私の「幼馴染オリ主と原作主人公恋させてい病」がモロに発動していますので。
それでも大丈夫だよという方は、続けてどうぞ。
「
そんな掛け声と共にオールマイトが豪快なパンチを見舞うと、ヘドロの
流動体に物理攻撃が効かないなんてことは考えなくてもわかるが、それならパンチの風圧だけでやつを倒してしまったということになる。
……凄い、凄過ぎるよそんなの。いや、凄いと言うよりもはやメチャクチャだ。この人を見ていると、本当に人間筋肉でなんでも解決できそうな気がしてくるから不思議――――
「そうだ、出久!?」
「心配ないぞ少女よ、どうやら気絶しているだけのようだ!」
「よかった……。あの、ありがとうございました。貴方が駆けつけていなければどうなっていたことか」
「礼には及ばんよ、そもそもは私の失態だ。 怖い思いをさせて済まない! この少年にも私が直接謝罪をするとして……
大の字になって倒れている出久へ近づいてみると、なんだか混乱と驚愕を合わせたような表情のまま気絶していた。これは、どうやらオールマイトが現れたことは認識できていたみたいだね。
出久はオールマイトの熱狂的なファンで、まさかのまさかで憧れの人物が現れるとは思ってもみなかったのだろう。
一応は平静を装っているけど、私だって出久と同じさ。何気に普通にオールマイトと会話をしている自分を褒めてやりたいくらいだよ。
出久ほどなんて到底は言えないけれど、私だってオールマイトのファンの一人。本当は緊張で心臓がバクバクうるさいよ。
けどそんな緊張している暇はなく、
オールマイトが私に協力を求めながら差し出したのは、ごく普通のペットボトルジュース。なるほど、流動体であるのなら一時的とはいえ捕縛の効果は絶大だろう。
そういうわけで、オールマイトと二人して飛び散ったヘドロを空にしたペットボトルへ詰めていく。
取りこぼしがないか入念にチェックしながら作業を続けることしばらく、オールマイトがキュッとペットボトルの飲み口をキャップで閉じた。
「よし、キミのおかげでスムーズにことが進められたぞ! ありがとう!」
「ああ、いえ、その、そんな、も、もったいないお言葉を……」
今私はオールマイトに感謝されている。そんな状況が夢か現かという感じで、思わず出久のようなワタワタした仕草になってしまった。
落ち着け、落ち着きなよ私、キャラじゃないだろうこういうのは。おかげでオールマイトに緊張しているのかいと笑い飛ばされてしまったじゃないか。
いろんな意味で羞恥心を払拭し切れない中、話題は気絶している出久のほうへ向く。
起きたら私以上にワタワタするのだろうなぁとか思いながら、ペチペチと優しく出久の頬を叩くオールマイトの背中を見守った。
「ヘイ! ヘイ!」
「オ……? オールマイトぁぁぁぁ!?」
「おお、元気そうで何より!」
やはりだいたいは想像していたリアクションというか、出久は目を覚ますのと同時に尻もちをついた状態のままズザザッと地面を這って後方へ下がる。
うん、ありがとう出久。キミが慌てているのを見ているとなんだか落ち着いてきたよ。やはり自分より動揺している人を客観視するとそういう効果があるのかな。
一人そうやっていると、オールマイトは私と同じように出久へ向けて謝罪と感謝を送った。だというのに、出久は目の前にオールマイトがいるという事実を受け止め切れないらしい。
私も似たような状況だったからなんともいえないが、やはり憧れの対象に偶然出会えばファンなんてだいたい同じようになるだろう。
しかしそこはNo.1ヒーローというか、ファンサービスの心は忘れない。なんと私の分までサインをくれ――――って、やっぱりファンだと見抜かれてるじゃないか。
「ありっ、ありがとうございます! 家宝、家宝にします!」
「私も同じく、子々孫々まで受け継がさせていただきます」
「HAHAHA! おおげさな気もするけど嬉しいぜ! じゃあ私はコイツを警察に届けるので! 液晶越しにまた会おう!」
「え!? そんな、もう……?」
出久や私の言葉を大げさに感じたオールマイト含めるそこのあなた、いやいやそんなことはない。
彼にとっては数えきれないファンにサインを送っただけのことだろうけど、イベント以外で偶然出会ったオールマイトのサインなんて一生ものどころか末代ものだよ。
でもそんな夢みたいな時間は徐々に終わりへと近づいてしまっているようだ。
せっせと行ってしまいそうなオールマイトを引き留めたい気持ちでもあるのか、出久は口ごもりながらもう少しだけと遠回しに懇願する。
しかしその願いは、ヒーローは常に
しかし――――
「出久、本当にこのまま行かせてしまっていいのかい?」
「み、みっちゃん……。僕、僕は……も、もっとオールマイトと話がしたい!」
「そうかい、ならば手を貸すよ。覚悟はいいね?」
「う、うん! 思い切り頼むよ!」
出久にとってオールマイトが本当に特別なものだということは、10年来の付き合いである私にとって周知の事実だ。
その特別さは無個性ゆえに残酷さすら孕んでいて、複雑怪奇としか表現しようがない。つまり出久の引き留めは、半ばファンとしての精神だけではないということ。
無個性ゆえに、No.1ヒーローであるオールマイトに聞きたいことなんて山のようにあるに決まっている。
ならば私のやるべきことはひとつ、幼馴染の背中を押してやることさ。精神的にも物理的にも――――ねっ。
「それでは今後とも――――」
「いくよ出久! ――――
「うわああああっ!?」
「応援よろしくねーっ!」
オールマイトが屈伸するようにしてジャンプの予備動作をみせたその瞬間、掌に集めた風を空気砲の要領で一気に射出。
その風に背中を押された出久は、綺麗な放物線を描きながら前方へ大きく吹き飛んでいく。そしてその着地地点はというと、オールマイトの背中ジャスト。
出久が屈強な背中に張り付いたと同時に、オールマイトはこれからもよろしくという言葉を残して大ジャンプ。あまりの衝撃で目をそらしてしまったが、次視界に入れたときには既に遥か彼方。豆粒のような大きさに見えた。
あ、あの勢いで出久が張り付いていられるかな……? 今になって少し後悔してしまうというか、一時のテンションに身を任せてしまったような気もするね。
……空を飛んで追いかけたほうがいいだろうか。いや、迂闊に飛んでプロヒーローにでも目撃されるのは困るかな。
ここは出久を、大事な幼馴染を信じるしかなさそうだ。どうか無事で、明日も学校で合おうね……出久。
「出久の様子が変?」
『そうなの。なんかコソコソ早朝に出かけてるみたいで……』
例のヘドロ騒ぎから一週間が過ぎようとしていた。
あの後私は一人で帰宅したわけだが、その後ヘドロ
私は先に帰ったことを酷く後悔したが、勝己の見舞いにいったら余計だと門前払いされてしまったよ。……お土産のキムチはちゃっかりブン取っていかれたけどね。
一方の出久はというと、なんだか吹っ切れた顔をしていたのがとても印象的だった。やはりオールマイトと話すこができたからかな。
詳しい説明を求めてみたのだけれど、出久にしては珍しく頑なに誤魔化す方針のようだ。私にも言えないとなると聞くだけ無駄だろう。
ヘドロ敵の一件で無謀な行動に出たとかで出久はプロたちにこってりしぼられたらしく、本人曰くあれもあれで貴重な体験だって押し切られるばかりだし。
だが親御さんの目ばかりは誤魔化し切れないらしく、私は出久の母親である
曰く例の一件以降から出久の様子がおかしいだとか。曰く早朝に出かけてその足で学校に向かっているだとか。
「ああ、それで」
『心当たりがあるの?』
「はい、なんだか最近は疲れ切ってるのが目立っていましたから。ただ、私も詳しいことは何も」
私も出久の様子の変化について気づかなかったわけではない。いやね、流石にあんな疲れ切った状態で登下校していたら気づかないほうがおかしいってもんだよ。
となると、出久は怪しまれないようにわざわざ私と一緒の通学路に戻ってから合流していたということになるけど、そうまでして出久が隠したいこととはいったいなんなのだろう。
私の言葉を聞いたお母さまとしても、私にすら隠しているということが不安を煽るのか、ますます心配そうな溜息が受話器から響いた。
『翠ちゃん、悪いんだけど真相を突き止めてくれないかしら』
「場合によっては報告できないかも知れませんよ?」
『その時はその時でいいの。あの子のことだから非行に走ってるなんて思わないけど、とにかく心配で心配で……』
「わかりました。そういうことなら任せてください」
お母さまが私に頼むのは、私が情報収集能力に長けるのを知っているからだ。本当は本人が直接突き止めたいはず。
だが出久がそうまでして隠しているとなると、場合によっては私も秘匿しなければならない可能性も考えられる。
そう告げてみるも、それでも構わないのだとお母さまは言う。自分でなくとも、出久の安否を知る者が一人でも居れば心情も異なるということだろう。
それでも構わないと言うのなら、この依頼を受けない理由はない。なにより私も出久のことが気がかりではあったし、渡りに船とかいうやつさ。
私の快諾にお母さまは今度は安堵したような溜息を響かせ、最後に感謝と共にお願いねと言い残して通話は終わった。
そして翌日の朝四時。季節柄に関わらずまだ真っ暗な中、私は家を飛び出した。ふむ、いい具合に風が吹いているね。これならすぐに見つかりそうだ。
「みんな、少し話を聞かせてよ」
風に向かってそう語り掛けると、私を包むようにゴウッと風が吹き抜けていく。
周囲からするとただ風の音しか聞こえないだろうが、私には風の声というやつを感じることができる。
まぁ直接的な声ではなく、あくまで感覚的なものなんだけどね。ただ単に声というのが最も近い表現だから使っているだけだ。
これも私の個性の一部。私は単に風を操っているのとは違うからこういうこともできる。いつしか言った風の噂っていうのはこういうことを指す。
風っていうのは自由だからね、聞いてもすぐ教えてはくれない。今日は商店街で大安売りがあるとかいう噂もあれば、近くの通りで
風の声を聴いてしばらく、情報の取捨選択をしながら出久の目撃証言を探る。そして――――ビンゴだ。
「……市営多古場海浜公園。そこで緑のモジャモジャを見た……か。それと――――」
緑のモジャモジャとは随分な言われようだが、もしかしなくても出久のことだろう。しかし近所というには遠い場所だな。いったいそこで何をしているのだろう。
それも気になるところではあるが、実際に行ってみればわかる話だ。気になるというのなら、出久と一緒に目撃証言の出ている金髪の男性のほうだな。
その男性と密会していると考えるのが自然だが、そうなってくるとなんだか穏やかじゃないね。あくまで噂の域を出ない情報しか得られないから警戒しておくとしよう。
(さて、行こうか)
私はキュッと靴紐を結び直してから、海浜公園を目指して歩き始めた。
多古場海浜公園はここらでは悪い意味で有名な場所で、地元住民なんかは率先して近寄ったりしない。
その要因は簡単に言えばゴミである。
あそこは海流の関係上漂流物が打ちあがりやすいらしく、更にはそれに便乗するかのように不法投棄すらまかり通っている。
公園の敷地外に居るにも関わらず、もう既にゴミの山がみえてきた。悲しいかな、これが現実というやつだろう。
さて、ここからは少しばかり慎重にに行動しなければ。
出久と例の金髪の男性がいるという前提で、様子を伺いながらコソコソと波打ち際の方へ接近していく。
そこらの茂みに隠れて奥の方を覗いてみると、情報通りにそこには出久と見覚えのない男性の姿が映った。
出久のほうはというと、なにやらゴミを運んでいるのかな。逆に男性のほうがそれを静かに見守っているとなるとこれは――――
(トレーニングかなにか?)
だとして隠れてやる意味はわからないが、これをみるにトレーニング以外のなんだというのだろうか。
それなら金髪の彼はトレーナーか何かなのかな。それにしては随分と細いというか、こういう言いかたはなんだけど今にでも死んでしまいそうだ。
どういう個性を持っているかはわからないにせよ、これならあまり警戒する必要もなさそうだね。
私は出久に悟られないようにしつつ、金髪の男性に話しかけた。
「すみません、そこのおじさま」
「ん? おやキミは――――って違う違う。こ、こんな時間に女の子の一人歩きは危ないぞ」
「それが、彼は私の友人でして。親御さんに頼まれて様子を見に来たんです」
振り返った金髪の男性が私に見覚えがあるかのような反応をしたのが気になるが、少なくとも私は彼に見覚えがないから気のせいだろう。
ただそう返しても全く意味をなさないので、率直に頼まれごとをされて来たのだと告げた。
「そうか、それは悪いことをしてしまった。だが安心してくれ、彼の監督責任はキチンと私がとろう」
「それは心強いお言葉ですけど、そもそも貴方は何者なのです?」
「わ、私か? 私はほら、え~と、アレだよ。……や、八木。私の名は八木。こう見えてもオールマイトの親戚でね、彼の代わりに出久くんのトレーナーを任されたのだ」
なんとも細い腕でガッツポーズをしながら任せろと言われるが、やはり説得力に欠ける。というか口の端から血が垂れているのがギャグかと。
そんな男性の名は八木さんというらしく、なんでもオールマイトの親戚なんだとか。
……そう言われてみると、金髪だし髪の癖もなんとなく似てるし、八木さんに筋肉をつけたらオールマイトっぽくなるかも。とりあえずここは信じておこう。
「つまり出久はオールマイトに認められたと?」
「そういうことになるね」
「そうか……。そうなんですか……!」
なるほど、出久が吹っ切れたような表情をしていたのはそれが要因だったのか。まさかオールマイトに認められるなんて。
感激のあまり泣き崩れてしまいそうなのをなんとか堪え、ギュッと拳を握ることで気持ちを分散させた。
確かにそれならコソコソしていたのにも合点がいく。間接的とはいえオールマイトに鍛えてもらっていますなんて言えるはずもない。
すみませんお母さま、やっぱりとりあえずは心配しなくて大丈夫という報告しかできなさそうです。
「あの、八木さん。これ、差し入れです。軽食にと思って作ってきたのでどうか二人で食べて下さい」
「これはかたじけない。だが、声をかけなくてもいいのかい?」
「ええ、彼が陰で頑張っているんです。だとしたら私は、その意思を尊重したいと思うので」
だとしたらさっさと退散するのが得策だと考え、八木さんに作ってきておいたおにぎりを手渡す。
八木さんはそんな私に出久に直接渡せばいいのではと問いかけてくるが、こんなに頑張っているのに邪魔をしたくはないじゃないか。
風はただ通り過ぎていくだけだよ。
「それでは八木さん、出久のことをよろしくお願いします」
「ああ、任せたまえ。気をつけて帰るんだよ」
八木さんに深々と頭を下げ、私はその場を立ち去った。
帰り際に紳士的な言葉をもらったことといい、なんだか八木さんには好感が持てるな。まるでオールマイトと話しているようだった。
ふむ、新たな出会いがあったし、なんだか今日はいい朝だ。よし、せっかくだから私もランニングしながら帰ることにしようじゃないか。
ふとそう思いついた私は、文字通り跳ねるようにして帰宅の途についたのだった。
「あ、あの、オールマイト。今そこにみっちゃん……茶髪でセミロングの女の子がいませんでしたか!?」
「ああ、来ていたね。なんでもキミを心配していたそうだぞ」
帰り際ギリギリのところでようやく気付いたけれど、どうやらみっちゃんが来ていたらしい。
心配していたとなると、お母さんがみっちゃんに頼んだのかも。もしそうだとすると悪いことをしたな……。けどオールマイトに鍛えてもらってますなんて言えないし……。
「あの子からこれを預かったぞ。せっかくだから少し休憩にしようか」
「これ、おにぎり? でも、あの、食事に関しても管理しなきゃならないんじゃ……」
「HAHAHA! 流石の私も彼女の愛情がたっぷり詰まったものを食べるなとは言わないさ!」
「かっ、かかかか……カノジョっ!? い、いやいやいや! 僕とみっちゃんはそんな、そんなこと……。というか、僕にそんな資格は……!」
可愛らしい風呂敷で包まれたものを手渡されたと思えば、みっちゃんが軽食にとおにぎりを作ってきてくれたみたい。
だけどこの目指せ合格アメリカンドリームプランは、起きる時間から寝る時間、食事に関しても徹底的に管理されている。
だから食べてはいけないのではと聞いてみると、豪快に笑い飛ばしながら彼女が作ってきてくれたんだからセーフとオールマイトは言い切った。
その口調に僕をからかおうなんて気は感じられず、どうやらオールマイトは本気で僕とみっちゃんがその、そのののの……つ、付き合ってるって思っていたみたいだ。
けど、そんな……ダメだよ、そんなの。僕なんかがみっちゃんの彼氏になる資格なんてない。だって僕は、すごく最低な男なんだから。
「…………なにやら複雑みたいだな。とにかくほら、こっちに座って話そうじゃないか」
「……はい」
僕の表情から並々ならぬ何かでも感じ取ったのか、先ほどの豪快さが嘘のように、まるで僕を諭すかのようにこっちへ座りなさいと促す。
大人しくそれに従いつつ、みっちゃんお手製のおにぎりをありがたく頂戴することに。
丁寧に包装されたラップを剥がすと、綺麗な三角をしたおにぎりへと思い切りかぶりついた。
小さめに握られていたために一発で中心部の具材まで届き、僕の口内にはツンとくるような酸味と塩気が広がる。
具材はどうやら梅干しみたい。みっちゃんは僕がなにをしているのかまでは知らなかったようだけど、とりあえず疲労回復の目的で選んでくれたに違いない。
「私はヒーロー活動にかまけるあまり、ついぞ愛する者もできなかった。まぁ、市民だとかファンのみんなは愛してるんだけどね!」
「博愛とか親愛とか、そういう違いってことですよね」
モグモグとおにぎりを咀嚼していると、オールマイトはポツリと呟くようにしてそうこぼした。
確かにオールマイトほどのヒーローとなると、誰か特定の人物の女性一人に対して愛を注ぐ暇なんてなかったろう。
そもそもそんな人が居たとするならお子さんもいたかもって話になるし、そうなると僕にワン・フォー・オールを継いでくれと持ち掛けてもこなかったろう。
自分で育てたお子さんに継がせるほうが自然だろうし……。
「だからこそ憧れるのとは違うが、少し妬いちゃうぞ緑谷少年! 想ってくれる女性が近くにいるというのはさ!」
「は、はい。本当、僕にはもったいなく感じるばっかりで……」
みっちゃんと仲良くなった経緯はけっこう複雑だけど、仲良くなってからというものはとてもよくしてもらっている。
無個性の僕と一緒にいるというだけでみっちゃんが迷惑を被るということもあったのに、それでも彼女はずっと僕の隣にいてくれた。
どうしてそこまでなんて聞いてしまったこともあるけど、みっちゃんは僕がそうしてくれたからだという。
……みっちゃん、僕はそんなに立派なやつじゃないんだよ。キミの気持ちは知っているっていうのに、キミを苦しめているのは僕なのに……。
「ならどうして彼女の想いを受け止めてやれない。男らしくないぞ!」
「僕はダメなんです。無個性の負い目っていうか、彼女を本当に幸せにできるのかとか、そんな小さいことが怖くて……!」
男らしくない。本当にオールマイトのその言葉に尽きるよ……。
みっちゃんの気持ちは知っているというか、コンスタンスかつ遠回しにその、なんていうか……こ、告白っぽいことを言われている。
僕も無個性だっていうのに馬鹿にしないで、あろうことか隣に居ようとしてくれたみっちゃんのことが……。えっと、まぁ、そういうこと。
ちょっと不思議なところもあるけど、すごく優しくって、芯も強くてかっこいいって思うし、別にそういうのは重要じゃないって思ってるけど、見た目もすごく美人だし。
でもそうなってくると、本当に僕でいいのかって、僕なんかがみっちゃんの気持ちに答えるよりもいい道なんてたくさんあるんじゃないかって……そう、思ってしまう。
それは無個性だと馬鹿にされ続けて育ったところからくる僕の自信のなさのせい。みっちゃんはそんなの関係ないよと言ってくれるって、そんなの僕が一番よくわかってるクセに。
本当……最低だ。最低に男らしくない。
「そうか……。そうか、それは苦しい思いをしたな」
「僕なんか全然……。多分みっちゃんのほうが苦しんでるに決まってますから」
「いいや、それはきっと五分五分さ! だから緑谷少年、こう考えるんだ! もしワン・フォー・オールを受け継ぐことができたらとっ!」
オールマイトは僕の頭に手を置くと、ゆっくり前後に動かした。だけど、そうやってオールマイトに慰められる資格もないよ……。
もう何もかもが申し訳ないような気がして目をそらしていると、オールマイトは砂を舞い上がらせながら立ち上がった。
そしてゴフッ吐血しながらもマッスルフォームへパンプアップ。それがデモンストレーションのようなものであることはすぐわかった。
「でも、その、そんなことのために頑張るのって……」
「そんなこと? 今そんなことって言ったかい?! 口を慎め緑谷少年! キミは自分を卑下するのとついでに、彼女の愛情を侮辱しているにも等しいぞ!」
「っ…………!?」
「誰かを愛することはヒーローにとっても重要なことだ! 更に愛されるってなると止められない相乗効果になるだろう! 人は人を愛すると弱くなる? そんなものは真に人を愛したことのない者が囁くまやかしさ! なぜならそれは本当の弱さではない! 弱さを……愛を知っている者こそが、本当に強くなれるんだ!」
みっちゃんの気持ちを受け入れるためにもワン・フォー・オールを受け入れるためのトレーニングを頑張ろう。オールマイトはそう言いたいようだった。
だけどそんなのは少し不純じゃないだろうかと告げようとしたところ、オールマイト僕に怒気を内包したような表情を見せた。
でもそれはほんの一瞬のことで、オールマイトは愛について熱く語って聞かせてくれる。
しかし、最後にまぁ恋愛ド素人の戯言かも知れないけどねと恥ずかしそうに付け加えながら骨と皮のような細い男の姿に戻った。
「で、キミはどうしたいんだ緑谷少年」
「ぼ、僕は……僕はっ、彼女の……みっちゃんの気持ちを心から受け止めたいですっ!」
「よく言ったぞ! ならば目指せ合格アメリカンドリームプランにひとつ付け加える! 個性を受け継ぐことができたのならば、ゆっくりでもいいからあの子の心と向き合うこと!」
「はいっ!」
さっきも言ったとおりに僕もほら、アレだから、ずっとみっちゃんとそういう関係であれることを夢見てきた。
でもごめんみっちゃん。いくら個性をオールマイトから受け継いだとはいえ、すぐにキミの気持ちに答えることはできないと思う。
やっぱりキミを長く苦しめた僕に、すぐそうする資格なんてないと思うんだ。
だけどオールマイトの言っているとおり、ゆっくりでもキミの心に寄り添っていくことにするよ。
個性を受け継いだ暁には、僕はもう逃げない。大切なキミから贈ってくれるメッセージから真正面から向き合うよ。
だからみっちゃん、もう少しだけ待っててね。だって僕はキミのことが――――
「だいっ好きだぁぁぁぁああああっ!」
「HAHAHA! 青春してるなぁ、十代って素晴らしいっ!」
ほ、本人を目の前にしてこうできればいいんだけど、みっちゃんを好きってハッキリ言うことができたのは大きな進歩だと……思う! というか思いたい!
海に向かってそう叫んだ僕に対し、オールマイトはサムズアップをしながら豪快に笑い飛ばす。でもあの、細い状態でそんなに笑うと確か――――あっ、案の定吐血しちゃった。
「よし、緑谷少年。あの子の愛情はしっかり腹に詰めたな!」
「はいっ!」
「ならば特訓再開だ! あの子の愛を掴むのもまたアメリカンドリームなのだから!」
「はいっ!」
話をしているうちにみっちゃんお手製のおにぎりも食べきってしまったということで、それを合図にするかのようにオールマイトは特訓再開を宣言した。
オールマイトの言葉に逐一全力の返事をしてから、僕は気合を入れ直して大型のゴミを海浜公園の出入り口付近へと持ち運んでいく。
それからの特訓は、いつも以上に力が湧いたことは言うまでもないだろう。
終始こういうノリで進めていこうと思ってます。
2人がいつひっつくかは、ぶっちゃけ私にもよくわかってはいないです。
作中用語解説
風の声・風の噂:翠の個性が単純に風を操る個性でないからこそできる芸当。聞こうとして聞く場合もあれば、黙っていても向こうから教えてくる場合もある。その内容はしょうもなかったり重要だったりとまちまち。