迎えたレーティングゲーム当日。
参加できるライザーの眷属一同と助っ人枠の銀、ひなたの2人は駒王学園の学長室に集結して、ゲーム開始の合図を待っていた。
今回、ゲームのために用意されたフィールドは現実世界にある駒王学園を模した疑似空間なので、フィールド内の物を壊しても現実世界には何の影響もない。
ルールはオーソドックスな物で、相手の「王」を倒したチームが勝利。
また、リアス側にはハンデとして、如何なる傷も瞬時に治癒できる〈フェニックスの涙〉というアイテムが1個支給されている。
「さて、作戦会議と行こうか。」
ライザーの「女王」が机の上に駒王学園の全体図を広げる。
リアスらは学園の旧校舎にある部室が本陣となっており、ライザーの本陣がある新校舎とは体育館を通して繋がっている。
「真っ先に優先すべきは、体育館ですね。」
ひなたが指さしたのは旧校舎と新校舎の両方と隣接している体育館。
この体育館以外で新校舎に向かうには、遮蔽物のない場所を通っていくしかない。
「だが、それはリアスの承知の上だろう。俺なら此処に堕天使を投入して、体育館を占拠するな。」
「ええ。なので、序盤から私も前線に出ます。」
「正気か? お前の能力はどちらかと言うと後衛向きだろ?」
ひなたの言葉に驚く一同を代表して、ライザーが発言する。
唯一、驚いていないのはひなたとの付き合いが長い銀だけだ。
「いえ。むしろ、前線に居る方が私の能力はフルパフォーマンスを発揮できます。」
「………分かった。では、俺の眷属と共に体育館に向かってくれ。」
「はい。銀は屋上から支援をお願いしてもいいですか? それから、〈赤龍帝〉の相手も。」
「ん、分かった。」
「それと、銀ちゃんはリヴァイアサンの力はなるべく使わないように。観戦者が最小限に抑えられてると言っても、あまり大っぴらにしたくはないですから。」
「分かってるよ。」
自身の力が世間に与える影響力は銀も十分承知している。
特に、銀の相棒の力はどの勢力も目を光らせている〈
今回の観戦者経由で情報が漏れれば、多くの上級悪魔がこぞって自分の眷属しようとするのは目に見えている。最悪、強行手段に出る者も出てくる可能性がある。
「ふむ。とりあえずはこんなものか。」
「あっ、そういえばライザーさん。堕天使は抑え込むだけ良いと言ってましたが、どういうことですか?」
「簡単な話だ。今回のゲーム、勝利条件はなんだ?」
「敵の『王』のリタイアだろ?」
「………ああ、なるほどそういうことですか。」
ひなたはライザーが何を企んでいるのか、察した。
「リアスの眷属たちが本陣を離れた瞬間を狙って仕掛ける。」
「それなら、私の土壇場ですね。時間稼ぎなら任せてください。」
「信頼しているぞ、ひなた。それに、銀も」
『作戦タイムは終了です。ただいまより、ゲームを開始します。』
審判役の女性悪魔から告げられた開始の合図と同時にライザーの眷属らは行動を開始した。
ひなたも「兵士」3名、「戦車」1名を伴って、体育館の方に向かった。
「じゃあ、アタシは屋上で待機してるよ。」
そう言って、銀は学長室の窓から外に飛び出す。
いつもなら重力に引かれて落下するのだが、予め装備しておいた〈鴉天狗の羽靴〉を使って学園の屋上に上がっていく。
屋上に上がった銀はスマートフォンを取り出し、勇者システムの機能の一部を開放する。
「須美。お前の力、貸してもらうぜ。」
銀の手に現れたのは、いつもの大斧ではなかった。
その手に握りしめるのは、白と薄い青色を基調とした弓。
形状は洋弓の方に近く、金属で構成されている。大きさは自分の身長よりも少し短いぐらいの大弓だ。
『便利なものね。スマホに収納しておけば、いちいち【複写】を使う必要もない。』
「ああ。アップデートが間に合ってくれて助かったよ。」
昨日のアップデートで追加された機能の1つに格納機能がある。
これは特殊な術で物をスマートフォンに格納しておくことで、いつでも格納した物をいつでも呼び出すことができるアイテムポーチ機能である。
今、銀の手元にある弓は予め【複写】で創り出し、格納しておいた物である。
「しかし、こうやって待機してるのも暇だなぁ……」
『戦闘はまだ始まってないみたいね。向こうも闇雲に突進してこないか……』
「そこまで容易い相手じゃないってことだな。負けるつもりはないけど。」
『こちら、ひなた。体育館で敵の「兵士」1名、「戦車」1名と戦闘開始しました。』
『堕天使は出てきているか?』
『いいえ。どうやら、まだ温存する方針のようです。』
銀の耳に付けたイヤホンからひなたとライザーの声が聞こえる。
この会話は当然ながらゲームに参加している仲間全員に共有されている。
「ん?」
屋上で待機していた銀の瞳に1つの影が映った。
悪魔の翼を生やし、紅白の巫女装束を身にまとった女性が体育館上空で何か準備をしていた。
「ひなた、奴さんが何かしようとしてる。」
『…………』
銀が警戒を呼び掛けても、ひなたから返答が返ってこない。
「ひなた?」
『はっ!! す、すみません。ちょっと目の前に衝撃的な光景が繰り広げられたもので……』
「何があったんだよ……。――――っ!! ひなた、防御!!」
気が付けば、体育館上空には黒い雲が渦を巻いていた。
その雲から強力な雷撃が体育館に降り注いだのは、その直後のことだった。
________________________________________
「
体育館に雷撃を放ったのはリアス・グレモリーの「女王」、姫島 朱乃だった。
旧校舎と新校舎に隣接する体育館は跡形もなく、今も黒い煙が立ち上っている。
(これで4人。向こうは助っ人含めて8人ですから、戦況はこちらが圧倒的に有利ですわ。)
奇襲で体育館ごと中に居たライザーの眷属を戦闘不能にするのがリーダーであるリアスからの指示である。
重要拠点を囮にして、拠点確保に動いていたライザーの眷属を一網打尽。それによって、人数差を覆し、有利な状況を作るのが彼女の「王」が立てた作戦だった。
それは無事に完遂された筈なのに、朱乃は違和感を覚えた。
(……おかしいですわ。撃破したのに放送が入らない)
レーティングゲームでは、戦闘不能になった眷属が出る度に放送が入る。
だが、その放送が入っていないことに気付いたのだ。
(まさか!!)
刹那、朱乃の腕を一筋の閃光が掠めた。
閃光の正体は屋上で待機していた銀が放った霊力の矢だ
同時に地上では、倒したと思っていたライザーの眷属たちが黒い煙の中から現れ、兵藤 一誠と塔上 小猫に襲い掛かる。
「完全に不意を突いた筈なのに、どうやって!?」
「防いだだけですよ。あの場に居た全員に結界を張って、ね。」
朱乃の前に現れたのは、見えない何かを足場にして虚空に立つひなた。
ニコニコとほほ笑むひなたに対して、朱乃は険しい表情を浮かべている。
「貴女、何者ですの? 悪魔ではないようですが……」
「お初にお目にかかります。私はライザー・フェニックスの助っ人、上里 ひなたと申します。」
「あらあら、これはご丁寧に。(地上の方は不味いですわね。)」
表面上は穏やかな会話を交わしながら、朱乃は地上の様子を窺う。
ライザーの眷族4人によって、一誠と小猫が追い詰められている。人数差に加えて、定期的に降り注ぐ遠方から攻撃によって、2人は不利な状況に立たされている。
「残念ですが、援護などさせませんよ。」
「それなら、貴女を倒してから2人の援護に向かわせてもらいますわ!!」
ひなたに向かって放たれる朱乃の雷撃。
しかし、彼女の攻撃はひなたに当たる直前にかき消されてしまった。
「貴女の敗因は、私と遭遇したことです。」
ひなたが指パッチンすると、朱乃は半透明の球体に閉じ込められてしまった。
「これは、結界? だけど、こんなモノは……!!」
結界を壊すために強めの雷撃を放つ朱乃。
しかし、その雷撃はそのままの威力で朱乃に返って来た。
「こ、これは……ただの結界ではありませんわね。」
自分の雷撃で身体を焼かれた朱乃は、冷静に状況を分析する。
「正解です。私、こうみえても結界のエキスパートなんですよ。」
ひなたの霊術特性は【結界】。
結界を作ることに特化した特性であり、様々な効果を持つ結界の構築ができる。
一見、応用が難しいと思われる能力だが、ひなたは結界を盾にしたり、牢獄にしたり、いろいろと応用して使っている。
ちなみに、朱乃を閉じ込めたのは内部の攻撃をすべて反射する結界である。
さすがに物理攻撃には無力だが、閉じ込めた相手が後衛タイプなら無類の防御力を発揮する。
「結界で私の初撃から仲間を守ったのですね。」
「はい。平時ならいざ知らず、今回は人数が少ないですから。」
ひなたは地上での戦闘に目を向けながらも、結界を緩めない。
(残りは「騎士」、「僧侶」。そして、使い魔の堕天使。「僧侶」以外を引き付ければ、ライザーさん1人で十分勝てるでしょ。)
ひなたと銀の仕事は眷族と共に、リアスの眷族を抑え込むこと。
現在の戦闘地点に残りの「騎士」と堕天使が揃えば、ひなたの能力で眷族全員を切り離すことができる。
『ひなた、今からユーベルーナをそっちに向かわせる。この状況で「女王」を投入されれば、向こうも切り札を切るだろう。』
「分かりました。――――っ!!」
ライザーの作戦を聞いた瞬間、グラウンドに光の矢が降り注いた。
同時に、地上に居た「兵士」の3人、「戦士」の1人が矢に貫かれてリタイアし、フィールドから去ってしまった。
ひなたの方は間一髪、結界を盾として展開することで難を逃れた。
その代わり、朱乃を閉じ込めていた結界が破壊され、「女王」が舞い戻る。
「まさか、そんな所に潜んでいるとは思いませんでした。」
堕天使レイナーレは朱乃が作り出した雷雲に隠れていたのだ。
むしろ、最初のド派手な一撃は奇襲の意味もあったが、真の目的はレイナーレの存在を隠すためだったのである。
「これで形勢逆転ですわね。」
「複雑ですが、ここで倒させてもらいます。」
レイナーレは高度を下げて、光の槍を手に形成する。
空には朱乃とレイナーレ、地上には一誠と小猫が待ち構えている。
どうやら、ひなたを要注意人物に認定し、最優先で倒そうと考えているらしい。
「あらあら。いたいけな少女に向かって酷い仕打ちですね。」
「その余裕、いつまで続けられますか?」
ひなたと撃破せんと襲いかかってくる朱乃とレイナーレ。
一方、ひなたはほほ笑んだままその場を動こうとしない。
朱乃の雷撃とレイナーレの投擲攻撃がひなたに迫る。
――――神足通――――
「なっ!?」「消えた!?」
ひなたの姿は攻撃の射線上から消え、同時に地上で大きな爆発が起こる
『リアス・グレモリーさまの「戦車」1名、リタイア』
「
「すみません、ユーベルーナさん。被害を出してしまいました。」
「構いませんわ。それよりも、役者が全員揃ったようですわ。」
射線上から消えたひなたは、いつの間にかグラウンド上空に居たライザーの「女王」――ユーベルーナの隣に居た。銀も一緒に居る。
そして、地上の方ではリアスの「騎士」が味方と合流を果たしていた。
「それは僥倖です。では、“結界師”上里 ひなたの力の一端をお見せしましょう。
“彼方と此方は別れ、何人も通ることは叶わず、出ることも叶わず”」
パンッ、パンッ!! と柏手で打ち、トリガーとなる言霊を唱える。
霊術によって、グランド全体を覆うように半透明の結界が展開され、グラウンドに居た全員が閉じ込められてしまった。
「さぁ、此処からが本番だ!!」
斧を肩に担ぎ、銀が不敵な笑みを浮かべた。
________________________________________
~リアス・グレモリー本陣~
「戦況は五分と五分。いえ、アーシアとフェニックスの涙がある点を見ると、こちらの方が有利かしら。」
ゲーム開始以降、リアスは本陣から動かずに戦況を操作していた。
その対面にはアーシアも残っており、戦況を静かに見守っている。
「すみません、部長。私も
そう言って、アーシアは傍らにある自身の宝物に目を向けた。
今は使うことができないが、傍にあれば安心するという理由から持ち込んだ一品―――白塗りの鞘に入った日本刀がアーシアの傍らに立て掛けられている。
「ダメよ、アーシア。人間の時ならいざ知らず、悪魔の貴女が
「でも…………」
「大丈夫よ。
「はい…………」