アホの子参謀長のギラギラしてた頃のお話。
※:今回はハードでシリアスです。
横須賀鎮守府の『鉄腕狼』
かつてそう呼ばれた大村奈緒……
士官学校を次席で卒業し、その高い白兵戦技を期待されながら、
参謀職へと移った才女………
――――――――
「大村中佐か……」
居酒屋鳳翔の暖簾をくぐった戦艦長門は、カウンター席で焼き鳥を食べながら日本酒を飲んでいる、
独立艦隊参謀長大村奈緒中佐の姿を見つける。
お座敷席には、暁と一緒に漫画を読んでいる恵奈の姿、その隣には湊から貰ったあかつきちゃん人形が鎮座している。
旦那である恵一郎大佐は、司令部担当であり、湊等は、今日は東京で宿泊している。
おそらく仕事上がりに一杯やりに来ているのだろうと思い、声をかけようとすると、先に奈緒の方から声がかかる。
「おっす。ながもん」
奈緒が黒い手袋をつけた左手を上げると、長門は眉を顰める。
「ながもん言うな!」
「ながもんお姉ちゃんこんばんはー!」
「恵奈ちゃん、今日も元気だな」
「何よ?その反応の差」
恵奈には、デレデレした顔で挨拶をしてから、奈緒の隣りに座る、
「いらっしゃいませ、お通しですよ」
鳳翔は、今日のお通しである刺し身の切れ端のヅケを差し出す。
「私は、おすすめの日本酒で」
長門がそう言うと、鳳翔は日本酒をコップに注ぐと差し出す。
「『女城主』 という地酒だそうです。漁師さんが親戚から頂いたのを、お裾分けで頂きました」
「女城主……か」
この泊地の主を思い浮かべながらふと、隣の参謀長の、手首もカバーする黒い手袋が気になった。
「なあ、奈緒中佐。前から気になってたんだが、その手袋は何だ?腕の方まで巻いてあるが……」
「あー……あんまり見せるもんじゃないけどなぁ……」
そう言うと、腕まで巻いてあるものを外して手袋を外す。
「そ…それは……」
上腕の真ん中から先は真っ白な肌で、黒い爪……深海棲艦のような左手だった
「アタイって、元々は海兵旅団にいたのよ」
「海兵旅団……」
海兵旅団とは、艦娘達が海の守りの要なら、陸の要の陸戦部隊である。
深海棲艦は、通常兵器は通用しないものの、近接武器なら通用するため、
艦娘達がカバーしきれない部分の防衛を受け持っていた。
しかし、戦死率55%という苛烈な職場故に志願・選抜制となっている軍最大最強の危険部隊である。
通称”最低(クソッタレ)部隊”
―――――――
六年前――――
大村奈緒中尉は海兵旅団、東海連隊に所属している一小隊長だった。
士官学校出の士官が海兵旅団に入るのは珍しかったが、それには理由があった……
復讐、その一点だった。
その一年前、名古屋に深海棲艦が大挙して上陸する事件が勃発した。
その時奈緒は、休暇を取って最愛の妹と名古屋港水族館に遊びに行っていた。
妹の名前は恵那……五つ下の高校生だった……卒業記念にと遊びに行った。
その頃、東海地区は呉鎮守府と横須賀鎮守府の間で、
それぞれが泊地を作り、連携が全く取れておらず、責任の押し付け合いから、
深海棲艦の陸地上陸を許す結果となった。
通常兵器の効かない深海棲艦に、真っ先に立ち向かったのは警察官だった。
彼らの犠牲は、深海棲艦にとっては、僅かの足止めにもならなかった。
住民の避難は大幅に遅れてしまい……
その時に奈緒は最愛の妹と左腕を失った………己の目の前で……
すぐに、司令系統の統一を図り、作戦が発動する。
戦艦三笠こと
湾岸から戦艦の砲撃を加えつつ、空母隊の絨毯爆撃で一網打尽にする……
その作戦は苦渋の決断だった。民間人や軍人ごと葬るというのだ。
その作戦と同時に、逃げ遅れた民間人の脱出作戦も平行して行われていた。
それを指揮していたのは、当時の横須賀鎮守府副司令官山本八十六少将。作戦参謀の高梨湊中尉、神南恵一郎大尉……
彼等は瀕死の重傷を負った奈緒を含めた、100万人を脱出させることに成功した……
足止めの為に、
結局、民間人の犠牲者150万人。軍人の戦死者1万5千人……
艦娘の犠牲者も20名にのぼり、前線で指揮を取り続けた高梨中将は、流れ弾が致命傷となり、戦死することとなった。
世論は、非情な爆撃攻撃を行った
連携の悪かった横須賀、呉の司令長官を吊し上げた。
また、脱出作戦が公表されると、山本中将らの功績も、世論から賞賛されることとなった。
『老練な名将』と『不敗の女神様』の名前は、一時期どのテレビ局でも、取り上げられることとなった。
……もっとも、湊本人はメディア露出を、すべて山本に押し付けてあまり出たがらなかったが……
その功績により、それぞれ一階級の昇進となった。
また、愛する提督を喪った三笠は、艦娘の籍を置いたまま提督となり、特例により中将として任官した。
吊し上げられた横須賀、呉の司令長官は、階級を剥奪の上懲戒免職。
それぞれの後任に、山本・三笠の両中将が充てられることとなった。
意識を取り戻した奈緒は、翌日に海兵旅団への転属願いを提出した……誰にも告げることなく。
奈緒の両親は、一人になってしまった娘の身を案じ、父……統合幕僚監部参事官大村源一郎大将は、何度も転属を打診したが、
海兵旅団の離任は、本人または指揮官の意志以外では出来ない決まりとなっていた為、拒否し続けた。
それ以後、今日まで大規模な侵攻は無かった。
この、名古屋大侵攻という失敗を教訓に、高梨大尉、神南少佐の提案による、
「泊地連合警備艦隊」の創設によって、中部地区への侵攻を食い止めて居たからだった。
常設の司令長官職に、少将の地位の者を置き、有事の際は、離島に点在する泊地はその指揮下に入り、
有機的に行動すると言うものだった。
……結果、各泊地への予算は増え、片桐のような人物を生み出すことになってしまうのだが、
その当時は、うまく機能している作戦だった。
名古屋駐屯地……
今は廃墟と化した、名古屋市街地に建てられた海兵旅団東海連隊。
中隊長になっていた大村奈緒大尉は、その士官クラブで酒を煽っていた……
海兵旅団に関しては、ある程度の飲酒も認められている……明日をも知れない愚連隊へのせめてもの敬意だった。
他の連中も、深海棲艦に何かを奪われた者ばかりだった……
海兵旅団は外人部隊の性質も持っており、同じく深海棲艦に奪われた海外兵も参加している……
奈緒の左腕には、鋼鉄製の義手が填め込まれている。
戦争は、医療を飛躍的に進歩させた。ある程度の、可動義手の実用化が果たせていたのだ。
退廃的な雰囲気の士官クラブ、その雰囲気が破られたのはサイレンの音だった。
「深海棲艦侵攻!西側より名古屋廃港に上陸の模様。大規模侵攻です!」
「あたしの手をもぎ取った、あれ以来の大侵攻か……面白ェ……!」
ギラついた瞳を見開くと、士官クラブに立てかけてあった片手半トマホークを手に取ると飛び出していった……
他の隊員達も各々の得物を手に飛び出していった……
戦況は困難を極めていた。
名古屋廃港では、艦娘達が――艤装展開中は上陸できない――深海棲艦に砲撃を行い、
前に出過ぎた海兵旅団にも、砲撃の巻き添えと言う名のフレンドリファイアを発生させてた。
「あんまり出過ぎんじゃないよ!
目の前の駆逐イ級を、トマホークで両断すると、部下の中隊員に号令をかける。
「はっ!」
ジャパニーズブレードで深海棲艦を切り捨てる部下に目をやりながら、前を見据える……
「次はどいつだ!」
そう前を見た先には、海兵旅団東海連隊の連隊長である、足立大佐の頭を掴んでいるフードをかぶった深海棲艦――戦艦レ級――がいた。
足立の手足はだらりと垂れており、彼はもはや生きてはいないだろう。
その足立の遺体を投げ捨てると、ニイッと笑い……
陸上で、艤装を展開できないのは相手も同じこと。デスサイスを取り出し、襲いかかった。
「野郎ォォォ!!!」
何度も、何度も斬り合う二人……
互いにかすり傷を負わせながら……
だが、人間である奈緒が次第に押されて……
「ココマデカ?ニンゲン」
息を荒げながらも、余裕の顔を見せる奈緒は飛び込んだ。狂気に歪んだ目がカッと見開いた。
「人間舐めんなこん畜生ォォォォォォォ!!!!」
互いに振り下ろされた得物……
「ぐ……」
「アグッ……」
振り向きざまに、膝をついた奈緒……左腕とともに脇腹も切り裂かれていた……
それを見下ろすレ級……左腕を切り飛ばされ、脇腹も大きく切り裂かれていた……
「ヤルナ……ダガココマデ…」
鎌を振り上げた時、海の方からプロペラ音が聞こえた。
「へへ……やっと来たか……」
海兵旅団の最後の役目……
名古屋大侵攻を契機に、海岸からの、航空部隊の爆撃戦術が編み出されていたのだ……
高梨元帥が編み出した作戦を、系統化させており、海兵旅団は爆撃地に深海棲艦を留める決死隊も兼ねていた。
「チッ……」
「逃がすかぁぁ!!死ぬなら諸共だァァァ!!!」
「キサマアアアアアアア!!!」
逃げようとするレ級を、後ろから羽交い締めにする奈緒……
そして……
爆音と共に、意識が遠のいていった……
「ここは………」
目を覚ますと、病院らしき建物。横には、見慣れた顔二人が心配そうにしていた。
「ここは、陸・空軍岐阜基地ですよ。貴方は、市街地で瀕死になってたところを、発見されたそうです」
横須賀鎮守府作戦参謀の高梨湊大尉と神南恵一郎少佐だった。
第二次名古屋攻防戦の陸上側オブザーバーとして、岐阜の陸空軍基地である、ここに来ていたのだった。
「……アイツは……レ級は……」
無理やり起き上がろうとするのを押しとどめると、
「爆撃後、回収部隊が入ったときはもう居なかったよ……それと……」
「この手………」
真っ白な左手……普通に動く……そして、見たことがある……切り落としたレ級の腕だ……
「……奈緒、辞令が出てる。君は今日から、横須賀鎮守府参謀部に異動だ……大村大将からの願いだ。帰ってきてくれ、と」
「………ま、もう戦えないしね……それに、バケモンみたいになっちまった」
自嘲する奈緒に、恵一郎は彼女の両手を掴んだ。
「……奈緒。僕と結婚してほしい」
「はァ?」
キョトンとしている奈緒に、恵一郎はまっすぐ目を見て続ける。
「ずっと好きだった。もう危険な任務はやめて、僕と横須賀に来てほしい」
「……恵一郎……」
「きっと、恵那ちゃんも奈緒がこんなになってまで戦ってほしくないと思ってるよ」
その様子を見ていた湊は、軽く咳払いをした。
「ええと。この特別病棟防音はしっかりしていますので、ごゆっくり。私はこれで失礼しますよ」
としれっと出ていってしまった……
出ていった湊は、大粒の涙を浮かべながら……走っていった。
―――――――――
「というわけで、爆撃食らったショックかなにかで、レ級の手がくっついちまったのよ。
夕張が一年間掛けて調査したけど、侵食の危険はなし。身体機能は格段に上がったけど、
参謀職じゃあ使い道ないわな。ついでに取ろうとしたら再生能力で元通りよ」
思い出話が始まる頃、娘の恵奈はお眠になっており、隣に持っていたあかつきちゃん人形と一緒に、暁が背負って、艦娘宿舎へと既に帰っており、大好きな暁と一緒に寝ているだろう。
長門は、話を聞きながら苦い思いをしていた。突破の大きな原因は、第13泊地の
その顔のまま日本酒を飲んで、ふととあることに気づいた。
「なあ、奈緒さんよ。 恵奈って………」
「あー……多分病院でした時のだと思う。あたしは、恵那の生まれ変わりだと思って、同じ読みで
恵一郎の”恵”、奈緒の”奈”を付けたんだよ」
と、若干照れながら笑うと、長門も目を丸くして驚く。
「それはそれは……」
「まあ、妊娠が発覚して時期がバレたときには、お父さん本気で怒ってたけどね。瀕死の娘に何してんだ、って。
……まぁ、あたしがして、って言ったんだけどねぇ」
「副司令官も草食系に見えて、やることやるんだなぁ」
「いや、ああ見えて夜は狼なのよ……つっても、恵奈産んだら出来ない体になっちゃって。子作りってよりも、愛情表現だけどねぇ」
「それはそれは、ご馳走様と言っておこうか」
などと盛り上がりながら、夜は更けていった……
―――――――――――
「すみません、ちょっと私、野暮用で出かけてきますので。姉さん、うちの艦娘と結有をお願いしますね」
そういって、タクシーで出かけた閑静な住宅街。
その奥にある、小さな霊園に湊は来ていた。花束を片手に。
その奥にある大きな墓石……墓石には「艦娘の父 高梨元帥ここに眠る」と刻まれていた。
その前に立つと、そっと花束を供える。
「お久しぶりです。お父さん。私も、奈緒も、恵ちゃんも元気ですよ。
……お父さんの言うとおりでしたね、いい男は先に取られるぞって。恵ちゃん、いい男ですもんね。
……もう、何度目ですかね、いい加減聞き飽きましたよね……私は未だ独身です。
………お父さんみたいなかっこいい人、なかなか居ませんもんね……
では、また来ますね」
そう墓石に語りかけると、背を向け、入り口へと引き返す……
熊のような大男と、一人の艦娘とすれ違って……
すれ違った大男は、大垣守大将。艦娘は、装甲空母大鳳……
着任の挨拶に、墓参りに来ていた。
霊園の階段から空を見上げる湊の眼前に、澄み渡った青空が広がっていた。
なお、海兵旅団は一応の終戦が見られたあと、廃止になり
各々は己の傷と向き合いながら退役するものや、軍に残るもの
海外の対深海棲艦部隊に渡るもの、色々の道を選びました。
恵奈のお気に入りは暁お姉ちゃんらしいです。
いつも、あかつきちゃん人形を抱っこして寝てる模様。
(妹の)恵那の外見モチーフ→同じく漣をちょっと同じくした感じ
本日の地酒
岐阜県恵那市 岩村醸造の女城主