と言っても、相変わらずのナメクジ更新ですがね。三竦みでナメクジはカエルに負けますし、誰かカエルの怪異を宿した人間でも来ないですかね
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私は今、初めて訪れるこの街を──いわば新天地を、バスの車窓から眺めていた。まさしくコンクリートジャングルと称するに相応しいほどビルが立ち並ぶこの街。田舎からいわば上京してきた私にとって、見るという行為だけで既にとても新鮮なことで、自然と視線があちらこちらへと動いてしまう。
こんなにも都心へと近づいたことがあるのは、全国大会があった時くらいだろうか。
今朝五時に始発に乗り込み、新幹線やら電車やらを経由し約2時間。私はついにやってきたのだ。この学園──憧れの先輩が通う、希望ヶ峰学園へ。
中学生の頃。とはいえ今年から高校生になるのだから、懐かしき過去を振り返るように言うにはあまりも時の感覚が狭すぎるが、ともかく中学生の頃。密かに思いを馳せていた一人の先輩がいた。所属している陸上部では記録を残していくような人で、私はその先輩に憧れと恋愛感情を、強く強く、向けていた。先輩は当初、地元で名のある私立の高校へ通う予定だったのだが──しかし、どういうわけか、いや、先輩の才能を妥当に評価してのことだろうが、希望ヶ峰学園から招待状が届いたのだ。
私はそれを激しく祝った。まるで自分のことのように、喜んだ。そしてそんな自分に、先輩は優しい笑顔を向けてくれた──
しかし、同時に問題が発生した。
希望ヶ峰学園は完全な推薦制。
つまり、何か特筆した才能がなければ入ることができないのだ。
私は必死に悩んだ──予備学科という手も無いではなかった。しかしけれども、はたしてそれでいいのだろうか? 聞くところによると、本科と予備学科は見た目こそ同じようだが、中身の系統は全く違うらしく、学校にいたとしても出会い頭に顔を合わせるなんてことは滅多にないとのこと。
それは私の望む未来とは程遠いものである。
私の望む、先輩と一緒という未来とは。
だから私は、今まで以上にバスケットボールの練習に打ち込んだ。部活が終わってもなお、放課後家でコソ練を続け、そしてその結果──見事、希望ヶ峰学園本科へと入学するための才能を勝ち取ったのだ。
とても嬉しかったし、このことはきっと、先輩も喜んでくれるはずだ。
今まで忙しかったがために連絡を取れていなかったものの、きっと先輩は──
今からもう既に、ニヤニヤが止まらない。
私は大きな荷物を抱えながら、小さくクスリと笑った。
すると、バスが止まり排気ガスを放出する音ともに扉が開く音が聞こえる。どうやら到着したらしい。
私は素早く生活用品やらなんやらが入ったリュックサックを背負い、そしてステップを踏むようにしてバスを駆け下りた。
希望ヶ峰学園。
一年間、ずっと目標にしていた学園。
私はそれを下から見上げるだけで、もう胸がいっぱいであった。
左右を確認し、道路を渡る。厳重にそびえ立つ門の奥には、迫力がある希望ヶ峰学園の校舎が建っていた。私は、今日から、この学園に通うんだ。
リュックサックの肩紐をぐっと握る。ソワソワする足はもう我慢できないようで、走るようにして私は希望への一歩を踏み出すのであった。
──やはり、走るのは気持ちがいい。
学園内部にはとても美しい桜が道沿いに咲き誇っており、私のことを歓迎するかのように花開いていた。
「……綺麗だな」
思わず呟いてしまうほどに綺麗であったのだ、桜の花は。その光景は。
私は、桜がひらひらと落ちていく様を見るのが好きである。
花びらが散っていく姿形が美しいから好きなのか、その落ちる際のヒラヒラとした動きが好きなのか……何かの本で読んだことがあるのだが、生き物が1番輝ける瞬間は死に際であると書かれていた。植物であれ、動物であれ──それこそ人間であれ。
例えば、生き物ではないにしても、花火なんかが分かりやすい例えだろう。 空に放たれて、閃光の光を散らしながら花のように輝いた後はゆっくりと光を失っていって消えていく──光を失った花火は観客に見られることがないのであるから、それは悪い言い方だろうけれども死んだと言えるはずだ。
動物も美しいかどうかは分からないけれど、命を賭して闘うことを美しいものであると言ってしまえば、動物は死に際になると命を賭けて闘うらしいし、文字通り必死に戦う姿は美しいと言えるのだ。きっと。
今回の場合は桜の木自体は死んでいないし、来年も何か大惨事や大掛かりな工事がなければ、この場所で、このように心から美しいと思える桜を花開かせ咲かせているのだろうけれど、今だけしか咲かないこの桜の花は、散ってしまえば地面に落ちてしまう訳であり。またそれでも桜の花びらが落ちている道は風情があって良いかもしれないが、花びらが踏みにじられてしまえばそれは美しいとは言いにくい。
それは死んだと言っても良いのでは無いのだろうか。
だから、私は花びらが落ちていくその様子が好きなのだろう。
とても美しいと思えているのだろう。
桜の死に際に、見惚れているのだろう。
狂ったように咲いた桜の間を私は走る。ヒラヒラと舞う花びらを肩で切り、推薦状と共に送られてきた手紙に書かれてあった玄関ホールへと一直線に向かうのであった。
時間的には十分な余裕があるけれど、どうにもこうにもいてもいられなくなってしまったのだから仕方がないだろう。
荷物の重さなんて、感じない。私は全力で走り、息が切れる前に玄関ホールへと辿り着いた。
「ここが玄関ホールか。ふむ、なかなかいいところだな!」
急ブレーキをかけ、止まる。
そして玄関ホールの中へと入れば、あたりを伺うようにしてやたらキョロキョロと周りを見渡すのだった。やはりまだ誰も来ていないようで、がらんどうといった雰囲気がした。
そんな玄関ホールを一歩、また一歩と進んでいく。
そして、さらにもう一歩──進もうとすると、視界が急にぐにゃりと曲がった。
徐々に視界はとろけてゆき、やがては全てが、全ての色が混ざり合い、灰色になった。そして私は──超高校級のバスケットボールプレイヤーという肩書きを与えられた私、神原駿河は──夢の中へと。否、悪夢の中へと、落ちてしまうのだった。