異界見聞録  ~不定期更新~   作:ぼんぼりーぬ

3 / 3
自分を追い立てるために投稿。頑張る。


桂男 壱

美しくなければ 生きている価値がない

 

誰が何と言おうと 僕はそう 信じている

 

美しくなければ 生きている意味がない

 

誰がなんと言おうと 僕はそう 信じている

 

美しくなければ 何も手に入れられない

 

美しくなければ 全て奪われるばかりだ

 

だから 美しく なければ

 

美しくなければ 死ななければ ならないのだ

 

 

 

2. 異界見聞録―桂男―

 

 

 

賑やかに行き交う人々を眺め、私は少しだけ視線を高くする。

すると、人々だけではなく、その後ろにある風景も視界へ入れることが出来る。

少しばかり前まで滞在していた町と比べて、今居るここは規模が小さい。

町と言うよりは、村と言う方がしっくりと来る。

しかし、規模こそ小さいながらも、それなりに人口は多く、賑やかだ。

「あのぉ」

「あ、はい。すみません」

声を掛けられて、遠くを見ていた目線を声の主へと向けた。

少しばかり内気そうな男性が、迷うように地面に広げた品物を見ている。

声を掛けたからには、買いたいものは決まっているのだろう。

それでも、ついつい迷ってしまっている、と言うところだろうか。

「この手拭いを…そうだなあ。二つ頂けるかい?」

「もちろんです。ありがとうございます」

安心させるつもりで算盤を弾き、お会計を伝える。

品物の割には安価だとでも思ったのか、男性は少し驚いたようだった。

原価分は取っているから、私に損は無い。

にっこり笑って再度伝えれば、男性も文句など無いのだろう。

私の伝えた分のお金を出して、手拭いを受け取ると、

随分と足取り軽やかに立ち去っていった。

男性が使うには、かなり華やかと言うか。

色合いもデザインも女性向けだから、好い人にでもあげるのかもしれない。

何となく胸がほっこりする。

こう言う妄想は、何歳になっても好きだし、面白いし、楽しい。

「今日は結構売れるなあ」

人魚の出た町を旅立ったあと、私は芸事の他に、小物売りを合わせて始めた。

芸事だけだと、仕事の依頼はあまり多くないし、

当分は一つ所に居続ける予定の無い私には、芸事関係のコネが無かった。

当然、アテも無い。つまり、芸事のみで食べ続けるのは厳しかったのだ。

食べるのが難しいと言うことは、当然、旅することも難しいと言うこと。

何故か私の頭には、一箇所に居続けると言うことはなく、

旅を続けるためにも、何より食べていくためにも、

何か手段を講じなくてはならなかった。

そこで思いついたのが、人魚の居た町で作った小物を売る、と言うこと。

専門ではないし、販売関係の勉強をしたわけでもない。

現代でよく開かれていた、フリーマーケットみたいに上手くいかなくても、

少しでも足しになればと思ったのである。

ところが、これが意外と上手くいった。

現代の知識のある私が作るものは、何と言うか、

洋風であり、かつ和のテイストを持った小物となっていたようある。

まだ一般的ではないデザインの刺繍をしてみたり、縫い物をしてみたり。

これがかなり、当たったのである。

綺麗なものや可愛いものが好き、と言うのは不変のものであるようだった。

資本が手に入れば、少し発展させてみたいと欲が出ても仕方ないだろう。

色々と仕入れてみて、今は編み物なんかも作って売っている。

あまり得意ではないが、算盤も購入した。

きちんと計算しているところを見せると、客は安心するようだった。

電卓が欲しいと思ってしまうのは、現代の人間であれば、

当然であると声を大にして私は主張したい。

中身は平成の知識を持っているのだから、タイムスリップしたようなものなのだから。

色々作っているが編み物は時間が掛かるので、あまりたくさんは作れない。

だからだろうか。その分、売りに出せばよく売れた。

今は手編みのレースもどき―レースと断言する自信はないからである―なんかも、

作っては売っている。なので、今は旅芸人と言うより、行商人だ。

いや、兼業商人かな。本業は芸人だろうし。

「天気が良いからかねー」

お客が居ない時は、次の売り物を作ったり、

客引きになればと笛や三味線なんかを弾いたりしている。

ちなみに、この客引き目当ての演奏も、結構効果がある。

適当に楽器を演奏しているだけだが、こちらも現代知識があるせいだろう。

現代風だったり、西洋風だったりにアレンジされることがしばしばあるようで、

足を止めて耳を傾けてくれる人が存外居るのである。

足を止めてくれた彼ら彼女らが、事のついでと品物を見ていってくれるのだ。

なので最近はもっぱら、客が切れたら演奏するようにしている。

もちろん、品物を作ることもある。

だが、物作りするときは宿に引きこもってる方が、出来が良い。

なので最近は、客が切れたら演奏しているようにしているのだが。

「お腹すいたな……」

昼ご飯時を迎えたからだろう。

先ほどの男性客を最後に、ようやくお客の入りが途絶えた。

普段であれば笛の一つも吹くところだが、ようやく時間が出来たことだ。

お腹もすいたことであるし、良い時間なのだ。

お昼を食べることとしよう。今日のお昼は握り飯と沢庵である。

拠点とさせてもらっている宿で作って持ってきているのだ。

気候が良いからだろうか。まだほんのり温かい気がする。

もぐもぐと握り飯を咀嚼しつつ、私は再び周囲を観察した。

この村に滞在して、はや数日。

村の規模と比べ賑やかなこの村は、大変緑の美しいところだ。

そもそも、現代と比べ、どこでも自然は美しい。

しかし、こちらで過ごした短い時間の中でも、この村は群を抜いて緑豊かだ。

それでいて、放ったらかしにされていると言う印象も無い。

全て綺麗に整えられていて、大切にされていると言うことが伝わる。

特に見事だと思うのが、私の滞在している宿のすぐ側にある大きな樹だ。

この木何の木ではないが、何の樹なのかは知らない。

樹齢何年なのかも分からないが、それはそれは大きく、見事な樹である。

その樹の根元のすぐ近くに、誰が作ったのか、小さな祠がある。

これを見たとき、何となく人魚の町を思い出したのはご愛嬌と言うやつだ。

まあ、江戸時代であれば、とりあえず何かあれば祠とかなのかもしれないし。

毎日宿の人が手入れでもしているのか、とても綺麗に整備されている。

その上、毎日毎日、必ず季節の花と食べ物が供えられている。

だから、まさに幽霊でも出そうと言う雰囲気でもないから、

あまり人魚の町の祠のことは思い出さないようにしている。

神様でも祀っているのかと宿の人に聞いたのだが、そう言うわけではないらしい。

強いて言うなら験担ぎだ、と宿の人は言っていた。

暫く滞在することだから、と私も毎日、音楽を供えさせてもらっている。

「もし」

掛けられた声にハッとなって、私は急いで握り飯を飲み込む。

最後の沢庵を放り込んで咀嚼しつつ、お茶でそれらを流し込む。

口の中に残っていないかを確かめつつ、口の周りのチェックもする。

「はい。どちらがよろしい……で、しょう……か」

尻すぼみになったのは仕方のないことであった。

柔らかな、それでいて明るい陽射しの中、ひらりと舞う鮮やかな碧い着物。

そこに描かれた文様は独特で、派手である。

にも関わらず、優美にも見えるから不思議だ。

着ている人間が、そう見えるように錯覚させているのかとすら、思う。

「こちらの 手拭を ひとつ」

沁み入るように耳へ届く、低くて柔らかく、色気のある声。

すう、と並べた品物に伸びる美しい白い手。

整えられた紫の、形良い爪。

その手が取ったのは、小さめの手拭。

現代でのハンカチをイメージして作ったものだ。

白地に紅と藍の糸で、目のような模様を刺繍した。

モデルが居ることは否定できない、そのデザインの手拭。

それをこの客は、迷いもせずに手に取った。

「いただきたく」

これでもか、と整った貌は、相変わらず透き通るかのように白く美しい。

不思議な彩を帯びた蒼い瞳を、朱色の化粧か何かで鮮やかに隈取り。

す、と通った鼻梁も、同じく鮮やかな朱色で彩られている。

形良く薄い唇には、淡い紫色で微笑みの形を描いてある。

色素の薄い淡い髪は、紫色の布で覆われている。

しかし、わざとかやむを得ずなのか。

布から溢れた髪が、輪郭を暈かすように流されている。

けれどぼさぼさにされているわけではない。

それなりに整えられた髪の、その左側は髪留めのようなもので纏めてある。

「く、薬売り、さん」

「お久しぶり ですね」

ねえ 蒼さん

にたり、と舌舐めずりしたかのように笑ったように見えた。

それは気のせいだったと、私は心底、思いたかった。

 

 

 

幸せか はたまた 不運なのか 思った以上に 再会は 早くて





カッコイイ薬売りさんを目指して。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。