リアス・グレモリーとライザー・フェニックスによるゲームは佳境を迎えていた。
疑似空間に再現された〈駒王学園〉のグランドに展開された結界。
外部と内部を完全に隔絶された空間の中では、リアス陣営とライザー陣営による4vs4の戦闘が繰り広げられている。
その隔離結界の一角では、銀と一誠が戦闘を繰り広げていた。
「おりゃあ!!」
「うおっ!!」
身の丈に合わない重そうな二振りの斧を振り回す銀。
一方、一誠はその斧を避けるのに精一杯で反撃することができない。
「どうした、〈赤龍帝〉!! 逃げてるだけか!?」
「チビッ子がそんなもん振り回すんじゃねえよ!! 危ね!!」
銀の斧が一誠の頬を掠める。
同時に、彼の右腕の装着された赤いガントレット――〈赤龍帝の籠手〉の音声から『Boost!!』という音声が流れる。
(今ので6回目。これで64倍か)
『銀。今は勇者システムの防御機構は切ってるんだから、気を付けなさいよ?』
(分かってるよ。)
リヴァイアサンとそんな会話を交わしながらも銀は攻撃の手を緩めない。
アップデートによって、銀の勇者システムは龍脈の範囲外でも使えるようになった。
それ以外にもいくつかの機能を制限した状態でシステムを使えるようになっており、現在の銀は身体能力強化機能のみを起動させた状態で戦っている。
長期戦のために防御強化も切っているため、【倍化】の恩恵を受けた一誠の攻撃一発でリタイアになる可能性もある。
《Boost!!》
「よっしゃぁ!! こっからは俺のターンだ!!」
《Exprosion!!》
7回目の倍化が完了した途端、一誠は銀から離れて力を解放する。
「ドラゴン波ならぬ、ドラゴンショット!!」
「やべっ!!」
赤いオーラがまるで極太のビームとなって、銀に襲い掛かる。
128倍となった一撃を受ければ、確実にリタイアになる。しかし、避けて結界に当たれば、せっかく張った結界が破壊され、分断作戦が失敗してしまう。
「園子!! お前の力、借りるぜ!!」
勇者システムの格納機能で召喚されたのは、紫色の槍。
その穂先はいくつもの刃が重なるようになって構築されており、召喚されると同時に穂先が変化して、傘に似た形状を作る。
時間にして、1秒にも満たない時間で展開した傘で銀は攻撃を受け止める。
「なっ!! 7回も倍化した攻撃を受け止めた!?」
「へん!! これはアタシの親友が使って武器だ。そんな攻撃で潰れるかよ!!」
地面を蹴り、一誠に肉薄する銀。
傘のような形を取っていた槍は、元の姿に戻り、一誠の心臓目掛けて放たれる。
しかし、その穂先は彼の両手が挟み込むようにして食い止め、急所に刺さることはなかった。
「上手くできるかわかんなかったが、やってみるもんだな。」
「今のは入ったと思ったんだけどな……だが!!」
銀は片手を離して、一誠の〈赤龍帝の籠手〉に手を伸ばし、触れる。
同時に、リヴァイアサンの能力が発動する。
『
(よっしゃ!)
銀は槍を格納し、距離を取る。
《Reset》
「な、何で倍化が解除されたんだ……? まだ、時間はあった筈だろ⁉」
一誠は急に倍化が解除されたことに戸惑いを隠せなかった。
〈赤龍帝の籠手〉による能力の倍化は解放からある程度の時間続くようになっている。
行動によって継続時間は増減するものの、今回の継続の時間の短さは彼にとっては異常な事態だった。
(どうだ、リヴァイアサン。ちゃんと入手できたか?)
『ええ。これでいつでも【複写】できるわ。』
「こうなったら、もう一回時間を稼いで…………うぐっ!!」
「?」
突然、一誠が〈赤龍帝の籠手〉を押さえたまま蹲る。
「な、なんだ……
《Dragon booster second Liberation!!》
赤いオーラが彼の左腕を包み込み、謎の音声と同時にはじけ飛ぶ。
蛹から蝶が羽化するように現れた〈赤龍帝の籠手〉は宝玉が1つ増え、全体的なフォルムにも変化が生じていた。
《懐かしい力を感じ、無理に出てきてみれば……中々興味深い状況だな》
「だ、誰だ!?」
《俺は
「ウェルシュ・ドラゴン、ドライグ……」
《さて、聞こえているんだろ?
(おーい、呼ばれてるぞ、相棒。)
『この状況で名乗り出れる訳ないでしょ……。』
《ふむ……意識が覚醒していないのか?》
「何だか知らねえけど、後にしてくれ。こっちは戦闘の真っ最中なんだ。」
《止めておけ。お前では、【回帰】の力を使うあの少女には勝てん。》
「そんなのやってみないと分かんねえだろ!!」
そう言いながら、一誠はチラッと他の仲間の様子を窺う。
リアスの「騎士」木場 祐斗はライザーの「騎士」カーラマインの相手に手一杯。
空中では、朱乃・レイナーレのコンビがひなた・ユーベルーナのコンビと戦闘を繰り広げているが、そちらも他の援護に回る余裕はなさそうだ。
(――――となると、コイツは俺が倒すしかねえか)
倍加を重ねながら、一誠は闘志を滾らせる。
《Reset》
「なっ!? どうしたんだよ、急に!?」
《それが【回帰】の能力さ。一度触れられた以上、もうパワーアップはできん。》
「あんまり、アタシの力についてバラさないでもらえます?」
《そっちの事情は知ったことじゃないんでな。どうやって、その能力を手に入れたのかは俺も興味があるがな。》
「それは企業秘密ってことで。」
「おい、どういうことだよ!?」
《【回帰】は触れた者のパワーアップ・パワーダウンをゼロにする力だ。要するに、お前の天敵ということだ。》
リヴァイアサンの能力の1つ、【回帰】。
それは自分や触れた者のバフ・デバフを無効化する能力で、【倍化】の力を持つ〈赤龍帝〉や【半減】の力を持つ〈白龍皇〉にとっては天敵と言える。
つまり、銀に触れられた以上、一誠は今回のゲーム中〈赤龍帝の籠手〉によるパワーアップは使えないのだ。
「さて、このまま倒してもいいけど……その前に決着がつきそうだな。」
隔離結界の外側に目を向けると、ちょうど紅蓮の炎が立ち上った。
「眷属を全員倒せなくても、敵の王を倒せばゲームは終了する。ライザーの方も上手くいってるみたいだな。」
「リアス部長⁉ それに、アーシアまで」
「ネタばらしすると、アタシたちは始めから眷属たちを分断するのが目的だったわけさ。こうやって援護できないようにすれば、〈フェニックスの涙〉なんて関係ない。」
『あとはライザーが向こうの王様を倒せば、ゲーム終了ね。』
(あの様子だと、魔力切れで終了だな。)
銀は脳内でリヴァイアサンと言葉を交わしながら結界の外で行われてる戦闘に目を向ける。
リアス・グレモリーの攻撃はライザーに当たってるものの、不死鳥の力を持つライザーはすぐに再生して、ダメージがゼロに戻る。
かなり魔力を使っているのか、リアスは肩で息をしている。アーシアの持つ
(さて、あとはライザーに任せて、こっちは結界を破壊されないようにするか。)
『銀ちゃん。そっちが終わったなら、少しこちらを手伝ってもらえますか?』
(分かった。)
銀は結界の外の戦闘から視線を外して、一誠に視線を戻す。
左手の斧を一文字に振ると、炎の槍が彼女の周囲にいくつも展開される。
「じゃあな、〈赤龍帝〉。」
何とかパワーアップしようと模索している一誠に向かって、銀は炎の槍を一斉に発射した。
「うおぉぉぉぉぉっ!!!! こんなところで負けてたまるかぁぁ!!!!!」
一誠は左腕の籠手で炎の槍を打ち砕くが、用意された炎の槍は処理できる数を越えていた。
次々と射出される槍を彼の実力ではさばき切れず、体に突き刺さっていく。
「戦車」にプロモーションすれば耐えるのは難しくないだろうが、生憎と結界が張られた場所はプロモーション可能エリア外なので「兵士」の強みを活かすことができない。
それでも、一誠は根性で銀の攻撃を凌ぎきった。
《ほう、大したガッツだな。だが、ここまでだな。》
「タイラントブレイク!!」
その後、審判役からリアスの「兵士」のリタイヤが発表された。
________________________________________
一方、結界の外ではリアスがじわじわと追い詰められていた。
「僧侶」のアーシアはその様子を見ていることしかできなかった。
(このままじゃ…………)
アーシアはリアスに治癒を施しながら、結界の方に視線を移す。
結界を破壊できそうな仲間はライザーの眷族と助っ人に抑え込まれているため、今すぐの援護は期待できそうにない。
しかし、リアスの残り魔力も多い訳ではなく、そんなに長時間は戦えない。
一方のライザーはまだまだ余裕を残しているようだ。
「リザインしろ、リアス。もはや、お前に勝ち目はない。」
「黙りなさい、ライザー!! 私の可愛い下僕がまだ戦ってるのよ? 『王』である私が諦める訳にはいかないわ!!」
そう反抗して、魔力の弾を放つリアス。
ライザーに命中して顔を吹き飛ばすが、不死身であるライザーはすぐに元通りになる。
「まったく……頑固者だな、リアスは。」
「気安く呼ばないで!!」
リアスは魔力の弾を放つ。
ライザーの傷が回復する。
リアスは魔力の弾を放つ。
ライザーの傷が回復する。
そんな行動が何度も繰り返される。
打開策を見つけられず、繰り返されず不毛なルーチンはリアスを疲弊させるだけ。
アーシアの
「仲間が結界を突破して、駆け付けるまでの時間稼ぎか? だとすれば、それは無駄なことだ。」
「随分と助っ人のことを信頼しているのね。」
「2人の実力はよく知っているからな。まあ、もっとも俺も彼女たちの全力を把握している訳ではないがね。」
『リアス・グレモリーさまの「騎士」一名、リタイア。』
「ふむ。これで、助けが間に合う可能性がゼロに近づいたな。」
「どうかしらね。貴方の「騎士」も満身創痍ではなくて? それにこっちにはまだ朱乃と夕麻、それに〈フェニックスの涙〉も残ってるのよ?」
「いいや。断言してやろう、リアス。いくら〈雷の巫女〉、上級堕天使、〈フェニックスの涙〉があってもあの2人は倒せんさ。俺の勝ちは確定だ。」
勝利を確信しているライザーとまだ勝利を諦めていないリアス。
しかし、銀の実力の一端を知っているアーシアはリアスの望んでいる展開が訪れる可能性は限りなく低いと予想していた。
(頼みの綱のレイナーレさんも居ない。それに、イッセーさんも……。今、この状況を何とかできるのは私だけ。)
アーシアはシスター服の下に隠している物を強く握りしめる。
それだけでピリピリした痛みが両手を蝕む。
「しかし、このまま助っ人に助けられたままというのも格好が悪い。ゲームの幕引きぐらいは俺がしよう。」
ボオッ!!という音を立てて、フェニックス家の特徴である炎の翼が広げられる。
「これで終わりだ、リアス!!」
放たれた炎撃は今までの比にならない程の火力を持っていた。
対するリアスは魔力障壁で防ぐのは難しいと判断し、残り少ない魔力を振り絞って相殺することを選んだ。
(リアス部長は私を助けてくださった。)
思い出すのは、悪魔として転生したあの日。
一誠を庇って死ぬ筈だったアーシアを助けたのは、他でもないリアスである。
その恩をアーシアは忘れたことがなかった。
――――何事にも報いを――――
アーシアの脳裏に以前世話になった“あるお方”の言葉がよぎる。
(私はリアス部長の恩に報いたい。だから、使わせてもらいます。)
覚悟を決めたアーシアは服の下に隠した物の封を解く。
布に包まれていた物の正体は白い日本刀だった。
鞘から柄まで白で染め上げられた刀はよく手入れされていることが分かる。
アーシアはそれを腰の辺りで支えて、いつでも攻撃に移れるような体勢でその瞬間を待つ。
そして、ライザーの強力な一撃を相殺し、リアスが地面に崩れ落ちると同時にアーシアは駆け出した。
「その身に秘められし力を以て、我が前の百鬼夜行を討ち払え!!」
「ほう、自らやられに来たか……その刀は⁉」
今まで余裕の表情を浮かべていたライザーが初めて動揺する。
しかし、次の行動を起こすまでの時間の猶予はすでになかった。
「切り裂いて、霊刀・緋那汰!!」
刹那、その場に居た3人の視界は白色の光に埋め尽くされた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「今のは…………っ!! アーシア!!」
視力が回復したリアスが見たのは、一直線に抉れた地面。そして、膝を付きながらも刀を支えにして立っているアーシアの姿だった。
「アーシア、大丈夫!? ―――――っ!!」
リアスはすぐにアーシアに駆け寄り、絶句した。
両腕は真っ黒に炭化し、血を吐きだしたのか地面は真っ赤に染まっている。
辛うじて意識はあるようだが、焦点は合っておらず朦朧としているようだ。
「まったく……番狂わせにも程がある。」
「ライザー……まだ生きてたの⁉」
「五体満足とはいかなかったがな。その小娘のせいで左腕が持っていかれた。おまけに、再生も阻害されている。」
ライザーの左腕は肩から先が消失していた。
「さて、リアス。このまま続けるか?」
「ええ。まだ私の魔力は残っているもの。」
「リ、アス、ぶちょう…………ゲホッ!! ゴホッ!!」
リアスが戦闘を再開しようとしたその時、アーシアが血反吐を吐く。
「アーシア⁉」
「悪魔の身でそんな霊刀を使うからだ。しかも、込められているのは神霊の霊力。悪魔にとっては堕天使の光力以上に猛毒だ。このままだと、危険だぞ?」
「アーシア………」
「こんな状態の眷属をそのままにして、ゲームを続行するか? 俺はそれでもかまわんが。」
リアスはアーシアの安全と自分の将来を天秤に掛ける。
しかし、自分の大切な眷族の安全の方が圧倒的に重かった。
「………リザインよ、ライザー。その代わり、アーシアの治療を!!」
「良いだろう。すぐに用意させよう。」
こうして、レーティングゲームはライザーの勝利で終わった。
アーシアに近接戦闘用の武器を追加(但し、反動あり)
レーティングゲームの退場システムは、命に関わる怪我を負った場合に発動すると解釈しています。原作の一誠もそんな感じだったし。
霊刀・緋那汰を使った段階ではまだ命に別状はありませんが、放置しておくと霊力に体を蝕まれて、最終的に命を落とします。(遅行性の毒みたいな物)