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僕のクラスメイトである
委員長。
それは世間一般の認識ではなかなかどうして損な役どころである。そしてそれ以上に、一般ではない個性の強いクラスメイトたちを委員長としてしっかりとまとめ上げるのは途方もない労力が必要であるということは目に見えて明らかだった。
しかし七海はそれを平然とではないが当然のこととしてやってみせ、まとめてみせた。
きっと彼女は委員長でなくても同じことをするだろうし、できていただろう。
方向性の違いが四方八方で起こるようなこのクラスをまとめることのできる委員長としての適任者は彼女の他にそういないであるだろうから、やはり、必然的に、彼女はこの損な役になるべくしてなったのだろうし、また彼女自らから進んでなったようなものでもあった。
というのも、彼女に対するクラスメイトの信頼はとても熱いからだ。
彼女にどれほどの人望があるかは火を見るよりも明らかで、必ず、きっと、彼女は誰からも嫌われちゃいないのだろうと僕は思う。
嫌う人がいればそれはきっと上辺だけで、ツンデレのツンなのだ。
人から恨みを買わない。
それどころか、好意的に思われるばかり。
まるでラブコメの主人公のような彼女だが、これだけで、彼女の凄さが十分に伝わると思う。
人間誰しも恨みを買わずに生きていくなんて不可能に近いというのに。
彼女には嫌われる要素というものが、それこそ性別や生まれた地域だとか、そういう他人からの差別的偏見しか見当たらないし……それにしてもやはり、彼女が嫌われているというシーンを僕は未だかつて見たことがない。
そんな彼女──七海千秋は、超高校級の委員長でなければ超高校級のリーダーなんかでもない。
さらに言えば、彼女より委員長らしい人物はこのクラスにいるし、委員長という枠組みだけで見るのなら、様々なジャンルの委員長気質なやつがこのクラスには彼女を含めて四人もいる。
内一人は不登校であるが、その生徒を抜いても三人いるのだ。
しかし、そんな委員長の激戦区であるこのクラスの中で、彼女が委員長という立ち位置を与えられている一番大きな要因は──やはりその思いやりの心だろう。
他人を想う気持ち──僕に欠けている、得難きものを、七海は持っていた。
その思いやりの心で七海は人と接し、そして人望を得て行ったのだろうと考えると、まるで聖女のような立ち振る舞いだと思う。
聖女と言えばだが、同じくクラスメイトである
なにせ僕自身がその思いやりの心を向けられたことがあった。僕に向けられたそれはまさしく慈愛と呼べるものであり、今の僕が僕であることの大きな理由の一つでもあった。
それに羽川は委員長としての素質も十分で、おそらく希望ヶ峰に来る前も──そしてこれからもなんらかの委員長を務めていそうなものなのだが、しかし羽川は、七海千秋よりもクラスの委員長らしく立ち振る舞うことは出来ないだろうと同時に思う。
むしろ好かれるどころか、人間として完璧すぎたが
どの時代もそうだった。
魔女は特別な力である魔法を扱うがゆえに
神はただ崇められるだけで親愛なる友のように親しみを持たれるわけでなし。
能の高いものは異形とみなされ社会の輪から追放される。
きっと羽川は、上手く仕事をこなしはするものの、そして上手く人を纏めはするものの──それと同時に嫌われもする人間だろう。
その無垢で博愛的な善意に嫉妬や憎悪を向けられかねない。
いや、だからこそ、羽川は羽川であるのかもしれないが──結局のところ、僕も彼女もまともな人生を送れないことに違いない。良くも悪くも──もっぱら悪いのだが──怪異に出遭ってしまった以上は普遍的な生活など望めないのだから。
話は逸れたが、要約すると少しくらい弱点のある方がキュートで親しみを持ちやすい、ということに尽きる。
その点七海は成績は優秀であるものの頭が良すぎるわけでもなく、先生からの評価は高いがいつだって僕ら生徒の味方で、夜更かしのしすぎで眠気からか曖昧模糊なだらしない表情をしている彼女は、やはり、人から好かれやすいのかもしれない。
みんなは気軽に親しみを持ちやすいのかもしれない。
人生のレールをはみ出さずに、自分で敷いたレールの上を着実にみんなで進む。
誰かが故障すれば立ち止まり、みんなで協力して修理をする。
雪が降れば自分が無茶して先頭に立つわけでもなく、馬力のある仲間に頼る。
彼女はそんな人間だった。
人に頼られ、人に頼ることが出来る人間だった。
真っ当な道を踏みはずしてしまった僕たちは──異形と関わり怪異を身に宿し、
だから僕らは、彼女とは違う道を進まなくてはならない。道ならぬ道を。
彼女を彼女たらしめるのはその周囲の人間であり、その中に僕らは含まれてはいけない。
怪異と関わればその先の人生でも怪異に関わり続けなければならない呪いを受けてしまうのだから。
白の絵の具に黒を少しでも混ぜれば、二度と純粋無垢な白には戻れなくなってしまうのだから。
七海千秋。彼女と僕とは、何の関係もないただのクラスメイトで終わるはずだった。
少なくとも、高校二年生の冬休みを迎えるまでは、そうだった。
彼女の青春の
刻まれたそれは、きっと誤字だったのだろう。
これは、僕と彼女の物語じゃないはずだった。
僕らはいつも、過ちでしか始まれない。