する数ヶ月前だ。
足掛け二年と少しで、漸く完成の日を迎えたのだ。
その工期中は様々な問題もあったが、名古屋復興JVの連携や木曾や最上等元艦娘が主要メンバーである村上建設の尽力によって完成の日を迎えた。
村上建設社長の村上慎一氏が、完成の日に人目も憚らず涙したのは、有名な話である。
湊は、復興の象徴「不敗の女神様」として、名古屋セントラルタワー完成式典の招待を、
名古屋市長である村河氏から受けていた。湊は当初断るつもりだった。
―――――
「お断りするのですか?」
広報課長の各務原少佐が持ってきた、名古屋市長からの『名古屋セントラルタワー』完成式典の招待状を、
「そりゃあそうでしょう?
湊の顔は浮かない、憂鬱な顔をしている。
「湊ちゃん、それは違うよ!あの時は、色々時間が無さ過ぎて、ああするしか無かったんだよ!」
同じ時を過ごしていた睦月は、その苦痛を、苦悩を痛いほど分かっていた。ストレスから、血まで吐いてやり遂げたこの作戦。
ずっと、『大量殺人者』という、
矢部総理大臣がお得意の政治手法で、大衆を味方につけ、『不敗の女神様』としての
「結局、私は大量殺人者なんですよ。ですから、両手を血に汚した私は、ここで
言い終わる前に、ばたんと扉が開き、そこに結衣と村河市長が立っていた。
「とでも、思っていたのか?」
そう、ニヤッと結衣が声をかける。
「いやあ。村河市長って、晋太郎叔父さんの
相変わらず政略の天才である。攻め落とす時は、
「話を立ち聞きしてしまい、申し訳ありません。ですが高梨准将、それは違う。
「……」
50代半ばの市長は、年下である湊に敬意を払い、真摯に語りかける。
湊は、それをまっすぐ見つめていた。
「高梨准将、あなた方が
「湊ちゃん、結衣は
村河市長に続いて結衣が、普段のにへらっとした顔を捨てて、真面目な顔で語る。
「当日には、MeTuberエナツキがMeTubeLiveでレポートする予定です。広報もサポートしますが、恵奈ちゃんから、『湊お姉ちゃんが
敢えて、事務的な口調で各務原少佐も告げる。鬼神の嫁は、実戦を経て強くなったのだ。
「うっ………」
「嫌なら嫌で、お断りしますが……?」
その各務原少佐の言葉に、湊は大きく溜め息を吐いた。
「分かりました。私の負けです。皆寄ってたかって外堀を埋めて……皆の言うとおり、それが私の役目なら、『不敗の女神様』をしっかり
湊は、先程の招待状を可決箱に放り込んだ。
「電、睦月、スケジュール調整をお願いします」
「「はい!」なのです!」
二人の秘書艦がそれぞれのデスクのパソコンに向かうと、村河市長は「それでは当日お待ちしております」と帰っていった。
結衣もそれを見送ると称して出ていき、各務原少佐もエナツキやザ・デストロイヤーズとの打ち合わせで忙しい身、敬礼して出ていった。
「ねえ、二人共?」
三人だけになった執務室で、湊がポツリと呟くように、二人に語りかける。
「ん?」
「どうしたのですか?」
睦月と電が首を傾げて湊を見る。
「艦娘の娘として生を受け、実験動物として酷使された『第三世代艤装開発計画』、二人だけで
軽く目を伏せながら、空を見上げた。
「私は、なんで生まれてきてしまったんだろう?そう思っていたことがありました。でも……」
『……』
その言葉に心配そうに見ている二人、この仕草は『睦月と語り合っていた』仕草であり、いまは必要のない仕草である。
「……少なくとも、あなた達に出会えてよかった。そう思います。私は、今後も名古屋の守る女神であり続けます。それを必要とする人が居る限り」
過去を受け入れ、乗り越え、最後の一歩を乗り越えた彼女の笑顔を、二人の艦娘は生涯忘れることは無いだろう。
――――――
名古屋セントラルタワー完成式典当日。
セントラルタワー広場では、ザ・デストロイヤーズの完成記念ライヴが、前座として行われている。
彼等のファンや、名古屋の人々がそのライヴに詰めかけて、拓哉の『ナ・ゴ・ヤ!』コールで大盛り上がりである。
その最前列にはもちろん、不知火と安藤龍夫妻、そして龍の姉夫婦の平林夫妻も来ている。
平林虎子は最先端の消化器外科医療の一翼を担う医師で、准教授として名古屋大学医学部にやってきた。
彼女の受け持ち患者の一部は、わざわざ名大医学部附属病院に転院してきたのだ。
中部警備府のブースもあり、他にもいろいろな名古屋の物産や名物試食コーナーなど、お祭りになっている。
各務原裕二中佐と、各務原結有、高天原智紀、吹雪は一時的に中部警備府に所属が許され、
中部警備府の『仲間』としてブース運営をしている。
父娘の約束通り、ここでも『上官と部下』を通している。
「はーい!恵奈です!」
「暁よ!」
『二人合わせてエナツキです!」
MeTubeLiveのエナツキチャンネルで、この記念イベントのレポートが始まった。
「今日も動画……」
「恵奈!生放送!」
「じゃなかった!生放送頑張っていきましょう!」
という、プチコントを繰り広げながら、二人と広報の各務原香菜少佐の三人が色々なブースを回っていき、試食したりする。
中部警備府ブースでは出たがりの艦娘達にチャンネルジャックをされたり、
何故か、
結衣は、今回の生放送の参加を断念した。
結衣は矢部晋太郎から、『全国深海棲艦戦没者』の代表として、『真っ先に日本を守る為に散った者達の指揮官の父』の代わりに、式典への出席を要請されていたのだ。
これは、中部警備府司令官が「
これは結衣にとっても、大きな戦いの一つの終着点だった。
取材を許可されたテレビ局とエナツキに見守られる中、名古屋セントラルタワーの完成式典に湊は出席していた。
隣には、結衣。他にも矢部晋太郎総理大臣や大淀艦娘基本法担当大臣、大垣守海軍幕僚長や、先だって統合幕僚長に就任した山本八十六元帥、名古屋大学からは、学長と平林虎子
「深海棲艦との戦いから三十数年が経ちました。この名古屋同様、東北や北海道でも復興が果たされつつあります。この名古屋セントラルタワーはそういった復興の道を照らす灯台となるだろう。私はそう確信しています」
名古屋市長である村河貴史のこの言葉は、全国の復興を目指す者たちへのエールとなった。
次に軍の代表として山本元帥、大垣大将の挨拶が続き、湊の挨拶の番になった。
湊は、敢えてカンペを作らずに、この場に臨んだ。
名を呼ばれると一礼して、マイクの前に立ち再び一礼した。
「まずは、名古屋セントラルタワーの完成にお祝い申し上げます。中部警備府一同、より一層皆さんの信託に応えられるよう、精進邁進して参ります。さて、あの焼け野原から、もう何年もの年月が経ちました。私達軍が選択した作戦は『あの限られた中』では、
そういうと、深く、深く頭を下げた。
そして湊は頭を上げると、ふっと穏やかな笑みを浮かべる。
「この希望の街名古屋は、これからも私達が身命を賭して守っていくことを今ここで、復興の灯台となった
―――歩き始めましょう、皆さんと共に。
後に『不敗の女神の誓い』と呼ばれる、このスピーチを胸に、今日も艦娘達は、日々戦っていく。
今日はいい艦娘日和だ、明日も、明後日も、ずっと。
小さな提督と艦娘日和
完
当初のゴールである名古屋セントラルタワーの完成をもって、
『小さな提督と艦娘日和』を完結します。
湊ちゃんはこれからも戦い続けていくでしょうが、ひとまずこのお話はおしまい。
さて、新井田博士やDSキラーは?
結衣の言うとおり『持ち越し』となります。
次作は充電期間を経て艦娘日和の続編として製作予定です。
『続・みんなと艦娘日和』
主人公は特に設けずメインのキャラクターを話しごとに決定する方式にしたいと思います。
作風は今まで通り、バトルあり、ほのぼのあり、シリアスあり。
海の真の平和を守る者たちがお送りする物語
今まで出てきたキャラクターたちと、
結成された独立艦隊がお送りする1話~数話完結のエピソード集となります。
投下は数日以内に予定しておりますが、
退院間近なので、次作は毎週~週2・3程度の頻度予定です。
それではここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
次作もよろしければ読んでいただけると幸いです。