「お母さま、こんにちは」
「あら翠ちゃん。出久に会いに来たのかしら?」
「それも間違ってはいませんけど、こんなものが届いていたものでして」
雄英高校受験日から一週間、私の元へとあるものが届いただけに出久の家を訪ねていた。
インターホンを鳴らして私を出迎えてくれたのは、出久のお母さま。
なんだか家に来るたびにニヤニヤとしながら似たようなことを言われるのだけれど、今日は出久に会うというのが一番の目的ではない。
私は懐から一枚の手紙を取り出すと、これに見覚えはないかとお母様にといかけてみる。
その封筒には雄英高等学校と書かれており、これが合格か不合格を報せる通知だというのは察しがついた。だからこそ、出久と一緒に見てみようと思い立ったわけだ。
お母さまはしばらくポカンとしたような表情を浮かべると、玄関先にある届け物を入れる用であろう箱を漁り始める。
するとそこには、私の所持しているものとまったく同じ手紙が入っていた。
「いずいずいずく出久! 来た! 来てた! 来てたよ!」
「ほ、本当!? ってみっちゃん!? い、いらっしゃい」
「やぁ、ごめんね連絡もなしに」
雄英からの通知があまりに衝撃だったのか、お母さまは私の対応も忘れてリビングのほうへと戻っていった。……親しき中にも礼儀ありというけど、ここはお邪魔させてもらおうか。
お母さまが脱ぎ散らかした靴も合わせて綺麗に揃えてからスリッパを拝借すると、ペタペタと音を鳴らしながら緑谷家へと足を踏み入れた。
すると出久としては私の突然の訪問も驚きのようで、私と通知を交互にみて目玉が飛び出す勢いで見開いている。
私が連絡を入れなかったのにはそれなりに理由というものがあってね。
試験の日から後のことだけれど、出久は燃え尽きたどころかなんだか魂が抜けたかのようになっていた。
ここ数日は早起きをしていないようだし、もしかすると受験を巡って八木さんとなにかあったのかも知れない。
どのような理由にしたところで、近々の出久はなんだか見ていられないというか、声をかけづらかったというものがある。
けどこれなら、単に私の気の遣い過ぎでしかなかったようだ。
出久は部屋を片付けるから少し待っていてと告げると自室に消え、その間私はお母さまとの世間話に華を咲かせた。
「お待たせみっちゃん、もう大丈夫だよ」
「わかったよ。それではお母さま、また後で」
「出久、翠ちゃん、頑張って!」
大きな音を立てて扉が開かれると、部屋の主から入っていいとの許諾が得られた。
中途半端だがお母さまとの会話を切り上げつつ、ソファから立ち上がって出久の部屋へと足を踏み入れる。
その際に空回りでもしているらしく、何をを頑張れと言うのか、お母さまは通知を見るだけの私たちにエールを送るではないか。
そのせいでなんだか出久は恥ずかしそうだったが、私としてはそこもお母さまの魅力なんだと思うけれどね。
「で、ど、どうしようか? どっちのからにする!?」
「まぁ落ち着きなよ。ここは出久からでいいんじゃないかな」
床へ座布団を敷いて向かい合うように座り、ジッと私と出久の名が書かれた手紙を穴が開くような勢いで見つめる。
やがて出久が興奮した様子で聞いてくるものだから顔を上げてみると、その顔にはハッキリとすごく気になると書かれていた。
どちらからでもいずれ見ることにはなるんだ、私には特にこだわりはないから快く順番を譲る。
でもいざ開くとなると怖さもあるのか、出久は躊躇いをみせてから封を思い切り破いた。するとその中には、なんとも形容しがたい丸い装置が入っていた。すると――――
『私が投影された!』
「オールマイト!? ええ!? 雄英からだよな!? ええ!?」
「だから落ち着きなよ、静かに聞いてればそのうちわかるさ」
『諸々手続きに時間がかかってね、連絡が取れなかった。済まない!』
どうやら装置の正体はホログラム投影装置のようで、この一週間以内に録画したであろう映像が投影された。
しかし、いきなりオールマイトが投影されるものだから私も驚いたね。例によって出久が隣で慌てているから平静でいられたよ。
だが所詮は録画だ、私たちが慌てようと待ってはくれない。とにかく手早く出久を落ち着かせて、映像をしっかり見聞きするよう促した。
『私がこの街に来たのは他でもない、雄英に勤めることになったからだ』
「わぉ、No.1ヒーローの指導が受けられるなんてね」
そもそもこの街に現れた理由をオールマイトが述べるが、まさかのまさか、雄英で教師として赴任するためらしい。
衝撃と歓喜が入り混じったなにかが胸の中から込み上げてきたけど、それを誤魔化すために私はおどけてみせた。だというのに、出久の様子が少し変だね。
いつもだったら大騒ぎして喜ぶところだっていうのに、なんだか複雑そうな表情をするばかり。
……気にはなるけど、ノーリアクションなら触れない方がよさそうだね。
そうやって出久から映像のほうへ視線を戻してみると、後がつかえているから巻きでとオールマイトが注意を受けていた。そして咳払いをしてから口を開き直す。
『筆記はよくても実技が0P、当然不合格だ』
「……出久」
「だ、大丈夫だよみっちゃん。わかってた、わかってたことなんだ。けど……!」
あの日は実技に関して互いに深く聞かないようにしていたけど、まさか0Pだったとは……。そうか、オールマイトの指導も効果が薄かったんだね。
今の出久にとって同情はよりみじめになってしまう行為だろうが、私は心配するように名前を呼ぶことを止められなかった。
私の声に無理矢理作ったような笑顔を浮かべて大丈夫と答える出久だったが、よくみれば悔しそうに唇を噛みしめている。……現実というのは厳しいものだね。
『それだけならね。私もまたエンターテイナー! こちらのVTRをどうぞ!』
「出久、彼女は確か……」
「う、うん、転びそうになった時のあの子……。実は会場も同じで、また助けられたんだ。けど、どうして……?」
なにやらオールマイトが意味深なことを言い始めたと思ったら、映像のなかでVTRが再生され始めた。
画面の中のモニターに映っていたのは、例の……出久が転びそうになったのを個性で助けてくれたキュートなあの子。
何が起きるのかとより真剣に映像をみていると、オールマイト曰く試験終了後すぐに直談判をしにきたらしい。そしてあろうことか彼女は――――
『私のポイントを分けてあげることってできませんか!?』
な、なんと……なんていう……! 本当に天使か何かなんじゃないのかなこの子は。助けてもらった恩があるからって、自分のポイントを分けようっていう発想が浮かぶなんて。
映像の中のあの子は、必死な様子でプレゼント・マイク相手に交渉を続けている。
自分のせいで時間をロスさせてしまったのだからと、あの人が自分を助けてくれたのだからと。
私が二ヤリと口角を挙げたのと同時に、出久は勢いよくその場で立ち上がる。それはきっと、感動からくるものだ。
『先の入試、見ていたのは敵を倒して得たポイントだけにあらず! 人助けをした人間を排斥しちまうヒーロー科など、あってたまるかって話だよ!』
(まぁ正論だね)
『綺麗事!? 上等さ、命を懸けて綺麗事するお仕事なのだから!』
(それも正論)
『
なるほどね、雄英も悪趣味なことをするよ。ポイントの奪い合いをさせながら、ナチュラルボーンのヒーロー気質をあぶり出そうなんてさ。
それについて出久ほどふさわしいものを持っている人物を私は知らない。そういうわけで、出久には60Pの。キュートな天使女子、
『合格だってさ』
「み、み、み……みっちゃああああんっ!」
「最後まで聞いてあげなよ、お師匠がまだ何か言おうとしてるよ」
『来いよ緑谷少年!
「っっっ……はいっ!」
見事に出久が、あの出久に雄英の合格が告げられた歴史的瞬間だった。
すると私のほうを見た出久が滝のような涙を流し始めるが、あまりこちらを見ないでくれないかな。私だって今にも涙が溢れそうで堪らないんだからさ。
オールマイトが何かまだ告げようとしていると気をそらし、その間にバレないようジワリと浮かんでいた涙を拭う。……よし、落ち着いてきたぞ。
そしてまるで挑発のようなオールマイトの言葉に出久が返事をすると同時に、装置から映し出されていたホログラムはプツリと途絶えた。
「みっちゃん、僕やったよ! やったんだ! っていうか夢じゃないよね、大丈夫かな!?」
「またベタなことを言うね。大丈夫、私が証人だよ。ひとまずはおめでとう、出久」
「うん、ありがとうみっちゃん!」
思い切り頬を抓り始める出久の手を止めさせ、その両手を優しく包み込みながら合格を讃える。
特に私が何をしたということもないが、出久はそのまま両手をブンブンと上下させた。
フフ、そこまで喜ばれると、やっぱりこっちも嬉しくなってくるね。
本当、10年キミと一緒にいて一番嬉しい瞬間だよ……。
出久の興奮冷めやらぬ中、今度は私の合否を見届ける時が来た。実際のところは今のを聞いたのならほぼ間違いなく合格なような気もするけどね。アレがどう評価されるかに左右されるかもだけど。
『私が投影された!』
「入りは同じなんだ……」
「まぁそんなものだよ」
『やぁ風見少女、例の敵
芸人の一発芸なんかと同列にするものではないだろうが、掴みというは大事なものだ。となると、変にブレるよりも貫き通したほうがいいだろう。
なんだか出久は芸がないとでも言いたげだが、キメ台詞があるタイプのヒーローなんだから細かいことは気にしちゃダメだよ。
そしてオールマイトは私のことを覚えてくれていたようで、ビシッと敬礼するようにして近況がよいものかどうか問いかけてくれた。
思わず元気でしたと答えそうになってしまったよ。
『っていうかキミってアレだね、後で名字知って気づいたんだが彼の娘さんだったようだね! あまりに似てないものだからわからなかったよ!』
「父さんの言葉は嘘ではなかった……?」
「みたいだね。だとすると凄いことだよ、みっちゃん!」
今度はいやウッカリ! といった感じでおどけながら私に謝罪する。
別に隠しているわけではないから言うんだが、私の父親はプロヒーローをやっていたりする。しかしこれが少しばかり他と毛色が異なるというかなんというか……。
自分の事務所を持っているわけでもなければ、誰かの事務所に所属しているということもない。
どうしてそれでプロヒーローとしてまかり通っているのか知らないが、父さんは気ままに世界中の
で、たまにというか年単位で帰って来ないこともあるけれど、顔をみせるたびに自分とオールマイトは盟友だと言うのがお約束。
尊敬はしているがあまり父親らしいことをしてもらった覚えがないせいで半信半疑だったが、オールマイト本人が言及するならあながち嘘でもないのかな……?
まぁ確かに私は間違いなく母さん似だけれど――――って、それはまた今度にしよう。
映像の中でまたオールマイトが巻きでと注意を受けているし、ここから集中だぞ。
『試験の話に戻ろう! まず筆記だが、文句なしに合格ラインだ! 爆豪少年と1点差での2位だけれど! 惜しかったな風見少女!』
「みっちゃんにかっちゃん、流石だね……」
「ありがとう出久。でも重要なのはこれからだよ」
『そして実技で稼いだ
ふむ、勝己に1点差で負けか……。別に勝ち負けにこだわる性格ではないんだけれど、惜敗となるとかなり悔しいな。
でも純粋に出久が凄いと言ってくれているし、私はそれで十分さ。
さて、筆記が大丈夫なら後は実技だね。最後に放った
私は先に出久の合否通知を観てしまったためにネタバレを喰らっているに等しい。オールマイトには申し訳なかったが
『キミは迷うことなく受験生、つまりライバルである葉隠 透少女を助けにいった! これでまず30Pの加算だ!』
「現時点で75P……! もう僕は追い抜かれちゃったよ……」
『そして0P
あの時に打算的な発想はないし、今でも彼女を助けることがよかったなという想いしかない。
ただそれが教師であるプロヒーローたちに評価されたってなると、なんだか全身にピリピリとしたかゆみが広がっていく気分だよ……。
また出久が輝かしい目でこちらを見てくるのがむずがゆい。
しかしそうやっていられるのもこれまで、やはり私が懸念していたように0P
『足止めするにも規模が大きすぎたかもな! 被害は抑えようって姿勢は見られたけど、もし取り残されてる人が居たらという意見が出た! これに関しては私も同意せざるを得ない!』
「う~ん……なかなかままならないものだね」
「そ、そのあたりはこれから頑張ろうよ!」
まったくもって取り残された人のことを考えていないなんて評価されていたらそれは反論したいところだが、もしもの話にすると反論の余地がない。
やはり時間いっぱいまで足止めに終始するのが得策だったかとしょんぼりしていると、すかさず出久がフォローしてくれる。
その言葉はまるで私の合格は既に決まっていると思っているのか、なんだかこれから授業を受けるという前提に聞こえた。
とりあえず出久に感謝の言葉を述べ、再度映像のほうへ集中する。
『だが他が逃げる中で立ち向かったのはキミだけさ! アレに立ち向かうやつなんてそうそういないんだぜ! その姿勢、全く評価しないなんてことはしない! というわけで、議論の結果おまけで6P! 累計81Pで見事入試1位合格だ! おめでとう、風見少女!』
「い、1位!? 凄いやみっちゃん、凄過ぎるよ! それに合格おめでとう!」
「ありがとう出久。これでまた夢の続きを一緒に追うことができるね」
なんだかんだで1位合格か……。父さんと母さん、それに妹にいい報告ができるな。
でも、私の1位合格を知ったら勝己が騒ぎ立てると思うと今からげんなりしてしまう。
いいや、きっと勝己のことだから
それでもしつこく反論してくるのは目に見えているが、その時はその時さ。ほら、明日は明日の風が吹くっていうだろう?
後は騒いでいたからある程度聞こえていたろうが、一番出久を心配していたであろうお母さまに報告をしないとね。
なんて和やかにリビングへ戻ってみると、出久が合格というのが聞こえていたらしく感激のあまり気を失っていた。
とりあえず呼びかけてみてすぐ意識を取り戻したようなので、私も出久も大きな溜息を吐くばかり。
……とにかくここは家族水入らずにするべきだよね。そう判断した私は、自分も家族への報告があるからと足早に緑谷家を後にした。
こういうのは表に出さないほうなのだけれど、私は合格の歓喜からかスキップするような足取りで家路につくのだった。
「次、風見 翠」
「おっ、風見っていやあの人の娘だろ!?」
時刻は約一週間前まで遡り、翠と出久が観ていた合否の内容の中にも含まれていた審査が行われていた。
巨大な会場には雄英の教師陣も含め、各本面から数多のプロヒーローたちが集結している。それもこれも未来を担うにふさわしい人材をその目で吟味するためだ。
どうやら順番からして翠の審査が始まるようで、大型のモニターには様々な角度から撮影されたであろう姿が映し出されている。
やはり風見という名字に引っかかりがある者は多いようで、審査会場はかなりのざわつきで満たされていく。
収集がつかなくなり始める頃にようやく議長らしき人物が静粛にするよう願うと、会場は一気に緊張の糸が張り詰めた。
「それではまず
「飛行可能なのは強みだな。索敵と攻撃を同時に行える。単純に機動も抜群だ」
「姿勢にハングリー精神が足りない気もするけどね」
翠は単独で行動すればするほど機動力と制圧力は格段に向上する。上空から広範囲を見渡しながらなおかつ攻撃可能な部分が高評価を受けている。、
だが試験に臨む姿勢について、いただけないと感じる者もいるようだ。
翠が狙ったのは確実にフリーになっている仮想
それこそ横取りや妨害行為なんかはもっての外なのだが、最高峰を受けに来ておいてということを言いたいようだ。
無論だがそれは低評価のみならず、気の遣える素晴らしい人物であるという評価も受けているためお相子と言ったところだろう。
そこをギャーギャーと議論していては仕方がないので、最終的には素行に問題なしという評価で落ち着いた。
「では次、
「……なにやってんのあの子?」
「どうにも透明になっている受験生を助けているらしい」
「その通り。後々にまた審査することにはなるが、葉隠 透という受験生を救助している」
議長が言葉を詰まらせたのには理由があり、翠が受験生を救助した映像そのものは残っているが、救助対象が視認できないからである。
なにかしらの理由で見逃した審査員には翠が一人で瓦礫をギリギリで回避したようにしか見えないようだが、確かにその腕へ何かを抱えているのを察した審査員も。
議長が捕捉するようにモニターへ葉隠の受験票を映し出すと、なるほどそういうことかと全員が状況を理解した。
そのうえで、正当な評価が下される。
「いいじゃん、全く迷いがない」
「そもそも彼女、0P
「ああ、あの動きは仮想
審査員たちが注目したのは葉隠を救出した瞬間だけでなく、0P
当然ながらあの時点の翠は
そこへ実際に葉隠を救助したというのを加味し、審査の結果この部分については30Pの加算が決定された。
だが問題はというと、意見が割れたというあのシーンである。
「それと彼女は0P
「あれすごかったよなぁ! あの年であの規模の攻撃が可能ってのは有望株だぜ!」
映像には自身が持てる最大規模の攻撃を0P
風の影響で映像がいくらばかりか乱れているが、そこにはいくつもの竜巻が発生しているというまるで天変地異のような光景が繰り広げられている。
そしてある審査員の上げた声を皮切りに、それに同調するような声が多数響く。中には自身の
これだけならば翠は更に高得点の
しかし、まるで浮かれたような空気の中――――黒い長髪に無精髭、どこか小汚い印象を受ける男が声を上げた。
「俺はそうは思わんな」
「ほう、ならば意見を聞かせてくれ」
「見たとおりだ。本人が気づいているかどうかまでは知らんが、目的と手段が逆転している」
ここにきて否定的な意見が出たせいか、審査員たちは先ほどまでとは違う意味でザワつき始めた。
0P
だがそれは本人も自覚症状がない可能性すらあり、もしそうだとするなら蛮勇よりも厄介だと無精髭の男は付け加える。
これより先の時間軸にてオールマイトが告げた通り、やはり翠の個性は出力を高めると規模が大きくなり過ぎるという欠点が刺さった。
「確かに、今話しているのは
「まだ逃げ遅れたのがいないとも限らない状況だったしね」
「そうなると、一概に評価していいものでもないのか……?」
「なに言ってんだ、立ち向かってぶっ倒す! それだけであの子は立派なヒーローの卵じゃねぇか!」
「実際、彼女が交戦を始めてから相当数の受験生が安全圏に脱してもいるわ」
必殺技の派手さに囚われるばかりで、大事なところを見渡してしまっていたと考えを改める審査員が現れた。
その否定的な意見は伝染するかのように広がっていくが、翠を評価する審査員も譲らないでいる。
無精髭の男が発端となった論争の肯定派・否定派の割合は本当に五分五分というところまでいき、またしても議長が静粛にと声を荒げる。
確かに騒ぐくらいには難しいところではあるだけに、議長は自身と無精髭の男と一対一で決着を着けることにしたようだ。
「確かにキミの意見ももっともだと思う。だが私としては、己が盾になりに行ったことそのものは評価に値すると感じる。キミはどうだろうか、まったく評価できる部分はないのかね?」
「……今回の場合に限り、あくまで結果論として他者に被害が出ていないと念を押しておくとしてだ。迷わず向かったのは評価してもいい」
「そうか、ならば結論はこうだ。彼女は足止めのため0P
翠はおまけにしても随分と中途半端な得点をもらったと考えていたが、その真相は議長が出したこの決断によるものらしい。
結局のところは誰かを巻き込みかねない大規模な攻撃が低評価のまま終わったという証拠ではあるが、それでもこの6Pがあるのとないのでは違うだろう。
一応は交戦しに行った姿勢を評価した無精髭の男だが、彼は感情論だとか根性論を嫌う。
だからこそ温情のような6Pの追加に合理的じゃないと周囲に聞こえないよう吐き捨てながらも、大々的に反対意見を出すことはなかった。
なぜなら、翠の合否判定に関してあまりにも時間を取られ過ぎているからである。
無精髭の男は一周回っておかしなところに辿り着くほどの合理主義者であり、まだまだ控えている受験生の審査をするのにあたり、これ以上は時間の無駄だという区切りをつけたのだろう。
「……なさそうだな。では風見 翠は累計Pを81Pで確定し審査を終了とする。では次――――」
特に意見がないことを確認した議長は、翠の受験票に堂々と審査終了を意味する印を押した。
そして先ほどまでそれぞれが抱くヒーローとはなんぞやという主張を激しく繰り返していたというのに、次の受験生の話になると同時にケロッとした表情を浮かべる。
まるで一瞬にして忘れ去ってしまったかのような周囲の態度に対し、無精髭の男はひとこと。
「この審査法、合理的じゃない……」
やはり周囲に聞こえないような音量ながら、欠伸交じりにそう呟くのだった。
というわけで、無事合格です。
合格してもらわないと、話が進まないってものではあるんですけど。
作中用語解説
緑谷 引子:ひたすら出久と翠をくっつけたい。それだけ。
翠の家族:母、妹に関してはそのうち登場する予定。父親は……勘のいい方はもう正体に気づかれていると思うので、あえて言及はしないことに。
翠の累計P:これは完全にご都合。というか適当。勝己にギリギリ勝つくらいにしたかっただけのこと。
無精髭の男:のちのち担任になるあの人。雄英で衝突するかは不明ですが、とりあえず彼には主人公を否定する立ち位置で居てほしかったので。