ハイスクールD×D 駒王町の三ノ輪銀   作:玄武の使者

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第17話 「襲撃の翌日」

 

 

~駒王稲荷神社~

 

コカビエルの襲撃から一夜明けた翌日。

 

「結構、手ひどくやられましたね。」

 

コカビエルとの戦闘跡を見つめながら、ひなたは呟いた。

 

ひなたが全力の結界で防御したおかげで本殿やその後ろにある居住ブロックは無傷。

おまけに人的被害も皆無だったが、それ以外はひどい有様になっていた。

 

鳥居や周辺の木々は攻撃の余波で薙ぎ払われ、境内に敷かれていた石畳や砂利は根こそぎ吹き飛ばされている。むき出しになった地面に特大の大穴が開き、そこで大きな爆発が起こったことを証明している。

 

「ひなた、結界の方は?」

 

「そっちもズタボロです。神社周囲の結界はもちろん、駒王町全域に張っていた結界も一度解除しましたから。」

 

「そっか……」

 

駒王町全体を覆う結界は、ひなたが考案したモノである。

町の四方の起点に存在する術式が龍脈の霊力を組み上げて、結界を構築している。

管理自体は空狐族全員で行っているが、術式の維持には少なからずひなたの霊力が使われていた。

 

しかし、コカビエルとの戦闘において術式の維持に回していた霊力を回収したために、術式が消失し、結界も消えてしまっている。

なお、神社周辺に張られた侵入者感知用の結界はコカビエルの手によって破壊されている。

 

「うーん……これを機に結界の術式を見直した方がいいかもしれませんね。」

 

「それはひなたに任せるよ。結界のことに関しては、アタシはさっぱりだからな。」

 

「はい、銀ちゃんは力仕事をお願いします。杏さんも手伝ってもらえますか?」

 

「分かりました。」

 

「銀!! こっちを手伝ってくれ!!」

 

「分かりました!!」

 

銀はアルミのスコップを持って、大穴を埋めている球子の手伝いに入る。

本来は重機を使ってするような作業なのだが、使えない以上手作業で地道に埋めていくしかない。

 

「これ、どれくらいかかるかな…………」

 

『まあ、1日2日で終わる作業でないのは確かね。』

 

「だよなぁ。」

 

せっせと土を穴に投げ込みながら銀はぼやいた。

 

「なぁ、リヴァイアサン。一瞬で穴を埋める魔法とかないのか?」

 

『そんな限定的な魔法、ある訳ないでしょ。』

 

土をかき集めてくる者、土を埋める者に分かれて作業を続ける銀たち。

朝一から始めた作業はお昼になっても終わらなかったが、とりあえずお昼休憩を取ることになった。

 

「あ~疲れた~」

 

「お疲れ様です、銀ちゃん。どれくらい終わりましたか?」

 

「まだまだ全然。そっちは?」

 

「あまり進んでいません。やはり改良となると難しいですね。」

 

飲み物で喉を潤しながら、空狐族の2トップは現状を報告し合う。

 

「もう1回奇襲されたらヤバイな。」

 

「いえ。それなりの傷は負いましたし、2度も襲撃することはないでしょう。それに、すでに追手が駒王町に入ってることが分かった以上、そう表立った行動はしないでしょ。」

 

「だと良いけどな。」

 

銀はふと、自分の勇者システム端末を眺める。

 

思い出すのは昨日行われた堕天使の幹部、コカビエルとの戦闘。

銀にとっては自身の力不足を実感されられることになった戦闘だった。

先日の戦闘では何とか一太刀入れることができたが、それは仲間たちの援護があってこそ。銀1人では難しかっただろう。

 

(はぁ……アタシ、ちょっと天狗になってたかも)

 

『それは否定しないわ。でも、今回の一件で実感したでしょ? 世界の広さを』

 

(うん。それはもう、イヤと言うほどに。)

 

銀が今までに戦ったことがあるのは、格下の悪魔や知能の低い〈ダンジョン〉のモンスターが主。そのため、苦戦するような事態にならなかった。

コカビエル戦のような明確な敗北を味わうのは、実は初めてだったりする。

 

『――――というか、そろそろ使っても良いんじゃないの? 【狐火】とか【変幻自在】とか』

 

(……実を言うと、アタシ空狐族の術であんまり使えないんだよ。練習してないから。)

 

『いや、練習しなさいよ!! アイデンティティでしょ!!』

 

(いやぁ、霊術とか槍術とか弓術の鍛錬ばかりしてたからな。)

 

空狐族には、【六神通】以外にも【狐火】や【変幻自在】などなど種族特有の術が生まれながらに使える。もちろん、どれくらいの個人によって程度差があるが、まったく使えないという事例は非常に少ない。

銀も一通りの術は使えるが、主に使うのは【神足通】のみ。種族バレを防ぐために使用を控えていたのが理由だが、実戦で使えるほど練習していないのも理由だったりする。

 

「ほう、コカビエルと戦って人的被害なしで乗り切るとはな。」

 

「「っ!!」」

 

いつの間にか居住区画の庭に見慣れない男性が立っていた。

 

チョイワルオヤジというジャンルを体現したような容貌で、何故か着ているのは旅館などで貸し出される浴衣。外見は普通の人間のように見えるが、浴衣を着たまま森の奥にある神社に訪れる酔狂な人など居ない。

 

目の前の男性を要注意人物と判断して、2人はすぐにでも戦えるように構える。

 

「あらあら、今日は来客の予定はなかった筈ですが、どちら様ですか?」

 

「俺はアザゼル。堕天使の総督をやっている者だ。」

 

そう言って、常闇のように黒い翼を広げるアザゼル。

しかし、〈堕天使の総督〉という肩書が2人の警戒心をさらに高めることになった。

 

銀は勇者システムを起動し、ひなたはいつでも【霊術】を発動できるように構える。

 

「大丈夫よ、2人とも。私たちに敵対するつもりはないから。」

 

バサッ、という羽音と共に新たな来客が男女の間に割り込んだ。

 

「父さんもわざと警戒させるようなことしないで。」

 

「ははは、悪い悪い。」

 

「……ひなた。アタシの聞き間違いじゃなければ、千景さん総督のことを“父さん”って呼んでなかったか?」

 

「ええ。私も聞こえました。」

 

「なんだ、千景。そこまで紹介してなかったのか?」

 

アザゼルの質問に千景は頷く。

 

「じゃあ、改め自己紹介と行くか。

 

 

俺はアザゼル。〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉の総督で、郡 千景の父親だ。」

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

場所は変わって、神社の居住区画内にある応接間。

アザゼルと勇者関係者が集められた。当然ながら、杏と球子の姿もあった。

 

「昨日はウチの部下が迷惑を掛けたようだな、すまん。」

 

開口一番、アザゼルの口から告げられたのは謝罪の言葉だった。

 

「〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉と日本神話体系が同盟を結んでいるなんて、初耳です。」

 

「公にすると、悪魔や天使の奴らに警戒されるからな。表向きは無関係を装っているが、裏ではいろいろと協力してるぞ? お前らの勇者システムとかな。」

 

アザゼルの口から告げられた事実に千景を除く面々は驚いた。

彼女らには、「勇者システムはひなたの原案を基に天津神、国津神が協力して作り上げた国防システム」と伝えられており、堕天使が関わっているという事実は初耳だった。

 

「そのおかげで私も同じ境遇の人が居ると分かったわ。あんなの、基となるシステムを知ってる人しか提案できない。」

 

「それで、天照の奴に確認を取ってみたらドンピシャだ。しかも、4人も集まっているきた。もはや、誰かが仕組んでるんじゃねえか? いや、呼び寄せる存在が居たな。」

 

そう言って、アザゼルは銀……正確には、銀の左目に視線を向ける。

 

「聞こえているんだろ? 〈蒼海の覇龍〉リヴァイアサン。」

 

「『っ!?』」

 

「私は少し変わった“目”を持っているのよ。まあ、こっちのお母さんの力が遺伝したのでしょうけど。」

 

そう言って、千景は鳶色の瞳をエメラルドグリーンへと変化させる。

 

「この目は魂の形を私に教えてくれるの。魂はその人本来の肉体的特徴を反映してるから、憑いていたり、変化していても簡単に見破ることができる。」

 

「まあ、一種の固有能力だ。発現する原因とかは一切分かってないけどな。だが、千景の能力は本物。嘘で誤魔化そうとしても無駄だぜ?」

 

『はぁ……まさか、そんな能力を持ってる子が居るなんて思わなかったわ。』

 

今まで沈黙していたリヴァイアサンがこの場に居る全員に向かって思念通話を発する。

 

『直接会ったことはなかったわね。』

 

「そうだな。お前の討伐隊が編成される頃には俺はもう堕天してたからな。」

 

『それで、わざわざ私の実在を確認して何がしたかったのよ。』

 

「ん? 興味本位というのもあるが、お前さんもかの〈二天龍〉に劣らず世界のバランスを崩すくらいの力は持ってるからな。そういった存在の監視も俺たちの仕事なのさ。」

 

『何言ってるのよ。ドライグやアルビオンに比べたら、私なんて月とスッポンよ。』

 

「そいつらを抑え込める奴が何を言ってるんだか。」

 

『能力の相性が良いだけよ。』

 

「まあ、そういうことにしておいてやるよ。本題に入るが、しばらくの間千景をこの神社に常駐させることになったんだ。」

 

「よろしく。」

 

アザゼルの報告はひなたと銀には寝耳に水だった。

 

「コカビエルの襲撃のせいで結界が機能しなくなっただろ? そのタイミングを狙って善からぬ奴らが龍脈を狙ってくるかもしれないからな。」

 

「そういう訳でしばらく滞在することになったのよ。」

 

「じゃあ、あの烏野郎はどうするんだ?」

 

「こっちから増援が来ることになってるから、安心しろ。千景、そっちは任せたぞ。」

 

「ええ。」

 

後のことを千景に任せ、アザゼルは神社から立ち去った。

 

「さて、と。じゃあ、改め自己紹介しておこうかしら。

 

 〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉所属、郡 千景よ。

 母親は神社の巫女、父親はさっきのアザゼル。種族はハーフ堕天使になるわ」

 

「ついでに言うと、私たちの時代……つまり、西暦時代の勇者です。」

 

「これで若葉と友奈も転生していれば、西暦勇者勢ぞろいだな!!」

 

「その口ぶりだと、2人はまだ見つかっていないみたいね。」

 

「はい。千景さんの方は何か情報持ってないですか?」

 

ひなたの質問に千景は首を左右に振る。

そのことにひなたは落胆するが、「だけど……」と千景は話題を続ける。

 

「とある神滅具(ロンギヌス)を監視していた同僚が重傷を負って帰ってきたことがあるの。何でも、青い衣装に黄金色の髪をした少女にやられたって。」

 

「それって、もしかして………」

 

「特徴だけだから何とも言えないわ。でも、可能性はあるわ。もっとも堕天使の監視下から外れちゃったから、その後の消息は分からないけど。」

 

(む~……話に入れない。)

 

『仕方ないわよ。』

 

この中で唯一、西暦の後の時間軸――神世紀の時間軸よりやってきた銀。

少しばかり疎外感を感じている彼女を尻目にひなたたちは思い出話に話を弾ませるのだった。

 




いろいろリアルの仕事を終わらせて、ストックをため込んでいる間に無茶苦茶時間が経ってしまった……という訳でようやく更新再開です。

ストックがなくなるまでは更新ペースを早くします。
もっとも、さほどストックがある訳ではありませんが……


そして、千景ちゃんが銀ちゃんたちに合流。
この作品では千景はアザゼルとオリキャラ(故人)の子どもになっています。


以下、キャラクター設定

上里 ひなた
種族:空狐(7本尾)
所属:高天原
武器:霊術【結界】、空狐族の能力

空狐族をまとめる裏ボス。年は11歳で、銀とは幼馴染の少女。
銀と同様の世界から転生してきた元巫女であり、現在は駒王町で活動中。
性格は前世と変わらないが、時には非情になり、自分の大切な者を優先する。今世でも巫女としての素質を引き継いでいる他、霊媒体質なので霊的な存在に憑かれやすい。

前世と同じ名前を名乗っているが、銀と同様に別の名前がある。
戦闘スタイルは霊術【結界】という名の空間断絶能力を使った後衛タイプ。

勇者システムは保有しておらず、六神通は天耳通。

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