別の作品の執筆から逃げてきまして、リハビリがてらに連載を始めました。
最近はまった作品なので勉強不足かも知れませんが、お付き合いいただけたら幸いです。
それでは、本編の方をお楽しみください。
ビュンという空を切るような音を立てながら、一陣の風が通り過ぎて行った。その様はまるで慌てているような、逃げるかのようにも感じられる。というか、事実逃げているんだろうね。
どうしてそう言い切れるのかと聞かれれば、どう答えていいのかわからないけど、まぁアレだよ、俗に言うところの風の噂とかいうやつさ。
「みっちゃん、みっちゃんってば」
「ん? 出久、なにか用かな」
「えっと、急に立ち止まってどうしたのかなって」
「ああ、済まないね。少しばかり風が騒がしくて耳を傾けてしまったよ」
私が逃げて行く風に思いを馳せていると、隣を歩いていた男の子が心配そうな表情をしてこちらの様子を伺っている。
彼の名前は
中学三年生になった今でも一緒に登下校するくらいには良好な関係を築けているし、むしろなにをするにしても隣に居るくらいの仲といったところだろうか。
出久は往来より優しい性格というか温厚というか、はたまたお人好しとすればいいのか。とにかく人を気遣うことのできる性分なだけに、私の言葉を聞いて安心したように胸を撫で下ろした。
「安心するのは早いかもしれないよ。さっきの様子なら誰か戦ってるね」
「え、本当!? どこどこ!?」
「いやキミね、危ないかもって言うのに目を輝かせてどうす――――」
「あーっ! ほら見てみっちゃん、でっけー
「無視かい。ん、でも確かにあれは大きいね」
あの逃げるような風について戦闘があったに違いないと解説してやると、出久は驚くどころか目を輝かせて周囲を見渡し始めた。
私の言葉も無視する始末。まぁ、彼も野次馬根性で興奮しているのではないとフォローはしておこうかな。
子供のようにしてはしゃぐ出久を見守っていると、目測で数キロ先だというのにハッキリ視認できる巨躯が現れる。
その姿はまるで――――なんだろうね、ドレッドヘアをした巨大なトカゲ? 恐竜? とにかく爬虫類のような見た目をしていた。
集中して風の声に耳を傾けてみると、どうやら引ったくりが追い詰められた果てに個性を発動させたとかなんとか。やれやれ、呆れて言葉も出ないね。まだ強盗致傷だけで済んだものを。
さて、そんなことより出久は――――姿が見えない。となると、あの人混みの先頭といったところだろう。あの敵が捕まりさえすれば戻って来るはず。
人混みから少し離れて顛末を見届けることしばらく、今人気急上昇中の若手ヒーロー【シンリンカムイ】が事を収め――――るかと思いきや、突如として現れた巨大な女性が巨大敵の顔面を蹴り飛ばし決着がついた。
名を
「み、みっちゃん!」
「やぁ出久、おかえり」
「ごごごご、ごめん! 僕、つい興奮しちゃって」
「なに、今に始まったことじゃないだろう? それに、私としてもヒーローの活躍が間近で見られるのはいいことだよ」
事件が解決して私を置いてきたことでも思い出したのか、出久は慌ててこちらへと駆け足で戻ってきた。
別にこのくらいで機嫌を損ねないことは知っているはずなのだけれど、親しき中にも礼儀ありというのを忠実に守っているのだろう。
そんな出久は好感が持てるし、なによりそんな申し訳なさそうな態度を見せられた時点で怒る気も湧かないよ。
だから思ったことをそのまま伝えると、出久はもう一度だけごめんと謝ってからありがとうと感謝の言葉を述べた。フフ、どういたしまして。
「とにかく、続きは歩きながら話そう。あまりゆっくりしていると遅刻してしまう」
「う、うん。それよりみっちゃんに聞きたいことがあるんだけど。その、みっちゃんはヒーロー志望なんだよね?」
事の始まりは中国の軽慶市、確か一番最初の発見事例は発光する赤ん坊が産まれたっていうニュースだったかな。
それ以来というもの、世界各地で似たような事例が発見されるもその原因は不明。そしてそのまま時は流れて今に至る。
かつて超常とされていた物事も現在では日常に、架空は現実となった。――――といった具合に教科書の言い回しを流用しているが、私としては個性が存在しなかったというのが信じられないまである。
世界総人口の八割がなんらかの特殊体質を持ち、それを個性と呼ぶ。
で、そんな超人社会になってしまったら、先の騒ぎに似たようなことが起きるのは日常茶飯事というわけさ。
自惚れだとか様々な理由はあれど、個性を使って犯罪を行う者、これを総称して
ならばそれと対極になる存在、つまりは取り締まる人物ないし組織が必要になる。それが先ほどの事件を収めた
どうにも最初は勇敢な人物たちが挙って自発的に敵を取り締まっていたみたいだけど、今ではすっかり公的職務に定められた。
まぁ何に置いてもルールに縛られるのは必然というか、それを受け入れられない者が
出久はそうやって控えめに聞いてくるが、私もそんなヒーローを志す者の一人である。もちろんだけど、富や名声が目当てではないよ。そのあたりは長くなるから割愛させてもらう。
「そうだね。なんて肯定してみせるけど、随分今更な質問じゃないかな」
「そ、そうだよね、みっちゃんの小さな頃からの夢だもんね。ただ……」
「ただ、なんだい? 約束を守れないのが心苦しい、なんて言うつもりじゃないだろうね」
「っ……!? ご、ごめん変なこと聞いて! ほら、もう行こう、ホントに遅刻しちゃう!」
私の返しが図星だったのか、出久は一方的に話を切り上げて走り出してしまった。……少しストレートに聞きすぎてしまったかな。彼はなんというか、なんというか……。
いや、この話も止めておこう。私も空しい気持ちにはなるが、一番苦しんで来たのは他ならない出久なのだから。
ただね出久、私にその夢を与えてくれたのは、他ならないキミなんだよ?
……と出久にいうのも、それはそれで酷なことなのかも知れない。
「お前らも三年生ということで、本格的に進路を考える時期がきた! といっても――――だいたいヒーロー志望だよね」
学校も特に問題なく終わりを告げるかと思いきや、帰りのホームルームで担任の先生が意気揚々とそう宣言した。なるほど、今朝出久が進路の話を振ってきたのはこのためか。
みんなが本気で私の思っているようなヒーローを目指しているかどうかは定かでないが、クラスメイトたちは個性を発動させながら元気よく手を挙げてみせる。
そんな中、控えめにというよりは思い悩んだ様子で小さく手を挙げる出久が逆に印象的だ。この後起こりうるであろう展開を、本人が予測しているからこそだろう。
「せんせぇー! みんなとか一緒くたにするなよな!」
すると喧騒を蹴散らすかのように、それでいて鼻で笑うかのような声が教室中に響いた。
彼の名は
彼もまた私の幼馴染にあたるのだが、本人が聞いたらこちらが一方的にそう思っているだけだと言い張るのだろう。
「俺はこんな没個性のやつらと同じ底辺なんざ行かねーよ」
このように、勝己はかねてから自尊心だとかプライドだとかが高く他者を見下しがちだ。
それだけ凄い人物である裏返しというか、事実勝己は凄い男だ。そこは私も認めよう。
こういう人物はたいてい口ばかりになりがちだが、勝己の場合は有言実行。勉学も運動も常に一番の成績を獲得している。
そんなすごい男……なのだけれど、全て言動の方で台無しにしてしまっているという。卵が先か鵜が先かみたいな話になってくる。
「そういや風見と緑谷も雄英志望だったな」
いや先生、そういうことを言うと勝己の怒りの矛先が私に向いてしまう――――うん? 今先生は出久も雄英志望と言ったよね。……なるほど、いつも以上に思い悩んでいたふうなのはそれでか。
雄英高校というのは、ヒーローを目指す学生にとって憧れの中の憧れ。超難関校として有名であるにもかかわらず、その倍率は毎年破格の300倍を叩き出すような場だ。
ちなみに勝己の言い分ではA判定を貰っているらしい。私も同じく貰っているから志望しているのだけれど、勝己はそれも気に入らないんだろうね。
いつもならばその勢いから私と勝己の口喧嘩――――というよりは、だいたい私が諭すような状況へ陥るのだろうけど、今日ばかりはそうはいかなかった。なぜなら――――
「こらデク! 没個性どころか無個性のお前が、なんで俺と同じ土俵に立てるんだぁ!?」
「まっ、待ってかっちゃん! 違うんだ、別に張り合おうとかそういうのでは全然……」
元からそうではあるものの、勝己はヒーローを志す者とは思えないような形相を浮かべて出久の机を爆破させて吹き飛ばした。そう、勝己の個性は爆破。手の汗腺からニトログリセリンを――――
って、今はそんなこと重要じゃなく出久が無個性という話をしようか。
全人口の八割がなんらかの個性を有する時代といったが、出久に至ってはその八割には該当せず、残り二割に含まれてしまっている。それこそ読んで字の如く無個性。
誰かがなんらかの個性を有しているだけに、逆に無個性の者は蔑まれる一方だ。そんな人物がヒーロー志望の花形である雄英を目指しているなんて知られたらどうなる? それは嘲笑しか引き起こさない。
クラスメイトたちは出久を躊躇わずに馬鹿にしたような言葉を投げかけていく。それがどれだけ残酷なことかわかろうともせずに、夢を見るなと吐き捨てる。
本当にそうだろうか? 少なくとも、キミらより出久のほうが素晴らしいことをしていると思うけどね。
「そこまでだ勝己、他のみんなもね」
「あ゛ぁ゛!? 引っ込んでろや風女! いつもいつもしゃしゃり出てきてんじゃねぇ!」
「キミがそういう態度だから、私が出ざるを得ないんだろ?」
椅子から立ち上がって出久と勝己の間に割って入ると、爆発少年は隠そうともしない不機嫌な態度で私を睨み付けた。というか、むしろ不機嫌さを増してしまったみたい。
けれど、同じ雄英志望である勝己は言っておかなければならないことの対象外だ。とはいえ露骨に無視すると更に機嫌を――――いや、気にしなくていいか。
なんだかんだで勝己も憎めない部分があるし、だからこそ私も彼を一概に否定し切らないでいるんだ。このまま話を続けさせてもらおう。
「さて、出久を笑ったキミたち。勝己はともかくとして、キミらに出久を笑う資格はないよ」
「てめぇ風女! ともかくってどういう――――」
「いい意味さ、キミは雄英を目指しているんだからね。じゃあ出久を笑ったキミたちはどうかな。どうして勝己と同じく高い志を持つ出久を笑うんだい? 無個性だからとかいう反論は受け付けないよ。笑っていいのは雄英を目指している者だけだ」
事細かいところまで噛みついてくる勝己を受け流しつつ、クラスメイトたちに出久を笑う資格はないと堂々と宣言してやる。
何人かは私が気に食わないとでも言いたげな表情を浮かべていたが、次いで出た言葉に反論する者は誰一人としていない。
確かに私も出久がやろうとしていることは無謀な挑戦だろうとは思うよ。けれど、それを笑う資格もないのに笑うというのは非常に腹立たしいことだ。
さっきも言ったが雄英は超難関校で、教師からのお墨付きを貰えるような生徒が校内に一人居るか居ないかくらいのものさ。
けど無個性である出久が受験する意向を固めているのなら、それは周囲の大反対を推してのことであるのが前提条件だ。
つまり、逆説的に他のみんなはそうまでして雄英を目指そうとしなかった。これがなにを意味するかもはや説明するまでもないだろう。
そう、クラスメイト達は受ける前から受からないと諦めている。そのうえで、無個性だろうと諦めていない出久を笑っているのだ。
それが可笑しいことなんて言わせてなるものか。
「どうせ落ちるだろうからと戦いたかい? それこそ笑わせるよ。落第を恐れて本気でヒーローを目指さなかった者たちに、無個性でも挑もうとした出久を笑う資格は――――」
「も、もういいよみっちゃん、落ち着いて! もう本当に、十分くらいに嬉しいから。その言葉が、本当に、本当に……!」
クラスメイトたちの愚かさをズバリと斬ってやろうとしたところ、馬鹿にされた本人からストップがかかった。
私が反論しようとした要因がそう言うのなら止めないわけにはいかないね。
フンと小さく鼻息を噴出させてから振り向いてみると、出久はその双眸から大粒かつ大量の涙を流しているではないか。なにもそこまで泣くことはないだろうに。
今の私があるのもキミのおかげで、私が感謝することはあれど恩なんて一生かけても返しきれないというのに。まぁ、出久が許すのなら永遠に隣に居させてほしいところではあるが。
「とにかく、なるべく早期に提出すること。以上」
自分が騒ぎを大きくした発端に近いものである自覚でもあるのか、先生はそう告げるとそそくさと教室を出て行ってしまった。
取り残された私達はなにもなす術がないなんてことはなく、そこは委員長の子が解散の音頭をとって今日というカリキュラムも完全に終わりを迎えたわけだ。
周囲のクラスメイトは、まるでさっき起きた私とのやりとりがなかったかのように振る舞っている。そうかい、それ以上議論するつもりがないというのなら、私としてもそれで構わないよ。
「出久、帰ろうか」
「え? あっ、うん、そうしよう。えっと、ちょっと待ってて!」
あまりにあっさりとした幕切れが拍子抜けだったのか、出久は私の声に少し遅れてから反応を示した。
我に返ったような仕草を見せた出久は、せっせと荷物を鞄に詰めて少しでも私を待たせないようにしてくれているらしい。
気持ちは嬉しいのだけれど、私も決して帰る準備が整っているわけでもない。このままでは逆に待たせてしまうことになりそうだ。
私も気持ち急いで帰り支度を終わらせてみると、ちょっと目を離した隙に出久は勝己に絡まれているじゃないか。
どうやら先ほどのことをまだ言っているらしい。
きっとこれから何度も言うことになるのだろうけど、そういう部分さえなければ本当に凄いやつだというのに……。
私は勝己の後ろからこっそり近づき、その手に持っているノートを奪い取った。
「勝己。どんな理由があろうと、他人の私物を爆破しようとするのは感心しないよ。それは出久のご両親のお金を爆破するのに等しい」
「うるせぇ、風女! 夢見がちな無個性が書いたクソみてぇなノート、燃え散らしてやったほうがタメってもんだろうが!」
私が奪取した大学ノートの表紙には、将来の為のヒーロー分析と書かれている。
これは出久が作成したもので、タイトルに偽ることなくヒーローについて独自の視点で考察したアレコレが書き記されているものだ。
試しに中身を覗いてみると、今日初めて目撃したはずの
内容も読めば読むほど興味深いというか、こういう考え方もあるのかと思い知らされる。
そんなノートを爆破しようとしたことを肯定するということは、勝己は本当にコレを燃やしてしまうつもりだったようだ。
「これ、なかなか参考になるからね。勝己もキチンと目を通してみるといいさ」
「誰が! っつーか風女、てめぇのせいで俺の計画が台無しじゃねーか!」
爆破に失敗した時点でノートには興味を失ったのか、完全に怒号の矛先が私に向いてしまったらしい。
話を聞いてみると、勝己はこの学校で始めてかつ唯一の雄英出身者となるつもりだったようだ。
本人は完璧主義者といっているが、単にみみっちいとしか思えないのは気のせいかな。直訴するのは火に油を注ぐのだろうけど。
勝己の場合は導火線に火をつける――――が適当かな、爆破だけに。……ぷっ。
「それは済まないね。けど目指す権利は平等にある。いい加減そんな子供じみた言動は止めて、少しは大人になったらどうだい」
「毎度毎度、俺に説教するんじゃねぇつってんだろうが! てめぇは俺のおふくろか!」
「気分的には間違いなく反抗期の子供の相手をするソレだよ」
昔からなんとか勝己の性格を矯正してみようと頑張ってきたのだけれど、こういう言動を見聞きするたび私の努力は無駄だったのだなって。
本当、いい加減に大人になってくれ勝己……。幼馴染としてフォローをするのは造作でもないが、性格さえどうにかなれば間違いなくNo.1ヒーローになるのも夢じゃないのだから。
それを思うと勝己のお母さまは偉大だよ。心から尊敬に値する。だって少なくとも十四年間もこの暴君を育てて来たのだから。
ちなみに私の心情を正直に話したところ、勝己の取り巻きの一人がプッと噴出して怒鳴られてしまった。
「とにかくだ、どうしても雄英っつーなら後悔させてやるからな!」
「毎回思うのだけれど、捨て台詞が完全に
「みっちゃん、シーッ! 聞こえたらもうひと悶着始まっちゃうよ……」
同じ高校を受験しようとしているだけなのに、なぜ後悔させられるようなことになるのだろうか。
勝己はギロリと私たちをひと睨みしてから乱暴な様子で教室を後にし、それに続く形で取り巻き二人もその背中を追いかけていく。
勝己が完全に居なくなったどうかくらいのところで出久に同意を得るように聞いてみるが、冷や汗を浮かべながらもう少し静かにしてと言われるばかり。
確かにせっかく向こうから行ってくれたのに、今からもうワンラウンドは勘弁だね。出久のいうことに大人しく従い、しばらく時間を置いてから帰路につくことに。
「みっちゃん、今日は本当にありがとう。二度も助けてもらっちゃって」
「気にしなくていいさ。私たちは、何度でも助け合ってここに立っているのだからね」
「ううん、それでもだよ。今日は特に嬉しかったから」
帰り道を歩いていると、出久はなにか決心したようにして私に感謝の言葉を述べた。随分と水臭いことじゃないか。
私は出久を助け、出久は私を助けてきた。出久はきっと僕なんてキミに比べたらなんて言うのだろうけど、そうやってきて早10年となると、今のスタイルはこの先も揺るがないと信じている。
それが私が私である所以。私がヒーローを目指す要因の一端なのだから。
「あのさ、僕、今までみっちゃんに聞けなかったことがあったんだ。みっちゃんにまで否定されちゃったらどうしようって怖くて……。でも、聞かせてほしい」
「うん、言ってごらん」
「みっちゃん、僕は、僕は……」
なにもかも後ろめたく思いがちな出久ではあるが、まさか十年も聞けないでいたことがあるのは流石に初耳だな。いや、むしろ私が気づいてやるべきだったのかも。
けど意を決して聞くになったというのなら、出久の中でなにかしらの変化があったとも考えていい。うん、それならとてもいい傾向じゃないか。
ならば私がすべきことは、出久の聞きたいこととやらを確と聞き届け、なおかつ適切な言葉を返してやることだ。
顔を上げて私を見据える出久の瞳を見つめた。確かな意志が感じられるその目のまま口を開き、こちらへ向けて問いを投げかける。
「僕は、ヒーローに――――」
「Mサイズの隠れ蓑……」
出久の背後にあるマンホールから何かがにじみ出たかと思った時にはもう遅かった。ヘドロのような物体が出久を包み込む。
一般人を躊躇いもなく襲うということは紛れもなく
ええい、どうでもいい情報はくれる癖して、なんでこういうのは教えてくれないんだ風たちよ。とりあえず、黙って棒立ちなんかで雄英を目指せるはずもない。
「んーっ、んーっ!」
「落ち着いて、体を乗っ取るだけさ。苦しいのは約四十五秒……」
「乗っ取るのは
「むぅ、風の個性か……? キミのほうにすればよかったか……」
私が合図をすると同時に、周囲一帯には豪風が吹き荒れる。敵の言うとおり、簡潔に説明するなら確かに私の個性は風に関わる。だが操るとか表現すると風の機嫌が――――
いや、今はそんなことどうだっていい、重要なことじゃない。私が引き起こした風により、出久を包むヘドロは少しずつ削り落とされていっているように見える。
よし、ならばこのまま――――
「けどいいのかい? 今この子とは一体化してるに等しい。そのうちこの子もろとも吹き飛ばされてしまうよ?」
「くっ!」
なんていうことだ。まさかヒーローとしてのノウハウを学ぶ前からこんな授業でやりそうな選択肢を迫られるなんて。だが落ち着け、出久に倣って冷静に分析するんだ。
恐らくこのヘドロの
ではなぜわざわざそんなことを教えてくれるのか、それはこの
私の個性を見た途端に私のほうがよかったと呟いたのなら、この
後は簡単。私が
「んんーっ! んーっ!」
「出久っ……!」
私が迷い躊躇っていると、出久が私に何かを訴えかけるように唸る。その瞳には恐怖が浮かんでいるようにも見えるが、決して風を止めるなと言ってはいなかった。
むしろアレは僕に構わないでと言っている。10年間も一緒にやってきたんだ、出久がそういうやつだっていうのは知っているに決まっているよ。
……ああ、そうだね出久、キミは仮に私が乗っ取られた後のことも想定しているんだよね。
私の個性は適当に振るうと不特定多数を巻き込むくらいに効果範囲が広い。そんな個性を敵が自由に扱ったとするなら何が起きるだろうか。
それは想像するに易く、ここいらは計り知れない人的または物的被害を被ることだろう。そうなるくらいならと、出久は自己犠牲精神で足止めを選んだんだ。
ならばその想いに応えて出久ごと吹き飛ばすのが正解? いいや、それとこれとはまた別の話さ。たった一人に背負わせて、私は安全な場所から攻撃するなんて、私の目指しているヒーローはそんなものじゃない。
「出久、キミ一人に辛い想いはさせないさ」
「ん゛ん゛ー!?」
「ハハハ、自分から向かって来るとは馬鹿な女だ!」
悠然とヘドロに向かって行く私に対し、出久は信じられないような表情を見せた。大丈夫だよ、無計画なんてことはないんだ。
出久と一体化しているに等しいということは、私に対象を切り替えるまで僅かながらにタイムラグはあるはずだ。私の狙いはそこにある。
その僅かな時間に賭けるというのはなかなかスマートではないが、ヘドロの内側に入り込み内側から一気に豪風を起こして飛び散らしてやろうという算段だ。
本末転倒になりかねない策だが、こちらのほうが出久を救うことのできる確率はグンと上がる。ならばそちらを選ばざるを得ないだろ、ヒーローを目指す者としてはね。
しかし結果的にだが、私の葛藤も無意味に等しかった。なぜなら――――
「もう大丈夫だ少年少女!」
彼はいきなりマンホールから現れ拳ひとつで出久を救ってみせたのだから。
彼こそが不動のNO.1ヒーロー――――
彼こそが絶対的平和の象徴――――
夢かと思ってしまうくらい突然に、オールマイトが目の前に現れたのだから。
「私が来た!」
氏名
誕生日 5月3日
身長 161cm
血液型 AB型
好きなもの 鶏料理全般
個性がイサナと被っていますが一応差別化は図っています。
体育祭編でどうしてもやりたいシーンがありまして、それまで詳細は伏せさせて下さい。
あとがきでは、解説なんかもやっていこうと思います。
興味のある方は目を通してやってください。
作中解説
風見 翠:名前の由来は風見鶏。風の個性にしようと思い立ってからすぐ考えついた。苗字が風見なのも実は関係していたり。そのうち明かすことになるかと。
緑谷 出久:言わずと知れた原作主人公。今作主人公である翠と10年来の付き合いなため、ある程度は女子慣れしている。あと翠の影響で幼少期から鍛錬をしている。それ以外の大きな変化はなし。
爆豪 勝己:だいたい原作通りのかっちゃん。ただ、出久と翠が基本的にセットなためイライラが倍。特に嫉妬とかではない。翠のアダ名が風女しか思いつかなくて無念。