小さな提督と艦娘日和   作:SAMICO

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注意:このエピソードは未成年者の飲酒を奨励するものではありません。
   お酒は二十歳から


東京へ

「もうすぐ横須賀なのです」

専任秘書艦兼副官の電が、船室に入ると、三人に声をかける。

「そろそろですか」

司令官の高梨湊准将が軽く背伸びをする。今日は、海軍の白い将官制服姿である。

隣に座ってるのは、従卒見習いの各務原結有。彼女も、階級章なしの軍服を着用している。

二人共、スイセンを意匠した、外郭艦隊の艦隊章を付けている。

その膝の上では、駆逐艦雷が朝早かったせいか、気持ちよさそうに眠っている。

「提督、今日の予定なのです。1200(ヒトフタマルマル)から新宿の幕僚監部で幕僚会議。今夜は東京で一泊。

明日は、横須賀で、新司令長官の就任式典と歓送迎会の予定です」

電が、湊に資料を手渡すと受け取り、中身に目を通す。

 

山本八十六元帥は、呉鎮守府司令長官へと異動となり、

大湊警備府を率いていた大垣守中将が、大将への昇進と共にやってくる。

 

大垣守。()()()()()()の異名を取る、守りの専門家。粘り強い守勢と、隙をついた反転攻勢には定評があり、

40代の将官の中でも、頭二つ飛び抜けている英才である。

若い頃は、気性が荒くヤンチャした、とは本人の談だが、大熊のようなガッシリとした体躯に坊主頭、

鋭い目、冷静沈着な低い声が、重ねてきたであろう修羅場を想像させる。

 

 

横須賀に着くと、軍用車で新宿の防衛省に向かう。

幕僚会議に出席するのは司令官の湊、副官である電だけである為、

雷と結有は、その間庁内で待っていた。

新たに、横須賀鎮守府総秘書官になった装甲空母大鳳に、結有も駆逐艦娘と勘違いされ、

手伝いに駆り出されるというハプニングもあったが……

 

「お疲れ様でした」

会議室から出てくる湊と電に敬礼する結有。

「お疲れ様。それじゃあ、お夕飯でも――」

「湊」

言い終わる前に、小柄な黒髪の女性が声をかけた。白い将官軍服姿で、黒い長髪で前髪ぱっつん、三白眼で愛想が悪そうな印象だ。階級章は、中将のものをつけている。

傍らには、戦艦金剛が控えている。

「姉さ……高梨中将、お疲れ様です」

姉さん、と言いかけてから敬礼をすると、結有達もそれに倣う。

「堅苦しい挨拶は良いわ。紹介するわね。私は高梨未来。大湊警備府司令長官を拝命したわ。湊の姉でもあるわ」

「同じく、総秘書官の金剛デース!ヘイ!ミナトもお久しぶりネ!」

湊の両手を握ってぶんぶんさせると、湊も笑顔を向ける。

「金剛もお久しぶりです。紹介しますね。こっちが、うちの副官兼専任秘書艦の、電。で、その隣が雷」

「オー!ライデーン!宜しくデース!」

「「一緒にするなー!」しないでほしいのです!」

抗議をする電と雷を笑いながら、自分の反対隣にいる結有に視線を向ける。

「こっちが、来年の四月から軍属として、私の従卒になる各務原結有さん」

「よろしくお願いします!」

敬礼する結有に、未来と金剛の顔が一瞬曇った。

「……あ、よろしく」

「ユウ!宜しくデース!」

「まあ、立ち話でも何ですから、夕飯でも」

それを察した湊は、未来に声をかけると、未来も頷いた。

 

 

都内某所料亭。

 

ここは、政治家がよく使うという料亭の前。

未来の側近である金剛や、かつて片桐の側近で何度か来たことのある電はともかく、

こういった場所が初めての結有と雷は、ドキドキしながらキョロキョロしている。

 

個室に通されると、湊と電と雷。そして、こっちにおいでなのデースと、金剛の隣を勧められ、

湊の対面に未来、そして金剛、結有が座ることになった。

「こういったところ、僕初めてで……」

戸惑う結有に、ぽんぽんと頭を撫でて、

「大丈夫なのデース。気楽でいいネ!」

等と、明るく金剛が声をかけると、結有も笑顔を向ける。

 

料理が運ばれて、仲居さんが出ていったところで、

「湊、昇進おめでとう。といっても、あの狸爺(山本元帥)の策謀でしょうけど」

湊にお酒を注ぎながら声をかける未来に、湊は苦笑いを浮かべる。

「姉さんもお人が悪い。姉さんも推薦状を出した、と聞いてますよ」

「ところで、未来司令官。さっき結有ちゃんが自己紹介した時に変な顔だったけど、何だったの?」

「雷……」

雷が聞くと、湊が困ったような笑みで、雷に声をかける。

「あ、ごめんなさい」

バツが悪そうな顔をする雷に、未来が首を横に振る。

「いいの、結有さん、あなたが時雨にあまりにもそっくりで……」

「時雨さん?」

結有が首をかしげる。

「確か、ハワイ前哨戦の轟沈者リストに―――」

電がつい口にしてしまい、ハッとなって口を抑える。

「ごめんなさい……っ」

「大丈夫デース。時雨は死んでしまったけど、今でも私達の心の中で生き続けてるのデース」

「それに、貴方がこの子を私達に引き合わせてくれたのは、時雨からのプレゼントかもしれないわ」

そう続けると、シュンとなっている電と雷に、

「暗いのはノー!ね。せっかくのご馳走が美味しくなくなってしまうネ!今日は楽しみましょう!」

 

その後、湊達は未来と金剛の語る、時雨の思い出話をたくさん聞いて、

ちゃっかり持ってきた白露型の制服に着替えた結有が、理性を失った金剛に抱きつかれたり、

珍しい、未来の笑顔が見られたりと、楽しいひと時を過ごした。

 

 

「ねえ、湊」

「―――何です?姉さん」

 

その後、都内のバーで二人、カウンター席に座っている高梨姉妹。

白い制服のズボンとワイシャツに、湊は若草色のカーディガン、未来は黒いカーディガンという出で立ちで……

金剛達は「カラオケ行ってくるネー!」と、結有達を連れて行ってしまった。

本当は、中学生の結有がこの時間出歩くのは問題があるが、成人扱いの艦娘達に囲まれて、結有自身も白露型の制服を着ている為、補導されることはないだろう。

都内繁華街は、艦娘達がよく出没するため、警察官も慣れたものだ。

 

「実家には、顔を出さないの?」

その言葉に、ウィスキーを手に取り、カラン…と音をさせてから口にする。

「私は、やっぱりまだ母さんを許せないんです」

「強情ね」

「何とでも言ってください」

そう、顔を背ける妹の姿を軽く笑いながら見ると、己もウィスキーを口にする。

「聞いたわ。旧13泊地を救うために、裏から手を回したって……本当は厭だったんでしょう?」

そういう未来に、大きな溜め息を吐いて項垂れた。

「実家の力は借りない、母さんには助けを求めない。……と思ってたんですけどね。この変節ぶり、自分で呆れますよ」

そんな湊の背中をポンと叩く未来。

「そんなことないわ。青ヶ島が深海棲艦に制圧されてたらと考えると、貴方の判断は正しいと思うわ。母さんも、強い娘を持ったと言っておられたし」

「………」

「私は、母さんのことは恨んでないわ。軍の都合で振り回された10代20代だけど……」

ふぅっと溜め息を吐くと、

「それに、死んだ父さんだって望んでないわ」

「………」

「私は………どうしたら良いんですかねぇ……」

カウンターに半分突っ伏している湊の頭を撫でながら、

「許せないことなんてない。それは貴方が許したくないだけ」

「許したくないだけ……かぁ……今度時間が開いたら、顔を出してみますよ、父さんの墓参りついでに」

「あの人、退役してから暇だ暇だと言っていたから。近い貴方が顔を出してあげなさい」

起き上がった湊に、優しい笑みを浮かべて再び背中を叩くと、湊は照れ隠しにウィスキーを煽る。

少し喉が灼ける感じが心地良い……

「しかし、姉さんも佐世保から、今度は大湊ですか。転勤大変ですね」

「全くよ。これも宮仕えの悲しさね。まあ、金剛も一緒に赴任だから、何処でもかまわないけど」

そう言って、グラスを持つ未来の左薬指には、指輪が塡められている。

艦娘と特別な絆を結んだ証――ケッコンカッコカリの証――なのだ。

「ふふ、金剛さんと仲が良いんですね」

「貴方のところも、高練度揃いだから、そのうち決めることになるわ。ケッコン相手」

「私はもう決まってます。それは―――」

 

そう言い終わる前に、未来のスマホの呼び出し音が鳴り、湊は口を閉ざす。

未来はスマホを確認すると、大きな溜め息を吐いて、湊に画面を見せる。

湊はそれをみて目を丸くする……

「湊、ここ、出るわよ」

「あ、ここは私出しますね。ご飯ごちそうになったし」

湊がワタワタとカードを出して決済すると、すぐにバーを出る。

 

 

カラオケブース。

「バカ金剛!何で結有にお酒飲ませたのよ!?」

「ゴメンナサイなのデース!時雨にそっくりで、つい調子に乗ったデース!」

未来に怒鳴られて小さくなってる金剛の隣で、電と雷の二人の膝枕で寝ている結有。

「金剛さんが『ちょっと飲んでみる?』っていうから、結有ちゃん、半分くらいスクリュードライバー飲んだら、途端に金剛さんに甘え出して、服脱ごうとしたから、二人で止めたら寝ちゃったのです」

苦笑いを浮かべながら、自分の上官の湊に報告する電。

「まさにレディ・キラー……ま、ちょっと背伸びをしたいお年頃でしょうし、今回は不問にしましょう。さ、帰りますよ」

「私が背負っていくのデース」

「お願いします」

ホテルのツインルームで、結有をベッドに寝かせた金剛は、未来に耳を引っ張られて自分たちの部屋へ去っていった。

きっとお部屋の中で、説教が待っているだろう。

電と雷も、隣の部屋へおやすみなさい、と引っ込んでいった。

湊は、気持ちよさそうに眠っている結有の服がシワにならないように、脱がせてやり、ハンガーにかけると、

「おやすみなさい」

と声をかけて、ノートパソコンを開いて、静かに少しだけ執務をすると、持参したパジャマに着替えて、自分も眠りについた。

 

 

その日、結有は夢を見た。

海の中……自分にそっくりな女の子が沈んでいくところを。

必死に手を伸ばそうとする結有……

手を伸ばしてくる少女……その手を掴んだ時。

「!!!」

薄暗いホテルの部屋で、結有は目を覚ました。

「いっつつ………」

ズキンと来る頭の痛みに顔を顰めつつ、ぼんやりと起き上がる。

横を見ると、隣のベッドで、湊が寝息を立てている。

雷からのプレゼント、オーダーメイド人形「いなづまちゃん人形」をギュッと抱きしめて……

部屋には、白露型の制服が掛けられており、己は下着姿で……

「シャワー浴びよう……」

 

シャワーのお湯を浴びながら、結有は考えていた。

「あの子は一体……あの子が時雨さんなのかな……じゃあ僕は……」

シャワーを止めて、鏡に写った己を見ると、首を振ってから掛けてあったバスタオルで己の体を拭いて、バスローブを身に纏うと、ベッドに再び横たわる。

ぼんやりと考えていたが、そのまま眠気に襲われて目を閉じた……

そのまま寝息を立てて結有も眠るだろう……

 

 

翌朝、五時半。

いつものように目を覚ました結有は、ホテル周辺を走ろうと、

ジャージに着替えると、ロビーに降りる。

夜明け後の、少し明るい曇り空を走っていく。

途中で、小さい公園を見つけるとそこで足を止めた……

ふと見ると、足元に髪飾りが落ちている。夢で沈んだあの子のつけていた髪飾り……

拾い上げて眺めると……少し心が暖かくなった気がした。

「あとで、落とし物で届けよう」

そう呟きながらポケットに仕舞うと、スマホが鳴り出す。

電話に出ると湊からで、モーニングにみんなで行きますよ、というお誘いだった。

すぐ戻りますと、答えてから、ホテルの方に走っていく。

 

「…………ということがあったんですよ」

夢の話をしながら、ポケットに入っていた髪飾りを取り出すと、未来と金剛は一瞬固まった。

「テートク、これって……」

「時雨の……よね……」

手に取り、髪飾りの裏に刻印してある"MIRAI.T&SHIGURE-ModⅡ"と刻まれた刻印を見てから、結有に差し出す。

「結有、貴方が持っててください」

差し出された結有は、

「そ、そんなっ。僕、そんな大事なもの……」

「多分、時雨が自分にそっくりなあなたに持ってて貰いたいって、来てくれたのよ」

真顔で言う未来に、湊も、

「姉さんがそこまで言うなら、結有、預かってあげてください」

そう頼まれて頷くと、未来が結有の髪につけてあげる。

「これで、よし。結有、大事にしてあげてください」

「分かりました。僕は時雨さんじゃないけど、時雨さんが預けてくれたんだって大事に使います」

「ありがとう」

未来は、ふっと笑みを浮かべると隣の金剛に、

「今日の予定は?」

「what?」

「………」

こめかみを押さえる未来……まったくもう、と言いたそうに、眉間に皺を寄せて……

「あーあーあー、ちょっとお待ち下さいなのです。未来中将は……本日の横須賀の式典と歓送迎会にご出席予定ですので、湊提督と同じく午前は空き時間だと思うのです」

それを見て、電が慌てて、自分の端末を取り出して、就任式典と歓送迎会の出席者リストを確認すると、未来に答える。

その間に、金剛も慌てて端末を取り出すと、

「オーザッツライト! 司令長官の就任式典と歓送迎会に出席して、横須賀に一泊、明日の朝大湊に出発予定なのデース」

秘書艦二代目(時雨の後任)としてはまだまだこれからね」

「オゥ……ソーリー……」

わざとらしく、大きな溜め息を吐く未来と、しゅんとなる金剛にみんなはどっと笑った。

 

 

 

 




次回は東京編の続きか、
残留組のお話の予定です。

13個のプレゼント
・雷  いなづまちゃん人形(全長50cmのオーダーメイド)

今回のモチーフ

・未来→初雪
・部隊章→睦月《1月》の花

なお、今のところ結有が時雨になる展開は考えてません。
モチーフになった艦娘が出てこない理由付けの一つと考えていただければ。


結有のオートガードは変態にしか作動しない模様
奈緒「あたし変態じゃないもん!」
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