プロローグ1
あの日のことは鮮明に覚えてる。
アタシは父ちゃんに無理を言って、一族に伝わる秘術を教えて貰ってた。
あの日は特別で、父ちゃんから免許皆伝を貰えるかの試験が行われる日。
そして、父ちゃんから試験の結果が発表される寸前に、悲劇は起きたんだ。
緊急事態を報せる鐘が荒々しく鳴り響いて、里に火の手が上がった。
そして、あの時に見た光景は今でも鮮明に覚えている。
里を焼いて行く紅蓮の炎と高笑いするヒトではない者たち。
大人たちはヒトでない者らに立ち向かい、次々に殺されていく。
だけど、ヒトではない者らが駒のような物を死体に入れると、殺された者が生き返る。
そして、ヒトでない者たちは口を揃えて、生き返った者に言うのだ。
「里の奴らを皆殺しにしろ。」
当然、生き返った人たちは拒否した。
だけど、ヒトでない者たちが命令すると、意志に反して生き返った者の身体は里の仲間を手に掛ける。
泣きながら仲間や家族を手に掛ける光景をヒトでない者たちは演劇でも見ているかのように見ていた。彼らにとって、里で繰り広げられている地獄絵図は人形劇なのだ。
アタシは、アイツらに立ち向かおうとしたけど、父ちゃんに止められた。
そして、両親から里の秘宝を託された私は里の子供たちを引き連れて、里を脱出した。
大人たちは子供が居なくなった事に気づくのを遅れさせるために里に残った。
アタシたちは東に向かって、逃走した。
森をかき分けて、野草や果物を食糧にしながら私たちは東に向かった。
みんなで協力して、励まし合いながらアタシたちは進んだ。
だけど、限界が訪れた。
里を脱出した子供の中には、まだ歩けないくらいに幼い子も居た。
そんな子供を抱えたまま逃げることはできない。だから、切り捨てようと考えても生まれ始めた。
そんな時、高天原の使者を名乗る者が現れた。
結果、アタシたち空狐族の生き残りは高天原の神仏に保護されることになった。
そして、保護されてから数年が経過した…………。
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上下左右を頑丈な岩壁に囲われた空間で幾たびも響く金属音。
広々とした空間では、金属のような甲殻に覆われた蛇型の化け物と赤と黒の衣装に身を包んだ灰緑色の少女が戦闘を繰り広げている。
自分の背丈の何倍も大きい化け物に恐れず、少女は得物を携えて突撃していく。
彼女の得物は2丁の斧。しかし、その形は独特で斧というよりも剣に近い形状だ。
「ああもう!! 固いなっ!!」
ボヤキながら斧を振り下ろす。しかし、蛇の甲殻には少し傷が入るだけ。
蛇は牛くらいなら丸呑みできそうな口を大きく開いて、噛み付いてくる。
「おっと!! そう簡単には食われないぜ!!」
蛇の動きをじっくり観察しながら少女は噛みつき攻撃を避ける。
さらにすれ違い際に口角に向かって斧を振るうが、またしても刃は弾かれてしまった。
「そこも固いのかよ!!」
休憩する暇もなく、蛇は少女を丸呑みせんと襲いかかってくる。
「それなら、口はどうだ!!」
大口を開けて迫る敵に向かって、少女は斧を投擲する。
投擲された斧はチャクラムのように蛇の口内を切り裂き、蛇は叫び声をあげる。
「おっ、そこが弱点か!! デュプリケイト!!」
《Duplicate!!》
刹那、投擲した筈の斧が少女の手に現れる。
「ほらほら!! これも持っていけぇ!!」
再度、斧をチャクラムのように投擲する。
投擲された斧は先ほどのように蛇の柔らかい口内に入り、内側から肉を切り裂く。
そして、少女はその口内の突き刺さった斧を掴む。
「これで終わりだぁ!! “弾けろ、電”!!」
少女の身体から放出された雷撃が金属を通じて、蛇の体内に叩きこまれる。
内側から放たれた雷撃は蛇の化け物の全身を駆けまわり、組織を破壊していく。やがて、雷光が途切れると、絶命したそれは靄となって消滅し、宝石だけが残される。
そして、残されたくすんだ青色の宝石も少女の手によって砕かれた。
「はぁ、はぁ……今回の魔物は手ごわかったなぁ。」
化け物の消滅を見届けた少女は、ひんやりとした床に寝転がる。
『物理も効かない、魔法も効かない。とんでもない強敵でしたわね。』
少女の脳内に透き通った声が響き渡る。
その声は少女にしか聞こえていないが、彼女にとってそれは自然なことだった。
「さすが、裏ボスだよな~。口が大きくて助かった」
『見事な判断だったわ。やはり、前世での経験かしら?』
「いや、今回はマンガさまさまって感じだな。思い付きでやってみるもんだ。」
『思い付きだったのね……。さっさと回収して地上に戻らないと、鑑定所が閉まるわよ?』
「はいはい、分かってるよ。」
少女は姿の見えない相棒に従って、奥の部屋へと向かう。
守り手である化け物を倒したことで隠し部屋の入室が可能になったのだ。
但し、隠し部屋と言っても宝箱がポツンと置いてあるだけの殺風景な部屋だが。
「さてさて、どんなお宝ちゃんが眠ってるのかな~?」
宝箱の中身は、クリアブルーの液体で満たされた小瓶だった。
「何だ、これ? リヴァイアサン。これ、何か知ってる?」
『皆目見当も付かないわ。何かの薬品だと思うけど……』
「まあ、黒歌さんに見てもらえば分かるか。」
『試しに使ってみる訳にはいかないものね。』
「それじゃあ、神足通・鑑定所!!」
刹那、洞窟のような部屋が木造の部屋へと一変する。
正確には少女が先ほどの隠し部屋から別の部屋で転移したのだ。
六神通の1つ、神足通。それが少女が持つ異能である。
思いのままに行きたい所に一瞬で転移することができるテレポート系の能力だが、少女はまだ未熟ゆえに一度行ったことがある場所にしか転移することができない。
閑話休題
少女が神足通でやってきたのは、鑑定所と呼ばれる施設。
ここで働く者は不思議な目を持っており、見ただけでアイテムの効果や名称を知ることが出来る。今日は黒い猫耳と尻尾を生やした着物姿の妖艶な女性が店番をしていた。
「黒歌さ~ん。鑑定お願いします!!」
「んにゃ? 銀じゃない。また『ダンジョン』に潜ってたのかにゃ?」
「その通りッス!! それで、このアイテムを見て欲しいんです。」
「見た所、薬品みたいだけど……どれどれ」
黒歌と呼ばれた女性は琥珀色の瞳を紺碧に変え、少女が持ち込んだアイテムを見詰める。
「名前は【偽典・アムリタ】。効果は時間遡行による傷の治療。肉体から魂魄が離れていない限り、死者を生き返らせることもできる。こんなところかにゃ。」
『死者蘇生の秘薬……とんでもない一品ね。』
「こんなアイテム、何処で見つけたにゃ?」
「えっと……ダンジョンの25階層の蛇みたいな魔物が居る部屋ッス。」
「………ああ、あの部屋ね。下の階層に降りるのに無関係な。」
黒歌は分厚い冊子のページを捲りながら呟いた。
少女がついさっきまで潜っていた場所は、『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮。
『ダンジョン』の真上には塔が建設され、『ダンジョン』に潜る探検者のための施設が設けられており、鑑定所もその施設群の1つである。
鑑定所の役割は、未知のアイテムの鑑定の他に探検者の口伝から『ダンジョン』の内装を記録すること。そのため、鑑定所には先駆者から得られた『ダンジョン』の情報が集約されている。
少女が訪れた部屋も先駆者が見つけたが、下の階層に降りるのに関係がなかったので今まで無視されていたのだ。
「副作用とかもなさそうだし、良いアイテム手に入れたわね。」
「ありがとございます!! じゃあ、アタシは帰りますね。」
「またよろしくにゃ~」
秘薬を回収し、少女は鑑定所から出る。
外には紫色の空が広がっており、疑似的に作られた太陽も今は顔を隠している。
「今日の奴は強かったな~。アイツらが居たら、こんなに苦戦することもなかっただろうに。」
少女は表情を曇らせながら呟いた。
『銀がそんなこと言うなんて、彼女たちが羨ましいわ。ちょっと妬けちゃうわね。』
「リヴァイアサンもアタシの大切な相棒だぞ? 」
『ふふ、ありがと。』
「須美も園子も戦い続けてるのかな……」
空を見上げながら少女は呟く。
『会いたい?』
「そうだな。会えるものなら、もう一度会いたいな。
でも、今は未熟な族長について来てくれる皆が居るから寂しくない。」
『そう……じゃあ、未熟な族長から一人前の族長になるために勉学に励みましょうか♪』
「うえっ!? やぶへびだった……」
『さぁ、早く帰るわよ。そうしないと、ひなたが心配するわよ。』
「分かってるよ。神足通・駒王稲荷神社!!」
少女は再び【神足通】を使い、自宅へと帰還するのであった。
少女の名前は、三ノ輪 銀。
かつて国津神に選ばれ、人類を守る防人――勇者の使命を負った少女。
そして、現在は空狐族の長を務める若きリーダーである。